地球温暖化が進むなかで、日本国内の気候のトレンドも変化しつつあります。近年は、豪雨・台風などの大規模な自然災害がたびたび発生しています。
不動産投資において、気候変動はさまざまな点でリスク要因となります。直接的に被害を受けるリスクはもとより、資産価値に影響を与える可能性もあるでしょう。
今回の記事では、気候変動が不動産投資にもたらすリスクと、その対策方法についてまとめました。
目次
- 気候変動によって何が起こるのか
1-1.気温の上昇
1-2.災害の多発・甚大化
1-3.健康リスクの増大 - 気候変動がもたらす不動産投資における6つのリスク
2-1.甚大化した災害による被害
2-2.住環境の悪化による賃貸需要の低下
2-3.政策・法令変更への対応・賠償リスク
2-4.人びとの住まいに求めるニーズの変化
2-5.気候変動リスク評価の厳格化にともなう資産価値の変化
2-6.気候変動リスク対策に伴う収益性の低下 - 不動産投資における気候変動リスクへの対策
3-1.気候変動リスクを想定した物件選び
3-2.保険への加入によるリスクヘッジ
3-3.資産価値の維持に強みを持つ管理会社の利用討
3-4.気候変動対策を強みに変える余地もある - まとめ
1 気候変動によって何が起こるのか
気候変動とは、気温・気象パターンの長期的な変化を指しています。近年では、地球温暖化が進む中で、主に地球全体の温度上昇に伴う変化にフォーカスして説明されるケースが多いといえます。
気候変動が進むと、地球全体にさまざまな変化や悪影響が懸念されます。まずは、日本での不動産投資に影響を与えうる変化にフォーカスしてまとめました。
1-1 気温の上昇
気温の上昇は、気候変動において基本的な変化のひとつです。地球の歴史全体で見れば、気温の低下・気温の上昇双方のトレンドがあります。
しかし、近年の地球においては、地球温暖化による気候変動が問題視されています。気象庁「日本の気候変動2020」によると、日本国内の都市化の影響が比較的小さい15地点で観測された年平均気温は、1898~2019年の間に100年当たり1.24°Cの割合で上昇しているとしています。気温の上昇は気候変動の重要な一側面と考えられているのです。
気温の上昇は、様々な環境変化の原因の一つとなります。さらに、気温が上昇すれば人びとの生活様式や快適な住環境の条件などにも大きな影響を及ぼすでしょう。そのため気温の上昇は、住環境において重要な設備の一つである不動産にも影響を与える変化といえます。
1-2 災害の多発・甚大化
気候変動は、いくつかの災害の多発や甚大化をもたらします。地球全体で見れば、以下の災害リスクの増大、深刻化が懸念されます。
- 干ばつ|水分の蒸発が早く進行するため
- 豪雨・台風|多くの水蒸気が大気中に吸い上げられるため
- 山火事|気温上昇+乾燥で自然発火が起こりやすくなるため
日本においては、特に豪雨・台風の被害の甚大化が、近年、増加傾向にあります。(気象庁「激甚化する豪雨災害から命と暮らしを守るために」)
付随して起こる土砂崩れなども不動産に大きな被害をもたらす可能性があるでしょう。また、干ばつというほどの厳しい状況になることは稀ですが、水不足による断水などが散発的な被害をもたらすケースもあります。
1-3 健康リスクの増大
気候変動は、心身双方の健康リスクの増大をもたらす可能性があります。気候のトレンドが変われば、これまでと異なるウイルス・菌類の繁殖が進むおそれがあります。
免疫が少ない病原体が広がれば、想定外の病気が流行するリスクも高まるでしょう。また、住環境の悪化や災害の増加、病気の拡大などがメンタルヘルスに影響を及ぼす可能性も否定できません。
2 気候変動がもたらす不動産投資における6つのリスク
気候変動による環境変化を踏まえると、不動産投資に対して次の6つのリスクをもたらします。
- 甚大化した災害による被害
- 住環境の悪化による賃貸需要の低下
- 政策・法令変更への対応・賠償リスク
- 人びとの住まいに求めるニーズの変化
- 気候変動リスク評価の厳格化にともなう資産価値の変化
- 気候変動リスク対策に伴う収益性の低下
2-1 甚大化した災害による被害
