投資用不動産を売却する際は、管理状態をよくしたりリフォームをしたりして、より高く売却するために努力されるのではないでしょうか。実際に投資用不動産は、物件の管理が行き届いていたり、部屋の中がきれいだったりするほど査定額も高くなります。
ただ、物件の評価に影響を及ぼすのは収益面の査定結果だけではありません。駅からの距離や周辺環境なども考えに加えて査定します。しかし、駅からの距離や周辺の環境などは自分ではどうすることもできません。
売却価格が高くなるポイントの多くは実は購入時にあるといっても良いでしょう。ここでは売却の査定にはどのような点が影響するのかを確認し、売却価格を高くするために購入時に注意すべき7つのポイントについて解説します。
- 物件の査定は2回行われる
- 売却の方法には買取と仲介がある
2-1.買取で売却する方法
2-2.仲介で売却する方法 - 投資用不動産の査定は収益還元法で行われる
- 物件の査定項目には努力しても変えられないものがある
- 物件購入時に知っておきたい売却価格を高くする7つのポイント
5-1.購入価格より売却価格が低くても儲かっていることがある
5-2.人口が今後増加する地域を選ぶ
5-3.駅からの距離は徒歩10分以内が目安
5-4.通学通勤に便利で商業施設へのアクセスが良いか
5-5.部屋の間取りや広さはコンパクトタイプ選ぶ
5-6.部屋の方角と部屋からの眺望にも気を配る
5-7.売却時の築年数は15年以内が理想 - まとめ
1.物件の査定は2回行われる
売却時には不動産会社に価格の査定を依頼すると思います。1社だけだと適正な価格かどうかがわかりませんので、複数の不動産会社に査定を依頼し、その中でできるだけ高い価格で査定している会社で売却を検討するのではないでしょうか。
複数の不動産会社を足で回るのは大変ですので、一般的には一括査定サイトが便利で良く使われています。その際、物件の情報などを一回登録すれば複数の不動産会社が価格を提示してくれます。この際に行われる査定のことを簡易査定と言います。買主がその価格を見て話をすすめられそうであれば、今度は不動産会社の担当者が物件に出向き、物件の状態や周辺環境を見て査定します。物件を見て査定することを訪問査定といいます。
このように査定は机上で行う簡易査定と、現場を見て行う訪問査定と2回あることを知っておきましょう。また、売却価格はこの2回で出された価格とは限りません。買主との交渉によって、この価格より高くなったり低くなったりすることがあります。
2.売却の方法には買取と仲介がある
売却の方法には買取と仲介があります。それぞれを解説いたします。
2-1.買取で売却する方法
買取は不動産会社が買い取ってくれることです。不動産会社は買い取った不動産を売却して利益を得ます。不動産会社はより高く売れるようにリノベーションをして付加価値を付けます。そのため売り主はリフォームなどをする必要がありませんし、仲介ではないので仲介手数料はかかりません。また、不動産会社が売却した後の瑕疵担保責任は不動産会社が負うため、売主には瑕疵担保責任は発生しません。そういった点から、仲介より買取は価格が安くなります。
2-2.仲介で売却する方法
仲介は不動産会社が仲介し第三者に売却をするものです。不動産会社は仲介手数料を利益として受け取ります。仲介をするだけですので、リフォームなどの売却をする準備は売主がしなければいけません。瑕疵担保責任を負わなければなりませんし、仲介手数料がかかりますが価格に関しては買い主が決めることができますので、買取より高く売却できます。
3.投資用不動産の査定は収益還元法で行われる
価格を算出する方法には収益還元法、取引事例比較法、原価法の3種類があります。投資用不動産の場合は主に収益還元法で試算します。収益還元法とは収益と利回りから物件価格を算出する方法です。収益還元法には直接還元法とDCF法の2種類があります。今回は計算式には触れませんが、投資用不動産の価格の算出には収益還元法という計算式を使うことを知っておきましょう。
価格の算出には必ずしも一つの方法だけを使わなければならないというわけではありません。主には収益還元法で試算しますが、近くのエリアで同じような物件を売買した実績がある場合は、それらの成約事例の価格を参考にする取引事例比較法も合わせて試算することがあります。
4.物件の査定項目には努力しても変えられないものがある
価格の査定は簡易査定と訪問査定の2つがあるということには触れました。簡易査定の際に収益還元法などで暫定的に価格を試算します。その価格で話をすすめられそうであれば、担当者が現地に行き物件や周辺環境を見て最終的な価格を算出します。
その際に見るものとしては、物件の管理状態や劣化の状態、内装の状態、駅からの距離、周辺の環境などがあります。物件の管理や内装であれば管理会社に依頼したり、自分で綺麗にしたりすることができますが、駅からの距離や周辺環境は売却時に自分で変えようと思って変えられるものではありません。購入の際に物件を決める時点で決まってしまいます。そのため売却価格を高くするために必要なことは、購入時に物件を決めるところから始まっていると言えます。
