インドは、2027年には日本やドイツを抜いて世界第3位の経済大国となると予想されています。人口ボーナス期が2040年後半まで続くため、経済成長期待が高い国です。
一方、インドは双子の赤字(貿易赤字・財政赤字)や若者の失業問題を抱えています。その解決策として外国企業の誘致を促す政策が採られています。また2070年までにネットゼロ(温室効果ガス純排出ゼロ)の達成を公言しており、再生可能エネルギーの開発にも力を入れています。
今回は、インドの台頭で恩恵を受けるアメリカの半導体企業やクリーンエネルギー関連企業を解説します。
※本記事は2024年7月23日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- インド経済の問題点
1-1.貿易赤字
1-2.若者の失業率 - メイク・イン・インディアと優遇政策
2-1.生産連動型インセンティブ・スキーム(PLI)
2-2.電子部品・半導体製造促進政策(SPECS)
2-3.電子機器製造クラスター計画(EMC2.0) - 再生可能エネルギー導入に向けた政策
3-1.国家グリーン水素ミッション
3-2.再生可能エネルギー装置の国内製造促進 - 恩恵を受ける米国企業の例
4-1.マイクロン・テクノロジー
4-2.アプライド・マテリアリズ
4-3.ファースト・ソーラー - まとめ
1.インド経済の問題点
ここではインドが抱えている経済問題を解説します。
1-1.貿易赤字
インドは貿易赤字に苦しんでいます。2024年5月時点の貿易赤字(商品)は238億ドルと、前年同期の225億ドルから増加しました。一方、サービス部門の黒字は前年同期の111億ドルから128億ドルに増加し、全体では109億ドルの赤字(前年同期114億ドルの赤字)でした。
参照:Mcommerce「Latest Trade Figures」
1-2.若者の失業率
インドでは若者の失業が問題となっています。2024年1月の失業率は6.8%であり、地域や条件によって異なりますが、若者の失業率が特に高い水準にあると報告されています。インド経済は成長過程にあるものの、雇用不足が社会問題となっています。インド政府は雇用促進させるため、外資系企業の誘致に力を入れています。
参照:フォーブスインド「Unemployment rate in India (2008 to 2024)」
2.メイク・イン・インディアと優遇政策
メイク・イン・インディアは、モディ政権が掲げている製造業復興のスローガンです。外資企業の直接投資を促進させ、GDPに占める製造業のシェアを2025年度までに25%に引き上げるとしています。
メイク・イン・インディア政策の下、輸入品には高関税をかける一方、インド国内で製造をする外国企業には法人税の引き下げや、国内生産を促す生産連動型奨励スキーム(PLI)や電子部品・半導体製造促進政策(SPECS)、電子機器製造クラスター計画(EMC2.0)など様々な優遇策を講じています。これらの優遇措置により、海外企業がインドで工場を建設する動きが活発になっています。
参照:公益財団法人 国際通貨研究所「インドの成長性と経済・外交政策の方向性」
2-1.生産連動型インセンティブ・スキーム(PLI)
生産連動型インセンティブ・スキーム(PLI)とは、インド国内で製造された特定分野の製品売上増加額に応じ、2~15%相当額が2020年から5年間補助金として支払われるというものです。この政策は、外国企業の誘致や既存拠点の規模拡大を目指すもので、雇用拡大や貿易赤字の縮小が期待されています。
2-2.電子部品・半導体製造促進政策(SPECS)
電子部品・半導体製造促進政策(SPECS)は、電子部品や半導体工場の建設、機械などの設備投資に対し25%を補助するという政策です。
申請書の提出は2023年3月末でしたが、承認から5年以内に行われた建設、設備投資が補助金の対象となります。
2-3.電子機器製造クラスター計画(EMC2.0)
電子機器製造クラスター計画(EMC2.0)は電子製造クラスター(EMC)を建設し、電子製造のサプライチェーンと起業家が連携し、企業や業界団体と協議しプロジェクトを進めるシステムです。EMC事業には100エーカーの土地ごとに補助金が支給されます。申請書の提出期限は2023年3月末でしたが、承認日から5年以内の投資が対象となります。生産コスト低減に繋がるため、生産拠点をインドに移管する企業が相次いでいます。
参照:ジェトロ「インド電子情報技術省が電子機器製造に関するインセンティブ・スキームを紹介」
3.再生可能エネルギー導入に向けた政策
インド政府は、2047年までにインドをエネルギー分野で独立させることを目標としています。また、2030年までに電力の再生可能エネルギー比率を4割に高める目標を掲げ、国家グリーン水素ミッションや再生可能エネルギー装置の国内製造促進を押し進めています。
参照:ジェトロ「拡大目指すインドの再生可能エネルギー」
参照:ニッセイ基礎研究所「急速に導入が進むインドの再生可能エネルギー~2030年の国際公約達成を狙える位置に」
3-1.国家グリーン水素ミッション
2023年7月現在、インドでは年間約9,000万トンの水素が製造されているもの、化石燃料を使用して製造しているため、汚染物質や温室効果ガスが排出されています。そのため、政府は国家グリーン水素ミッションとして、2030年までに500万トンのグリーン水素を製造するために約1,000億ドルの投資を促進する計画を発表しました。
