いくつかの資産運用の手法では、投資元本より大きな規模の資産に投資するのと同等の効果を得ることができます。これをレバレッジ効果と言います。レバレッジ効果をえながら投資をすると、少ない自己資金で効率的に資産運用ができますが、リスクが高くなる点には注意が必要です。
個人投資家でも比較的チャレンジしやすい、レバレッジ効果を得られる投資方法として、不動産投資やFX、株の信用取引があります。レバレッジ効果の基本的な仕組みと、不動産投資、FX、株の信用取引のレバレッジの違いをみていきましょう。
目次
- レバレッジ効果とは?
1-1.レバレッジ効果の仕組み
1-2.レバレッジ効果のメリット
1-3.レバレッジ効果のリスク - レバレッジ効果を得られる投資方法
2-1.不動産投資ローン
2-2.FX(外国為替証拠金取引)
2-3.株の信用取引 - 不動産投資、FX、株の信用取引のレバレッジ比較
3-1.得られるレバレッジ効果の最大値
3-2.インカムゲイン
3-3.キャピタルゲインと損失リスク - まとめ
1 レバレッジ効果とは
レバレッジ効果とは、投資元本より大きな金額の資産を保有するのと同等の投資効果を得ることを意味します。
レバレッジ効果が得られる投資手法では、自己資金と比べて大規模な投資ができたり、収益金額の規模を拡大させることが可能になる一方で、資産規模が大きい分、損失リスクが大きくなる点にも注意しましょう。
1-1 レバレッジ効果の仕組み
レバレッジとは「てこ」という意味です。てこは少ない力で重いものを動かす仕組みのことを指します。同じように投資におけるレバレッジ効果とは少ない投資元本で大きな資産へ投資するのと実質的に同じ効果を得る仕組みをいいます。
例えば不動産投資では、ローン借入を活用して自己資金+ローン借入資金で物件を購入する投資家が少なくありません。元々保有している自己資金よりも大きな金額の物件を購入して投資を行うことから、まさにレバレッジを活用した投資といえます。
1-2 レバレッジ効果のメリット
レバレッジ効果を得る取引の最大のメリットは、投資元本に比して高い収益を得るチャンスがあることです。例えば自己資金100万円分で株を現物保有している時と、株の信用取引で現物株の2倍相当の買いポジション(買い建てといいます)を保有したケースを考えてみましょう。
もしこの株が10%値上がりしたところで売却したとしたら、現物で保有していた場合は100万円×10%で10万円分収益が発生します。一方で信用取引の方は、2倍相当のポジションであるため、収益は100万円×2×10%で20万円になります。このようにレバレッジ効果により収益額を大きくすることができます。
1-3 レバレッジ効果のリスク
収益が大きくなる一方で、損失が拡大するリスクもあります。例えば、先ほどと同じように100万円分の現物株式を保有している場合と、信用取引で2倍の買い建てをおこなっていた場合を比較してみましょう。
その時に10%の損失が発生した場合、現物株なら10万円の損失です。一方で、信用取引で2倍の買い建てをおこなっていると、2倍の20万円の損失となります。
特に、株の信用取引やFXでは、投資元本以上の損失が発生し、「追証(追加証拠金)」という形で元本に加えて追加の資金拠出を求められるリスクがあることにも注意が必要です。
例えば株式を現物投資した場合、最大の損失額は、当初投入した元本全額です。100万円分の株を保有していれば、企業が倒産して株が紙切れになった時には100万円の損失が発生しますが、これ以上の損失を被ることはありません。
一方、信用取引でレバレッジ2倍の買い建てをおこなっていると、同じ局面では投資元本100万円に対して2倍の200万円の損失になります。もともと預けていた証拠金100万円分をすべて失ってもまだ100万円足りないので、この不足する100万円を「追証」という形で、さらに支払わなければならないのです。
2 レバレッジ効果を得られる投資方法
レバレッジ効果は主に不動産投資、FX、株の信用取引で得ることができます。ただし、それぞれレバレッジの仕組みや投資方法が異なるので、違いを理解したうえで投資先を検討することが大切です。
2-1 不動産投資ローン
不動産投資では、物件購入において金融機関の不動産投資ローンを活用することでレバレッジ効果を得ます。いわゆる自己資金を充当する分が「頭金」でその他の部分がローン充当額になります。不動産投資ではしばしば「自己資金の比率」をみて投資計画を立てますが、自己資金の比率とレバレッジはいわば逆数の関係です。
