婚姻期間中に購入したマイホームのローンが残っている場合、離婚後は夫婦のどちらがローンの残債を支払うべきなのでしょうか?
離婚時の財産分与は基本的に公平に分けることになっていますが、慰謝料を含める場合やどちらかに離婚後の生活保障として多めに分与するケースでは夫婦が話し合った結果、分与割合を決める事になります。
住宅ローンの残債と不動産の時価の比較、家や土地の名義、住宅ローンの契約者、離婚後夫婦どちらが家に住むかによっても家の処遇や手続きが異なります。
この記事では、離婚後の住宅ローンの支払い義務やトラブル防止策について解説していきます。
目次
- まずは家の名義やローンの契約者を確認
- 住宅ローンの契約者・居住者別のパターン
2-1.不動産の時価とローンの残債の比較
2-2.住宅ローンの契約者と居住者別の注意点 - 離婚後の住宅ローンにおけるトラブル防止対策
3-1.誰が住み、誰がローンを支払うかを明確にする
3-2.離婚給付等契約公正証書とは?
3-3.ローンの借り換えが難しい場合は賃貸借契約を結ぶ - まとめ
1.まずは家の名義やローンの契約者を確認
財産分与は夫婦が共同で形成した財産を公平に分与する制度です。ただし、妻が専業主婦で離婚後収入が見込めそうにないケースやどちらかの不貞で慰謝料を含めて財産分与を行う場合は、夫婦で取り決めた配分で分与する事になります。
不動産は分与が難しくトラブルが起こりやすいため、配分も含め離婚前に夫婦でよく話し合っておくことが大切です。
ローンの残債をどちらが払うかを決める前に、まずは土地・建物の名義や住宅ローンの契約者を確認しておきましょう。
土地・建物の名義は法務局で不動産の登記簿謄本を発行してもらい確認できます。例えば夫が家の所有者になっており妻が家に住み続ける場合、妻に所有権を移転登記しておく必要があります。
また財産分与に当たって不動産の時価を調べる必要がありますので、不動産会社による不動産査定や、不動産鑑定士による不動産鑑定を受け、専門家に確認してもらいましょう。
不動産鑑定士に依頼する事でより公正な価額を把握する事が可能ですが、鑑定士への報酬が必要になるデメリットがあります。一方、不動産会社への不動産査定は無料ですが、不動産会社によって査定価格が異なるため、公平な判断が難しくなるデメリットがあります。
不動産会社へ不動産査定を依頼する際は、複数の不動産会社へ査定依頼をすることを検討してみましょう。複数の査定価格を比較することで、より実勢価格に近い不動産価格を検証することが可能になります。
下記、複数の不動産会社へ査定依頼ができる主な不動産一括査定サイトの一覧です。
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2.住宅ローンの契約者・居住者別のパターン
土地と建物の時価を調べてもらった後、住宅ローンの残債と比較してみましょう。ローンの残債が不動産の時価を上回る場合は、売却した後もローンが残ってしまうオーバーローン物件であることになります。
家の名義や住宅ローンの契約者、夫婦どちらが住み続けるかによってローンを支払う人や想定されるトラブルが異なりますので、パターン別に解説していきます。
2-1.不動産の時価とローンの残債の比較
不動産の時価を調べた後、ローンの残債と比較してみましょう。
- ローンの残債<不動産の時価=アンダーローン
- ローンの残債>不動産の時価=オーバーローン
アンダーローンの場合は、不動産を売却した時の価格がローンの残債を上回る事になります。
財産分与は基本的に夫婦が共同で形成した財産を公平に分けるため、例えば夫が家に住み続ける場合は、夫が「(不動産の時価-ローンの残債)÷2」分の現金、または財産を妻に譲る形になります。
オーバーローンの場合は不動産を売却してもローンが残ってしまうため、財産分与の対象とはならず、金融機関へ借り入れた住宅ローンの名義人が返済義務を負うことになります。
2-2.住宅ローンの契約者と居住者別の注意点
住宅ローンの契約者は夫婦で住宅を購入した場合、多くのケースで以下の3パターンに分類されます。
- A:夫が債務者(ローンの契約者)
- B:夫が債務者(ローンの契約者)、妻が連帯保証人・連帯債務者
- C:ペアローン
これらの3パターンを踏まえ、想定できるケースごとに詳しく解説していきます。
夫が家に住み続ける場合
