相続、または相続予定の財産の中に農地が含まれている場合、どうしたら良いか戸惑う方は少なくありません。
農地に関わらず、相続財産はそのまま受け継ぐ、売却する、相続放棄という3つの選択肢があり、財産の価額や相続人の状況・意思によってケースバイケースで対応することになります。
農地は相続税・贈与税の猶予といった税制上の優遇措置、貸し出すことで賃料が手に入るというメリットがありますが、維持費用、管理の手間がかかる点などがデメリットです。
本記事では、相続財産に農地がある場合の対処法、農地を相続するメリット・デメリット、注意点を解説していきます。
目次
- 相続財産に農地が含まれている場合の対処
1-1.農地を相続する
1-2.農地を売却する
1-3.相続を放棄する - 農地を相続するメリット5つ
2-1.農地として活用出来る
2-2.税制上の優遇措置がある
2-3.相続税・贈与税の猶予制度
2-4.固定資産税の軽減措置がある
2-5.農地を貸し出し、賃料収入を見込める
2-6.転用で活用できる可能性も - 農地を相続するデメリット4つ
3-1.初期費用やランニングコストがかかる
3-2.管理の手間がかかる
3-3.資産としての価値が下がる可能性がある
3-4.活用・転用した結果、利益が出ないケースも - まとめ
1.相続財産に農地が含まれている場合の対処
相続財産に農地が含まれている場合は、相続する、売却する、相続を放棄するという3つの選択肢があります。
- 相続する
- 売却する
- 相続を放棄する
1-1.農地を相続する
農地を相続し、そのまま農地として使用又は別の用途に転用する方法です。自身で農業を行わない方は、第三者に貸し賃料を得る、駐車場経営や賃貸住宅の建設・運営など別の用途で活用するという選択も可能です。
農地を相続する際には、通常の土地を相続した場合と同様に法務局に「所有権移転登記」の申請する手続きに加え、農業委員会に届出を行う必要があります。
なお農業委員会では、相続した方が自分では農地の手入れができない場合に、管理に関する相談の受付や、地元で借り手を探すなどの支援を行っています。
1-2.農地を売却する
相続人全員が農地を引き継ぐ意思の場合には売却することになります。農地の売却には、農地法第3条により所在を管轄する自治体の農業委員会の許可が必要となっています。許可を受けずに行った売買は無効となりますので注意しましょう。
農地売却には「農地のまま売却する」「地目を変更して売却する」という2種類の方法があります。却相手が農家または農業生産法人に限定されるので注意が必要です。
自治体の中には、売却情報をホームページで公開し、農地を売りたい方と買いたい方をマッチングする支援制度を設けている所もあります。状況に応じて活用していきましょう。
【関連記事】農地を売却する方法は?売却の手順と注意点、不動産会社の探し方を解説
1-3.相続を放棄する
相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申し立てを行うことで、農地を含む財産の相続を放棄できます。
相続放棄は「被相続人の全ての財産」を放棄することになり、基本的に取り消すことが出来ません。相続財産の全てを十分に調べた上で慎重に検討し、申し立てを行いましょう。
【関連記事】相続放棄のメリット・デメリットは?不動産活用・売却の手順も
2.農地を相続するメリット5つ
農地を相続する事で、自身で耕作ができる、相続税・贈与税の猶予措置や固定資産税の軽減などの税制優遇があるというメリットがあります。
第三者に貸し出す、駐車場経営・太陽光発電装置の設置など別の用途で使用する事も検討できます。それぞれのメリットを詳しく見て行きましょう。
2-1.農地として活用出来る
農地を相続後、農業を行う意思のある方はそのまま農業用の土地として自身で耕作を行うことができます。
ただし、農業は事業形態の一つであり、労力や時間をかける手間があるというデメリットや、想定した収益を生み出せないリスクもあります。農業用機械の購入や設備投資など初期・維持費用がかかりますので慎重に検討した上で農業を行いましょう。
2-2.税制上の優遇措置がある
農地を相続した場合、他の不動産とは異なる税制上の優遇措置があります。主には下記の2点です。
- 相続税・贈与税の猶予制度
- 固定資産税の軽減措置
相続税・贈与税の猶予制度
農業用に利用している土地(農地、採草放牧地及び準農地)を相続し、引き続き農地として使用する際には、「農業投資価格」を超える部分に対応する相続税が一定の要件のもとに猶予され、相続人が亡くなった場合に猶予税額が免除されます。
農業投資価格とは国税局長が決定した「農業用の土地として取引がされる際に通常成立すると認められる価格」で、10a当たり20万円~90万円程度です。
