2025年のインパクト投資市場トレンドは?スタートアップとVCの新たな可能性を解説

過去最大の資金流入を記録した2021年をピークに、インパクト・スタートアップ(事業の中核として1つ以上のSDGsに取り組んでいる新興企業)への投資は世界的に低迷しており、2024年は前年に比べて4分の1以上減少すると予想されています。

しかしその一方で、今後の期待材料となる新たな動きも見られます。本稿では2024年のベンチャーキャピタル(VC)動向から、2025年のインパクト・スタートアップの投資トレンドを予想します。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2024年12月10日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. インパクト・スタートアップへの投資が低迷
  2. 2025年の期待材料
  3. 2025年のインパクト投資市場トレンド予想差
    3-1.エネルギー転換・脱炭素化がインパクト投資市場をリード
    3-2.AIが具体的なインパクトを定量化
    3-3.テーマ型インパクトファンドの台頭
  4. まとめ

1.インパクト・スタートアップへの投資が低迷

オランダのスタートアップ・データベース企業Dealroom(ディールルーム)が世界1万4,000社から収集したデータを分析したレポート『State of Impact(インパクトの現状) 2024』によると、2024年のインパクト・スタートアップへの投資は2023年から28%、2021年から60%減少し、総額370億ドル(約5兆5,414億円)となる見込みです。

格差の解消などをターゲットとする社会的インパクト・スタートアップ間で資金不足が顕著に現れている一方で、インパクトVC投資の大部分を占めている気候関連技術スタートアップへの投資も30%減少しました。

失速の要因の一つとされているのは、利上げによる市場心理の変化です。投資家の関心が高リスク資産から安全資産へ移行した結果、VCファンドの資金が減少し、初期段階や成長段階のスタートアップへの投資が抑制されました。一方で、厳しい環境下における成長セクターへの投資では将来的に高リターンが期待できる要素が優先される傾向があり、AI(人工知能)やバイオテクノロジーなど特定の分野に資金が集中したこと、ESG(環境・社会・ガバナンス)ウォッシュに起因する投資家の不信感とそれに伴う関心の低下なども、マイナス要因となりました。
参照:Pioneers Post「VC investments in impact startups worldwide fall by more than a quarter in 2024

2.2025年の期待材料

多数のインパクト・スタートアップが資金確保に苦戦する中、2025年には明るい兆しとなる期待材料もあります。

例えば、業界別のデータを見ると、インパクト投資は依然として3番目に資金を最も多く獲得しているセクターである一方、気候関連技術スタートアップによる借入金・プライベートエクイティ・プロジェクト・ファイナンスなどの資金調達は増加しています。

ブルームバーグNFTが追跡した2023年の1,000件以上の取引きで、気候関連技術スタートアップがVCとプライベートエクイティから調達した資金は総額510億ドル(約7兆6,383億円)です。この額は2022年より12%減少していますが、全スタートアップの調達資金が35%減少したことと比較すると遙かに減少幅が低いといえるでしょう。
参照:Pioneers Post「VC Investments In Impact Startups Worldwide Fall By More Than A Quarter In 2024
参照:Bloomberg NEF「Over $50 Billion Flow to Climate-Tech Startups in a Stormy Year

一方で政府・国際機関によるインパクト投資や持続可能性プロジェクトへの支援が拡大する見込みであるほか、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた民間・公的機関の連携が強化されるなど、資金調達の新たな機会が生まれる可能性もあります。

「Impact Summit(インパクト・サミット) 2025」「Impact Investor Global Summit(インパクト投資国際サミット) 2025」「8th Sustainable and Impact Investments International Conference(第8回アサステナブル・インパクト投資国際会議)」「ESG & Impact Investing Forum (ESG&インパクト投資フォーラム)2025」など、投資家の理解や関心を高めるイベントが欧米・アジア太平洋地域の主要都市で開催されることも追い風となりそうです。

