劣後債のメリット・デメリットは?種類や購入方法、銘柄選びのコツも

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社債には普通社債(シニア債)と劣後債(れつごさい)の2つがあります。劣後債は発行企業の倒産際に、弁済順位がシニア債に劣っている債券です。

劣後債を発行できる企業が倒産する可能性は低いのですが、倒産してしまった場合には、企業の残余財産はまずシニア債に支払われ、その弁済が完了した後に劣後債に支払われます。そのため、債務不履行のリスクが高く、劣後債にはシニア債よりも高い金利が設定されています。

劣後債は自己資本比率規制上、資本として計上することができるため発行企業は大手金融機関がメインです。しかし、近年では事業会社においても劣後債が多く発行されています。劣後債の多くは機関投資家向けに発行されていますが、なかには個人投資家向けもあります。

今回は、劣後債にスポットをあてて解説します。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 劣後債のメリット
  2. 劣後債のデメリット
    2-1.弁済順位が低い
    2-2.コーラブル債はコールされないリスクがある
    2-3.流動性が低く、価格が不透明
    2-4.シニア債より格付けが低い
  3. 劣後債の種類
    3-1.ステップアップ・コーラブル債
    3-2.永久劣後債
  4. 劣後債の購入方法
  5. 劣後債銘柄選びのコツ
  6. まとめ

1.劣後債のメリット

劣後債のメリットは、利率がシニア債より高い水準で設定されていることです。

例えば、ソフトバンクGが発行した49回債と、比較的繰上げ償還日が近い劣後2回債の流通利回りを比較した場合、49回債が1.16%に対し、劣後2回債が2.82%(2021年4月20日時点)と、劣後2回債の利回りが0.88%高い水準です。

2.劣後債のデメリット

デメリットは以下の通りです。

2-1.弁済順位が低い

劣後債の最大のデメリットは、劣後債の発行会社が倒産してしまった場合、回収金額が微々たるものとなってしまう可能性が高いことです。債権者としての順位がシニア債より低いためです。

2-2.コーラブル債はコールされないリスクがある

劣後債には期限前償還が設定されているコーラブル債というタイプの劣後債があります。コーラブル債とは、期限前償還条件付債券で、償還日より以前に償還する権利がついた債券のことです。

コーラブル債の多くは、コール(期限前償還)を前提として発行されます。コールされることが前提のため、コールされないと社債価格が急落することがあります。2016年11月にスタンダードチャータード銀行(英国の大手銀行)やコメルツ銀行(ドイツの大手銀行)がコールを見送ったため、債券価格が暴落した経緯があります。

2-3.流動性が低く、価格が不透明

劣後債は流動性が低く、価格が不透明な点もデメリットです。国内で発行された劣後債の多くは、日本証券業協会のホームページ上で価格や利回りの水準を確認することができます(売買参考統計値)。この価格はあくまでも基準値であり、実際に売却できる価格は売買参考統計値の価格を下回ってしまう可能性があります。

2-4.シニア債より格付けが低い

劣後債とシニア債の格付けを比較すると、劣後債が1ノッチ程度(1格)低い傾向があります。それは、劣後債を発行している企業が倒産した場合、シニア債の債務完了後に劣後債の保有者へ弁済されるためです。

3.劣後債の種類

劣後債には、期間が長い銘柄や、期限前償還(繰上げ償還)が設定された銘柄が多くあります。

3-1.ステップアップ・コーラブル債

ステップアップ・コーラブル債は、利率がある時点から引き上げられる仕組みと、期限前償還日が設定されている債券をいいます。

2020年10月、みずほFGが個人向け劣後債を2銘柄発行しました。このうち(下表参照)、ステップアップ・コーラブルは劣後24回債です。償還までの期間が10年、繰上げ償還日が5年目に設定されているため、市場では10NC5(テン・ノンコール・ファイブ)と呼ばれています。

特徴は、発行当初から5年間の利率は0.56%ですが、5年目の2025年10月30日に期限前償還されるか、それとも償還期限が2030年10月に延期するかの選択を発行企業(みずほFG)が決めることができる点です。期限前償還される場合は2025年10月30日が償還日となりますが、期限前償還されない場合は、クーポンが5年SWAP金利+0.6%に再設定されます。

企業が期限前償還の行使日時点で新たに5年債を発行した場合、5年SWAP金利+0.6%よりも低く調達できる場合には期限前償還を選択します。それは新たに5年債を起債することで、利率が低くなるためです。一方、調達コストが5年SWAP+0.6%より高い場合、期限前償還しないほうが利払い金額を抑えることができます。

実際の市場では、資本規制により残存年数が5年未満になると自己資本への組み入れ比率が低くなります。また、起債当初に投資家との間で5年債として販売されるため、期限前償還を前提で取引されています。

発行体 回号 利率 償還 繰上げ償還日
みずほFG 劣後24回 0.56% 2030年10月25日 2025年10月30日
みずほFG 劣後23回 0.88% 2030年10月30日 無し

3-2.永久劣後債

永久劣後債とは償還期限が設定されていない劣後債です。償還日の代わりに、期限前償還が可能な日が複数設定され、基本的には第一回目の期限前償還日に満期を迎えることが前提となっています。永久劣後債は発行金額全額を資本に組み入れられため、最近では楽天グループが米ドルとユーロ建ての永久劣後債を4月に起債しました。

4.劣後債の購入方法

劣後債は、証券会社で販売されています。購入される場合は、できれば募集時に購入することが望ましいと言えます。楽天証券などのネット証券でも購入できますが、メガバンクなどの起債が多いため、三菱UFJモルガン・スタンレー証券みずほ証券など銀行系証券のホームページなども定期的に確認すると商品を見つけやすくなります。

2020年に発行された個人向け劣後債は、みずほFGや山口FG、三井住友トラストHDなどでした。

5.銘柄選びのコツ

銘柄選びのポイントとして、満期までの期間がなるべく短い銘柄を選ぶようにしましょう。劣後債の中には、永久劣後債や60NC5(償還まで60年、繰上償還日が5年後以降)のように最終償還日が設定されていない銘柄のほか、10年を超える銘柄があります。また、金利見直し時の水準は高いほど期限前償還の可能性が高まるため、できるだけ見直し後の金利水準が高い銘柄を選ぶようにしましょう。

金融機関、とくにメガバンクの劣後債は、自己資本組み入れ比率を理由にした期限前償還の可能性が高い銘柄です。一般事業法人の劣後債を選ぶよりも金融機関の劣後債を購入するようにした方が無難です。

まとめ

劣後債のメリットは、シニア債よりも高い利率が設定されていることです。デメリットは、発行企業が倒産してしまうと、元利金がほとんど返済されない可能性が高いことです。

劣後債への投資経験がある方は少ないと思いますが、今回ご紹介したメリット、デメリットを考慮した上で劣後債への投資の検討を進めてみてはいかがでしょうか。

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藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。