災害リスクの上昇が、第一に想定される不動産への影響です。日本はもともと梅雨や台風など豪雨・暴風が発生しやすい時期があります。気候変動によって、これらの被害が甚大化するおそれがあります。
豪雨が増えれば、川の氾濫・堤防の決壊して浸水被害をひきおこすリスクが高まるでしょう。また暴風により、飛翔物の衝突や外付けの設備の破損などの可能性が考えられます。激しい風雨にさらされる時期が増えれば、建物の劣化の進行が早まると懸念されます。
2-2 住環境の悪化による賃貸需要の低下
気温上昇により環境が変化すれば、結果として既存物件の住環境が悪化する可能性があります。
もともとは冬の寒さ対策を意識して作られた建物が、夏の暑さの影響を緩和できず、住みづらい物件となるケースが考えられます。また、空調を積極的に活用して温度を維持する構造を持つ物件は、外気温の変化が大きくなると光熱費の増大をもたらすおそれがあります。
気候変化により既存物件の住環境が相対的に悪化すれば、賃貸需要を獲得しづらくなります。周囲の競合物件が気候変動に積極的に対応していると、入居者の獲得により大きな影響がでるでしょう。
2-3 政策・法令変更への対応・賠償リスク
気候変動対策を土台とした政策・法令変更への対応が不動産の経営を圧迫したり、対応不備が賠償リスクを増大させたりするおそれがあります。
気候変動や地球温暖化の進行を抑制するために、不動産や建物に関する政策・法令への変更が加えられる場合があります。近年で言えば、東京都などで一部の新築住居への太陽光パネルの設置義務化などの動きがありました。(※東京都「2025年4月から太陽光発電設置義務化に関する新たな制度が始まります」)
政策・法令変更へ対応するためにコストが増大すれば、不動産経営の収益性が悪化します。また、政策・法令対応の遅れが、規制当局や入居者からの訴訟・賠償に発展するリスクも無視できません。
2-4 人びとの住まいに求めるニーズの変化
将来の気候変動によって人びとのニーズが変化すると、その変化に適応できない不動産では入居者の獲得が難しくなります。
例えば、現代でも駅から近い物件の方が好まれる傾向はありますが、外を出歩く身体的・精神的ストレスが増大すれば、より駅に近い物件や駅直結の物件の需要が増大するでしょう。その他、気候変動により年間の気温変化が増大したり、光熱費が高騰したりすれば、気密性が高く空調使用を抑えても快適な住環境を維持できる物件の需要が、これまで以上に高まると想定されます。
また、気候変動にともなう疾病リスクが増大すれば、近隣の医療機関への利便性にこだわる人が増えるなどの可能性もあります。以上のようなニーズの変化に適応できていない物件は、入居需要を獲得するのが難しくなり、収益性が低下する可能性があります。
2-5 気候変動リスク評価の厳格化にともなう資産価値の変化
近年ESGの考え方が広まるなかで、気候変動リスクを意識する経営者や投資家が増えています。不動産における資産価値の評価でも、気候変動リスクへの対応度合いが重要な要素の一つと考えられます。
気候変動リスクに対応できていない物件は、収益性や地価などによる評価より市場での評価が割り引かれる可能性があるでしょう。その結果、売却時の価格が低下し、投資期間全体で見たときの収益性の低下や、損失の発生リスクが高まります。
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2-6 気候変動リスク対策に伴う収益性の低下
ここまで紹介した気候変動リスクに対処するためには、さまざまなコストの増大が懸念されます。コストが増大すれば、不動産投資の収益性が悪化するでしょう。
まず、物件取得においては、利便性の高さと空調、建物構造を一層厳選しなければなりません。好立地・高品質な物件は市場の評価が高まり価格も高騰するおそれがあります。割高な物件での不動産投資は、利回りの低下につながるでしょう。
また、不動産経営を開始したのちは、こまめに物件のメンテナンス・アップデートが必要になります。物件管理のコストの増大要因となります。法令・政策が既存物件に関わる内容であれば、法令・政策対応のコストもかかります。
3 不動産投資における気候変動リスクへの対策
不動産における気候変動リスクの対策としては、次のようなものが考えられます。