贈与税においても、農業に使用している土地の全部及び採草放牧地の3分の2以上などを、推定相続人の1人である農業後継者に贈与した場合には、一定の要件を満たした場合に贈与税が猶予されます。また、贈与した方又は後継者が亡くなった際には税金が免除されます。(※参照:農林水産省「農地を相続した場合の課税の特例 (相続税納税猶予制度)」)
固定資産税の軽減措置がある
農地には、土地の評価額の急激な上昇に伴う税金の負担を軽減するため、負担調整措置が設けられています。農地の種類やエリアによって調整率は異なりますが、農地の評価額が1/3で算定されるケースもあり、所有者の負担が軽減されます。
2-5.農地を貸し出し、賃料収入を見込める
農地を近隣の農家に貸し出す、市民農園として市民に貸し出すなどの方法で賃料が得られる可能性があります。
貸し出す際には農地の所在する市町村の農業委員会に申請書を提出し、許可を受ける事が農地法で定められていますので、必ず届出を行いましょう。
また、農林水産省の事業として各都道府県に1つ「農地集積バンク(農地中間管理機構)」を設置し、所有者から農地を借り受け、使用したい方に貸し付ける取り組みを行っています。(※参照:農林水産省「農地中間管理機構の制度や実績等 」)
手数料が差し引かれるデメリットがありますが、賃料を得られるメリットがあります。「自身で借り手を探すことが難しい」という方は自治体の窓口やJAなどに問い合わせてみましょう。自治体によっては給付金が支給されるケースもあります。
2-6.転用で活用できる可能性も
土地を別の用途に利用する事を「転用」と呼びます。転用によって、住宅を建て貸し出す、太陽光発電設備を設置する、駐車場にするなどの方法で収益化を見込めます。
なお、農地を売却する時と同様に、転用する際には農地法に基づいて都道府県知事等の許可を受ける必要があります。(※参照:農林水産省「農地転用許可制度について」)
3.農地を相続するデメリット4つ
農地を相続することで、固定資産税、維持費用などのコストや管理の手間が生じるというデメリットがあります。
エリアの地価が下がった際には資産としての価値が落ちてしまう可能性があることや、転用した場合にも事業が上手くいくとは限らないという点にも注意しましょう。
3-1.初期費用やランニングコストがかかる
土地を所有する際には固定資産税・都市計画税を納める義務が生じます。
加えて農地の場合は雑草や害虫の駆除などが必要で、維持管理の代行サービスも存在しますが費用がかさんでしまう可能性があります。
ただし、一定の要件を満たした場合には、農林水産省が農村を支援するために給付する「多面的機能支払交付金」を受け取ることができます。相続の前に、農地を所有する事で年間どのくらいのコストがかかるのか試算を行ってみましょう。
3-2.管理の手間がかかる
農地を相続する方の中には、「自身で最低限の管理だけを行う」という方もいらっしゃることでしょう。
農地の管理は草刈りや水路・農道のメンテナンス・補修などが定期的に必要となり手間がかかるため、忙しいサラリーマンには負担となってしまう事例もあります。
結果的に放置され、耕作を行っていないことにより荒廃した「荒廃農地」や、以前耕作を行っていたものの現在は作付けされていない「耕作放棄地」などは、鳥獣の被害があり周辺の農地に悪影響を及ぼします。(※参照:農林水産省「荒廃農地の現状と対策」)
農地を相続する前には、継続的な管理の可否や代行依頼などを検討してみましょう。
3-3.資産としての価値が下がる可能性がある
地価は経済の情勢やエリアの開発状況など、様々な要因により変動します。エリアの地価が下がり、相続時より保有している農地の資産価値が減少してしまうことがあります。
3-4.活用・転用した結果、利益が出ないケースも
農地を活用、又は建物を建て転用した結果、利益が出ず事業として赤字となってしまうリスクがあります。
相続前に業者に相談し、収支シミュレーションを行った上で活用・転用していきましょう。シミュレーションの結果、事業として成り立たせることが難しい場合には売却や相続放棄を検討してみると良いでしょう。
【関連記事】農地を放置すると起こる3つのデメリットとは?活用や転用、売却の手順も
まとめ
農地の相続はそのまま受け継ぐ、売却、相続放棄の3つから、相続人全員で事例に適した方法を相談し選択することになります。
相続・売却を選んだ際には、一定に要件を満たした場合税金の優遇措置が受けられますので、あらかじめ要件を確認しておきましょう。
この記事を参考に相続財産に農地がある際の対処、相続した際のメリット・デメリットを把握し、判断材料として活かしていきましょう。
田中 あさみ
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