離婚調停中であっても、双方の合意があれば家を売却することが可能です。
ただし、売却についてよく話し合い意見を合致させておくことが重要となります。また、売却の際にはローン残債と売却価格の比較、財産分与の可能性といった点にも注意が必要です。
本記事では、離婚調停の流れと家の売却、離婚調停中に家を売却する際の注意点と後のトラブルを防ぐ方法をお伝えしていきます。
目次
- 離婚調停の流れと調停中の家の売却
- 離婚調停中の家の売却の注意点
2-1.家の売却価格の相場とローン残債を比較する
2-2.財産分与について確認する
2-3.家の名義はどうなっているか確認する - 離婚時に家を売却する際のトラブル回避の方法
3-1.公正証書を作成し、公的文書として残しておく
3-2.不動産が許可なく売却されそうな時は - まとめ
1.離婚調停の流れと調停中の家の売却
離婚調停は、当事者間で離婚の可否、財産分与、子供がいる夫婦では親権や養育費について話がまとまらない場合に家庭裁判所で調停を行い、調停委員と共に解決に向けて話し合いを進める行為です。
調停で数回協議した後、お互いが合意に至った時には調停成立、合意に至らなかった場合や相手が出席しなかった時には調停不成立となります。調停が成立した時には成立してから10日以内に管轄の役所に離婚届を提出し、離婚手続きが完了します。
このように、離婚調停は離婚について話し合いをしている段階ですが、双方が合意をしている時には夫婦の共同財産である家の売却が可能です。
しかし、片方が反対している時には売却することは難しくなり、後にトラブルが起こる可能性があります。双方の合意が得られるか、調停中に話し合いを進めることができるかどうか、という点がポイントとなってきます。
2.離婚調停中の家の売却の注意点
離婚調停中に家を売却する時の注意点について見て行きましょう。
2-1.家の売却価格の相場とローン残債を比較する
住宅ローンが残っている不動産は、住宅ローンの残債と売却価格の相場を比較してみましょう。家の売却価格が残債を下回ってしまうオーバーローンの状態であった場合、売却の難易度が高まってしまうためです。
売却価格の相場が住宅ローンの残債より多い場合、「アンダーローン」の状態となり物件を売却した代金でローンを完済する事が可能です。残ったお金は2人で話し合い、離婚する場合は分与します。
一方でローンの残債が売却価格の相場より多い「オーバーローン」の時には、物件を売却してもなおローンの返済が続くことになります。
オーバーローンの場合は、任意売却という方法を検討することになります。任意売却では、金融機関に売却可否を確認し、売却後には家を差し押さえる権利(抵当権)を外してもらいます。
任意売却によって得た売却代金でローンを支払い、残った債務は金融機関と話し合い、返済期間を長くするといった無理のない返済計画に変更してもらえる可能性があります。
ローンが残っている不動産の売却を行う際はオーバーローンとアンダーローン、どちらの状態であるかを確認し、売却方法や売却価格、売却時期などの意見をまとめた上で売却を行いましょう。
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2-2.財産分与について確認する
離婚調停の結果、離婚という結論が出た時には財産分与を行うことになります。財産分与は結婚中2人で築いた資産を分与する行為で、「夫婦の共有財産」が対象となります。そのため、相続した財産や結婚前に得た資産は対象外となります。
まずは売却予定の家が「夫婦の共有財産」として財産分与の対象となるかを確認しておきましょう。
なお、片方の単独名義で住宅ローンを契約しており、前項で解説したオーバーローンの物件である場合、マイナスの資産であるために財産分与の対象となりません。財産分与はプラスの財産を双方に分配する手段であるためです。
その他、不動産の場合、親に頭金を出してもらった、土地は親が持っているなどのケースが存在しますが、不動産の価額から親の持ち分を差し引いた夫婦の共同財産を分与することになります。
分与を行う時には分与の割合や、売却方法、ローン返済などの話し合いが必要となります。離婚調停中に分与の対象となる家を売却する時は、財産分与を行う事態を想定して売却方法や分与割合などについて話し合っておきましょう。
2-3.家の名義はどうなっているか確認する
売却したい不動産が共同名義の場合、売却を行うには全員の同意と承認が必要で、取引を行う時には2人で立ち会う必要があります。
ただし、委任状を作成することで、どちらか一方が代表して売却活動を行う事が出来ます。委任状に決まったフォーマットはありませんが、主に記載する項目は以下のようになります。
- 書面日付
- 土地の地番や地目などの表示項目※
- 建物の家屋番号、構造、床面積などの表示項目※
- 代理人の住所・氏名
- 委任の範囲
- 有効期限
- 禁止事項
- 所有者本人と代理人の署名・捺印
※表示項目は法務局の登記簿(登記情報)で確認する事が出来ます。
3.離婚時に家を売却する際のトラブル回避の方法
離婚調停中は既に別居しているケースも多く、売却後に意見が食い違う、勝手に不動産を売却されるなどのトラブルが起こる可能性があります。
家の処分方法については、話し合った内容を公正証書として残しておくことが大切です。また、仮に家が許可なく売却されそうな時には、裁判所に「保全処分(処分禁止の仮処分)」を申し立てるなどで、トラブルを回避できる可能性があります。
3-1.公正証書を作成し、公的文書として残しておく
離婚調停中の家の売却は、売却後に「約束と違う」という事態が起こる可能性があります。
例えば、どちらかが「もっと高く売却したかった」「やはり売却せず住み続けたかった」と主張した場合、その後の生活や財産分与でトラブルに発展してしまうケースもあります。
このようなトラブルを避けるため、離婚する際は公証役場で「離婚給付等契約公正証書」という離婚に関する取り決めを、公的な文書として残しておくことができます。
公証役場の行う公証制度は「私的な紛争を未然に防ぎ、私的法律関係の明確化、安定化を図ることを目的として、証書の作成等の方法により一定の事項を公証人に証明させる制度」とされています。
このように、離婚前でも約束した事を公正証書として残しておくことで、高い証拠力をもつ文書が公証役場に保管されます。双方の合意が得られるのであれば、公正証書として残すことも検討しておきましょう。
なお、協議離婚における公正証書の役割には様々なメリットがあります。下記の記事でも詳しく解説しているので、ご参考下さい。
【関連記事】協議離婚による不動産名義の変更、公正証書を作成するメリットや手順は?
3-2.不動産が許可なく売却されそうな時は
夫婦どちらかの単独名義である不動産は、所有権を持っている方が配偶者の同意を得ずに売却する事が可能です。このような背景から、離婚協議中に片方が勝手に売却手続きを進めること自体は可能となっています。
このようなトラブルの際、配偶者が裁判所に「保全処分(処分禁止の仮処分)」を申し立て、家を処分されないようにすることが可能です。
保全処分とは不動産に関する権利を持っている方が、権利確定の前に財産状況の悪化などの損害を生じそうなケースにおいて、裁判所に申し立てることによって将来的な権利を保護する手続きです。(※参照:裁判所「保全事件の申立て」)
家庭裁判所に「保全事件」として申し立てる事で、許可のない不動産の処分を防ぐことが出来る可能性があります。
まとめ
離婚調停中は双方が合意している場合に家の売却が可能ですが、事前に売却価格や売却方法などについてよく話し合っておく必要があります。
後の財産分与の可能性も考慮し、ローン残債がある家では売却価格と比較した上で売却の可否、売却方法を検討しましょう。また、話し合った内容は後のトラブルを防ぐために、公正証書として公証役場で明文化しておくことも検討しておくと良いでしょう。
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田中 あさみ
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