世界の大手企業で構成されるWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)と環境コンサルティング大手のERMは11月3日、「公正な気候移行に関するビジネスリーダーガイド」を公表した。気候戦略に人的側面を組み込む具体的な手法を示し、経営トップが信頼構築と事業の将来性確保を両立させる移行をリードするための指針を提供する。
ネットゼロ・ネイチャーポジティブ経済への移行は、技術的課題だけでなく社会的課題でもある。従業員、サプライヤー、地域社会、消費者が低炭素経済への移行の中心に位置する。人的側面を見落とすことは、訴訟リスク、プロジェクトの遅延、評判毀損、新市場や資本へのアクセス機会の喪失など、深刻な財務的影響をもたらす可能性がある。これまで多くの気候戦略は排出削減と技術に焦点を当て、労働力や地域社会への影響は断片的または事後対応的だった。同ガイドは、企業が人的優先事項を移行計画に統合し、気候対策を公正で包摂的かつ強靭なものとすることを支援する。
同ガイドは、公正な移行に取り組むビジネスケースの明確化、セクター別・地域別の動向に関する洞察、取締役会および経営幹部が受託者責任と新たなデューデリジェンス要件を整合させるための推奨アクション、公正な移行の考え方を気候戦略と移行計画に組み込むための実践的ステップ、先進企業のケーススタディとベストプラクティスを提供する。企業は社会的・事業的リスクを軽減し、ステークホルダーとの信頼を強化し、イノベーションと成長の新たな機会を創出できる。日本企業にとっても、グローバルサプライチェーンにおける人権デューデリジェンスの要求が高まる中、労働者の公正な移行支援は競争力の重要な要素となっている。
WBCSDは2026年、メンバー企業と協力して推奨事項を実践に移す。セクター別の小規模ワーキンググループで、トップダウンでの推進方法、他部門との連携、進捗の追跡など、定義された行動分野について企業を支援する。参加者は実践を通じて効果的な取り組みを学び、その知見をグループと共有する。これらの教訓を基に、同ガイドの更新版を共同作成する予定だ。公正な移行の推進は、企業の持続可能性戦略における新たな標準となりつつある。
【参照記事】Leading with Purpose: Business Leaders Guide to a Just Climate Transition Out Now
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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