アパート経営で確定申告をおこなう際、必要経費に計上できるのかどうか判断に迷う費用科目があります。
たとえば、アパートの管理に利用した車の減価償却費や、家賃収入管理などに利用しているパソコンの購入費用、管理会社などと通話した電話代などは、必要経費にしてよいのか、悩む方も多いのではないでしょうか。
本記事では、個人がアパート経営をおこなう場合に必要経費に計上できる費用について、所得税法ではどのように定められているのかを説明し、経費に計上できる主な費用科目についてみていきます。
※記事内の税制内容は2021年12月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- アパート経営で計上できる経費
1-1.所得税法で認められる必要経費
1-2.家事関連費の按分計上
1-3.不動産所得が事業的規模かどうか - アパート経営で計上できる、不動産所得の主な費用科目
2-1.租税公課・損害保険料
2-2.建物・設備の減価償却費
2-3.管理費・修繕費・立退料
2-4.広告宣伝費・仲介手数料
2-5.借入金利息
2-6.給料賃金・士業報酬
2-7.車両費・事務用品費・通信費
2-8.貸倒損失・除却損
2-9.専従者給与 - まとめ
1.アパート経営で計上できる経費
アパート経営を個人でおこなっている場合、所得税法の不動産所得として家賃収入とその必要経費を計算して申告をすることになります。そこで、まずは、所得税法で、不動産所得を含めた他の所得の必要経費概念についてみていきます。
次に、必要経費概念で問題となる、生活費が混在する家事関連費の按分計上について説明し、不動産所得に限定して存在する規定である、事業的規模基準についてみていきます。
1-1.所得税法で認められる必要経費
所得税法で計上が認められる不動産所得などの必要経費は、性質によって、個別対応のものと期間対応のものに分かれます。
個別対応の必要経費とは、総収入金額を得るために直接要した費用です。不動産所得では、家賃収入を得るために必要と考えられる、物件の減価償却費や修繕費、管理費、損害保険料などが該当するでしょう。
期間対応の必要経費とは、その年に発生した販売費、一般管理費などの費用です。収入を得られるために直接必要ではないが、間接的に必要な費用で、収入と同じ期間に発生した費用が計上を認められます。
不動産所得では、家賃収入を得られた一年間で発生した、広告宣伝費、仲介手数料、士業報酬などが該当するといえます。
1-2.家事関連費の按分計上
個人で不動産賃貸業をおこなっている場合、生活費と賃貸業の経費が混在していることがあります。このような費用は、原則としては、必要経費に計上することはできません。
しかし、不動産賃貸業の業務に必要であり、その必要な部分を明らかに区分することができる場合は、必要経費に計上することができます。
アパート経営で利用する車両費、パソコンなどの事務用品費、通信費などは、生活用と共用になっていることが多いでしょう。このような費用は、不動産賃貸業の業務に必要な部分を区分計算、つまり、按分計算して必要経費に計上することになります。
1-3.不動産所得が事業的規模かどうか
不動産所得を構成する不動産が5棟10室以上を目安とする事業的規模とみなされる場合、計上できる経費の範囲が広がります。(※参照:国税庁「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」)
事業的規模とは、実質的に事業性があるかどうかによって判断します。継続性・反復性がある場合や、人的な労力が相当程度費やされている場合には、事業性があると解されています。(※参照:国税不服審判所「不動産所得を生ずべき事業」)
したがって、事業的規模の場合、不動産賃貸業に関する業務に従事している親族に支払う給与、賃貸料が回収できなかった場合の貸倒損失、賃貸用不動産の取り壊しにかかる費用などが必要経費になります。
2.アパート経営で計上できる、不動産所得の主な費用科目
不動産所得の計算で計上できる経費は、家賃収入を得るために直接要した費用として、税金(固定資産税)、損害保険料、建物・設備の減価償却費、管理費、修繕費、立退料などが挙げられます。そして、間接的に必要な費用として、広告宣伝費、仲介手数料、士業報酬などが挙げられます。
生活費が混在するため、賃貸業務に必要な部分を区分計算して計上する費用として、車両費、事務用品費、通信費などが挙げられます。
不動産所得を構成する不動産が5棟10室以上を目安とする事業的規模とみなされる場合、従者給与、貸倒損失、賃貸用不動産の取壊し費用などが必要経費になります。