5.物件購入時に知っておきたい売却価格を高くする7つのポイント
物件の価格を決める要素には、人の力では変えられないものがあることがわかりました。それは駅からの距離であったり、周辺の環境であったりあします。後では変えることはできませんが、購入時に高くなる要素がある物件を選ぶことで、売却時に高い価格で売却できる可能性が高まります。
ただ、物件の価格は訪問査定で見る物件の劣化や周辺環境などの要素と、収益がどれくらい出るか、という視点から決まりますので、価格が高い物件は、収益が出る要素や人が住みたくなる要素がなければいけません。その点に留意しながら、以下では購入時に注意したい物件価格を高くする7つのポイントを解説します。
5-1.購入価格より売却価格が低くても儲かっていることがある
投資用不動産を売却する際はできるだけ高く売れるに越したことはありません。一般的には購入した価格より高く売りたい、というのが本音でしょう。特に、オリンピックを控える東京都心の物件の価格は、購入時より上がっていることが考えられます。
しかし、一般的には築年数が古くなると価格が下がり、購入時より低い価格で売却することが多くなります。だからといって損をしているか、というとそうではありません。例えば、マンションを2,000万円で購入したとします。20年経過後に多くの不動産会社に査定を依頼した結果1,700万円が最高額だった場合、一見損をしたように思えます。
以下の表を確認しましょう。2,000万円の物件を頭金200万円出して1,800万円のローンを組み、20年経過後に1,700万円で売却した場合の事例です。家賃収入が毎月6万8,000円あったとします。まず運用時の収支を見てみましょう。
物件価格 | 2,000万円 |
頭金 | 200万円 |
融資額 | 1,800万円 |
毎月の返済額 | 5万7,343円 |
家賃収入 | 6万8,000円 |
手残り額 | 1万657円 |
*金利1.75%、返済期間35年で試算、金利上昇や家賃下落、経費を含めていません
経費は管理会社などによって違ってきますので、今回は含めずに試算しました。この場合、運用している期間は毎月1万657円手残り額があることがわかります。以下は20年経過後に1,700万円で売却した場合です。
20年後に売却した場合のシミュレーション
売却時の残債 | 907万2,667円 |
売却額 | 1,700万円 |
売却時差損益 | +792万7,333円 |
*手数料などの経費や税金を含めていません
1,700万円で売却できた場合、差損益は792万7,333円になります。先に計算した手残り額を20年間貯蓄した場合
1万657円×12ヵ月×20年=255万7,680円
になります。この金額に売却時差損益を足すと
255万7,680円+792万7,333円=1,048万5,013円
が運用時と売却時を合わせた利益となります。
この試算では運用にかかる経費や金利上昇分の負担、家賃下落分のマイナス、売却時の経費、税金などを含めていませんので、実際にはもっと利益は少なくなりますが、購入価格より安く売却しても損をしないことがあるということはお分かりいただけると思います。
売却の際は購入価格と売却価格との差額ではなく運用全体を通して、利益が出るか出ないかという視点で考えることが大切です。
5-2.人口が今後増加する地域を選ぶ
収益還元法で物件価格を試算する際、収益が多いということは空室率が低く相場に見合った家賃が順調に入ってきているということにつながります。過疎化が進行している地域では数十年後に果たして賃借人が順調に着くかどうかが不安です。人口が減っていても駅の近くなどであれば、地方でも賃借人がいる可能性はありますが、できれば人口が減っていない都市を選ぶことが大切です。以下の表を確認しましょう。以下の表は国立社会保障・人口問題研究所が調査した都道府県別の世帯数の推移予測です。
*国立社会保障・人口問題研究所が調査「都道府県別世帯数推移予測」から引用
2010年から2035年までで、ほとんどの県で世帯数が減少し、日本全体では2010年から2035年にかけて人口は4.4%減少するという予測ですが、埼玉や東京など1都5県のみ増加する予測がたてられています。
人口が増加する地域では、賃貸の需要も増えることが予測されますので、不動産価格にも大きな影響があります。ただ、人口さえ増えれば不動産価格が上がるというわけではなく、不動産周辺の都市の魅力や開発などもしっかりと考慮に入れる必要があります。
5-3.駅からの距離は徒歩10分以内が目安
駅からの距離は徒歩でどれ位までであれば入居率は落ちないのでしょうか。以下のアンケート結果を見てみましょう。以下は「ネットでCHINTAI」のサイトが行った「駅徒歩何分以内なら住みたいと思える?」というアンケートの結果です。
*ネットでCHINTAI調査「駅徒歩何分の物件なら住みたいと思える?」アンケート結果 からデータを引用
