不動産の相続は手続きに手間と費用がかかる、分割が難しいなどの理由から相続する方にとって負担となる、相続人の間でトラブルが起こる可能性があります。
親が生きている間に準備をしておきたい方、親が高齢で代わりに管理を行いたい方には「家族信託」という方法があります。
家族信託は家族内で財産管理を行う契約です。家族信託によって、親の意向を尊重しながら不動産を運用することが可能で、トラブルの起こりやすい兄弟間の「共有名義」を避ける事ができます。
本記事では家族信託とは、成年後見制度との違い、不動産を相続予定の方が家族信託を利用するメリット・デメリット、注意点を解説していきます。
目次
- 家族信託とは
1-1.成年後見制度との違い - 不動産を相続予定の方が家族信託を利用するメリット
2-1.不動産の柔軟な活用が可能になる
2-2.共有名義を避ける事が出来る
2-3.承継者を複数先の世代まで決めておくことが可能
2-4.倒産隔離機能がある
2-5.遺言書としての機能があり、相続の負担が軽くなる事がある - 不動産を相続予定の方が家族信託を利用するデメリット
3-1.介護サービスや入院の契約などができない
3-2.兄弟間でトラブルになる可能性がある
3-3.契約が負担になることもある - 家族信託を行う際の注意点
- まとめ
1.家族信託とは
家族信託(民事信託)とは、家族内で財産を運用・管理できる制度で、親の代わりに財産を管理・運用したい、親が認知症になったため代わりに財産管理を行うなどの事例で利用されています。
例えば、認知症になった夫が所有する不動産を子供が管理・運用し、妻が不動産から得られる収益を受け取る場合には、財産を子に信託する夫が「委託者」、信託され財産を運用・管理する子供は「受託者」、妻が「受益者」となります。委託者と受益者が同一人物のケースもあります。
家族信託を行うためには、委託者と受託者が財産管理の取り決めを行った後信託契約を結びます。話し合いにより財産の管理方法や運用方法・期間、受益者を誰にするかなどを決定し、取り決めた内容を契約書として作成・記載します。
契約書に定められたフォーマットはありませんが、公証役場で公正証書として公文書として取り決めた内容を残しておくことで後のトラブルを防ぐことに繋がります。なお、信託銀行や信用金庫、一定の法人と提携して行う事も可能ですが、手数料がかかるという点に注意しましょう。
1-1.成年後見制度との違い
成年後見制度は認知症・知的障害を持つ方などに後見人を選任し、財産管理に加え「身上保護」と呼ばれる介護・福祉サービスの利用契約や医療費の支払いなどを行う制度です。
成年後見制度と家族信託との違いは、主に以下の6つとなります。
- 成年後見制度は基本的に判断能力が乏しい方(認知症・知的障害など)に後見人を選定するが、家族信託は親が健康でも代わりに財産を管理できる
- 成年後見制度の後見人は親族以外に弁護士・社会福祉士等の専門職や福祉関係の法人が選ばれることがあるが、家族信託は家族内で行う
- 家族信託は主に財産の管理を行うのに対し、成年後見制度は財産の管理に加えて身上保護を行う
- 手続き方法が異なる
- 家族信託:契約書を作成し信託契約を結ぶ
- 成年後見制度:家庭裁判所に専任の申し立てを行う
- 成年後見制度は後見人が法的な代理権を持つ事があるが、家族信託では法的な代理権がない
- 成年後見制度における後見人は一定の資格や職業・営業許可等を失う可能性がある、財産の管理が不適切な場合は取り消される、元本保証のない金融商品を購入できないなど制約がある
家族信託は財産管理の「契約」、成年後見制度は後見される方の保護・支援を行う「法律に基づく制度」という点が大きな違いです。
【関連記事】認知症になった親の不動産の売却手順は?成年後見制度を使った売却の流れや注意点
2.不動産を相続予定の方が家族信託を利用するメリット
親の不動産を相続予定の方が家族信託を利用するメリットをお伝えしていきます。
- 不動産の柔軟な活用が可能になる
- 共有名義を避ける事が出来る
- 承継者を複数先の世代まで決めておくことができる
- 倒産隔離機能がある
- 遺言としての機能があり、相続の負担が軽くなる事がある
2-1.不動産の柔軟な活用が可能になる
成年後見制度では原則として本人の「財産を守る」ことが目的です。親が亡くなった後に居住していた不動産を売却する・第三者に貸し出す・建物を取り壊す場合は、事前に家庭裁判所に「居住用不動産処分許可」の申立て許可を得る必要があります。
これにより、例えば、「取り壊して土地活用を行いたい」「親が老人ホームに引っ越したので住んでいたマンションを貸し出したい」などの理由では、認められない可能性があります。
一方、家族信託は家族間の契約ですので、土地活用・賃貸経営といった柔軟な活用が可能となります。
2-2.共有名義を避ける事が出来る
