アパート経営で懸念事項の一つが修繕費の支出です。特に外壁塗装はアパート経営の修繕支出の中では最大規模であり、相場を把握し適正な金額の範囲内でおこなうことがキャッシュフローの改善にも役立ちます。
この記事では、外壁塗装費用の相場と、その会計と税務として、税法上の勘定科目の判断基準や減価償却の方法についてみていきます。
※記事内の税金・税率などは2023年6月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 外壁塗装費用の相場
1-1.総務省小売統計にみる地域ごとの外壁塗装費用相場
1-2.外壁塗装費用は塗料の種類・足場によっても異なる - 外壁塗装費の会計と税務
2-1.外壁塗装費の勘定科目
2-2.税法上の修繕費の判断基準
2-3.税法上の減価償却の方法 - まとめ
1.外壁塗装費用の相場
アパート経営の外壁塗装費用の相場について、総務省の小売統計から地域ごとのおおまかな相場を確認していきましょう。ただし、外壁塗装費用は、工事内容によって大きく変わるため、どのように変わるのかについてもみていきます。
1-1.総務省小売統計にみる地域ごとの外壁塗装費用相場
政府統計の総合窓口(e-Stat)「小売物価統計調査」2021年版から、地域ごとの外壁塗装費用の相場をみていきましょう。
都道府県 | 都市 | 外壁塗装費用相場価格(円/㎡) |
---|---|---|
北海道 | 札幌 | 5720 |
青森 | 青森 | 8,604 |
岩手 | 盛岡 | 8,035 |
宮城 | 仙台 | 6,591 |
秋田 | 秋田 | 3,780 |
山形 | 山形 | 11,718 |
福島 | 福島 | 5,500 |
茨城 | 水戸 | 9,282 |
栃木 | 宇都宮 | 6,691 |
群馬 | 前橋 | 6,250 |
埼玉 | さいたま | 5,250 |
千葉 | 千葉 | 8,413 |
東京 | 23区 | 5,796 |
神奈川 | 横浜 | 7,158 |
新潟 | 新潟 | 5,713 |
富山 | 富山 | 6,893 |
石川 | 金沢 | 5,514 |
福井 | 福井 | 4,344 |
山梨 | 甲府 | 7,549 |
長野 | 長野 | 5,280 |
岐阜 | 岐阜 | 1,750 |
静岡 | 静岡 | 9,791 |
愛知 | 名古屋 | 6,410 |
三重 | 津 | 5,553 |
滋賀 | 大津 | 7,379 |
京都 | 京都 | 7,039 |
大阪 | 大阪 | 4,904 |
兵庫 | 神戸 | 5,800 |
奈良 | 奈良 | 7,734 |
和歌山 | 和歌山 | 7,370 |
鳥取 | 鳥取 | 4,911 |
島根 | 松江 | 7,992 |
岡山 | 岡山 | 4,400 |
広島 | 広島 | 3,641 |
山口 | 山口 | 6,826 |
徳島 | 徳島 | 5,924 |
香川 | 高松 | 6,173 |
愛媛 | 松山 | 7,000 |
高知 | 高知 | 6,151 |
佐賀 | 佐賀 | 10,909 |
長崎 | 長崎 | 5,759 |
熊本 | 熊本 | 5,452 |
大分 | 大分 | 8,098 |
宮崎 | 宮崎 | 5,367 |
鹿児島 | 鹿児島 | 3,922 |
沖縄 | 那覇 | 8,116 |
たとえば、東京23区であれば、1㎡あたり5,796円が外壁塗装費用の相場です。つまり、東京23区で外壁面積500㎡のアパートの外壁を塗装する際の相場価格は、次のように計算できます。
5,796円×500㎡=2,898,000円:約290万円
ただし、相場価格が安い岐阜県では、1㎡あたり1,750円であり、東京23区の約3分の1の価格となっています。反対に、相場価格の高い山形県では、1㎡あたり11,718円であり、東京23区の約2倍となっています。
これらの最安地域と最高地域の差は、6.6倍にも及んでおり、地域差が非常に大きいといえるでしょう。
1-2.外壁塗装費用は塗料の種類・足場などによっても異なる
外壁塗装費用は、塗料の種類によっても異なります。アクリル、ウレタン、シリコン、ラジカル、フッ素、光触媒、無機などの塗料種類があり、これらの種類によってグレードが異なるため、単価が異なります。
また、外壁塗装には足場の設置が必要になります。建物の形状や大きさ、周囲の環境などによって足場の組み方が異なり、外壁塗装の費用は、足場の設置方法にも大きな影響を受けることになります。その他、高圧洗浄、下塗り、重ね塗りなどの作業量によっても費用が異なります。
2.外壁塗装費の会計と税務
ここからは、外壁塗装費の会計と税務についてみていきましょう。外壁塗装費を会計帳簿に載せる際、どのような勘定科目を用いればよいのでしょうか。その判断基準と、前提となる税法上の取扱いについてみていきます。
2-1.外壁塗装費の勘定科目
外壁塗装費を会計帳簿に載せる際、その勘定科目は、「修繕費」か「建物」の2種類の可能性があります。
「修繕費」とする場合、その計上した年や年度の経費とすることが可能です。一方、「建物」とする場合、全額を計上した年や年度の経費とすることができず、減価償却の計算をおこなうことで、将来にわたる一定期間に振り分けて経費化していくことになります。