Aのケースで名義人である夫が住み続ける場合は、夫が住宅ローンを支払うケースが多くなります。
Bのケースでは、夫がローンを返済できなくなった時に妻に支払い義務が生じてしまいますので、後のトラブルを避けるためにも協議の際に公正役場で「離婚給付等契約公正証書」を作成しておきましょう。
公正証書は公文書に当たるため、いざという時の証明の文書として効力があります。
Cの場合は、居住しない側にも支払い義務が残ってしまうため、住み続ける1名の単独ローンへ名義変更することを検討しましょう。
ただし、住宅ローンの契約時に借入額を増やす目的でペアローンを組んだ場合は、どちらか一方の信用力(与信)では足りず、借り換えが出来ない可能性があります。単独ローンに借り換える際に、支払い能力の面でローンの審査に通るかが課題となります。
妻が家に住み続ける場合
A・Bのケースで夫がローンを返済するケースでは注意が必要です。
夫がローンの返済を滞り、音信不通になってしまった場合、Aのケースでは最終的に家が競売にかけられ妻は立ち退きを要求されてしまう可能性があります。
Bのケースでも同様に、夫がローンを返済しなかった際は妻に支払い義務が生じます。
Cの場合は夫が住み続ける場合と同様に、出来るだけローンを借り換えを検討してみましょう。
家に住む人と家の名義・ローンの契約者が異なる場合、トラブルが発生しやすいため、可能であれば家の名義を変更しローンを借り換えておきましょう。
3.離婚後の住宅ローンにおけるトラブル防止対策
離婚における不動産・住宅ローンについては処分や判断が難しい事から、ローンの返済が滞る、音信不通になる等のトラブルが起こりやすくなります。
家に住み続ける人とローンを支払う人を明確に決め、「離婚給付等契約公正証書」を作成し、ローンの借り換えが難しい場合は夫婦で賃貸借契約書を交わすという方法でトラブルを防止しましょう。
離婚後は戸籍上他人になってしまいますので、公文書として明確化しておくことがポイントとなります。
3-1.誰が住み、誰がローンを支払うかを明確にする
夫婦で離婚後の不動産の処遇について取り決める場合には、どちらが家に住み続けるかローンを支払うかを明確に決めておきましょう。
決めた後は離婚給付等契約公正証書を公証役場で作成しておくことで、トラブル回避に役立ちます。
3-2.離婚給付等契約公正証書とは?
離婚後の不動産について話し合い、意見がまとまった時は「離婚給付等契約公正証書」を作成しましょう。離婚給付等契約公正証書は公証役場で公証人立ち合いの元、次の事項を二人の要望・必要性に応じ、選んで記載します。
- 離婚の合意
- 親権者の定め
- 子供の養育費
- 子供との面会交流
- 離婚慰謝料
- 離婚による財産分与
- 住所変更等の通知義務
- 清算条項
- 強制執行認諾
上記の「離婚による財産分与」の項に、家を譲り受けるのは夫妻どちらか、住宅ローンについての記載をします。「強制執行認諾」の項ではあらかじめ決めておいた債務不履行時の強制執行を明記できます。
ローンの返済が債務不履行の場合、強制執行ができる旨を記しておくことが可能で、例えば「住宅ローンが支払われなかった場合は給料を差し押さえる」といった決め事を公的な文書として残す事が出来ます。
公正証書はいざという時の証拠になるだけではなく、「約束事を公的な文書として残した」という意識を双方が持つため、トラブルが起こる危険性が少なくなります。
3-3.ローンの借り換えが難しい場合は賃貸借契約を結ぶ
例えば「妻が住み続けるが、ローン借り換えの審査に通らない」といった借り換えが難しいケースでは、夫婦で賃貸借契約を結んでおきましょう。
賃貸契約書の作成・締結は専門知識が必要で、個人間で行う事は難しいため、不動産会社に仲介を依頼すると良いでしょう。
まとめ
夫婦により事情が異なるため、離婚後の住宅ローンは「夫が支払うべき」「半分で良い」と一概には答えが出せない難しい問題です。
公正に財産分与を行う場合、まずは「住宅ローンの残債と不動産の時価を比較し、オーバーローンとアンダーローンのどちらであるか」が分かってから、売却またはどちらかが住み続けるかを決定する方法を検討してみましょう。
トラブルを防止するために、約束事は公的な文書として残しておきましょう。
田中 あさみ
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