大手不動産会社のESG・サステナビリティ方針や取り組み事例は?上場3社を分析

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投資やビジネスの世界でESGに対する関心が高まっていますが、不動産業界も例外ではありません。CO2削減や再生可能エネルギーの活用、バリアフリーや地域活性化など、不動産はさまざまな分野においてESGに貢献する余地があります。

大手の不動産各社もESGやサステナビリティに積極的な取り組みを示しています。今回は三井不動産、住友不動産、東急不動産について、ESGおよびサステナビリティの取り組み状況をまとめました。

目次

  1. 三井不動産のESG・サステナビリティ
    1-1.三井不動産のESG方針「VISION2025」
    1-2.三井不動産の脱炭素化に向けた取り組み
    1-3.地域社会に貢献する商業施設の開発も手がける
  2. 住友不動産のESG・サステナビリティ
    2-1.住友不動産の重要課題(マテリアリティ)
    2-2.住友不動産のサステナビリティにおける主な成果
    2-3.六本木周辺の再開発事業による地域貢献
  3. 東急不動産のESG・サステナビリティ
    3-1.東急不動産のサステナビリティ方針
    3-2.東急不動産の活動状況や成果
    3-3.渋谷エリアの価値向上を主導
  4. まとめ

1 三井不動産のESG・サステナビリティ

三井不動産は、2021年時点の売上高で不動産業界トップの企業です。不動産のリーディングカンパニーとして、不動産業界のESGやサステナビリティに対する活動を牽引しています。

1-1 三井不動産のESG方針「VISION2025」

三井不動産ではWebサイトを起点にESGやサステナビリティの方針や取り組みについて積極的な情報発信を行っています。

例えば「三井不動産グループのESGの考え方」では、三井不動産のESGやサステナビリティの基本方針がまとめられています。同社ではESG・サステナビリティのグループビジョン「&EARTH」を掲げ「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」を目指しています。

これらは三井不動産グループ自体のロゴ「&」に込められた想いでもあります。ESG・サステナビリティに対する想いは、同社の精神に深く根付いていることが伺えます。

また、「VISION 2025」においては、2025年をターゲットとして、「持続可能な社会」と「継続的な利益成長」の両立を目指した目標を設定しています。実現することを目標としております。重点的に取り組む目標は以下の6つです。

  • 街づくりを通した超スマート社会の実現
  • 多様な人材が活躍できる社会の実現
  • 健やか・安全・安心なくらしの実現
  • オープンイノベーションによる新産業の創造
  • 環境負荷の低減とエネルギーの創出
  • コンプライアンス・ガバナンスの継続的な向上

引用:三井不動産グループ「 三井不動産グループのESGの考え方

三井不動産は同目標達成を通じて、SDGsや政府が掲げる未来のスマート社会「Society5.0」の実現にも貢献するスタンスです。

そのほか「 ESG Report」ではより具体的なESGに対するKPIと進捗状況がまとめられています。さらに「 三井不動産サステナブルSTORY」では、具体的な三井不動産の取り組み事例を見ることも可能です。

これらの資料も参考にしながら、三井不動産のESGやサステナビリティに対する活動状況について、さらに詳しくみていきましょう。

1-2 三井不動産の脱炭素化に向けた取り組み

2022年に入って、三井不動産では新たに脱炭素化への目標を設定しています。具体的には、2019年を基準に、CO2の排出量を2030年までに40%削減、2050年にはゼロにすることをゴールに据えています。環境性能の高い建造物の普及や、再生可能エネルギーの積極的な活用・産出などを通じて達成する計画です。

まずは、2030年の中間目標達成に向けて、今後の開発するすべての物件において、環境負荷のかかるエネルギー使用を一定量削減した「ZEB/ZEH水準」の環境性能を充足する建造物を使用する目標を立てています。

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また、物件共用部・自社利用部の電力グリーン化も推進しています。グリーン化とは、再生可能エネルギーによって産出された電力を主として使用すること。まずは東京ミッドタウンおよび日本橋エリアの主要ビルなど首都圏 25 棟や三大都市圏を中心とした約180 施設のグリーン化を達成しました。2030年度には国内保有の全自社施設においてグリーン電力化を達成する見通しです。

メガソーラーを軸とした積極的な再生可能エネルギーの生産も行なっています。苫小牧、八戸をはじめ全国5ヵ所にメガソーラー施設を運営しており、2022年時点で0.8 億kwh/ 年の発電量を達成しています。2030 年度までに総発電量3億kwh/年、総出力17.5万kwの発電設備の整備を達成する計画です。また、北海道では5,000haの森林を保有し、森林維持を通じた温室効果ガスの削減にも注力しているのです。

1-3 地域社会に貢献する商業施設の開発も手がける

不動産のESGというと、再生可能エネルギーの活用や熱効率の改善など、環境面(E)での貢献がクローズアップされがちですが、「 三井不動産サステナブルSTORY」では、地域社会(S)への貢献事例も紹介されています。

例えば「三井ショッピングパーク ららぽーと福岡」の例を見てみましょう。同施設がある場所にはもともと青果市場がありましたが、地域の人々が幅広く利用でき、魅力あるまちづくりに役立てるために三井不動産、九州電力、西日本鉄道が共同して再開発を行いました。

