循環型経済スタートアップは女性起業家が急増中!海外の成功事例も紹介

循環型経済スタートアップへの投資が活発化する中、イノベーション推進の重要課題である「多様性」へのアプローチにポジティブな変化が見られます。女性起業家の増加もその一つです。特に、リサイクル・再生可能資源セクターは女性の創設者の割合が多く、注目されています。

本稿では、循環型経済セクターで女性の活躍が顕著化している背景と、海外で成功している女性起業家による循環型経済スタートアップの事例を紹介します。

※本記事は2024年7月23日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 循環型経済スタートアップへの投資が急増
  2. 創設者の約半数が女性起業家
  3. 循環型経済セクターで女性起業家の存在感が増している理由
  4. 女性創設者による海外の循環型経済スタートアップ3社
    4-1.Tozero(ドイツ)
    4-2.Reath Technology(スコットランド)
    4-3.Atelier Riforma(イタリア)
  5. まとめ

1.循環型経済スタートアップへの投資が急増

最初に、近年の循環型経済スタートアップ動向について簡単に確認してみましょう。

ミュンヘン工科大学のイノベーション&ビジネス支援センターである、UnternehmerTUM(ウンターネーマートゥム)によると、循環型経済スタートアップへの投資は過去2年間で急増し、2022年には世界全体で54億ドル(約8,678億8,211万円)に達しました。投資の増加と共に、循環型経済スタートアップへの投資がベンチャーキャピタル投資に占める割合と、資金調達ラウンドでスタートアップ1社あたりが獲得する金額も大幅に増加しています。

ドイツ、フランス、オランダの三カ国は、欧州で最も循環型経済スタートアップを輩出しており、世界の循環型経済市場をリードしています。特にミュンヘン(49社)・ベルリン(45社)・ライン=ルール地方(18社)で活発な活動が見られます。ドイツはEU圏内で都市廃棄物のリサイクル率が最も高く、2021年にはEUの平均(49.6%)を大きく上回る68%に達しました。

参照:UnternehmerTUM「Landscape 2023: Start-ups Drive the Circular Economy
参照:欧州環境機構(EEA)「Waste recycling in Europe
参照:Euronews「Italy, Belgium, Latvia: Which European countries are the best and worst at recycling?

2.創設者の約半数が女性起業家

一方で、革新的なアイデアとリーダーシップを発揮する女性起業家の台頭も注目されています。

長年に渡り、スタートアップやVC業界ではジェンダー・バイアスが問題視されており、女性が起業する上で資金確保の難しさがハードルとなっていました。Harvard Business Reviewに掲載された2019年の統計によると、女性の設立メンバーが1人以上いるスタートアップが世界の全スタートアップに占める割合は僅か20%、女性起業家への投資額が全投資額に占める割合は僅か3%に留まりました。

参照:Harvard Business Review「Research: How to Close the Gender Gap in Startup Financing

しかし、近年はVCなどがイノベーションの原動力となる多様性促進の一環として、女性起業家に積極的に投資するといったポジティブな変化が見られます。このような傾向は特に循環経済セクターで強く、リサイクル・再生可能資源分野においては創設者のほぼ半数が女性です。
参照:UnternehmerTUM「Landscape 2023: Start-ups Drive the Circular Economy

3.循環型経済セクターで女性起業家の存在感が増している理由

女性起業家への投資が重視されている理由は、男性とは異なる視点や経験を商品・サービスに取り入れることによりイノベーションが生まれやすくなり、新しいビジネスや雇用の創出、経済の活性化につながることが期待される為です。例えば、廃棄物管理分野において女性起業家の台頭が顕著化している背景について、グローバル開発アドバイザリー企業ImpaXus(インパクス)の設立者、デリラ・カレド氏は以下のように分析しています。

「女性起業家が男性と比べてユニークな点は、世界に変化をもたらしたいという意欲に突き動かされていることです。地域の問題解決に向けてイノベーションを生み出し、包括的な解決案を考案する一方で、より多くの女性を雇用する傾向があります。また、資本効率が高く、総合的にリスク評価を行い、長期的に高リターンをもたらす可能性も期待出来ます」

