SDGs(持続可能な開発目標)では、2030年までに世界が達成すべき目標のひとつとして、すべての人が安全で安価な飲み水を入手できることを掲げているが、これまでの達成状況はどうだろうか。
ユニセフによると、2017年時点で7億8500万人が、限定的な飲み水、改善されていない水源、あるいは地表水を利用しているという。ここで言う限定的な飲み水とは、自宅から往復30分よりも長い時間をかけて汲んでくる水を指しており、改善されていない水源とは、排泄物などの汚染から十分に保護される構造を備えていない水源を指している。飲み水へのアクセスの良さやその水質には、地域や収入などによって格差があるのが現状だ。
米テキサス州のマーケティング企業は、すべての人が無料かつ安全な飲み水にアクセスできる世界を目指し、BPAフリーのアルミボトルもしくは紙パックに入った水を“無料で”提供する飲料会社「FreeWater」を展開している。飲料水のパッケージが広告媒体になっており、水ボトルの料金は消費者ではなく、そのパッケージの広告主によって支払われる仕組みだ。そして1本提供するごとに10セント(約10円)を、井戸の建設事業を行う団体に寄付している。
広告主は、一般消費者を対象としたBtoC広告を出す場合は、無料で水を提供することになっており、企業を対象としたBtoB広告を出す場合は、無料で水を提供するか有料にするかを選ぶことができる。そして広告主は、パッケージ自体に情報を盛り込めるのはもちろんのこと、パッケージのQRコードを読み取ってもらってクーポンをプレゼントしたり、映像を流したり、アンケート画面を表示したりと、様々な機能を付けることができるので、メッセージを届けたい相手とのつながりが生まれやすい。
この手法が優れているのは、寄付のハードルを下げている点だ。一般消費者にしてみれば、無料の水をもらうだけで寄付をしていることになり、「社会をより良くしている」という満足感を得やすい。「どれも同じような水であれば、世の中のためになるほうを選びたい」という消費者の心理に応えることができ、このような取り組みに予算を使う広告主のイメージアップにもつながるだろう。
FreeWater Inc.は2021年6月現在、東アフリカでの水システムの構築に取り組む非営利団体「Well Aware」に寄付を行っているという。他の団体への寄付を希望する場合は、その相談も受け付けてもらえる。広告が多くの人の目に触れるほど、たくさんの寄付金が集まるこの仕組みは、売上を伸ばすという広告主の目的と、ソーシャルグッドな活動を両立できるアイデアではないだろうか。
【参照サイト】 FreeWater “The World’s First Free Beverage Company”
Edited by Erika Tomiyama
(※IDEAS FOR GOOD『無料の飲料水をもらうと寄付できる。世界中に安全な水を届ける「FreeWater」』より転載)
木村つぐみ
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