同施設は商業施設に加えて、アグリパーク、スポーツパークというゾーンを設けて、地域の人々が農業体験やスポーツなどに活用できるようになっています。オーバルパークは子供から大人まで楽しめる憩いの場として活用してもらうことを念頭においた約4,000m²の広場となっています。

このように、地域の人々がさまざまな活動に利用できるスペースを形成することで、地域の活性化に貢献して行こうと考えているのです。

なお、同施設では面積の20%以上を緑地化し、また施設の30%を再生可能エネルギーとするなど、環境改善や脱炭素化にも配慮されています。

2 住友不動産のESG・サステナビリティ

住友不動産は不動産業界3番手の大手企業です。分譲マンションや集合住宅などを中心に全国で幅広い不動産開発を手掛けています。

同社は住友財閥系の企業ですが、430年続く住友系の企業の事業精神として「信用を重んじ」、「浮利を追わず」、「自身を利するとともに社会を利する」というものがあります。こうした企業精神は、ESGやサステナビリティに直結すると、住友不動産では考えられています。

2-1 住友不動産の重要課題(マテリアリティ)

住友不動産ではESGやサステナビリティにおける基本精神を「重要課題(マテリアリティ)」としてまとめています。

住友不動産の重要課題(マテリアリティ)

項目 概要
災害に強い 災害に強い街・建物を開発し、安心安全な暮らしの拠点を創造
環境にやさしい 快適かつ環境負荷の低減を踏まえた街・建物を創造
地域とともに 地域とともに継続発展を目指した街・建物を創造し、運営する
人にやさしい 誰でも快適に利用できる街・建物を創造、企業価値向上に資する人材育成

引用:住友不動産「 価値創造モデル

同マテリアリティを軸に、住友不動産では積極的にESGやサステナビリティを推進しています。

2-2 住友不動産のサステナビリティにおける主な成果

住友不動産では、ESGの各要素とSDGについて活動レポートを発行し、具体的な取り組みを公表しています。

環境面では、新規・既存ビル双方において継続的なエネルギー消費の削減を推進しており、2009年対比で2022年時点で37%の削減を達成しています。国が定める「エネルギー使用の合理化等に関する法律」に定められた基準において、最高ランクである「Sクラス事業者」に2022年まで4年連続で認定されているのです。

都市部のオフィスビルにおいてはヒートアイランド対策も推進、環境保護と暮らしやすい街づくりに貢献しています。例えば2018年竣工の住友不動産大崎ガーデンタワーでは開発地区内緑地被率を35%まで向上、汐留浜離宮ビルでは2〜3階に風抜き層を設けることで、ビル風の緩和を図っています。

また、ガバナンスに焦点を絞ったレポートを発信しているため、企業統治の状況について詳しく確認できるのも住友不動産の特徴です。例えば、「ガバナンス体制」の中では、社外取締役2名を配置した計4名からなる監査役会の設置、内部監査役や会計監査人・監査役の連携や役割を定義し、現状を報告しています。

「役員選任方針」の中では、社外取締役を含めた独立性・透明性を担保した選任方針を明記しています。さらに、社外取締役の名簿と選任理由が明記されており、透明度のある経営組織の構築を徹底しているのです。また「役員報酬」では、役員報酬の年間総額を、前会計年度の連結経常利益の1%以内と定め、納得感の高い報酬水準の維持を重視しています。

このように、環境・社会に加え、ガバナンス体制についても詳しく情報を公開しているのが住友不動産の特徴です。

2-3 六本木周辺の再開発事業による地域貢献

住友不動産の「S(社会)」に対する貢献としては、再開発事業における地域社会投資があげられます。住友不動産六本木グランドタワーの再開発事業においては、緑地化による環境改善や防災性、バリアフリー対応などを進める、都心の住民や働く人たちにとって安全で住み良い、過ごしやすい街づくりを進めました。

  • 至近の六本木一丁目駅の開発新設や動線の改善、バリアフリー対応
  • 2,400平方メートルの緑地広場の設置や散策路の整備
  • 歩道を12mに拡幅、電線地中化で歩行者にやさしい街へ

また、六本木グランドタワーと隣接していて、同施設より先行して開発されていた泉ガーデンタワーでは、街の価値を高め、賑わいのある街づくりに貢献するために、さまざまなイベントを開催しています。周辺に入居する東京テレビやBSジャパンなどとも共同しながら、地域の活性化を推進しているのです。

過去に開催された街づくりイベントの例

  • IZUMI GARDENさくら祭り
  • IZUMI GARDEN防火防災フェア
  • IZUMI GARDEN夏祭り!
  • マルシェ イベント

3 東急不動産のESG・サステナビリティ

東急不動産は不動産業界としては第4位で、その成り立ちから東急電鉄との結びつきが強い不動産会社でもあります。ここからは東急不動産のESGやサステナビリティの方針および取り組みについて見ていきましょう。

