親の土地を受け継ぐには、生前贈与か相続による取得となりますが、方法によって手順や費用が異なります。また、生前贈与で得た土地が「特別受益」とみなされた場合には、相続の際に相続財産に含め遺産分割を行うことがあります。
本記事では土地の名義変更の手順や費用などを生前贈与・相続のケース別で解説していきます。
目次
- 生前贈与で土地の名義変更を行う手順・費用
1-1.贈与契約書の作成
1-2.贈与を行う(土地の所有権移転登記)
1-3.税金の計算・申告・納付 - 相続で土地の名義変更を行う手順・費用
2-1.相続開始・遺言書の有無を確認
2-2.遺言書の検認
2-3.相続人の調査・確定、土地を含む遺産の把握・評価
2-4.相続放棄・限定承認・単純承認の中から選択(3ヶ月以内)
2-5.遺産分割協議
2-6.遺産分配(土地の所有権移転登記)
2-7.相続税の計算・申告・納付(10ヶ月以内) - 土地の生前贈与を行う場合の注意点
- まとめ
1.生前贈与で土地の名義変更を行う手順・費用
生前贈与における土地の名義変更の手順・費用は以下の通りになります。
- 贈与契約書の作成
- 贈与を行う(土地の所有権移転登記)
- 税金の計算・申告・納付
1-1.贈与契約書の作成
贈与があったことが第三者に分かるように書面化したものを「贈与契約書」と呼びます。
贈与契約書を作成せずに贈与を行うと、非課税額の範囲内でも贈与税が課されることがあったり、親族に証明できず後にトラブルが起こる可能性があります。契約書は必ず作成しておきましょう。
贈与契約書には贈与する人(贈与者)と贈与を受ける方(受贈者)が契約を締結した旨、土地の所在地・地番・地目・地積、贈与の日にち、贈与者・受贈者の住所を記載、贈与者と受贈者が記名・押印を行います。
土地の地番や地目などは登記情報提供サービス(https://www1.touki.or.jp/)又は所在地を管轄する法務局の窓口で「登記事項証明書」を取得することによって確認が可能です。
1-2.贈与を行う(土地の所有権移転登記)
土地が所在する自治体を管轄する法務局に、土地の所有権移転登記の手続きを行います。登記手続きを自身で行う場合、下記の3種類から選択します。
- オンライン
- 郵送
- 法務局の窓口
登記・供託オンラインシステムの「登記ねっと」では申請を行う事はできますが、オンラインで添付できる書類が限られており場合によっては必要書類を郵送する必要があります。
オンラインではインターネット上で申請書を作成しますが、郵送や窓口へ持参する際には法務局のホームページからダウンロードし、必要事項を記入します。
郵送・窓口持参の場合の必要書類と費用は以下の通りになります。
共通
- 登記申請書
- 固定資産評価証明書
- 贈与者の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
- 受贈者の住民票
- 登記識別情報(登記済権利証)
- 登記原因証明情報
司法書士に依頼する場合
- 委任状
費用
- 登録免許税
- 固定資産課税台帳に記載されている評価額×2%(※100円未満切り捨て)
- 登記を依頼する場合には司法書士への報酬(10~30万円程度)※土地の価額によって異なります。
固定資産課税台帳の評価額は、自治体から送付された「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)納税通知書の課税明細書」、または自治体の役所で取得できる「固定資産評価証明書」で確認できます。
1-3.税金の計算・申告・納付
土地の価額が一定額以上の際には、贈与された方(受贈者)は不動産取得税・贈与税を申告・納付する必要があります。
不動産取得税
土地を取得した時には「固定資産課税台帳に記載されている評価額(課税標準額)×3%」の不動産取得税を納付します。ただし、課税標準額が10万円以下の土地の場合、納める必要はありません。
なお、2024年3月31日までに宅地等(宅地及び宅地評価された土地)を取得した場合には、土地の課税標準額が1/2に軽減されます。土地を取得した日から30日以内に、所在地にある税務署に申告しましょう。申告書は役所又は自治体のホームページで取得可能で、後日納税通知書が送られてきます。
※出典:総務省「不動産取得税」
贈与税
贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」があり、どちらかを選択します。相続時精算課税は税務署に「相続時精算課税選択届出書」を提出後に適用となり、届出を出していない場合には自動的に暦年課税となります。
※出典:国税庁「贈与税の申告等」
暦年課税
暦年課税では土地の価額が基礎控除額(110万円)を超えるときには、贈与税を納めなくてはいけません
1年間(1月1日~12月31日)に贈与を受けた財産の価額の合計額から基礎控除額(110万円)を控除した価額に「一般税率」又は「特例税率」のいずれかを適用して贈与税額を計算します。
父母や祖父母など直系の尊属以外の方から贈与を受けたケースで受贈者が贈与の年の1月1日において20歳未満である場合には、「一般税率」、直系尊属から贈与を受け受贈者が贈与の年の1月1日において20歳以上である場合には、「特例税率」を適用します。
