不動産売却で取得費が分からない時の税金はいくらになる?確定申告の手順も

※ このページには広告・PRが含まれています

先祖伝来の不動産や、相続した不動産などを売却したとき、その不動産をいくらで購入したか取得費が分からない場合も多いでしょう。

このような場合、譲渡所得が分からず、税金がいくらになるか不安になる方も多いと思います。税額の目安が分からないと、売却後に手元に残るキャッシュも不明確となり、資金計画にも影響を及ぼします。

そこで本記事では、不動産の売却で、取得費が分からない時の税金の計算方法、確定申告の手順について解説していきます。

※記事内の税制内容は2021年8月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。

目次

  1. 不動産を売却した時の税金とは
    1-1.譲渡所得税・住民税
    1-2.譲渡所得の計算の仕組み
  2. 取得費が分からない場合の譲渡所得の計算方法
    2-1.概算取得費を用いる
    2-2.概算取得費以外の方法も可能
  3. 取得費不明の場合の譲渡所得の確定申告手順
    3-1.必要書類・環境を整える
    3-2.所得税の確定申告書を作成・提出する
    3-3.所得税・住民税を納税する
  4. 取得費が分からない不動産売却の確定申告は税務リスクが高い
  5. まとめ

1.不動産を売却した時の税金とは

不動産を売却した時、取得費が分からない時の税金の計算について考える前に、取得費がどのように税金の計算に利用されるのか、確認してみましょう。

不動産を売却して利益が生じた場合、その利益(譲渡所得)につき譲渡所得税・住民税が課されます。取得費は、譲渡所得を計算する際、譲渡価格から控除することができる費用の一つとして利用されることになります。

1-1.譲渡所得税・住民税

不動産の売却について利益が出た場合、売却した年の翌年3月15日までに確定申告をおこない、その利益(譲渡所得)につき譲渡所得税が課されることになります。

不動産の譲渡所得税は分離課税という方式を採用しており、総合課税の所得(給与所得、事業所得、不動産所得など)とは、分離して所得や税額を計算するという特徴があります。

住民税は、譲渡所得税の確定申告の計算に基づいて、各市区町村が翌年6月頃に決定し、賦課してきます。それぞれの税率は、売却した不動産の保有期間に応じて下表のようになっています。

  • 長期譲渡所得:所得税15%・住民税5%
  • 短期譲渡所得:所得税30%・住民税9%

建物の所有期間が5年以下の場合には短期譲渡所得、5年超の場合には長期譲渡所得が適用されます。2037年までは上記所得税に復興特別所得税が加算されるため、短期譲渡所得は所得税と住民税を足して39.63%、長期譲渡所得は20.315%の税金が課されます。

1-2.譲渡所得の計算の仕組み

譲渡所得税のかかる不動産売却の利益(譲渡所得)を計算する式は、次のようになります。

 譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)-特別控除

譲渡価格は売却した物件の売買価格です。取得費は不動産を入手するのにかかった費用、売却費用は売却するときにかかった費用となります。

譲渡所得における取得費は、次のように計算します。

取得価格+取得の際要した費用+取得後の改良費-減価償却費(建物の場合のみ)

取得価格とは、購入時の価格や建物であれば建築費用になります。(※参照:国税庁「取得費となるもの」)

2.取得費が分からない場合の譲渡所得の計算方法

購入時の売買契約書を紛失してしまったり、相続によって取得した先祖伝来の不動産であったりして、購入時の取得費が不明な場合があります。そのような場合、売却価格の5%を取得費として計算することができる、概算取得費の制度があります。(※参照:国税庁「取得費が分からないとき」)

2-1.概算取得費を用いる

購入時の取得費が不明の場合、売却価格の5%を取得費とできる概算取得費の制度があります。上述の譲渡所得の計算式において、「取得費」部分が土地・建物を含めて「譲渡価格の5%」となります。

建物部分があったとしても、減価償却などは考慮しません。概算取得費を用いた場合の譲渡所得の計算式は次のようになります。

譲渡所得=譲渡価格-(譲渡価格×5%+売却費用)-特別控除

なお、概算取得費の制度は、実際の取得費が譲渡価格の5%未満である場合にも、適用可能です。

2-2.概算取得費以外の方法も可能

不動産の取得時期によっては、概算取得費により計算すると明らかに実際よりは安価になってしまい、譲渡所得が実際よりも大きくなり、適正な税額よりも高額な税額となってしまう場合があります。

そのような場合、国税不服審判所の裁決では、取得時と譲渡時の市街地価格指数割合によって、譲渡価格から取得費を算出することを認めています。(※参照:国税不服審判所「(平12.11.16裁決、裁決事例集No.60 208頁)」)

しかし、必ずしも法令によって定められた取扱いとはいえないため、否認されるリスクもあります。概算取得費以外の方法を用いて取得費を算出しようとするときは、税理士などの専門家に相談することを検討しましょう。

3.取得費不明の場合の譲渡所得の確定申告手順

取得費が分からない不動産の売却について、譲渡所得の確定申告をおこなう手順を確認してみましょう。

通常の確定申告と同様、必要書類を揃えます。また、自分で手続きをおこなう場合、パソコン、ネット環境が必要となります。

準備が整ったら、所得税の確定申告書を作成し、翌年3月15日までに管轄の税務署に提出します。所得税の納付期限は確定申告書の提出期限と同じですが、住民税は6月以降に賦課されることになります。

