環境省は7月31日、2030年までに自然環境の損失を止め回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ(NP)」の実現に向けた「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」を公表した。本ロードマップは、国の施策を主軸としつつ、企業や金融機関など多様なステークホルダーに期待するアクションを時系列で整理し、2050年自然共生社会の実現への道筋を示している。
ロードマップでは、2030年のネイチャーポジティブ実現に向けて3つの重要な視点を提示している。第1に、ランドスケープアプローチの観点から地域の自然資本を活かした地域づくりを通じて、企業価値と地域価値の同時向上を目指す。第2に、自然資本の環境価値を活用した経済全体の高付加価値化、情報開示促進、ネイチャーファイナンスの拡大により、NP経営実践の拡大・深化を図る。第3に、日本企業の国際競争力強化のため、産官学連携により自然領域のルールメイキングに積極的に関与・主導する。
具体的な施策として、環境省は2030年度までに自然共生サイト認定制度と支援証明書制度の運用を本格化させ、TNFDとの連携強化を図る。また、生物多様性の「見える化マップ」の機能拡充、企業価値・地域価値向上のワークショップ実施、ランドスケープアプローチの先行モデル創出などを進める。さらに、優先対象分野別のリスク・機会マップの策定、「NPを通じた企業価値向上ストーリー集」の作成、ネイチャーフットプリントの開発などを2025年度から2026年度にかけて実施する計画だ。
金融面では、投融資におけるNP配慮指針の策定や官民連携によるネイチャーファイナンスの先行モデル創出を2026年度から開始する。また、消費者の意識・行動変容を促すため、NP配慮商品・サービスの価値を見せる売り場づくりの好事例を創出し、2027年度以降に横展開を図る。国際展開では、ネイチャーフットプリントの国際標準化を目指し、ASEAN諸国への展開やLCA関連の国際会議での連携強化を2026年から2028年度にかけて実施する予定だ。
本ロードマップは、2024年3月に策定された「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を具体化したもので、生物多様性国家戦略2023-2030の基本戦略3「ネイチャーポジティブ経済の実現」を実現するための道筋となる。環境省は、取締役会や経営会議で生物多様性に関する報告や決定がある企業の割合を2023年時点の約4割から2030年には約5割に引き上げ、ネイチャーポジティブ宣言の賛同団体数を現在の975団体から1,500団体に増やす目標を掲げている。今後、関係省庁の施策との相乗効果を発揮し、ステークホルダー間の連帯した取組を促進することで、自然資本に立脚したGDPを超えた豊かな社会の礎を築くことを目指す。
【参照記事】ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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