例えば、頭金1,000万円とローンによる借り入れ4,000万円で5,000万円の物件を購入するとき、物件価格に対する自己資金の比率は20%(=0.2)となります。このときレバレッジは5,000万円÷1,000万円=5倍となり、これは20%の逆数にあたることがわかるでしょう。
不動産投資では物件価格が大きければ、期待できる賃料収入も大きくなる傾向にあります。そのため、自己資金よりも大きな規模の物件に投資することで、月々の賃料収入を増やせる可能性があるのです。
また、不動産は他の資産と比較して高額なため、ローンを利用することで物件の選択肢が広がります。例えば、自己資金1,000万円で借入をせずに購入できる物件は、ややリスクの高い中古アパートや、低価格の区分マンションに限定されるでしょう。
ローンを活用して5,000万円規模の物件を探せば、区分マンションなら多くの物件が選択肢に入り、割安な物件なら2件購入できる可能性も出てきます。また、中古ならアパート一棟投資も検討余地があるでしょう。
一方、毎月ローン支払いという大きな支出が発生するのは不動産投資におけるレバレッジ特有のリスク要因です。ローン支払い額が賃料収入を上回ってしまうと、恒常的に赤字、すなわち自分の資金からさらに不足額を充当しなければならなくなります。ローン支払いを加味した長期的な収支計画を立てて、黒字を維持していくことが不動産投資においては重要です。
2-2 FX(外国為替証拠金取引)
FX(外国為替証拠金取引)とは、少ない元本で為替に投資して、金利差によるスワップポイントというインカムゲインや、為替差益を追求する取引です。FXの取引業者に「証拠金」という自己資金を預け入れると、証拠金より大きな規模の為替ポジションを持つことができるため、レバレッジ効果を得られます。
FXでは「通貨単位」という独特の表現で投資資産の規模を表現しますが、例えば米ドルの場合、10,000通貨単位が10,000米ドルとなります。FXは国内業者の場合で、最大レバレッジを25倍まで高めることができます。
FXのレバレッジは投資している為替ポジションの規模と証拠金の比率で決まります。例えば10,000米ドルは1米ドル=100円とすると100万円相当となりますが、証拠金を最低4万円預ければ10,000米ドル相当の投資をおこなえることになります。
一方で、手数料や運用上のコストを除くと、レバレッジの倍数の分だけ収益・損失ともに拡大する可能性があります。
例えば、4万円分をレバレッジなしで米ドルに投資すると、1米ドル=100円とすると400米ドル分保有することになります。ここで1米ドル=100円→110円と10円の円安になったとすると、4,000円の収益が発生します。
また、4万円で25倍のレバレッジとなる10,000米ドル分投資していたとすると、同じ為替の値動きにおける収益は10万円となり、レバレッジが大きいほどリターンも大きくなることが分かります。
一方で、損失の場合も同じように規模が大きくなります。損失が拡大すると「ロスカット」という仕組みで強制的にポジションが解消されたり、損失を充填するための「追証」を求められたりするリスクがあります。
先ほどの例で見ると、当初預け入れていた証拠金2万円に対して、もし1米ドル=100円から90円へ円高が進むと、損失額は10万円になります。ここまで損失が拡大する前にロスカットされるか、10万円‐2万円=8万円の追証を求められるのです。ロスカットや追証請求がされる損失幅については、FX業者によって異なります。
なお、FXや次の株の信用取引には、「売り=値下がりした時にリターンを得られるポジション」を形成できると言う特性もあります。通常、日本円を米ドルに変えて投資すると、円安=収益、円高=損失となりますが、FXでは初めから「売り注文」が可能なため、米ドル売・日本円買のポジションを作って「円高になったら」状態にできるのです。
さらにFX固有の特徴として「外貨対外貨」のポジション形成もできます。例えば自己資金が日本円でも「ユーロ売り・米ドル買い」のポジションを取ることが可能です。この場合米ドルに対してユーロ安になれば儲かり、ユーロ高になれば損失が発生します。
2-3 株の信用取引
株の信用取引は、証券会社と株や資金を貸し借りして株へ投資しているのと同等の効果を得る投資手法です。証券会社に一定の証拠金を預けておけば利用ができ、証拠金の3.3倍程度の規模の株式の売買ができます。
株式も多くの投資家が株価変動による価格差益(キャピタルゲイン)を追求して投資が行われますが、レバレッジの倍数分だけ収益・損失とも金額でみたときのインパクトが拡大します。