この減価償却の計算方法は、税法によって定められており、「修繕費」と「建物」のどちらに区分するのかという判断も、税法の基準によっておこなわれます。
2-2.税法上の修繕費の判断基準
税法上の修繕費の判断基準は、原則、その資産価値を高めるような資本的支出に該当するのか否かによって判断します。それが不明な場合には、金額の形式基準によって判断することも可能です。以下で、詳しくみていきましょう。
原則、修繕か資本的支出かで判断
税法上、固定資産の価値を高め又はその耐久性を増すこととなる部分の金額が資本的支出であり、固定資産の通常の維持管理や又は壊れたり劣化したりした部分の現状を回復するために支出する金額が修繕費とされています。(※参照:税務研究会「資本的支出と修繕費」)
外壁塗装の場合、従前の塗料よりもグレードの高い塗料や機能性やデザイン性の異なる塗料を用いて塗装をおこなう場合、資本的支出に該当する可能性があると考えられます。
不明な場合形式基準で判断
外壁塗装では、従前よりも価値や機能を高めるような塗装であるのか判断が難しいこともあり、修繕あるいは資本的支出のいずれに該当するのか判断がつきにくい場合もあります。
税法上、修繕か資本的支出かの判断が不明である場合、形式基準を用いてもよいことになっています。それが、60万円未満であるか、固定資産の前期末の帳簿価額の10%相当額以下である場合は、修繕費としてよいという基準になります。(※参照:国税庁「資本的支出と修繕費」)
すなわち、外壁塗装の場合、その塗装対象の建物の前期末帳簿価額の10%相当額以下の支出であれば、修繕費としてよいといえるでしょう。
2-3.税法上の減価償却の方法
外壁塗装の費用が資本的支出とされ、「建物」として資産計上された場合、将来にわたる一定期間に振り分けて経費化されます。
これを減価償却と呼びますが、税法上の「建物」の減価償却方法は、定額法を用いることになっています。定額法とは次のような計算式によって減価償却費を算出する方法になります。(※参照:国税庁「定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)」)
取得価額×償却率
そして、定額法の償却率は、税法上、固定資産の種類によって決められており、「建物」の主な種類とその耐用年数および償却率は、下表のようになっています。
構造 | 細目 | 耐用年数 | 償却率 |
---|---|---|---|
木造 | 店舗用・住宅用 | 22年 | 0.046 |
木骨モルタル造 | 店舗用・住宅用 | 20年 | 0.05 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 住宅用 | 47年 | 0.022 |
ブロック造 | 店舗用・住宅用・飲食店用 | 38年 | 0.027 |
なお、外壁塗装を「建物」として資産計上する場合のように、資本的支出に該当する支出は、厳密には新しい資産ではありませんが、税法上は、新たな資産を取得したものとして、規定されている耐用年数・償却率に基づき減価償却することになります。(※参照:国税庁「資本的支出を行った場合の減価償却」)
アパート経営に強い税理士の探し方
アパート経営に強い税理士を探すポイントとして、不動産業という業種の担当実績があるかどうかという点が重要です。税理士の担当業務・業界は幅広く、中には毎年のように改正される最新の税法に対応していないケースもあるためです。
不動産に強い税理士を探すには、無料で利用できる税理士紹介サイトを利用して紹介してもらうという方法もあります。
例えば、インターネットを活用した税理士紹介サービスの「税理士紹介エージェント」では、エージェントに希望条件を伝えることでニーズマッチした税理士を探してもらうことができ、税理士の選定や面談の設定などもエージェントに任せることが可能です。
税理士の紹介は何回受けても無料なため、アパート経営・不動産投資に強い税理士を探している方は、利用を検討されてみると良いでしょう。
【関連記事】税理士紹介エージェントの評判・口コミは?メリット・デメリットや利用手順も
【関連記事】不動産投資に強い税理士を探すポイントは?相場や相談方法も
まとめ
アパート経営の外壁塗装費用は、地域によって㎡単価1,750円~11,718円まで大きな幅があります。また、塗料の種類や足場の組み方など、工事内容によっても大きく変動するので、注意しましょう。
外壁塗装費用を会計処理する際は、税法上の資本的支出に該当するか否かに応じて、「建物」あるいは「修繕費」として仕訳することになります。「建物」となった場合には、支出した年や年度に全額を経費にすることができず、税法上定められた耐用年数に応じて、その期間に振り分けて経費化(減価償却)していくことになります。
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佐藤 永一郎
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