コロナショックは世界中の経済に大きな影響を与え、2020年8月現在も様々な産業・事業に深刻な状況をもたらしています。
このような状況の中、不動産投資はどのような影響を受けているのでしょうか?また、今後も投資不動産の価格が急落することがないか気になっている方も少なくないでしょう。
本記事では、現状の売買の動向や不動産投資ローンの動向データを元に分析します。また、今後の不動産投資の動向について、日経平均株価との関係性なども参考にして予測していきます。
目次
- コロナ禍における不動産投資の動向
1-1.マンション、戸建ての売買動向
1-2.居住用賃貸の動向
1-3.収益物件の動向 - コロナ禍における不動産投資ローンの動向
2-1.アパートローン動向
2-2.不動産投資ローン・住宅ローンの金利状況 - まとめ
1.コロナ禍における不動産投資の動向
コロナ禍における不動産投資への影響を考えるにあたり、不動産市場における実需向けの売買動向、賃貸動向をみることが重要です。
区分マンションなどの収益物件は、空室になれば実需向けとして売買されることが多く、不動産投資は常に売却という出口の段階では実需が念頭に置かれます。また、収益物件の収益の源泉は家賃収入ですから、居住用賃貸の動向にも影響されます。
以下で、これらのデータを分析するとともに、収益物件の市場動向データも確認して、現況におけるコロナショックの不動産投資への影響を明らかにしていきます。
1-1.マンション、戸建ての売買動向
全国の不動産業者が利用する、不動産売買情報、賃貸情報のネットワークシステム・レインズを運営する公益財団法人東日本不動産流通機構が公表した「サマリーレポート(2020年 4~6月期)」によると、2020年4~6月期の中古マンション、中古戸建住宅の首都圏の成約件数は著しく落ち込んでいることが分かります。
特に、成約件数の前年同期比では約2~3割減と過去最大の下落率となっています。ただし、成約価格はマンションでは横ばい、戸建ては約1割減にとどまっています。
アットホーム株式会社の加盟店を対象とした「景況感調査のニュースリリース」でも、2020年4~6月期の地場不動産仲介業の景況感は、調査開始以来最低の悪化となっています。
翌期以降の景況感予測は上向いており、不動産流通センター研究所の「指定流通機構の物件動向(令和2年7月)」によると、直近の7月の成約件数には中古マンション・中古戸建ともに大幅な改善が見られます。
1-2.居住用賃貸の動向
不動産総合研究所が2020年7月に公表した「不動産市場動向データ集」によると、首都圏の居住用賃貸の成約件数は、3月には前年同月比2割減、4月の35%減と大幅に落ち込んだものの、6月は11.3%減と、直近では改善傾向がみられています。
また、同研究所のデータによると、東京23区の居住用賃貸の成約賃料推移は、2020年第2四半期には、7期ぶりに前年を下回り、約2%減となっています。ただし、賃料については、2019年に3~4%程度上昇した分の調整とも考えられ、大きな減少が生じているとまではいえないでしょう。
1-3.収益物件の動向
不動産投資と収益物件の情報サイト健美家(けんびや)が公表した「四半期レポート
2020年4月~6月期」によると、2020年4月~6月期の区分マンション、一棟アパート、一棟マンションの収益物件の利回りと価格は、利回りが前期比-0.05~+0.07ポイント、価格が前期比-0.92~+1.05%となっています。
さらに、2020年7月の直近データは、利回りが前期比+0.02~+0.22ポイント、価格が前期比-7.56~-1.54%となっています。
利回りの増加傾向、価格の減少傾向が直近になって数値に表われてきたといえます。このデータは売り出し価格のデータであり、成約価格のデータではないので、上述の実需向けの売買のように、コロナによる外出制限により成約に至らなかった収益物件の価格が、3カ月経過して実際に下がってきたとも推測できます。
ただし、実需向けの売買・賃貸契約の動向は成約件数の減少にとどまっており、成約価格にまで大きな影響を与えるには至っていません。これは、コロナによる自粛で移動が制限されたことが一時的に成約件数を減少させたものの、実際のニーズまではまだ衰えていないことを示しています。
このような事情も考慮すると、収益物件の価格は今後もう少し下落する可能性はあるものの下げ止まる可能性もあり、下落傾向にあるとまではいえないと考えられます。
2.コロナ禍における不動産投資ローンの動向
不動産投資は、不動産投資ローンの貸し出し動向に大きな影響を受けます。ローンが付かないと収益物件を購入することができず、結果としてローンを利用する不動産投資のニーズが減少するからです。
多くの不動産投資はローンによるレバレッジに依存している背景もあり、不動産投資の動向を考える際、ローン動向は非常に重要といえます。コロナショック後の不動産投資ローンの動向、金利状況について見て行きましょう。
2-1.アパートローンの動向
2020年8月現在、各都市銀行、地方銀行、ノンバンクのアパートローンは従前と同様に商品として存在しており、特に融資が狭まっているということはありません。
また、2020年7月に発表された日銀短観における業種別の貸出態度を見ても、不動産業全般で金融機関の貸出態度は緩和された状況が続いているといえます。
ただし、プロパーローンについてはセーフティーネット融資やコロナ感染症対策緊急融資のワンストップ対応などの業務の影響で審査に時間がかかることがあり得ます。
今後、コロナ感染の第2波、第3波によって景気悪化が拡大した場合、融資先の業績悪化や倒産などにより金融機関にも資金の余裕がなくなることも考えられます。このような状況になった場合、不動産投資ローンの融資が引き締められる可能性はあるでしょう。
2-2.不動産投資ローン・住宅ローンの金利状況
各金融機関の不動産投資ローンの金利は短期プライムレートと連動しています。
短期プライムレートとは、銀行が業績の良い企業に貸し出す際の最優遇貸出金利(プライムレート)のうち、1年以内の短期貸出の金利のことで、住宅ローンや不動産投資ローンの金利設定における指標となっています。
短期プライムレートはコロナショックでも変動していません。したがって、金利に変化はなく、低金利の状態が継続しているといえます。
まとめ
コロナショックによる不動産投資への影響は、2020年8月時点では大きな価格下落もなく限定的といえます。
不動産投資ローンの貸出しはまだ継続しており、日経平均株価との関係性もみられるところ、株価も回復していることなどから、しばらくは投資用不動産の価格が急落するという可能性は低いでしょう。
ただし、コロナ感染の第2波、第3波によって景気悪化が拡大、長期化すると、不動産投資への影響も広がる懸念はあります。影響が少ない状況に慢心せず、今後の景気動向にも気を配ることが大切です。
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佐藤 永一郎
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