このアンケートから、最も多かったのは10分以内と答えた層で、5分以内・3分以内も合わせると、全体の7割近くが10分以内を希望しているということがわかります。駅徒歩が10分を超える物件は、これらのアクセスを重視する層のニーズを取りこぼすことになりますので、購入時には注意が必要です。
5-4.通学通勤に便利で商業施設へのアクセスが良いか
最近は職住近接が進み、住居と会社、学校、公共機関などが近くに併設されるようになりました。通勤や通学がしやすく、自宅の周りにスーパーなどがあって暮らしやすいことが最近の社会人の住居に対する条件とも言えるでしょう。
以下のグラフを確認してみましょう。以下は住宅金融支援機構の「平成30年度における住宅市場動向について」という調査の中で一般消費者に行った「住宅の立地で重視するポイントは?」というアンケートの結果です。
*住宅金融支援機構調査「住宅の立地で重視するポイントは?」アンケート結果から引用
このアンケートでは1位だけをヒアリングしたのではなく、重視する順位を1位から5位まで選択してもらうアンケートになっています。1位は緑色ですので「公共交通機関へのアクセス」を1位にする人が最も多かったことになります。2位は青色ですので同じく「公共交通機関へのアクセス」を2位にする人が多くいたことになります。さらに商業施設へのアクセスや教育環境(学区等)を2位にした人も多かったことがわかります。
このことから、通勤や通学に便利で、商業施設へのアクセスが良い場所がニーズは高いことがわかります。会社のある場所は人によって違いますが、路線が何本も入っているような「ターミナル駅」であれば、通勤もしやすくなりますので、駅を選ぶ際のポイントと言えるでしょう。
5-5. 部屋の間取りや広さはコンパクトタイプ選ぶ
部屋の間取りや広さは時代背景や家族構成によって変化しています。以下のグラフは国立社会保障・人口問題研究所が行った平成30年度の日本の世帯数の将来推計調査の中で、家族類型別一般世帯数の推移(1980~2040 年)を調査、予測したものです。
*国立社会保障・人口問題研究所調査「家族類型別一般世帯数の推移(1980~2040 年)」から引用
グラフの途中から○で分岐している線は以前に行われた際の予測です。今回の予測は●のグラフになります。
このグラフからa)一般世帯総数や、d)夫婦と子からなる世帯は2025年あたりから徐々に減少していくことがわかります。
一方で、b)単独世帯や、c)夫婦のみの世帯は、2040年までは上昇か、あるいは減少しないということがわかります。
このことから、間取りは単身層や夫婦のみが暮らしやすい1LDKや2LDKで、広さは30㎡~50㎡くらいの部屋を選ぶことが、将来的に売却の際にニーズのある部屋になると予測できます。
5-6.部屋の方角と部屋からの眺望にも気を配る
部屋の方角や眺望にも目を配りましょう。以下は三菱UFJ不動産販売のサイトから引用したものです。部屋の向きについては、南向きを基準にして一般的に他の方角は数パーセントくらい査定価格が下がると言われています。
*三菱UFJ不動産販売「知っておきたい売却・査定相場比較 階層・部屋向き」から引用
方角以外にも階数による価格の違いもあります。家賃は上の階の方が数千円高くなるように、物件価格も眺望の良い上階の方が査定価格は高くなります。売却時の価格に影響してきますので、購入の際に方角や階数、ベランダからの眺望も気にして検討することが大切です。
5-7.売却時の築年数は15年以内が目安
売却価格を高くするためには売却時の築年数にも注意することが大切です。以下のグラフを確認しましょう。以下は東日本不動産流通機構が調査した「築年数から見た不動産流通市場」資料の中の中古マンションの築年別平均価格です。
*東日本不動産流通機構調査「中古マンションの築年別平均価格」から引用
このグラフからわかることは、新築で購入後一旦価格は下落しますが、築10年と築15年では価格はほとんど変わっていないということです。しかし築16年以降は大きく下落していくことがわかります。さらに以下のグラフを確認しましょう。同じく東日本不動産流通機構が調査した「築年数から見た不動産流通市場」資料の中の築年数別の成約率を表したグラフです。
*東日本不動産流通機構調査「対新規登録成約率」から引用
このグラフから中古マンションの成約率は築11年から築15年の物件が最も高いことがわかります。その後は成約率が落ちていきます。このことから売却を検討するのは築15年までが価格はあまり下がらず、成約率も高いことがわかります。
まとめ
物件を売却する際には不動産会社が査定をして、価格を決定することがわかりました。査定の際には物件の状態だけでなく、駅からの距離や周辺の環境などが勘案されますので、購入の時点にそういったことを十分に検討することから、売却の準備が始まっているということが言えます。
売却の際の築年数によっても物件価格や成約率が変わってきますので、高い価格でスムーズに売却するためには、購入の際に出口戦略まで考えて購入するようにしましょう。
西宮光夏
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