大規模修繕がどういったものかご存知でしょうか?マンションに住んだことがない人には聞き慣れない言葉だと思いますが、マンションの資産価値を向上させる上で重要な修繕として位置付けられています。
しかし、大規模修繕は修繕箇所が多いため、費用が大きくなってしまうことからマンション投資の場合には利益の圧縮につながってしまうため、あまりうれしいものではありません。今回はマンションにおける大規模修繕の内容について見ていきましょう。
- 1 大規模修繕とは
- 2 大規模修繕の修繕内容
- 3-1 大規模修繕の費用詳細
- 3-2 大規模修繕のポイント
- 4 大規模修繕の費用負担
- 5 マンション投資と大規模修繕の関係
- 6 マンション投資のチェックポイント
1.大規模修繕とは
エントランスや廊下のタイルのヒビや自動ドアの故障などの小さな劣化や日常的に生じる故障などの場合は随時修繕を行います。しかし、耐用年数が定められているような設備などの場合は、耐用年数を超えたことによって不具合が生じてしまう前にまとめて修繕を行います。
耐用年数は設備によって異なり、10年前後と比較的長い設備もあれば、5年前後と比較的短い設備もあります。耐用年数を超えるタイミングが重なった場合は、修繕する設備が多くなることから大規模修繕工事と呼んでいます。
大規模修繕工事は、10年~15年に1回のペースで行われますが、耐用年数を超えたからといってすぐに設備に不具合が生じるわけではないため、居住者で構成されるマンションの管理組合の方針によって全ての修繕を行うか一部の修繕を行うかに分かれています。
2.大規模修繕の修繕内容
大規模修繕工事の修繕内容は、外壁関連工事、給水管・排水管・水道管の工事、ベランダ・バルコニーの工事、屋上防水工事、玄関ドアのリフォーム工事、共用内部の補修工事などが挙げられます。
大規模修繕は、修繕箇所が多い、修繕が終わるまでの時間が長い、修繕に必要な部品が高いなどの理由から、修繕費用が大きくなってしまいます。そのため、マンションの管理組合によっては、費用を少しでも抑えるために、修繕を一部先延ばしにするなど、修繕がきちんと行き届いていない場合があるので注意が必要です。
3-1.大規模修繕の費用詳細
大規模修繕工事の費用はどのくらいの金額を想定しておけば良いのでしょうか?東京都が行った平成25年の調査によると、約1,000~3,000万円のマンションが多いという結果が出ています。
しかし、都内のタワーマンションの場合には、修繕箇所が多く、修繕期間も長くなるだけでなく、ジムやスパなどの共用部分に対する修繕なども必要となることから、修繕費用が多くなる傾向があるので注意が必要です。項目別の費用の詳細について見ていきましょう。
外壁関連工事費用
外壁関連の工事費用は全体の3割を占めていると言われています。外壁関連の工事費には、外壁塗装費用・補修工事費用・鉄部の防錆工事費用などが挙げられますが、劣化状況などによって異なりますが、合計で1㎡あたり1万円前後を想定しておく必要があるでしょう。
給排水設備工事費用
給水排水設備の工事費用は、給水管の補修費用・排水管の補修費用・給水ポンプの交換費用などが挙げられます。給水管の補修費用は約120万円、排水管の補修費用は約140万円、給水ポンプ交換費用は約80~200万円となっています。マンションの規模によって大きく異なります。
ベランダ・バルコニー工事費用
ベランダ・バルコニーの工事費用には、手すりの防錆塗装・床面FRP防水工事費用などが挙げられますが、合計で1㎡あたり1万円前後を想定しておく必要があるでしょう。
屋上防水工事費用
屋上防水の工事費用には、アスファルト防水工法・シート防水工法などが挙げられますが、合計で1㎡あたり1万円前後を想定しておく必要があるでしょう。
玄関ドアリフォーム費用
玄関ドアのリフォーム費用には、玄関ドアの鉄部塗装・玄関ドア表面の塗装・ドア交換費用・ドア付帯部補修費用などが挙げられます。塗装関係の費用は、劣化状況によって異なりますが、鉄部塗装費用は1㎡あたり2,000円前後、表面の塗装費用は1戸あたり5万円前後、ドア付帯部補修費用は5万円前後となっています。
ドアを交換する場合の費用は1戸当たり25万円前後となっており、修繕費用が大きくなる場合には、修繕ではなく交換によって対応します。
共用内部の補修工事費用
共用内部の補修工事費用には、照明のLED化費用・エントランスのオートロック化費用・エントランスの自動ドア設置費用・階段手すりの取り付け費用などが挙げられます。
照明のLED化の費用は1箇所あたり5,000円前後、オートロック化の費用は80万円前後、自動ドアの設置費用は120万円前後、手すりの取り付け費用はマンションの規模によって異なりますが、30万前後を想定しておくと良いでしょう。
LED化やオートロック化、自動ドア設置、手すりの取り付けは、マンションの資産価値の向上や利便性のために行う修繕で必須ではありません。修繕計画には組み込まれていないため、修繕を行うには本来の修繕以上に費用が発生するので注意しなければなりません。
その他の諸費用
その他の諸費用として、劣化診断費用・コンサルタント費用・足場設置費用・産業廃棄処理費用などが挙げられます。
劣化診断費用は、どの程度の修繕が必要かどうかを判断するための調査費用です。劣化診断費用は規模によって異なり約50万円前後です。
コンサルタント費用は、マンション管理会社などがマンションの修繕がきちんと行われているかどうかを監視するための費用で、総額の10%前後と言われています。必須ではないため、費用を抑えたい場合には値下げ交渉やコンサルタントの依頼を断っても問題はありません。
