株式の財務分析(ファンダメンタル分析)の基本と具体例、比較も

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株式の分析手法には、財務分析とテクニカル分析(チャートを用いる方法)があります。財務分析とは、財務諸表などを用い企業の収益性・安全性・生産性・成長性を分析する手法です。分析をすることで企業の優れた点や問題点を把握することができ、投資をする際の判断材料となります。

財務分析には、貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)や損益計算書(そんえきけいさんしょ)を使います。貸借対照表はバランスシート(BS)とも呼ばれ、企業の一定時点(決算日における)での、資産、負債、純資産の金額を表示したものです。損益計算書はPL(Profit and Loss Statementの略)とも呼ばれ、一定期間(企業の決算期間)の売上や費用、利益などを表しています。

今回はそれぞれにについて詳細を説明し、分かりやすく例題も掲載しました。

目次

  1. 貸借対照表とは
  2. 損益計算書とは
    2-1.損益計算書の雛形と5つの利益
    2-2.財務分析の例題
  3. 同業社の2社比較:A社とB社の比較
  4. まとめ

1.貸借対照表とは

貸借対照表は、企業がどのように資金を調達し、調達した資金でどのような資産を購入しているのかが把握できる書類です。資産・負債・純資産の3つの要素で構成されています。

会計原則に基づいて、向かって左側に資産、右側に負債、純資産が表示されます。負債と純資産の合計額が資産と等しくなっています。負債は借入金や社債等、純資産は自己資金や株主から集めた資金などです。資産には現金や機械、土地、建物などが表示されます。

ここで、A社という従業員5人の衣料品メーカーの貸借対照表をみてみましょう。

A社は、銀行からの借入1億円と手元資金の1.5億円をもとに、2.5億円の機械を購入しました。以下のように、貸借対照表上に表記されます。

右側が企業の調達金額(今回のケースでは銀行借入(負債)と手元資金(純資産))、左がその資金で購入した機械(資産)です。

資産2.5億円=負債1億円+純資産1.5億円が成り立っていることが確認できます。

機械(資産) 2.5億円 銀行借入(負債)1億円
手元資金(純資産)1.5億円

この機械を稼働させ1年間の営業成績が損益計算書に反映されます。それでは損益計算書を見ていきましょう。

2.損益計算書とは

損益計算書とは、企業の1年間の営業成績を表すものです。収益・費用・利益の3つの要素が記載されています。年間の売上から、製品を製造するための材料費や人件費、銀行への支払い利息などの費用が減額され、最終的に手元に残った利益(純利益)が導かれます。

この純利益を企業が発行している株式数で割った値が1株当たり利益(EPS)で、株式市場の代表的な指数PERの算式(株価÷1株あたり利益)に用いられます。

2-1.損益計算書のひな型と5つの利益

下記表が損益計算書のひな型です。 

売上高
売上原価
① 売上総利益
販売費及び一般管理費
② 営業利益
営業外収益
受取利息
営業外費用
支払利息
③ 経常利益
特別利益
特別損失
④ 税引前当期純利益
法人税及び住民税
⑤ 当期純利益

損益計算書には5つの利益項目があります。それぞれの利益についてみていきましょう。

①売上総利益

売上総利益は、売上から製品原価を差し引いた金額で、粗利ともいいます。売上を売上総利益で割った値が売上総利益率です。例えば製造業と流通業では大きく異なるため、同じ業種で比べましょう。流通業は薄利多売の業態で、利益率が低い傾向にあります。一方、製造業の場合、市場占有率が高い会社ほど利益率が高くなります。

②営業利益

営業利益は、売上総利益から営業に費やした広告費や人件費、賃貸料、接待費、通信費、交通費等を差し引いた金額です。営業利益を売上で割った値を営業利益率と呼びます。営業利益は企業分析を行う上で重要な利益です。

③経常利益

経常利益は、営業利益に利息や受取配当金を加算し、銀行や社債の利息を差し引いた値です。経常利益を売上で割った値を経常利益率と呼びます。なお、米国や国際会計基準(IFRS)において経常利益にあたる項目はありません。

