科学的根拠に基づく削減目標イニシアチブ(SBTi)は11月6日、企業版ネットゼロ・スタンダード第2版の第2草案を公表した。12月8日までパブリックコメントを募集する。今回の草案は、3月に公表された第1草案に対する850を超えるステークホルダーからのフィードバックを反映したもので、Scope3排出削減の柔軟性拡大、カーボンリムーバルへの認定制度導入、気候移行計画の必須化など、企業の脱炭素化を加速させるための大幅な改定を含む。現行基準は約1万2000社が活用し、約2200社がネットゼロ目標の認定を取得しているが、Scope3への対応が最大の課題とされてきた。新基準は2026年前半に最終化され、2027年から新規目標設定に適用される予定で、投資家の企業評価基準として広く参照されているSBTi基準の大幅改定は、ESG投資判断に重要な影響を与える見込みだ。
今回の草案における最大の変更点は、Scope3排出削減への柔軟なアプローチの導入である。SBTiの調査によると、ネットゼロ目標を設定した企業の半数以上がScope3を最大の課題と回答していた。新草案では、購入商品に関する目標を排出原単位(鉄鋼や小麦1単位あたりのCO2e換算トン数)で設定できるほか、サプライヤーの95%を2050年までにネットゼロにコミットした企業から調達する選択肢も提示される。また、低炭素製品の調達が困難な場合やサプライチェーン全体のトレーサビリティが確保できない場合には、バリューチェーン内の削減プロジェクトに投資し、その削減効果をScope3インベントリから控除できる環境属性証書(インセット)の活用が認められる。さらに、グリーン調達や収益ベース目標の設定など、排出削減目標に代わる選択肢も提案されており、企業規模や地域特性に応じた柔軟な対応が可能となる。
第2の重要な変更は、カーボンリムーバルと気候資金への認定制度の導入である。新草案では、企業がネットゼロへの移行期間中に排出される温室効果ガスへの責任を果たす方法について、段階的な指針を示している。2035年までは任意だが、継続排出の1%以上に対応する企業は「認定(Recognized)」、10%以上に対応する企業は「リーダーシップ(Leadership)」の指定を受けられる。この制度は、企業による高品質なカーボンリムーバルや気候資金への投資を促進することを目的としており、直接空気回収(DAC)や自然由来のソリューションへの投資拡大が期待される。ただし、オフセットは直接的な排出削減の代替とはならないことが明確化され、早期に取り組む企業は目標更新の度に非オフセット型のソリューションを提示することが求められる。
Scope1・2に関しても重要な改定が行われる。企業はScope1とScope2の目標設定を分離し、100%低炭素電力への移行を2040年までに達成することが求められる(0.024kg CO2e/kWh未満と定義)。これにより、理論的には炭素回収装置を備えたガス火力発電からの電力利用も認められる。また、時間一致型の再生可能エネルギー証書の活用に関する新たな選択肢も導入され、証書市場における信頼性の問題への対応が図られている。加えて、大企業および一部の高所得国に所在する企業は、ニアターム目標を設定する際に2050年以前のネットゼロ目標も同時に設定することが義務付けられ、気候移行計画の公表も求められる。
投資家にとって、今回の基準改定は企業のESG評価における重要な転換点となる。SBTiの11月3日の報告書によると、ネットゼロ目標を持つ企業の75%以上が、その目標により投資家の信頼が向上したと回答している。新基準では、目標達成に向けた進捗評価と報告が強化され、企業の気候戦略の信頼性がより明確になる。ただし、一部の大手企業は基準改定の過程で他のアプローチに移行しており、基準の実効性と市場での受容性が今後の焦点となる。最終版は2026年前半に公表予定で、2027年から新規目標設定に適用される見込みだ。既存のニアターム目標は2030年または目標期間終了まで有効とされ、円滑な移行が図られる。
【参照記事】SBTi releases second draft corporate net-zero standard V2 for consultation
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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