不動産投資の損益通算で所得制限付きの諸制度を受けるリスクとは?3つの注意ポイント

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不動産投資商品のメリットとして、損益通算で所得制限付きの諸制度を受けることができる点が強調されることがあります。

しかし、損益通算の仕組みや優遇諸制度の仕組みを知らずに安易に利用すると、優遇制度の適用を受けることができなくなることがあるだけでなく、経済的損害を被る可能性もあるため、慎重に検討することが大切です。

この記事では、不動産投資の損益通算で所得制限付きの諸制度を受けるリスクについて解説していきます。

※記事内の税金・税率などは2023年1月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。

目次

  1. 不動産投資と所得税の損益通算の仕組み
    1-1.所得税の損益通算とは
    1-2.不動産投資で損益通算によって所得が減ることの意味
  2. 所得制限付きの諸制度と損益通算による適用
    2-1.所得制限付きの優遇税制
    2-2.所得制限付きの給付制度
    2-3.損益通算による適用の可否
  3. 不動産投資の損益通算で所得制限付きの諸制度を受けるリスク
    3-1.法改正によって優遇措置が受けられなくなることがある
    3-2.減価償却が終わると損益通算が受けられなくなることがある
    3-3.不動産投資に伴うリスクによりキャッシュフローが悪化することがある
  4. まとめ

1.不動産投資と所得税の損益通算の仕組み

不動産投資の損益通算で所得制限付きの諸制度の適用を受けることができるのは、どのような仕組みによるものなのか、考えていきましょう。まずは、所得税の損益通算の仕組みと、不動産投資の損益通算で所得が減ることの意味について説明していきます。

1-1.所得税の損益通算とは

所得税法の法令では、総合課税所得のグループ内で損益通算ができることになっています。損益通算とは、所得の種類が異なる所得間で、損失と利益を通算できることです。

総合課税所得である不動産所得は、同じ総合課税所得である給与所得や事業所得、雑所得などと損益通算が可能です。

これを利用して、不動産所得の損失を給与所得と損益通算することで、所得税のかかる総合課税所得の合計額を減らすことができます。

1-2.不動産投資で損益通算によって所得が減ることの意味

不動産所得の損失を給与所得などの他の総合課税の所得と損益通算することで、所得税のかかる所得を減らすことができることを確認しました。ここで、不動産投資で、不動産所得が赤字になり損益通算して所得が減ることの意味を、改めてみておきたいと思います。

不動産所得とは、所得税の法令や会計原則などの規定に基づいて計算された、一定期間の賃貸収入による利益のことです。個人であれば、所得税法の法令に基づき、一年間の不動産所得を計算して確定申告をおこない、それにかかる所得税等を納付する必要があります。

所得税法の法令では、不動産所得は、その年中の総収入金額から必要経費を控除した金額であると規定されています。必要経費に計上できる支出は、総収入金額を得るために直接要した費用や、その年に生じた期間対応の経費に限られています。

不動産投資では、これらの不動産所得の必要経費に計上できない支出があります。その代表的なものが、土地部分の支出と建物部分の支出の一部、そして借入金の返済のうち元本部分、です。

これらの支出が不動産所得の必要経費に計上できないために、不動産投資で運用中のキャッシュフローがプラスであっても、不動産所得は損失が発生することがあります。つまり、不動産投資で損失が発生していて、損益通算することによって所得が減ったとしても、それは会計上の出来事であり、実際にはキャッシュフローがマイナスでないこともあるといえます。

【関連記事】不動産投資の赤字が損益通算できないケースは?会計の仕組みを解説

2.所得制限付きの諸制度と損益通算による適用

所得制限付きの優遇税制と給付制度にはどのようなものがあるのか、そして、それらの優遇諸制度は、損益通算によって適用を受けられる可能性があるのかを見ていきましょう。

2-1.所得制限付きの優遇税制

所得税の優遇税制には、一定以下の所得であることが条件になっているものが多数あります。この際の所得制限の所得基準は、合計所得金額であり、損益通算を適用した後の総合課税の所得額の合計となっています。 このため、高収入の給与所得者が、損益通算を受けて所得を減らすことで、所得制限のある優遇税制の適用を受けることが可能になります。

主な所得制限付きの優遇税制には、下表のようなものがあります。

所得控除 内容 所得制限・条件
基礎控除 16万円~48万円の所得控除 所得2,500万円以下 
配偶者控除 最大38万円の所得控除 所得1,0000万円以下 
ひとり親控除 35万の所得控除 所得500万円以下 
住宅ローン控除 年末ローン残高の0.7%の税額控除(13年間) 所得2,000万円以下(特例1,000万円以下) 
住宅取得資金の贈与税非課税 1,000万円(省エネ等住宅)もしくは500万円(それ以外)の住宅取得等資金の贈与非課税 所得2,000万円以下(特例1,000万円以下) 

※参照:国税庁(2023年1月時点)