参照:MITビジネススクール「Building the case for women waste entrepreneurs

4.女性創設者による海外の循環型経済スタートアップ3社

女性がリードする海外の循環型経済スタートアップでは、米AI(人工知能)・ロボット・リサイクル技術スタートアップGlacierが、持続可能な商品・サービスの開発に投資を行う目的でAmazonが設立したClimate Pledge Fund(気候変動対策に関する基金)と、米VCであるNew Enterprise Associates(NEA)から総額770万ドル(約を12億3,834万円)を調達しました。

参照:Recycling Today「Glacier receives $7.7M to expand its AI and robotics in the recycling sector

他にも様々な女性起業家スタートアップが、循環型経済促進に向けた課題に取り組んでいます。以下、スタートアップ3社の事例を見てみましょう。

4-1.Tozero(ドイツ)

2023年にミュンヘンでTozero(トゥゼロ)を設立したのは、ミュンヘン工科大学(TUM)で機械工学の学士号・修士号を取得したサラ・フライシャー氏と、RWTHアーヘン大学プロセス製錬・金属リサイクル研究所(The Institute of Process Metallurgy and Metal Recycling:IME)で数々のプロジェクトを手掛けたクセニヤ・ミリチェヴィッチ・ノイマン博士です。

電気自動車(EV)から産業用ロボット、家電製品、医療機器まで、リチウムイオン電池(Lithium Ion Battery :LIB)の利用範囲が広がる一方で、リサイクルシステムの効率化やコスト削減が大きな課題となっています。

Tozeroはあらゆる種類のリチウムイオン電池からリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン・グラファイトなどの異なる材料を効率的に分離・最大限に回収し、リサイクル資源として持続的に循環させる技術を欧州で初めて開発しました。同社独自の湿式製錬(水溶処理により、金属を鉱物から抽出する手法の一つ)プロセスは、従来のリチウム採掘・加工技術に比べてCO2排出量を最大70%削減できるほか、リサイクル・コストや資源消費の削減にも役立ちます。

同社はプレシード資金調達ラウンドで350万ユーロ(約6億1,013万円)を調達し、2024年3月にはパイロット・プラントから欧州圏の顧客にリサイクル・リチウムを出荷しました。

参照:Tozero「Tozero
参照:Recycling Today「Tozero ships first commercial delivery of recycled lithium from batteries

過去に2回、共同設立者とのビジョンの食い違いや資金不足などの理由で起業に失敗したフライシャー氏にとって、Tozeroの成功はまさに3度目の正直です。同氏は「ビジネスを始めるのは簡単ですが、持ちこたえ、浮き沈みを乗り越えることが難しいのです」とコメントしています。

参照:TUM「Entrepreneur Sarah Fleischer

4-2.Reath Technology(スコットランド)

生活の身近な存在であるプラスチック・パッケージ(包装・使い捨て容器)は、世界のプラスチックごみの40%を占める最大の廃プラスチック源です。その量は年間1億4,100万トンにも及びます。近年、廃棄物削減策としてパッケージのリサイクル及びリユースが推進されている一方で、リサイクルプロセスの効率化やインフラの向上、コスト削減、コンプライアンス(企業の法令遵守)など、様々な課題が横たわります。

参照:Business Waste「Packaging Waste Facts and Statistics

エディンバラを拠点とするReath Technology(リース・テクノロジー)は、企業がサプライチェーン全体を通じてパッケージのライフサイクル情報(位置・使用履歴・リユースの回数など)を効率的に追跡・管理・分析する為のオープンデータ標準(Open Data Standard)を提供しています。

同社のプラットフォームは、各パッケージに割り当てられたデジタル・パスポート「Reuse.ID(リユースID)」を介して追跡・収集したデータセットに基づいて構築されており、企業はパッケージの流通のモニタリングやリユース効果の定量化、コンプライアンスの確認などを行うことが出来ます。