なお、信用取引は株の損益を得る「権利」を売買するもので、現物の株式を保有しているわけではありません。価格損益によるキャピタルゲインに加えて配当相当額は受け取れますが、株主優待は得られない点に注意しましょう。
株の信用取引も、株式を借りて売却する「空売り」と言う手法を取ることで「売りのポジション」すなわち株価が下落すると収益が拡大する投資が可能です。なお、株価が上昇すると収益が発生するポジションを取ることを「買い建て」、売りのポジションを取ることを「売り建て」といいます。
3 不動産投資、FX、株の信用取引のレバレッジ比較
ここまでレバレッジ効果を得られる取引を3つ紹介してきましたが、それぞれ手法が大きく異なることがわかります。ここからは3つの手法を様々な視点で比較してみましょう。それぞれの特徴を比べたうえで、自分に合った投資手法を検討してみてください。
3-1 得られるレバレッジ効果の最大値
レバレッジ倍率の最大値は投資手法によって大きく異なります。
レバレッジ倍率の違い
投資手法 | 最大のレバレッジ倍率 |
---|---|
不動産投資 | 5倍〜10倍以内が適切だが、100倍を超える事例も |
FX | 〜25倍 |
株の信用取引 | 〜3.3倍 |
不動産投資については、制度としてレバレッジ倍率の上限があるわけではなく、物件価格に対して頭金を少なくすればするほどレバレッジ倍率が高くなります。一つの目安として、頭金は10〜20%程度の割合となります。これはレバレッジでいうと5~10倍程度にあたります。
一方、物件価格が低かったり、投資家の信用力が高く多額のローン借入が可能な場合などには、フルローンに近い投資プランが成立する場合もあります。例えば、2000万円の物件に対して頭金を10万円だけにとどめた場合は、レバレッジは200倍となります。実際にこのような投資プランを提案・実行するケースもあります。
【関連記事】フルローンや低金利など融資に強い不動産投資会社の比較・まとめ
ただし、不動産投資の場合は、レバレッジが高すぎると賃料収入に対して月々のローン支払いが大きくなります。なかには月々のキャッシュフローが残らないケースもあるので、注意が必要です。
FXと株の信用取引については、国内事業者の制度として上限が決められていて、FXが25倍、株の取引は3.3倍となっています。この水準はあくまで最大値なので、ポジションの規模に対して証拠金を潤沢に差し入れておけば、レバレッジは低下します。
どちらの投資手法についても、レバレッジを抑えた方が相対的にリスクを抑えられます。自分が許容できるリスクの大きさに合わせて証拠金額やポジションの規模をコントロールすることが大切です。
3-2 インカムゲイン
インカムゲインとは、投資期間中において定期的に受け取れる収入を意味します。この後紹介するキャピタルゲインより低リスクにリターンを見込めるため、中長期で運用を検討するときには、インカムゲインが重要になります。
不動産投資、FX、株の信用取引は全てインカムゲインを得られる取引ですが、全てその収入の源泉が異なります。
インカムゲインの源泉の違い
投資手法 | インカムゲインの源泉 |
---|---|
不動産投資 | 月々の賃料収入と支出の差 |
FX | スワップポイント |
株の信用取引 | 配当落調整金 |
不動産投資の場合、多くの個人投資家にとって、賃料収入を源泉とするインカムゲインが重要な収入源となります。
賃料収入とローン金利の支払いや管理費などの支出の差額を計算し、毎月のキャッシュフローに問題がない不動産経営を行えるかどうかが重要です。インカムゲインを長期で積み上げていけば、物件を売却する際に期待通り収益が発生しなくても、投資期間全体の収支で考えれば充分な成果を上げることができます。
FXにおいては日々「スワップポイント」という金利収入が発生します。FXでは必ずある通貨を買い、ある通貨を売るポジションを取ります。
例えば円に対して米ドルの買いポジションを取れば、それは「米ドル買い、日本円売り」のポジションです。このとき、高金利の通貨を買い、低金利の通貨を売ると、両者の通貨の金利差益が、為替変動による損益とは別に発生します。スワップポイントは、この金利差益をFXのポジションに応じて分配するものです。
目まぐるしく変動する為替損益と違い、スワップポイントは高金利通貨を買い、低金利通貨を売れば低リスクにリターンを狙うことも可能です。ただし、低金利通貨を買い、高金利通貨を売ると、逆にスワップポイントが常にマイナスになるので、ポジションを保有している間、損益の悪化要因となるので注意しましょう。
【関連記事】FXでスワップポイントを稼ぐ方法は?実際のトレード画面で解説