2-2.所得制限付きの給付制度

所得制限のある給付制度には、代表的なものに、子ども手当、高等学校等就学支援金、があります。

給付制度 内容 所得制限・条件
子ども手当 月額5,000円~15,000円 所得858万円以下(扶養人数等に応じて変動) 
高等学校等就学支援金 年額118,800円(公立)/年額396,000円(私立) 住民税の課税標準額×6%が一定金額未満 

子ども手当の所得制限は、総合課税の所得金額から、一部所得控除を差し引いた金額が基準となります。所得税法上の課税所得とは異なり、独自の計算方法によります。高等学校等就学支援金の所得制限は、住民税の課税標準額が基準となります。

2-3.損益通算による適用の可否

所得制限付きの優遇税制は、いずれも、所得税の総合課税の所得が基準となっており、高収入の給与所得者が、不動産所得の損失を損益通算することで、適用を受けることができる可能性があります。

所得制限付きの給付制度については、必ずしも所得税の総合課税の所得が基準となっているわけではありません。しかし、子ども手当についてもその基準となる所得の計算では、総合課税の所得合計が用いられており、高等学校等就学支援金についてもその基準となる所得の計算では、所得税の課税所得と連動する住民税の課税標準額が用いられています。

いずれの制度も、高収入の給与所得者が、不動産所得の損失を損益通算することで、適用を受けることができる可能性があるといえます。

3.不動産投資の損益通算で所得制限付きの諸制度を受けるリスク

所得制限付きの優遇税制や、所得制限付きの給付制度は、高収入の給与所得者が利用できないことがありますが、不動産所得の損失を損益通算することで、適用を受けることができる可能性があります。

それでは、このような方法で、所得制限付きの諸制度の適用を受けるリスクについて考えていきましょう。次のようなリスクがあると考えられます。

  • 法改正によって優遇措置が受けられなくなることがある
  • 減価償却が終わると損益通算が受けられなくなることがある
  • 不動産投資に伴うリスクによりキャッシュフローが悪化することがある

3-1.法改正によって優遇措置が受けられなくなることがある

所得税の優遇税制の中には、租税特別措置法といって、一定期間限定で税制の優遇措置を定めたものもあります。住宅ローン控除 や住宅取得資金の贈与税非課税 は、これに該当します。

また、子ども手当や高等学校等就学支援金は、それぞれ定められた法律に基づいて支給されていますが、所得制限などの詳細な基準は施行令という政令に基づいており、改正されることがあります。

このように、法改正によって優遇措置そのものや適用される基準が変更される可能性があり、このような制度の適用を受けることを目的として不動産投資を始めたとしても、その目論見が外れてしまうリスクがあるといえるでしょう。

3-2.減価償却が終わると損益通算が受けられなくなることがある

また、上述したように、不動産投資で運用中のキャッシュフローがプラスであっても、不動産所得は損失が発生することがあるのは、不動産所得の必要経費に計上できない支出があるためです。

このうち、建物部分の支出については、建物が収益を生み出す期間に割り振って計上するために、実際の支出と会計上の必要経費(減価償却費)がずれていくことになります。この割り振る期間が過ぎてしまうと、減価償却費の計上も終わり、不動産所得は一気にプラスに転じる可能性があります。

そのため、減価償却の期間が終わると、損益通算が受けられなくなることがあるリスクがあります。

【関連記事】アパート経営におけるデッドクロスの仕組みは?回避する10個の対策も

3-3.不動産投資に伴うリスクによりキャッシュフローが悪化することがある

不動産投資では、賃貸用物件の老朽化による修繕費支出や、賃貸需要の変化による空室リスク、インフレによる借入利息の増加リスクなど、様々なリスクを抱えています。これらのリスクが顕在化すると、キャッシュフローが悪化し、損益通算で受けることのできる優遇措置以上の経済的損害を被る可能性もあります。

つまり、不動産投資では投資対象として適切な物件であるか、また損失が起きた際に許容できるかどうか、個別の投資判断が必要になるということです。多くの不動産投資は長期の運用で得た賃料収入によってローンを相殺し、徐々に純資産を増やすスキームになっているため、収益性・資産性という観点から物件を検証していく必要があります。

諸制度の優遇措置を受けることを不動産投資の主目的にしてしまうと、投資的な観点に立った判断がおろそかになってしまうこともあるでしょう。不動産投資の仕組みやメリット・デメリット、リスクなどについて理解を深め、慎重に検討することが大切になります。

まとめ

所得税では、所得の種類が異なる所得間で、損失と利益を通算できる制度があり、これを利用して、不動産所得の損失を給与所得と損益通算することで、所得税のかかる総合課税所得の合計額を減らすことができます。

所得制限付きの優遇税制や、給付制度は、所得税の総合課税所得を基準として利用しているものがほとんどであり、不動産投資の損益通算を利用することで、このような優遇諸制度の適用を受けることも可能です。

しかし、法改正によってそもそも優遇制度の適用を受けることができなくなる可能性があるだけでなく、不動産投資の損益通算が減価償却期間の終了によって適用されなくなる可能性や、不動産投資のリスクが顕在化し経済的損害が発生する可能性もあるので注意するようにしましょう。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。