アメリカの不動産業界では、評価制度LEEDの創設や不動産テックを通じた社会課題・環境課題の解決などESG・サステナビリティに配慮した取り組みが積極的に進められています。
また、バイデン政権のもとESG・サステナビリティを促進する政策も複数進められています。一方で、不動産業界固有の問題ではありませんが、反ESGの動きが高まっているのは、アメリカの特徴の一つといえるでしょう。
今回の記事ではアメリカの不動産業界におけるESG・サステナビリティの動向を、不動産の事例と共に紹介します。
目次
- アメリカの不動産業界におけるESG・サステナビリティに関する動向
1-1.アメリカではESG・サステナビリティ投資額が急拡大
1-2.不動産の環境性能評価「LEED」の普及
1-3.不動産テックで建物のエネルギー消費を最適化
1-4.新築ビル性能基準連合の立ち上げなどの動きも見られる - アメリカにおけるサステナブルな不動産の事例
2-1.アップル社データセンター(アイオワ州)
2-2.Via6(シアトル)
2-3.The Octagon(ニューヨーク) - アメリカでは反ESGの動きも出始めている
- まとめ
1 アメリカの不動産業界におけるESG・サステナビリティに関する動向
グローバルの潮流と同様に、アメリカの不動産業界ではESG・サステナビリティに対する取り組みが進められています。評価制度や事業モデル、ファンド投資といったさまざまな側面からサステナブルな不動産が開発・運用されています。
以下では、アメリカ不動産業界におけるESG・サステナビリティ関連の動向についてまとめました。
1-1 アメリカではESG・サステナビリティ投資額が急拡大
三菱総合研究所「世界と日本のESG投資動向」によると、北米地域のESG・サステナビリティ投資額は、2015年には500億ドルを大きく下回る水準だったものが、2021年時点では1,500億ドルを超える水準まで急拡大しています。
不動産においても脱炭素化や地域振興、情報開示や価格の透明性といった領域で、ESGやサステナビリティの取り組みが進められています。
1-2 不動産の環境性能評価「LEED」の普及
アメリカ発祥の不動産の環境評価の尺度としては「LEED」があります。2023年時点では日本を含む世界中の不動産開発に活用されている尺度で、アメリカでは特に利用が進んでいます。
LEEDはアメリカグリーンビルディング協会が運営する不動産の認定制度で、「Leadership in Energy and Environmental Design」の略となっています。LEEDの特徴は、不動産探知だけでなく、ビルのメンテナンスや不動産開発プロジェクト全体の評価にも対応している点です。
アメリカでは2022年3月時点で約7.7万件もの認定実績があり、多くの不動産業者が活用している尺度です。
LEEDには6つの認定システムがあります。
LEED認定プログラム
プログラム | 対象 |
---|---|
BD+C | 大規模な商業施設・公共施設の新築・改修 |
ID+C | 商業施設や宿泊施設などの内装 |
O+M | 既存ビルの運用やメンテナンス |
ND | 近隣開発 |
HOMES | 住宅・中低層の集合住宅 |
Cities and Communities | 都市計画や地域コミュニティ開発 |
※参考:GREEN BUILDING JAPAN「LEED 認証システム」
さらに、各プログラムについて、以下の項目における環境性能の高さをスコア化します。
- 統合的プロセス
- 立地と交通
- 敷地選定
- 水の利用
- エネルギーと大気
- 材料と資源
- 室内環境
- 革新性
- 地域別の重みづけ
参考:GREEN BUILDING JAPAN「LEED 認証システム」
それぞれのスコアの合計により、標準、シルバー、ゴールド、プラチナの認定を行います。アメリカでは、環境性能の高い不動産開発や経営の普及にあたり、このLEEDが大きな役割を果たしています。
【関連記事】不動産のサステナビリティ評価システム「LEED」の評価基準は?認証プロジェクトの事例も
1-3 不動産テックで建物のエネルギー消費を最適化
アメリカの不動産業界では近年、不動産テックが急速に発展しており、不動産テックによるビジネスモデルの変化も見られています。
例えば、アメリカの75F社では、デジタルツールを通じて建物のエネルギー消費を最適化するサービスを展開しています。複数の不動産のエネルギー消費の効率化を実現するREDAPTIVEという企業もあります。
1-4 新築ビル性能基準連合の立ち上げなどの動きも見られる
バイデン大統領は、就任以来ESGやサステナビリティに関する政策を積極的に推し進めていますが、その中には不動産領域におけるサステナビリティを高めようとする政策も見られます。
例えば2022年1月には、州、市、労働者、産業界と協力する形で、クリーンで安価な建物を増やすためのパートナーシップである「Building Performance Standards Coalition(新築ビル性能基準連合)」を立ち上げています。(※参照:National BPS Coakition)