- 気候変動リスクを想定した物件選び
- 保険への加入によるリスクヘッジ
- 資産価値の維持に強みを持つ管理会社の利用
- 気候変動対策を強みに変える余地もある
3-1 気候変動リスクを想定した物件選び
第一に、気候変動リスクに適切に対処できる物件を選ぶのが大切です。気候変動リスクの大きさは、一定程度は物件の立地や構造によって決まります。
たとえば川沿いや窪地は浸水リスクが高いといえます。崖や急な坂のふもとは暴風時の土砂崩れが心配です。ハザードマップを見て災害リスクの低い地域を選ぶのは一つの対策といえます。また、駅に近く医療機関が近いなど、利便性の高い地域を厳選するのも有効です。
建物の構造にも目を向けましょう。気密性が高く外気温の変化の影響を受けにくい、太陽光パネルを設置していて光熱費の節約ができるといった要素は、入居者の獲得にプラスに働く可能性があります。また、一階の床を高めに設置すると、豪雨時に床上浸水に発展するリスクを抑えられます。
3-2 保険への加入によるリスクヘッジ
完全にゼロにできない被災による損害や賠償リスクは、保険加入によって対策しましょう。「火災」という名前からイメージしづらいですが、暴風雨や落雷による被害は、多くの場合火災保険で補償を受けられます。気候変動により増大する災害の多くは、保険加入により経済的なダメージを緩和可能です。
また、災害による被害や法令対応への不備などがあったときに、住民や規制当局などから損害賠償を求められる可能性があります。賠償リスクを避けるよう努めるのはもちろんですが、施設賠償責任保険に加入しておくのも一つの方法です。老朽化等に伴う思わぬ損害賠償のダメージを緩和できます。
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3-3 資産価値の維持に強みを持つ管理会社の利用
気候変動リスクへうまく対処していくために、資産価値の維持を得意とする管理会社を利用しましょう。一個人が、さまざまな気候変動リスクに対して的確に対処しながら物件を維持するのは容易ではありません。
実績のある管理会社であれば、資産価値を維持するために適切なメンテナンスの実行、必要な修繕・設備のアップデートの相談を受けられます。環境変化や技術革新に出遅れることなく物件をアップデートして、経年劣化に伴う資産価値の低下を抑制可能です。
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3-4 気候変動対策を強みに
気候変動対策やESGへの取り組みに対する評価の枠組みが精緻化されるなか、ESGの側面から物件を評価する流れも見られています。(国土交通省「不動産鑑定評価における ESG 配慮に係る評価に関する検討業務」)
また、近年はESGに関する不動産認証の枠組みも整備されています。たとえば、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出抑制に寄与する物件であることを示す「ZEH」を取得したアパートの販売・開発などもみられます。こうした評価を取得により、入居者の獲得や資産価値の維持にポジティブに働くでしょう。
ZEHにおいては、その評価状況により国から補助金を受けられる場合もあります。アパートやビルを新築するときは、取得しうる補助金をベースに認証取得を目指すのも一つの方法です。
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4 まとめ
気候変動は、不動産経営においてもさまざまな形でリスク要因となります。災害が甚大化するなかで、気候変動対策の重要性は高まっています。資産価値の維持や入居需要の獲得においても、気候変動への対策が重要です。
保険の加入や物件・立地選び、継続的なメンテナンス・修繕を通じた物件の住環境・防災機能の維持など、不動産オーナーとして取れる対策を検討されておくと良いでしょう。気候変動が進行する中でも対策が的確に取れていれば、競争力を維持するだけでなく、
伊藤 圭佑
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