3.2025年のインパクト投資市場トレンド予想

以上の動向を踏まえた上で、2025年のインパクト投資市場のトレンドを予想してみます。

3-1.エネルギー転換・脱炭素化がインパクト投資市場をリード

前述の通り、ESG市場への投資家の関心が低下していることを示す調査結果が報告されている一方で、気候関連技術への投資は顕著な成長を維持することが予想されます。その中でも、エネルギー転換・低炭素技術は持続可能なエネルギー・ソリューションを促進する重要分野であることから、2025年も引き続きインパクト投資市場をリードする可能性があります。

英プライベート・エクイティ・アドバイザリー企業Rede Partners(レデ・パートナーズ)が80人以上のリミテッドパートナー(投資ファンドに資金を提供する投資家)を対象に実施した『Private Markets Sustainability and Impact Report(プライベート市場の持続可能性とインパクトに関する報告書)』では、回答者の58%が「2年前より気候変動(特にエネルギー転換・脱炭素化)を重視した戦略が重要性を増した」と答えるなど、エネルギー転換・脱炭素化が持続可能性とインパクト投資分野において重要な役割を占めていることが明らかになりました。一方で、75%がブラウンからグリーンへのインパクト・アプローチに前向きであるなど、移行戦略への投資意欲も高まっています。
参照:Rede Partners「Private Markets Sustainability and Impact Report

3-2.AIが具体的なインパクトを定量化

インパクト測定・管理(IMM)は、財務実績をテーマ別インパクト目標に合わせる上で不可欠であり、投資家に対象となる環境的・社会的成果への貢献度を明確に示す指標を提供します。そこで極めて重要となるのが「データの透明性・情報開示の向上」です。しかし、データの多様化や指標基準の欠如、データの信頼性、投資以外の外的要因の影響などによるインパクトの因果関係の特定、さらに長期的影響の複雑性といった理由から、非財務的な成果を包括的に測定・評価するのは極めて難しいという課題があります。

このような課題に対するソリューションとして、テクノロジーを活用したアプローチが進む中、特に注目されているのがAI(人工知能)を活用した手法です。

定性的データを数値化・可視化することが可能になるため、データ収集・追跡・統合から因果関係の分析、長期的な影響の予想、インパクト指標のスコア化まで、投資対象の広範囲な評価・スクリーニングに役立てられています。これにより、投資家はより透明性と精密度の高いデータに基づいた投資判断を行えます。2025年はこうしたAI測定・分析ツールの開発・導入が、ますます加速することが予想されます。

3-3.テーマ型インパクトファンドの台頭

2025年は長期的な経済成長の促進に向けて包括的な成長への注目が高まり、循環型経済・社会的包括(教育やヘルスケア、格差問題など)・労働と雇用など、より広範囲な社会的インパクトへの投資が増加すると期待されています。

この流れの中で特に注目されるのは、SDGsへの対応を目的としたテーマ型インパクト投資です。テーマ型インパクトファンドは、特定の課題をターゲットにすることにより、投資家に明確な目標とインパクト測定基準を提供すると同時に、グローバルな課題解決や地域社会への貢献を通じて新たな市場を創出します。

2024年現在、インパクトファンドを含む世界のインパクト投資市場の運用資産総額(AUM)は1兆5,710億ドル(約233兆2,959億円)と推定されており、経済回復・金利低下と共に急成長を遂げると予想されています。テーマ型インパクトは、世界が直面している重要課題の解決に貢献するポテンシャルを秘めているのです。
参照:GIIN「State of the Market 2024: Trends, Performance and Allocations

4.まとめ

インパクト投資市場におけるスタートアップは、環境的・社会的な課題に革新的なソリューション、投資家にリターン、市場に成長の機会を提供するという重要な役割を担っています。投資家は2025年の動きを注視することで、新たな投資のチャンスを期待できるでしょう。

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アレン琴子

英メディアや国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、マネーライターに転身。英国を基盤に、複数の金融メディアにて執筆活動中。国際経済・金融、FinTech、オルタナティブ投資、ビジネス、行動経済学、ESG/サステナビリティなど、多様な分野において情報のアンテナを張っている。