参照:EU-Startups「Edinburgh-based Reath nabs €365K to pioneer an Open Data Standard on reusable packaging
参照:Reath Technology「Reath Technology

同社はInnovate UK(イノベーションUK)を筆頭とする複数のイノベーション支援組織から支援を受けているほか、現在はGoogleやUnilever(ユニリーバ)、Marks&Spencers(マークス&スペンサーズ)などの大手企業と提携しています。2023年3月のシード資金調達ラウンドでは、およそ53万5,000ポンド(約1億1,041万円)を獲得しました。

参照:Uk Tech News「Reath Technology (t/a Reath) secures £535K Seed investment led by Techstart

創設者のクレア・ランペン氏とエミリー・ロジャーズ氏は、スコットランドのセント・アンドリューズ大学在学中に手掛けた学生のアート・フェスティバルで知り合い、インパクトのあるプロジェクトと環境の持続可能性への情熱を原動力に、2019年にReath Technologyを設立しました。

参照:エディンバラ大学「Reath

4-3.Atelier Riforma(イタリア)

ファッション産業は過剰生産・廃棄物・資源消費など、環境負担の増大と持続不可能な資源利用が問題視されている産業の一つです。年間CO2排出量は世界全体の約10%を占め、500万人の喉の渇きを潤すのに十分な水を消費し、数百トンもの廃棄物を排出しています。

参照:Climate Trade「The world’s most polluting industries

2020年にエレナ・フェレロ氏とサラ・セコンド氏が設立したAtelier Riforma(アトリエ・リフォルマ)は、トリノを拠点とする循環ファッション・マッチング・プラットフォームを開発しました。

同プラットフォーム「Re4Circular」は廃棄衣類の回収・仕分け業者とリユース・リサイクル・アップサイクル(廃棄物の素材・特徴などを活かし、新たな製品として循環させる方法)業者の需要と供給をマッチングさせることにより、循環プロセスの効率化を図るというものです。AI(人工知能)が各衣類の写真からデータを抽出し、それぞれの素材や状態などに最適な二次利用を提案できるよう設計されています。

同社はこの革新的なアイデアで、Green Alley Award(グリーン・アレー賞:循環型経済のイノベーションを促進する商品・サービス、技術に贈られる賞。主催者はドイツの環境サービス企業、Landbell Group)や、European Training Foundation’s Greenskills Awards(欧州研修財団のグリーンスキル賞)のファイナリストに選ばれたほか、EU委員会が委託するEISMEA(European Innovation Council and Small and Medium-sized Enterprises Executive Agency:欧州イノベーション協議会及び中小企業庁)から間接的な資金援助を獲得しました。

参照:ETF「Italy – Rediscovering the Green Skills Award finalists
参照:Green Alley Award「Heroes Of The Circular Economy – Interview With Elena Ferrero

フェレロ氏は食品・衛生学、セコンド氏は弁護士見習いというファッションとは畑違いの専門分野出身であるにも関わらず、保守的な投資が主流のイタリアでゼロから同社を立ち上げました。Atelier Riformaは興味深い成功例として、多くの女性起業家のエンパワーメントとなっています。

5.まとめ

女性が主導するスタートアップへの投資の増加は、循環型経済セクターに限らずビジネス全体における多様性及び創造性の進化を象徴しています。今後、資金調達の支援・ネットワーキングやメンターシップ、トレーニングの拡大・政策の改善といった多角的なアプローチを取ることで、女性起業家がますます重要な役割を果たすようになると期待されています。循環型経済セクターの発展にも、大いに貢献することでしょう。

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アレン琴子

英メディアや国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、マネーライターに転身。英国を基盤に、複数の金融メディアにて執筆活動中。国際経済・金融、FinTech、オルタナティブ投資、ビジネス、行動経済学、ESG/サステナビリティなど、多様な分野において情報のアンテナを張っている。