寄付を行う方の中には、不動産での現物寄付を検討する方もいらっしゃいますが、場合によっては「みなし譲渡所得税」が発生してしまう可能性があります。
不動産を取得した後に価値が上がると、上がった分が譲渡所得とみなされ税金が課されます。自身が亡き後に寄付をする場合には、遺族に税金を納める義務が生じてしまいます。
本記事では、みなし譲渡所得課税とは、みなし譲渡所得課税を回避する方法、非課税の特例の概要と要件・手続きの方法を解説していきます。
※本記事の税金については2021年7月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁のウェブサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- みなし譲渡所得課税とは
1-1.遺贈の場合 - みなし譲渡所得課税を回避する方法
2-1.被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例を利用する
2-2.公益法人等に財産を寄付した場合の譲渡所得等の非課税の特例を申請する - 一般特例と承認特例の要件・申請手順
3-1.一般特例
3-2.承認特例 - まとめ
1.みなし譲渡所得課税とは
みなし譲渡所得課税とは土地や建物など資産を譲渡する際に、取得した時の価額から値上がりした利益を譲渡所得としてみなし、税金が課されることです。
資産を保有している間に値上がりした場合に本来かかるべき税金を、所有者が譲渡する時点で課税する仕組みとなっています。
みなし譲渡所得税により所得税が増える事で、所得から算定される住民税の所得割も増え健康保険料といった社会保険料の負担も増えてしまいます。
1-1.遺贈の場合
「遺贈」とは自身の相続財産を無償で提供する事を指します。遺贈で不動産を寄付した場合には、みなし譲渡所得税は本来不動産の所有者(亡くなられた方)に課されますが、所有者に代わって相続人、又は包括遺贈において財産を譲り受ける方が納税義務者となります。
包括遺贈とは、財産の一部またはすべてを包括的に受け継ぎ、割合を指定する遺贈方法です。対して特定の財産を遺贈することを「特定遺贈」と呼びます。
不動産が特定遺贈である際は、相続財産を受け取る方がみなし譲渡所得税を負担します。遺贈による不動産の寄付は財産を得られないにも関わらず、相続人がみなし譲渡所得税を納める義務が発生してしまう事になります。
2.みなし譲渡所得課税を回避する方法
みなし譲渡所得課税を回避する方法は、主に以下の2つとなります。
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例を利用する
- 公益法人等に財産を寄付した場合の譲渡所得等の非課税の特例を申請する
2-1.被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例を利用する
自身のマイホームを遺贈寄付する場合には、亡くなった後相続人に売却することを依頼し、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」を適用する事で課税を避ける事が出来ます。(※参照:国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」)
「被相続人の居住用財産を売ったときの特例」は、相続又は遺贈により取得した居住用の家屋・敷地等を、2023年12月31日までの間に売却、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することが可能です。
売却代金を支援したい団体に寄付する事で、みなし譲渡所得税は課されません。
遺言書に寄付と売却について、特例に関する詳細を記載し、相続人に実行してもらう事で売却代金を寄付できます。ただし「どうしても不動産を寄付したい」という意向がある場合には適さない方法であることや、相続人に売却や特例申請の負担をかけてしまう可能性がある点はデメリットとなります。
2-2.公益法人等に財産を寄付した場合の譲渡所得等の非課税の特例を申請する
公益法人・一般財団法人などに財産を寄付した場合には、みなし譲渡所得税が控除される特例があり、税金を課されることなく不動産を寄付することができます。(※参照:国税庁「公益法人等に財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税の特例のあらまし」)
特例には「一般特例」と「承認特例」があり、承認特例は必要書類が少なく手続きが比較的シンプルとなっていますが、特例を受けるための要件が異なります。まずはそれぞれの特例の要件に該当するか否かをチェックしましょう。
3.一般特例と承認特例の要件・申請手順
みなし譲渡所得税を回避するために、一般特例と承認特例の要件・申請手順について確認していきましょう。
3-1.一般特例
一般特例の要件
- 寄付が公益の増進に著しく寄与する
- 寄付した財産が、寄付があった日から2年以内に公益目的事業用に使用される、又は使用される見込みである
- 寄付により、寄付者の所得税又は寄付者の親族等の相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること(※具体的には、寄付を受けた公益法人等につき公益に反する事実がないなどの要件を満たしていること)
対象団体
- 公益社団法人・公益財団法人
- 特定一般法人(法人税法に掲げる一般社団法人又は一般財団法人のうち、一定の要件を満たすもの)
