気候変動による異常気象問題が深刻化するなか、環境や社会、経済の観点を重視するサステナビリティ経営に取組む企業が増加しています。株式市場においては、機関投資家がE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)を、投資先を選ぶ際の要素に取り入れる傾向にあります。
企業のESGの取組みは統合報告書に掲載されています。統合報告書は任意であるものの、年々発行する企業が増加しており、2018年の420社から2023年には1,017社になりました。日経平均225構成銘柄ではすでに約92%に相当する208社が統合報告書を発行しています。
参照:KPMGジャパン「「日本の企業報告に関する調査2023」を発行」
本稿では投資のプロである筆者が、企業のESGへの取組みをチェックする際に便利な、統合報告書などのサステナビリティツールを紹介します。
※本記事は2024年12月1日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
1.サステナビリティツール3選
サステナビリティツールとしては、統合報告書や格付機関によるESG格付けがあげられます。
また、JPX(日本証券取引所グループ)は、ESG投資の普及に向け、ESG情報開示実践ハンドブック、上場企業の取組み支援などを行い、ウェブ上で開示しているため、サステナビリツールとして活用できるでしょう。
1-1.ESG情報開示実践ハンドブック
日本取引所グループ(JPX)は、投資家向けにESG投資の普及に向けた取組みを進めており、ESG情報開示実践ハンドブックを公表しています。中長期的な視点で企業価値を評価する際に、ESGを考慮する投資家が増加傾向にあるため投資家ばかりではなく、企業が統合報告書を作成する際の参考となるハンドブックです。
参照:日本取引所グループ「ESG情報開示実践ハンドブック」
参照:日本取引所グループ「ESG投資の普及に向けた取組み」
1-2.統合報告書
統合報告書は、財務諸表に加え、数値化されない企業統治や社会的責任やESGへの取組みなど、非財務諸表をまとめた資料です。機関投資家が投資先を選定する際に、企業ESGの取組みを重視する傾向があり、統合報告書を発行する企業が増加傾向にあります。
企業のサステナビリティへの取組みや目標が掲げられており、統合報告書を継続して読むことで、ESG目標に対する進捗を確認できます。KPMGジャパンの調査によると、2023年に統合報告書を発行した企業は1,017社、日経平均構成銘柄225の内、208社が発行しています。
参照:KPMGジャパン「「日本の企業報告に関する調査2023」を発行」
統合報告書の主な記載内容としては、サステナビリティに関する考え方や組織の取組み、温室効果ガス排出量の削減目標と実績や取組み内容、女性管理職比率や男女給料格差、男性の育児休暇取得率などが記載されています。企業のサステナビリティの取組みや進捗状況は、株価にも反映される可能性が高いため、機関投資家を中心に統合報告書が注目されています。
1-3.ESG格付け・ESGデータサービス
格付け機関は、企業のESGの取組みを分析・評価し、数値化することで格付けを付与しています。ESGの評価期間としては、MSCI、株式会社グッドガンカー、日本経済新聞社、LSEGデータ&アナリティクス、S&Pグローバル、東洋経済新報社などがあげられます。それぞれ評価の方法は異なります。
例えば、MSCIのESG格付けでは、最高格付け「AAA」から最低格付け「CCC」の尺度で格付けしています。MSCIは世界的な格付け評価機関で、日本企業のESG格付けについては197社(2024年6月時点)が付与されています。内訳は、最高格付け「AAA」が27社、「AA」が80社、「A」が48社、「BBB」が28社、「BB」が11社、「B」は3社です。「AAA」企業の例としては、KDDI、ソフトバンク、富士通、ソニー、積水ハウス、ファナック、ブリヂストンなどです。
参照:MSCI「Sustainable Investing: ESG Ratings」
格付け機関は定期的に格付けの見直しを行っています。格付けを継続的に追うことで、ESG評価が良い方向にあるのか、それとも悪化しているのかを確認できます。
また、格付け機関以外にも、企業のESGに対する取組みを評価している会社があります。株式会社グッドバンカーは、1998年に女性を中心に設立された企業で、ESGに関する調査・評価および助言をしています。調査の対象が日本の上場企業1,000社で、日本企業に特化した企業です。ESG評価には、環境150項目、ソーシャル450項目、ガバナンス200項目について評価し、格付けを付与しています。
参照:日本取引所グループ「ESG評価機関等の紹介」
2.インデックスを上回るパフォーマンス
サステナビリティツールを活用することで、インデックスを上回るパフォーマンスが期待できると言えるでしょう。米国S&P500指数とS&P500ESG指数の2020年7月から2024年9月24日時点までの騰落率はS&P500指数の77.97%に対し、S&P500ESG指数は10%弱高い87.04%でした。
日本においては、ESGインデックスの一例として、GXグローバルリーダーズ指数が組成されています。海外売上の高い日本企業の中から、時価総額及びESG評価のより構成比率が決められています。
GXグローバルリーダーズ指数には、トヨタ自動車(A)、三菱商事(A)、ソニーグループ(AAA)、三井物産(A)、日立製作所(AA)、リクルートホールディングス(AA)、任天堂(AA)、武田薬品工業(AA)、村田製作所(A)、などが組み入れられています。過去5年間(2024年9月23日まで)の騰落率は72.20%と、TOPIXの61.24%、日経平均の68.13%を上回りました。
*()はMSCI ESG格付け
3.まとめ
年金を始めとする機関投資家は、投資判断の際に企業のESG取組みを考慮する傾向にあります。株式市場においては、米国のS&P500 ESG指数、国内ではGXグローバルリーダーズ指数などESG関連の指数の騰落率は市場平均(指数)をアウトパフォームしています。投資の際、サステナビリティツールを使って株式投資をすることで、指数を上回る収益が期待できると言えるでしょう。
サステナビリティツールとしては、統合報告書やESG格付けなどが参考となります。特に統合報告書は、企業のESGの取組み、目標、進捗状況などが書かておりサステナビリティツールとして基本的なツールになるでしょう。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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