世界経済フォーラムは8月11日、都市の持続可能性向上に向けた新たなアプローチとして「持続可能な都市行動(SUB:Sustainable Urban Behaviour)」フレームワークを発表した。同枠組みは、個人の責任に依存する従来の行動変容アプローチから脱却し、都市システムのデザインを通じて住民の持続可能な選択を自然に促すことを目指す。世界の都市が排出する温室効果ガスが全体の70%を占める中、インフラ投資だけでなく住民の行動変容が都市変革の鍵となることを強調している。
SUBフレームワークの核心は「行動の原則」にある。これは、持続可能な選択を道徳的義務や規制遵守に頼るのではなく、都市環境の設計によって最も簡単で便利、かつ社会的に評価される選択肢として提供することで、住民が自然にその選択を行うようになるという考え方だ。行動経済学や環境心理学、システム思考を統合したこのアプローチは、人間が日常的に最も抵抗の少ない道を選ぶ認知特性を活用している。
実際に成果を上げている都市の事例も紹介された。アムステルダムは数十年にわたる包括的な取り組みにより、自転車利用を文化として定着させることに成功。単に自転車レーンを整備するだけでなく、交通静穏化策や駐車政策、文化的キャンペーンを組み合わせることで、あらゆる世代で自転車利用が当たり前の選択となった。シンガポールは「ガーデンの中の都市」への変革において、住民を受動的な受益者から都市自然の積極的な管理者へと転換。都市農業や環境教育プログラムを通じて、緑地インフラへの投資効果を最大化している。
コロンビアのメデジンは、かつて世界で最も暴力的な都市の一つから都市イノベーションのモデルへと変貌を遂げた。包括的な都市開発プログラムにより、都市全体の暴力を90%以上削減しながら、荒廃地域を生産的な空間へと転換。この成功の鍵は、外部からの解決策を押し付けるのではなく、既存のコミュニティ資産を認識し、それを基盤として構築したことにあった。
このSUBフレームワークは、世界経済フォーラムが推進する「2030年までのBiodiverCities」イニシアチブとも密接に連携している。同イニシアチブは、都市を生物多様性と人間の幸福が相互に強化し合う再生型エコシステムとして機能させることを目指しており、SUBはその実現に必要な行動面の基盤を提供する。2050年までに世界人口の68%が都市に居住すると予測される中、従来のインフラ重視型アプローチが財政的に実現困難な地域でも展開可能な、拡張性のあるコミュニティ主導のソリューションの必要性が高まっている。
経済的観点からも、行動変容アプローチの重要性が明らかになっている。最近の研究によると、都市で生み出される世界GDPの44%(31兆ドル)が自然損失のリスクにさらされており、都市の持続可能性における行動面の課題は環境上の必要性だけでなく、経済的な必要性でもある。包括的な行動変容戦略を実施する都市は、インフラ投資のみに依存する都市と比較して、より迅速かつ費用対効果の高い方法で持続可能性目標を達成している。
世界経済フォーラムは、都市の持続可能性はもはやインフラだけの問題ではなく、行動の問題であると指摘。日常生活に行動洞察を組み込む都市は、環境目標を達成するだけでなく、より住みやすく、回復力があり、包摂的な未来を育むことができるとしている。
【参照記事】Sustainable Urban Behaviour: the missing piece for nature-positive transformation in cities

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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