親が亡くなった後に不動産を兄弟間で「共有名義」にする事例がしばしば見られますが、共有名義は売却・賃貸などで所有者全員の許可を得なければならないというデメリットがあります。
また、兄弟のうち1人が亡くなった際に、兄弟の子供・孫が引き継ぐことで相続人が増え管理が難しくなる可能性があります。不動産を所有している間に各相続人の環境や考えが変わることがあり、トラブルとなる事例も少なくありません。
一方、家族信託で1人が代表して不動産を管理する事で、このような共有名義にまつわるトラブルを避けリスクを軽減する事ができます。
【関連記事】不動産の相続、共有名義にするメリット・デメリットは?他の方法との比較も
2-3.承継者を複数先の世代まで決めておくことが可能
遺言書による相続では、例えば子供(一次相続)に対する財産の相続に関して指定ができますが、子供の次の相続(二次相続)に関して指定する事はできません。
一方、家族信託では不動産の承継者を複数先の世代まで決めておくことが可能です。親の意向だけではなく、次に相続する方、二回目に相続する方の意向や思いを尊重した上で検討しましょう。
2-4.倒産隔離機能がある
信託された財産は親名義ではなく、財産を管理する子供のものとなります。そのため親が事業をしており倒産してしまった場合、不動産を含む信託財産は倒産の影響を受けません。
子供が事業を経営している場合でも、信託財産は子供の相続財産にはならず債権者による強制執行が禁じられているため、「倒産の影響はない」という結論となります。(※参照:一般社団法人「信託の機能」)
2-5.遺言書としての機能があり、相続の負担が軽くなる事がある
家族信託は親の意向を汲み財産管理を行う仕組みから、相続における「遺言書」としての役割を果たしています。生前から親と相談し、不動産の処遇を決めておくことで相続時の負担が軽くなります。
生前に相続不動産の処遇についての相談ができるため、遺産分割協議で相続人の意見がまとまらず調停に発展する、相続人の1人と連絡がつかず遺産分割協議ができないなどのトラブルを防ぐことが可能です。
3.不動産を相続予定の方が家族信託を利用するデメリット
次に、相続不動産の家族信託を利用する際に注意しておきたいデメリットについても確認しておきましょう。
- 介護サービスや入院の契約などができない
- 兄弟間でトラブルになる可能性がある
- 契約が負担になることもある
3-1.介護サービスや入院の契約などができない
家族信託は「財産管理」が目的であり、成年後見制度のように介護サービス・入院の契約などの「身上保護」により代理での契約はできません。
親の世話をするにあたって不都合が生じることがありますので、身上保護が必要なケースでは成年後見制度と組み合わせて利用することを検討しましょう。
3-2.兄弟間でトラブルになる可能性がある
兄弟がいる場合、親が子供の1人と家族信託契約を結び財産の運用を行うことで他の兄弟から「不公平」という意見が出るケースがあり、場合によってはトラブルに発展してしまう可能性があります。
信託契約を結ぶ前には親だけではなく、兄弟とも事前に相談しておきましょう。
3-3.契約が負担になることもある
信託契約の受託者(親の財産を管理する場合は子供)は、信託財産に関わる帳簿や書類を作成しなければなりません。
また毎年1回、受益者(利益を受け取る人)に貸借対照表、損益計算書などを作成・報告し、書類を保存する義務もあります。
財産管理に加えて上記のような書類作成・報告が負担になってしまう事例があります。契約が長期に渡る可能性もありますので、契約前に誰が帳簿作成を行うか、報告の有無などについて話し合っておきましょう。
4.家族信託を行う際の注意点
信託財産の税金の取り扱いについては、基本的に信託財産の実質的な所有者は受益者(利益を受け取る方)とみなされ、税法上では、信託財産から収益が生じた場合には、実際に収益を受け取る受益者に対して税金が課されます。(※参照:国税庁「信託税制の改正のあらまし」)
そのため不動産を第三者に貸し出し、得られる家賃収入に対する税金は受益者が負担します。なお、固定資産税・都市計画税の納税通知書は受託者に送付されます。
まとめ
家族信託は家族内で財産管理を行う契約であり、柔軟な不動産の活用が可能、相続時の負担が軽減されるなどのメリットがあります。
ただし、介護・福祉サービスの契約といった「身上保護」ができず、帳簿・書類作成、報告義務があるなどのデメリットも存在します。
この記事を参考に家族信託のメリット・デメリットを知り、親の健康状態や意向、兄弟の意見、自身が受託者となった場合の負担の度合いなどを考慮しながら家族信託を検討していきましょう。
田中 あさみ
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