税法は、解釈によって適用が異なる難しい部分があります。計上できる経費の計算で迷ったときは、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
2-1.租税公課・損害保険料
アパートの維持にかかる固定資産税、個人事業税などの税金は、租税公課として必要経費となります。損害保険料は、投資用物件にかかる火災保険・地震保険の掛金が必要経費となります。
2-2.建物・設備の減価償却費
アパートを購入・建築した費用や、建物や設備の修繕費は最も大きな支出となる経費です。確定申告では、維持管理や原状回復の費用と認められる金額以外は、支出した年に全額を経費にすることができません。(※参照:国税庁「修繕費とならないものの判定」)
これらの費用は、減価償却費として、法定耐用年数の期間に按分して必要経費に計上します。法定耐用年数は、木造アパートの建物は22年、給排水衛生設備やガス設備は15年が原則になります。(※参照:国税庁「耐用年数(建物/建物附属設備)」)
2-3.管理費・修繕費・立退料
管理会社にアパートの管理を任せている場合の管理費も、必要経費となります。管理とは、入居者募集、集金業務、日常的な入居者対応、修繕や原状回復の手配、退去対応などを行う費用になります。維持管理や原状回復費用などの修繕費も、必要経費になります。
大家都合で入居者に立ち退いてもらうときに支払う費用があれば、これも必要経費に計上できます。
2-4.広告宣伝費・仲介手数料
アパートの運営では、入居者が入れ替わるなどして入居者を募集するときに広告宣伝費や仲介手数料がかかることがあります。これらも、不動産所得の必要経費になります。
2-5.借入金利息
アパートを購入・建築する際に組んだローンの利息分は、必要経費として計上できます。ただし、不動産所得が赤字の場合は、土地に関する利息分は必要経費として計上できなくなることに注意しましょう。(※参照:国税庁「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」)
2-6.給料賃金・士業報酬
不動産所得を含めた所得税の確定申告を税理士に委託していれば、その報酬も必要経費になります。確定申告は毎年必要ですので、年1回の税理士報酬が最低発生する経費といえます。
この他、アパートに関連して士業に支払った報酬も必要経費になります。また、物件の管理を個人に依頼するなどして給料賃金を支払った場合、それも必要経費に計上できます。
個人に報酬や給料賃金を支払っている場合、原則として、その支払った分についての源泉所得税を納付する義務もあるので注意しましょう。(※参照:国税庁「源泉徴収義務者とは」)
2-7.車両費・事務用品費・通信費
生活用と賃貸業務用の費用が混在する車の減価償却費やパソコンの購入費用、電話やインターネットなどの通信費も、賃貸業務に必要な部分を必要経費に計上することができます。
それぞれ、賃貸業務に利用した部分を合理的に按分して、車両費、事務用品費、通信費、として計上します。家事按分の方法や必要経費の計上にあたっては、税理士などの専門家に相談して慎重に行いましょう。
2-8.貸倒損失・除却損
不動産所得が事業的規模とみなされる場合、家賃収入が回収できなかった場合の貸倒損失、賃貸用不動産の取壊し費用(除却損)なども必要経費に計上できます。
2-9.専従者給与
不動産所得が事業的規模とみなされる場合、専従者給与を必要経費に計上することが可能です。専従者給与とは、生計が同一である親族が、不動産賃貸業に従事している場合に支払った給与を必要経費に計上できる制度です。(参照:国税庁「青色事業専従者給与と事業専従者控除」)
青色申告の承認を受けていることや青色事業専従者給与の届出を提出していることが条件になります。届出書の提出期限は、適用を受けようとする年の3月15日なので注意しましょう。
青色申告の適用を受けていない場合でも、一定額を実質的に必要経費に計上できる事業専従者控除制度があります。
まとめ
アパート経営では、アパートの家賃収入に直接要する費用として、物件の減価償却費や修繕費、管理費など、間接的に必要な費用として、広告宣伝費や士業報酬などが必要経費となります。
車両費や事務用品費、通信費は、生活用と共用の場合が多く、賃貸業務用と合理的に按分すれば計上可能です。
事業的規模とみなされる場合は、貸倒損失や専従者給与の計上が可能になります。詳細な判断に迷ったときや、実際に確定申告をおこなうときは、税理士などの専門家に相談することを検討しましょう。
佐藤 永一郎
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