- その他の公益を目的とする事業を行う法人(例:社会福祉法人、学校法人、更生保護法人、宗教法人や特定非営利活動法人など)
申請に必要な添付書類
一般特例を受けるには、寄付を行った方(遺贈の場合は相続人・包括受遺者)が、「租税特別措置法第40条の規定による承認申請書」と添付書類を管轄の税務署に提出します。
添付書類は財産の種類、寄付先の法人の種類などによって異なりますが、共通して必要となる書類は以下の通りとなります。
- 法人の設立許可書、認可書又は認証書の写し
- 法人の登記事項証明書等
- 法人の寄付行為、定款又は規則の写し
- 法人が設置運営している施設の運営に関する園則、管理(運営)規程、規則等の写し
- 法人が設置運営している施設の利用に関する説明書、パンフレット等
- 寄付申込書の写し
- 寄付の受入れに係る理事会等の議事録(法人を設立するための財産の提供の場合は、寄付の受入れに係る設立発起人会等の議事録)の写し
- 付財産の時価を明らかにする書類(不動産鑑定評価書の写し、株式の評価明細書、美術品の鑑定書等の写しなど)
寄付財産が土地である場合の添付書類
- 寄付を受けた法人に所有権移転登記を行った後の登記事項証明書(農地の場合は農地転用許可書の写しを含む。)
- 利用状況を示した公図の写し、地番入り実測図、住宅案内図(隣接する土地の利用者が記載されたもの)及び写真等
- 土地の上に建物がある場合には、建物の登記事項証明書、建物の配置等利用状況を示した平面図及び写真等
寄付財産が建物である場合の添付書類
- 寄付を受けた法人に所有権移転登記を行った後の登記事項証明書
- 利用状況の分かる平面図及び写真等
3-2.承認特例
2020年4月から、認定NPO法人又は特例認定NPO法人に対する現物の寄付について、「承認特例」が施行されました。
現物寄付の際に一定の要件を満たす場合には、承認申請書の提出があった日から1ヶ月又は3ヶ月以内に国税庁長官の決定がなかった際に、「承認があった」とみなされ、税金が全額控除されます。
承認特例の要件
- 寄付した方が寄付を受けた認定NPO法人等の役員等及び社員並びに親族等に該当しないこと
- 寄付財産について、寄付を受けた認定NPO法人等において一定の基金に組み入れる方法により管理されていること
- 寄付を受けた認定NPO法人等の理事会等において寄付の申出を受けること及び上記②の組入れが決定されていること
承認特例では、「認定NPO法人で要件を満たした基金を設置し、所轄庁が要件の確認をしたことの証明を受ける必要がある」という点が一般特例との大きな違いです。
加えて、既に非課税承認を受けているNPO法人も、認定NPO法人に該当するケースでは、他の資産への買換えが一微許可される特例(特定買換資産の特例)の対象となりました。特例の適用を受けた場合は、基金内で寄付財産の柔軟な買換えが可能となります。
承認特例の申請で必要となる書類
承認特例でも、一般特例と同様に財産の種類や寄付の時期などによって必要書類が異なります。共通して必要となる書類は以下の通りです。
- 法人の設立許可書、認可書又は認証書の写し
- 法人の登記事項証明書等
- 法人の寄付行為、定款又は規則の写し
- 寄付申込書の写し
- 寄付財産の時価を明らかにする書類(不動産鑑定評価書の写し、株式の評価明細書、美術品の鑑定書等の写しなど)
寄付財産が土地である場合の添付書類
- 寄付を受けた法人に所有権移転登記を行った後の登記事項証明書(農地の場合は農地転用許可書の写しを含む。)
- 利用状況を示した公図の写し、地番入り実測図及び住宅案内図(隣接する土地の利用者が記載されたもの)等
寄付財産が建物である場合の添付書類
- 寄付を受けた法人に所有権移転登記を行った後の登記事項証明書
いずれも一般特例より必要書類が少なくなっていますが、承認特例の申請の際には以下の添付書類も必要となります。
寄付先の法人から寄付者に交付される書類
- 承認申請書及び添付書類の記載事項が事実に相違ない旨の確認書
- 行政庁から交付された基金に関する証明書の写し
- 寄付を受けた法人において、寄付の申出を受け入れること及び寄付資産について基金に組み入れる方法により管理することを決定した旨、決定を行った事項の記載のある議事録等の写し
- 上記③の決定に関する寄付資産の種類、所在地、数量、価額などの事項を記載した書類(議事録等にこの内容の記載がある場合には不要)
- 贈与又は遺贈をした者が法人の役員等及び社員並びにこれらの者の親族等に該当しない旨の誓約書、贈与又は遺贈をした者が法人の役員等及び社員並びにこれらの者の親族等に該当しないことを確認した旨の証明書
一般特例と同様に、管轄の税務署に書類を提出することで手続きが可能です。
一般特例又は承認特例を利用することで、みなし譲渡所得税が控除されますが、上記の通り書類の準備が必要で手続きの手間がかかります。遺贈を検討されている方は、相続人のために書類の準備を行っておくことで負担を軽減する事が可能です。
加えて、あらかじめ寄付を行いたい団体に相談を行っておくことも重要となります。
まとめ
取得時より価値が上がった不動産を寄付する際には、「公益法人等に財産を寄付した場合の譲渡所得等の非課税の特例」を申請することでみなし譲渡所得税を避けることができます。
自身のマイホームを遺贈する予定の方は、相続人が売却した後「被相続人の居住用財産を売ったときの特例」を利用することで、税金が課されない事があります。税理士への相談も検討し、寄付の目的や相続人の負担を考慮して進めていきましょう。
田中 あさみ
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