3-1 東急不動産のサステナビリティ方針

東急不動産もWebサイトにてESGやサステナビリティの方針がまとめられています。特に「 マテリアリティの特定と機会・リスク 」において、東急不動産が重視しているサステナビリティにおける課題や取り組み方針が公開されており、同社の活動の方向性がよくわかります。

課題の洗い出しにおいては、ステークホルダーの意見集約や各種国際的なフレームワーク(SDGs、ISO26000、GRI、SASB)、SRI評価機関などを活用し、561項目の課題を洗い出し、そこから37の課題に統合・集約されています。

東急不動産が最優先で取り組むべきアクションについては、次の「東急不動産ホールディングスグループのマテリアリティと取り組むSDGs」としてまとめられています。

東急不動産ホールディングスグループのマテリアリティと取り組むSDGs

  • 多彩なライフスタイルをつくる:多様な住み方、働き方や過ごし方を許容する生活を実現
  • ウェルビーイングな街と暮らしをつくる:安心・安全で健康的な生活の形成やコミュニティ形成の促進
  • サステナブルな環境をつくる:脱炭素社会や循環型社会の形成
  • デジタル時代の価値をつくる:デジタルを活用した新しい顧客体験の実現
  • 多様な人財が活きる組織風土をつくる:多様な人財の獲得や能力を発揮できる企業風土の形成
  • 成長を加速するガバナンスをつくる:あらゆるステークホルダーから信頼されるための透明性・公平性の高い経営

参考:東急不動産「 マテリアリティの特定と機会・リスク

3-2 東急不動産の活動状況や成果

東急不動産では、活動状況を統合報告書にてまとめています。同社ではマテリアリティをもとに数多くの非財務KPIを設定しています。

非財務KPIの例

  • コミュニティ活性化施策100件以上
  • CO2削減量2019年対比△46.2%
  • 廃棄物量2019年対比△11%
  • デジタル活用の取り組み件数100件以上
  • 女性採用比率50%以上

参考:東急不動産「 東急不動産2022年統合報告書

定量的な数値は2030年をターゲットとしており、各KPIについては貢献できるSDGsターゲットも整理されています。ESGとSDGsを統合させて、地球環境の保護や持続的な社会の発展を後押しする姿勢が伺えます。

具体的な成果についても着実に表れており、脱炭素化の推進も進んでいます。同社は太陽光・風力・バイオマス発電所など再生可能エネルギーの発電事業を推進しており、2022年6月末時点で発電容量は1,329MWになっています。今後は洋上風力など新たな発電事業の参入など、更なる再生可能エネルギー進出なども進めています。

また、建物の長寿命化を推進し、築年数がたっても快適に暮らせる住まいづくりを実行しています。例えば、同社では1977年から我孫子ビレジという集合住宅の管理を受託し、物件の価値向上を推進しています。すでに45年が経過していますが、コンクリート物件の法定耐用年数である47年が過ぎても、人々が快適に暮らせるよう、物件を適切に管理していく方針です。

3-3 渋谷エリアの価値向上を主導

東急電鉄と関わりが深い同社は、東急電鉄にとって重要拠点の一つである渋谷駅周辺の再開発事業を主導しています。

多くのオフィスや商業施設などが集積し、交通の要衝でもある渋谷エリアでは、住む人だけでなく働く人や利用する人、交通機関を利用するために通過する人も含めて快適で安全な街にすることを目指しているのです。

2021年に東急不動産と東急電鉄を運営する東急は「Greater SHIBUYA 1.0」のビジョンを掲げ、大規模開発を推進しています。渋谷ソラスタ、渋谷フクロスの竣工がすでに完了し、今後は渋谷駅南西部にあたる桜丘口付近や神宮前6丁目地区などの再開発を進めていく予定です。

同再開発では「働く」「遊ぶ」「暮らす」それぞれの活動を融合し、新たなライフスタイルの形成を推進するとともに、デジタル技術の導入やサステナビリティの推進により、渋谷を人・企業にとって魅力的な街に進化させようとしています。

桜丘口にはグローバル対応の生活支援施設や企業支援施設を整備し、渋谷の国際競争力強化に貢献します。また、流行発信地である渋谷の強みを活かして、リサイクルなどを積極的におこなう循環型ファッションの開発拠点も整備する予定です。代々木公園の整備においては「石勝エクステリア」が参画します。同社の造園技術を結集して、緑豊かで魅力あふれる公園の整備や管理を手掛ける予定です。

このように人口密集地である渋谷の魅力を高める街づくりを通じて、東急不動産は、地域発展へ主体的に貢献しています。

4 まとめ

不動産業界においても各社がESGの取り組みを積極的に推進しています。特に大手企業では自社の企業理念や強みを活かしながら、各社特色あるESG・サステナビリティ戦略を打ち出しています。

不動産投資を検討するときに、このような企業のESG方針を軸に投資する物件や街を選んだり、各社と関わりの深いREITへ投資するという方法もできるでしょう。

また、ESGと不動産の結びつきが分からないという人は、大手企業の取り組みをもとに、ESG投資のあり方についてヒントを得るのも良いでしょう。大手企業の取り組みを踏まえながら、自分なりのESG不動産投資のあり方を検討してみてください。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。