3-1.必要書類・環境を整える

まず、確定申告に必要な書類を整えます。不動産を売却して確定申告をおこなう場合、次のような書類が必要になります。

  • 譲渡所得の内訳書
  • 確定申告書(B様式)
  • 確定申告書第三表(分離課税の申告書)
  • 売却時の売買契約書のコピー
  • 売却時の仲介手数料などの領収書コピー
  • 源泉徴収票などの他の所得を証明する書類、本人確認書類
  • 各種特例の適用を受ける場合、適用を受けるのに必要な書類

確定申告の手続きを自分でおこなう場合、パソコンとインターネットにアクセスできる環境が必要です。令和2年分の確定申告では、譲渡所得についてはスマートフォンでは申告できませんでした。電子申告をおこなうというのであれば、マイナンバーカードとカードリーダーも必要になります。

3-2.所得税の確定申告書を作成・提出する

所得税の確定申告書は、譲渡所得の金額の他、給与所得などの総合課税の所得金額も集計し、社会保険料控除、医療費控除などの各種控除の金額を控除して、1年間の所得に対してかかる所得税額の計算をおこなう書類です。

自分で作成するには、国税庁のホームページの確定申告書等作成コーナーを利用するか、申告書の提出時期に設置される確定申告会場で作成する方法があります。税理士等の専門家に依頼することも検討しましょう。

確定申告書を作成したら、管轄の税務署に提出します。提出方法は、直接持参するか、郵送、あるいは電子申告であればインターネットで送信することによって提出します。所得税の確定申告書等の提出期限は、翌年の3月15日となります。

3-3.所得税・住民税を納税する

所得税の納期限は3月15日であり、確定申告書等の提出期限と同じです。現金で支払う場合は、納付書を用いて税務署や金融機関等で納めます。口座振替やクレジットカード納付、コンビニ納付なども可能です。

住民税は、確定申告の情報を下に、それぞれの市区町村が税額を計算し、6月以降に納付書を送ってきます。サラリーマンであれば、勤務先企業に納付書を送ってもらい、12回に分割して給与所得から天引きし企業に納めてもらう特別徴収方式で設定している方が多いでしょう。

ただし、納付書を自分宛に送付してもらい、自分で納める普通徴収に変更することも可能です。普通徴収であれば、通常は4回の分割払いになります。

【関連記事】不動産投資、確定申告の手順は?計上できる経費や適用できる控除も紹介

4.取得費が分からない不動産売却の確定申告は税務リスクが高い

取得費が分からない不動産を売却した時、取得の計算を行う必要があります。しかし、取得の概算を行うには専門的な知識を必要とするうえ、誤って過少申告をしてしまうと結果的にペナルティを追ってしまうリスクがあります。

自身で確定申告を行うことは可能ですが、不安がある場合には税理士への依頼を検討してみましょう。税理士費用が発生する点はデメリットですが、確定申告書作成を代行することで手間を大きく省き、上記の税務リスクを下げることが出来ます。

税理士費用は依頼先の税理士事務所によって異なり、税理士によって得意な分野は異なります。複数の税理士と面談を行い、費用や受けられるサービスの質などを比較してみましょう。

効率的に不動産売却に強い税理士を探すには、税理士紹介サイトを利用する方法があります。税理士紹介サイトでは、コーディネーターが、相談者のニーズに合った税理士をピックアップし、面談を調整してくれます。税理士との依頼内容の調整や、料金交渉などもコーディネーターに任せることが可能です。

税理士ドットコム

税理士ドットコム税理士ドットコムは、全国5,900名の税理士の中から無料で希望に沿った税理士を紹介してもらえるウェブサービスです。複数の税理士を比較することができるうえ、「費用はいくら?」「どんな税理士を選ぶべき?」といった税理士を選ぶ際の相談も可能となっています。

報酬引き下げの実績も豊富なため、すでに税理士と契約している方でも利用が可能です。コーディネーターが複数の税理士に相見積りをとり、費用についての交渉までサポートしてくれます。

利用時の主な注意点としては、提携している税理士の紹介しか受けられない点です。提携外の税理士も比較していきたい方は、自身で探してみたり、不動産会社に相談してみたりなどと並行して、利用を検討すると良いでしょう。

まとめ

不動産の売却では、譲渡所得税の確定申告をおこなう必要があります。

売却した不動産の取得費が分からない場合、譲渡所得の計算の際、概算取得費の制度を利用することになります。概算取得費の制度では、取得費を譲渡所得の5%として計算します。

概算取得費の制度を適用すると、実際の取得費よりも明らかに安価になり、譲渡所得税が高額になってしまうことがあります。そのような場合は、市街地価格指数割合によって取得費を推計する方法などが認められることもあります。

ただし、否認されるリスクもあるため、専門知識に基づいて慎重に検討することが必要です。税理士などの専門家に依頼することを検討してみましょう。

【関連記事】不動産売却の確定申告、税理士に依頼する費用は?メリット・デメリットも

The following two tabs change content below.

佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。