株の信用取引では、配当の権利が発生するタイミングで買いポジションを持っていれば、配当金相当額として配当金から源泉徴収額15.315%を引いた金額が「配当落調整金」として手に入ります。こちらも、もし株を売り建てている場合は証券会社に配当落調整金を支払う形となります。
FXや株の信用取引では、ポジションの取り方次第では金利差や配当が徐々に損益を悪化させていく場合もあります。これらの要因がポジションを保有し続ける際のコストになることも加味しながら、適切な投資判断をしましょう。
3-3 キャピタルゲインと損失リスク
キャピタルゲインとは資産価格の変動に由来する収益のことで、実質的には投資資産の購入価格・売却価格の差によって生じます。なお売却時の方が価格が下落していれば損失となり、その場合は「キャピタルロス」と呼びます。
レバレッジの掛け方や具体的な投資先にもよりますが、仮にレバレッジ倍率が同程度だったとすると、リスクの高さは不動産<FX<株の信用取引となります。まず、キャピタルゲインの源泉はそれぞれ次のとおりです。
キャピタルゲインの源泉と損失リスクの大きさ(レバレッジ倍率が同程度の場合の比較)
投資手法 | キャピタルゲインの源泉 | 損失リスクの高さ |
---|---|---|
不動産投資 | 不動産価格の変動 | 中程度 |
FX | 為替変動 | 高い |
株の信用取引 | 株価変動 | とても高い |
※上記はレバレッジ効果の傾向を示したもので、市場環境の変化などにより、どの投資方法も損失リスクが高まる可能性があることに注意が必要です
不動産投資
不動産投資では物件を売却する際の購入価格との差損益がキャピタルゲインとなります。ただし、必ずしも不動産価格が上昇している必要はなく、毎月ローン返済が順調に進み、残債が充分に圧縮できていれば、売却時に不動産価格が下がっていても、不動産価格と残債の差額がプラスであれば損失を回避できます。
以上の要因から、不動産投資ではキャピタルゲインを追求せずとも投資収益をあげられる可能性が充分にあります。また、不動産価格の変動リスクは低く、この後紹介するFXや株の信用と比較すると、レバレッジを高めたり長期保有していてもリスクが高くなりにくいという特徴があるのです。
FX
FXについては為替の差損益がキャピタルゲインの源泉となります。スワップポイントに着目して投資を行う人もゼロではありませんが、スワップポイントによる収入の積み上げは、日々の為替変動によって発生する損益と比較すると小さいため、実態としては為替差益をねらって投資をおこなっている投資家が多いと考えられます。
為替は株価と比較すると変動リスクは小さいと言えますが、例えば新興国通貨への投資など、通貨ペアによってはリスクが高くなるケースもあるので注意が必要です。また、FXは最大25倍までレバレッジ比率を高められますが、倍率が高ければ小さな為替変動でも大きな損益インパクトを受けることになります。思わぬ損失が発生して多額の追証を支払う事態に陥らないよう、レバレッジを適切に管理することが大切です。
株の信用取引
株の信用取引はこの株価変動による差損益がキャピタルゲイン(もしくはキャピタルロス)となります。株の信用取引を行う投資家も、多くの場合株価変動によるキャピタルゲインを追求して投資をおこなっています。
株価は不動産価格や為替と比較して日々の値動きが大きい傾向に。さらにレバレッジ効果がある信用取引はとりわけリスクが高いことから、制度上レバレッジ倍率が3.3倍に規制されているのです。レバレッジ3.3倍でも他の投資手法と比較してハイリスク・ハイリターンな取引となります。
FXや株の信用取引は、価格変動によるキャピタルゲイン・キャピタルロスが、レバレッジによって増幅されるためハイリスク・ハイリターンな投資になります。一方でインカムゲイン主体で、長期保有する間に残債が減少していく不動産投資にはこのような仕組みがないので、レバレッジを高めても相対的にリスクは大きくなりにくい投資といえるでしょう。
4 まとめ
不動産投資やFX、株の信用取引はレバレッジ効果を得られる代表的な投資手法です。ただし、レバレッジを高める方法やリスクの高さはそれぞれ大きく異なるので、その特徴を掴んで、過度なリスクを取らないように節度を持って取り組むことが大切です。
レバレッジの仕組みをうまく活用して、自己資金より大きな規模のポジションを保有して、効率的に投資をおこなっていきましょう。
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伊藤 圭佑
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