この計画により再生可能エネルギー容量を125GW増加させるとし、年間5,000万トンの温室効果ガスの削減を目指しています。また、インド政府は、2047年までにインドがグリーン水素製造・輸出のハブとなることを目標に掲げています。
参照:ESG Today「India Approves Green Hydrogen Strategy, Expected to Spur $97 Billion Investments by 2030」
3-2.再生可能エネルギー装置の国内製造促進
インド政府は、深刻化する大気汚染問題を背景に、再生可能エネルギーへの転換を推進しています。
2020年4月に、再生可能エネルギー装置である太陽光電池モジュールや化学電池を含む分野がPLIスキームの対象に加わりました。PLIの対象となったことで、外資系企業の誘致と同時に、太陽電池モジュールのインド国内での製造に拍車がかかりました。
4.恩恵を受ける米国企業の例
インド政府の海外企業誘致政策により恩恵を受ける米国企業を解説します。
4-1.マイクロン・テクノロジー
マイクロン・テクノロジーは世界最大級のメモリメーカーで、DRAMやフラッシュメモリーを開発・製造しています。世界のDRAM市場規模は1,105億ドルで、同社シェアは世界第3位です。
DRAMはデータセンター需要向けが増加傾向にあり、今後も市場の拡大が予想されています。2024年第2四半期の売上高は58.24億ドル(前年同期比57.7%増)、純利益は7.9億ドルと前年同期のマイナス23.1億ドルから黒字転換しました。
同社は2023年6月、インドに最大27.5億ドル規模の工場を建設すると発表しました。インド政府が推進する半導体関連の包括的なプロフラムの一つである修正組み立て・試験・マーキング&パッケージング(ATMP)スキームを利用しました。
このスキームを利用したことで、インド中央政府から総事業費の50%、州政府からは総事業費の20%相当の奨励金を受け取り、同社の投資額は最大8.25億ドルに抑えることができました。同社は、インドを拠点に世界に向けた輸出も計画しています。
参照:Micron Technology「SEC Filing」
4-2.アプライド・マテリアリズ
アプライド・マテリアルズは世界最大級の半導体製造装置メーカーです。半導体製造装置の大手サプライとしては、ASML、アプライド・マテリアルズ、ラム・リサーチ、東京エレクトロン、KLAの上位5社で、5社の市場シェアは約70%を占めており、寡占市場と言えるでしょう。アプライド・マテリアルズは、2023年6月にインドのバンガロールにコラボレーティブ・エンジニアリングセンターを設立する計画を発表しました。
半導体製造装置テクノロジーの開発と実用化で、総額4億ドルを投じる予定です。インドは、中国を抜く半導体グローバルチェーンで主軸を目指していています。
2024年第2四半期の売上高は66.46億ドル(前年同期比0.24%増)、純利益は17.22億ドル(同9.33%増)でした。
参照:APPLIED MATERIALS「APPLIED MATERIALS ANNOUNCES SECOND QUARTER 2024 RESULTS」
4-3.ファースト・ソーラー
ファースト・ソーラーは太陽光発電システムの設計・施工や、太陽光発電システムの運営・保守も請け負っています。
インドでは再生可能エネルギーによる発電量を全体発電量の6割とする目標を掲げ、石炭火力から太陽光を中心とした再生可能エネルギーへのシフトが進んでいます。調査会社のMordor Intelligence によると、インドの太陽光発電市場は、2024年末には19.8%GWに達すると推定され、5年後には195.11GWに達すると予測しています。
インド政府は、太陽電池モジュールや太陽電池セルに高い輸入関税の導入を始める一方、PLI制度の拡大を発表し、国内生産に力をいれています。同社も2023年3月にインド政府よりPLI制度を活用しインドでの生産に乗り出しています。
2024年1月にチェンナイ近郊でインド初の太陽光発電モジュール製造工場で、インド市場向けに最適化された製品の生産を開始しました。
2023年度の売上高は33.18億ドル(前年比26.69%増)、純利益は昨年のマイナス0.44億ドルから8.3憶ドルの黒字に転換しました。
参照:FirstSolar「ANNUAL REPORT 2023」
参照:FirstSolar「Indian Government Awards Production Linked Incentives to First Solar’s India Manufacturing Facility」
5.まとめ
インド政府は、社会問題になっている若者の高い失業率と貿易赤字を解消させるために、外資系企業の工場誘致をするなど様々な政策を採っています。
今回紹介したマイクロン・テクノロジーやファースト・ソーラーなどは、インド政府の援助により工場建設費を大幅に削減できました。これら企業はインドの成長に伴い、企業成長が期待されるでしょう。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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