営業利益に受取利息と配当金を加算した事業利益は、ROA(使用総資本利益率)を算出する際に用いられます(事業利益÷使用総資本)。

④税引前当期純利益

税引前当期純利益は、法人税が減額される前の利益です。経常利益に臨時的に発生した利益と損失(例:土地や工場の売却益、地震や火災による損失など)を加減した金額です。経常利益とのかい離が大きい場合には特別利益(特別損失)が発生した可能性があります。

⑤当期純利益

当期純利益は、税引前当期純利益から法人税等が差し引かれた金額です。

2-2.財務分析の例題

A社が営業を開始して1年が過ぎました。1年間の売上高が5,000万円、原材料費が2,000万円、人件費や賃貸料、交通費、機械の減価償却費の合計金額(販売費及び一般管理費)が1,500万円、銀行への返済利息が300万円、法人税率は30%でした。

上記①から⑤の利益利率を求めてみましょう。

  1. 売上総利益=5,000万円(売上高)- 2,000万円(原材料費)=3,000万円
    売上総利益率=3,000万円(売上総利益)÷5,000万円(売上高)=60%
  2. 営業利益=3,000万円(売上総利益)-1,500万円(販売費及び一般管理費)=1,500万円 
    営業利益率=1,500万円(営業利益)÷5,000万円(売上高)=30%
  3. 経常利益=1,500万円(営業利益)-300万円(返済利息)=1,200万円
    経常利益率=1,200万円(経常利益)÷5,000万円(売上高)=24%
  4. 税引前当期純利益=1,200万円(特別利益や特別損失が発生しなかったため)
  5. 当期純利益=1,200万円(税引前当期純利益)-360万円(法人税)=840万円
    純利益率=840万円(当期純利益)÷5,000万円=16.8%

3.同業社の2社比較:A社とB社の比較

ここでB社の登場です。B社はA社のライバル企業です。B社の年間売上高が6,500万円、原材料費が3,000万円、人件費や賃貸料、交通費、機械の減価償却費の合計金額(販売費及び一般管理費)が2,500万円、銀行への返済利息が200万円、法人税率は30%でした。

  1. 売上総利益=6,500万円(売上高)- 3,000万円(原材料費)=3,500万円
    売上総利益率=3,500万円(売上総利益)÷6,500万円(売上高)=53.85%
  2. 営業利益=3,500万円(売上総利益)-2,500万円(販売費及び一般管理費)=1,000万円 
    営業利益率=1,000万円(営業利益)÷6,500万円(売上高)=15.38%
  3. 経常利益=1,000万円(営業利益)-200万円(返済利息)=800万円
    経常利益率=800万円(経常利益)÷6,500万円(売上高)=12.31%
  4. 税引前当期純利益=800万円(特別利益や特別損失が発生しなかったため)
  5. 当期純利益=800万円(税引前当期純利益)-240万円(法人税)=560万円
    純利益率=560万円(当期純利益)÷6,500万円=8.62%

両社の利益率を比較して、どちらが投資対象として有力か見てみましょう。

利益率 A社 B社
①売上総利益率 60.00% 53.85%
②営業利益率 30.00% 15.38%
③経常利益率 24.00% 12.31%
④純利益率 16.80% 8.62%

A社とB社を比較すると、売上総利益率に大差はありませんが、A社の営業利益率はB社の約2倍となっています。B社の営業利益率が低いのは、販売管理費が高いことが要因です。従って、A社の方が投資対象として望ましいといえます。

このように財務分析をすることで、投資をする際の判断材料となります。

まとめ

財務分析は企業の経営状況を明らかにし、投資対象として適切な銘柄かどうかを判断する手段です。業績や財務基盤が良好であれば株価や配当も堅調であることが期待でき、反面、赤字が続いていたり負債の割合が大きかったりする場合には危険なこともあります。

ただし企業の財務状況は常に変化するため、現在の状況だけではなく、事業の将来性や社会の動向なども踏まえて、将来どのようになるのかを予測することも同時に必要です。

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藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。