修繕費用が1,000~3,000万円規模のマンションでは足場の設置費用は300万円前後、産業廃棄物処理費用は50万円前後発生します。
3-2.大規模修繕のポイント
大規模修繕を行う場合は、大規模修繕を行っている企業に対して見積もりを依頼しますが、企業によって見積もりは大きく異なります。相見積もりによってどの企業に大規模修繕を依頼するか決定しますが、価格だけでなく実績なども考慮して判断しなければなりません。
例えば、見積もりが安くて実績の少ない企業の場合、大規模修繕の進行とともに見積もりの範囲内で費用が収まらなくなる可能性があります。しかし、見積もりが高い企業の場合には不要な修繕が計上されている可能性もあるので注意が必要です。
大規模修繕は、工事開始の2~3年前から大規模修繕専用の委員会を発足させ準備を始めていきます。見積もりの内容をきちんと確認することは所有者が負担しているマンションの修繕維持費を抑えることにつながるので、自主的に大規模修繕に関わっていくようにしましょう。
4.大規模修繕の費用負担
大規模修繕の費用負担は、「健康のために階段を利用しているからエレベータの修繕費用は負担しない」などの理由から費用負担を拒否することはできません。費用負担がバラバラになってしまっては、安定して修繕費用を積み立てることができないため、管理組合によって事前に費用負担の割合が決められています。
費用負担の割合に関しては、持ち分(部屋の大きさ)に合わせて決定したり、マンションの持ち分に関係なく一律にしたりなど、マンションによって負担割合が異なります。東京都が行った平均的な1住戸あたりの修繕積立金の負担額は、100万円が最も多いという結果になっています。
国土交通省が平成23年4月にまとめた「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」によると、修繕積立金の1ヵ月当たりの目安は、15階未満で1㎡あたり178円~218円、20階以上で1㎡あたり206円と記載されています。しかし、ガイドラインの金額を実際に満たしているマンションは少なく、大規模修繕が近付いてから徐々に修繕積立金の金額を引き上げているのが現状です。
5.マンション投資と大規模修繕の関係
マンション投資の場合には、入居者と所有者のどちらが修繕積立金の費用負担を行うのでしょうか?修繕積立金は入居者ではなく所有者が負担するため、ランニングコストが多くならないようにするためにも、将来的に引き上げられる可能性が無いか現在の価格が適正価格なのかなどをしっかりと確認しておく必要があります。
他にも、マンションの管理組合の方針によって、修繕が先延ばしにされて修繕の行き届いていない場合には、入居希望者が現れにくく、また売却時にもなかなか買い手が現れなくなるため、修繕がどの程度の頻度で行われているのか事前に確認する必要があります。
管理費や修繕積立金は、マンションの管理を適切に行うために必要な費用やマンションの資産価値を向上させるための修繕に必要な費用であるため、室内のクロスの張替えなどの居住部分のリフォームに関する費用は、全て自己負担になります。
そのため、マンション投資を行う場合は、管理費や修繕積立金の支出などの費用負担のほか、入居希望者の環境を整えるためにクロスの張替えなどの費用負担も発生するため、事前にどの程度のランニングコストが発生するのかを確認しておく必要があるでしょう。
6.マンション投資のチェックポイント
マンション投資を行う場合には、最初のマンション選びが重要になります。例えば、都心のタワーマンションを購入する場合と郊外の高層マンションを購入するのは、どちらの方が良いのでしょうか?
一概にどちらが最適と言い切ることはできませんが、都心のタワーマンションを購入する場合は、郊外の高層マンションと比較すると、立地条件が良い・共用施設が充実している・需要が高い・家賃設定が高いなどのメリットがあります。
しかし、物件価格が高いため初期投資が大きくなってしまうだけでなく、ジムやスパなどの共用施設に対する修繕費用を利用の有無に関係なく負担する必要があるため、ランニングコストが大きくなりやすいというデメリットがあります。
郊外のマンションの場合は、都心のタワーマンションと比較すると立地条件や共用施設は劣ってしまいます。しかし、物件価格が安いため初期投資を抑えることができるだけでなく修繕費用も抑えることができるのは大きなメリットと言えます。
マンションを選ぶ場合には、利回りだけを意識するのではなく、大規模修繕などの将来的に発生する可能性のあるランニングコストも意識して選ぶようにすると安定した資産運用を行うことができるでしょう。
まとめ
大規模修繕は、マンションの資産価値を向上させる上で不可欠な工事で、設備の耐用年数が切れるタイミングに合わせて10年~15年に1回のペースで行われます。しかし、修繕を行うかどうかは、マンションの管理組合に委ねられており、費用の負担を小さくするなどの理由から、先延ばしにしたり壊れるまで放置したりしている場合があります。
マンション投資を行う場合、修繕積立金は入居者ではなく所有者が負担するため、積立金の金額によってはランニングコストの負担が大きくなります。また、大規模修繕がしっかりと行われているかどうかは入居者の確保だけでなくマンションの資産価値にも影響を与えてしまうため、マンション購入時にしっかりと修繕状況を確認しておくようにしましょう。
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矢野翔一
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