このような政府の後押しもあって、アメリカの不動産におけるサステナビリティの取り組みが拡大しています。
2 アメリカにおけるサステナブルな不動産の事例
政策や評価制度が整備される中で、社会や環境に配慮された不動産がアメリカでも多数建設・管理されています。ここからはアメリカのESG・サステナビリティに配慮した不動産について事例を3つ紹介します。
2-1 アップル社データセンター(アイオワ州)
アイオワ州にあるアップル社のデータセンター(データを管理・運用する施設)は、3.7万平方メートルという広大な規模でありながら、施設内を100%グリーン電力で運営しています。
同データセンターの建設プロジェクトは、550人分の雇用を創出する計画で進められました。さらにアップル社は、データセンターの建設に合わせて社会インフラの開発支援に充てられる公共開発基金(Public Improvement Fund)への寄付も行いました。
データセンターの建設や運営を通じて、環境および社会の課題解決に役立てようとするアップル社の動きは、投資家やさまざまなステークホルダーから高く評価されました。
2-2 Via6(シアトル)
シアトルにある24階建てのツインタワーVia6は、環境性能の評価制度LEEDからGold認証を取得しています。
ビルが建っている場所は、元々地域の発展から取り残されたエリアでした。Via6が建設されたことにより、住民が必要な設備・店舗が整備され、地域発展への貢献が期待できます。
こちらのビルは、徒歩および公共交通機関での利便性が考慮され、自動車通勤の減少や従業員などオフィスに通う人の快適性にも配慮されています。
エネルギー効率の良い設備、自然光や眺望、フィットネスセンターの整備など、基本的な環境・社会に配慮する機能や設備も整っています。Via6は、LEEDにてGold認証を取得しています。
2-3 The Octagon(ニューヨーク)
The Octagon(ザ・オクタゴン)はニューヨークのルーズベルト・アイランドにある大型アパートメントです。太陽光発電を設置して排出ガスを削減し、さらに廃棄副産物を活用した暖房設備を備えています。
また、燃料電池を発電・暖房に利用した住居物件としては最初期の施設の一つです。燃料電池の活用は、単に環境に優しいと言うだけでなく、ハリケーン発生時などの非常電源・熱源の確保手段としても有効です。
The Octagonには、自転車専用道路・地下鉄やトラムの最寄駅と接続する高速バスが備えられており、住民は自動車を使用せずに通勤・通学することも可能です。
以上のような機能が評価され、The OctagonはLEEDのシルバー認定を受けています。
さらに、「ファニーメイ(米連邦住宅抵当金庫) グリーン ファイナンシング プログラム」の認定を受けたことにより、同住宅の購入者は通常より低い金利でローンを借りられる仕組みが導入されました。
3 アメリカでは反ESGの動きも出始めている
アメリカではESGの動きに異論を唱える「反ESG」の動きもみられます。2023年3月には19州を巻き込んで同盟が組まれて、次の様な主張を展開しています。
- 公的年金や資産運用会社がESGを考慮した投資・議決権行使の制限
- 金融機関が脱炭素化に向けて連携・情報交換する行為の問題を提起
- 金融機関がESGの視点から温室効果ガス排出企業・産業への投資抑制を禁じる
とくに①については議会で決議案が提示されて、バイデン大統領が拒否権を発動するに至っています。(※参照:JETRO「バイデン大統領が初の拒否権発動、ESG投資規則無効決議に対して」)
このような動きが出る背景にはさまざまな要因があります。まず、バイデン大統領が民主党としてESGを推進しているため、政治的な対立から共和党の保守派の一部が異論を唱える動きを見せていることです。
また、アメリカのなかには、石油・ガスなどのエネルギー産業のほか、温室効果ガスの排出が避けられない産業が基幹産業となっている地域も少なくありません。
このような地域にとってはESG・サステナビリティの推進が産業・地域の衰退をもたらす可能性があるため、反ESGの主張が展開されるのです。あまりに長期化する場合には、不動産業界を含むアメリカのESG・サステナビリティの潮流に変化が訪れる可能性があります。
4 まとめ
アメリカの不動産業界では、他の地域・セクター同様にESG・サステナビリティに対する積極的な取り組みが進められています。また、環境に配慮するだけでなく、地域社会や利用者の利便性も考慮した物件も多く見られます。
一方で、アメリカでは政治的な対立や産業構造などを背景に反ESGの運動も高まっています。今後、金融機関の投資・融資スタンスが変化すれば、不動産事業におけるESGの取り組み姿勢も変化する可能性がある点には注意が必要です。
伊藤 圭佑
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