なお、直系尊属からの住宅取得のための資金や教育資金、結婚・子育て資金などで一定の要件を満たすもの、相続や遺贈により財産を取得した人が、相続の年に被相続人から贈与により取得した財産は一定額が贈与税から控除されます。暦年課税は、土地を贈与された年の翌年2月1日から3月15日の間に申告と納税を行います。
※出典:国税庁「贈与税がかからない場合」
相続時精算課税
「相続時精算課税」を選択した場合には、土地の価額が110万円以下であっても贈与税の申告をする必要があります。
相続時精算課税では贈与財産の価額の合計額から、複数年で利用できる特別控除額(限度額:2,500万円)を控除した後の価額に、20%の税率をかけて計算します。
将来の相続時に贈与時の土地の時価と他に受け継いだ財産の価額を合計し、相続税額から既に支払った贈与税相当額を控除した金額が相続税の額となります。
相続時精算課税は60歳以上の父母又は祖父母が、20歳以上の子又は孫に対して財産を贈与した場合において選択できる制度で、一度選択すると暦年贈与に変更できません。
暦年課税と相続時精算課税を選ぶ際には、後の贈与・相続について考え慎重に検討を行いましょう。相続時精算課税を適用する場合には、税金を支払わない場合でも贈与年の翌年2月1日から3月15日の間に申告します。
※出典:国税庁「相続時精算課税の選択」
2.相続で土地の名義変更を行う手順・費用
続いて相続における土地の名義変更の手順、費用を見ていきましょう。
- 相続開始
- 遺言書の有無を確認
- 遺言書の検認
- 相続人の調査・確定、土地を含む遺産の把握・評価
- 相続放棄・限定承認・単純承認の中から選択(3ヶ月以内)
- 遺産分割協議
- 遺産分配(土地の所有権移転登記)
- 相続税の計算・申告・納付(10ヶ月以内)
2-1.相続開始・遺言書の有無を確認
被相続人が亡くなり自動的に相続が開始となります。まずは、遺言書の有無を確認します。遺言書は自宅といった身近な場所、公証役場、法務局に保管されている可能性があります。
遺言書は被相続人が自筆で書いた自筆証書遺言、公証役場で内容を読み上げ封をする秘密証書遺言、公証人が作成する公正証書遺言の3種類があります。
自筆証書遺言・秘密証書遺言は被相続人にとって身近な場所に保管されている事がありますが、自筆証書遺言は法務局で保管する事も可能です。公正証書遺言は公証役場で保管されています。
基本的に遺言書がある場合は遺言書の内容に沿って遺産分割を行います。ただし、遺留分(遺族の最低限の取り分)を侵害している、民法上の相続財産ではないもの(生命保険金・死亡退職金など)を指定している、遺産分割協議で相続人全員が合意しているケースなどでは遺言書の内容通りで無くても構いません。
2-2.遺言書の検認
法務局で保管されている自筆証書遺言と公正証書遺言以外の遺言は家庭裁判所で「検認」の手続きを受ける必要があります。検認は遺言書の変造・偽造を防ぐためのもので、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てます。
2-3.相続人の調査・確定、土地を含む遺産の把握・評価
民法上における相続人は、被相続人の配偶者、子供(亡くなっている場合は孫)、父母(亡くなっている場合は祖父母)、兄弟姉妹(亡くなっている場合は甥・姪)となります。
相続人の範囲と法定相続分
区分 | 法定相続できる財産 |
---|---|
配偶者と子供が相続人である場合 | 配偶者1/2 子供(2人以上のときは全員で)1/2 |
配偶者と父母が相続人である場合 | 配偶者2/3 父母(2人以上のときは全員で)1/3 |
配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合 | 配偶者3/4 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4 |
※国税庁「相続人の範囲と法定相続分」を参照
法定相続人の順位は、配偶者は常に相続人となり、第1順位が子供、子供がいない場合は第2順位の父母、子供・父母がいない際には第3順位の兄弟姉妹です。被相続人の出生から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本を調べ、相続人を調査・確定します。
加えて被相続人が生前取引のあった銀行・証券会社・保険会社・不動産会社等に連絡し、取引や財産の有無を確認します。遺言書に財産目録がある場合には財産目録を参考に調査します。相続財産は財産の種類ごとに評価を行いますが、土地は路線価方式又は倍率方式により評価を行います。
2-4.相続放棄・限定承認・単純承認の中から選択(3ヶ月以内)
相続の際には被相続人の相続財産をすべて受け継ぐ単純承認、相続財産をすべて放棄する相続放棄、相続で得た財産の範囲内で債務を受け継ぐ限定承認から選択することになります。
限定承認は被相続人の債務がどの位有るか分からない時のための手続きで、限定承認・相続放棄は相続開始から3ヶ月以内に被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てます。
限定承認・相続放棄を申し立てなかった際は自動的に単純承認とみなされます。
相続放棄は被相続人の全ての相続財産を放棄する事になりますので、慎重に判断しましょう。
【関連記事】相続放棄のメリット・デメリットは?不動産活用・売却の手順も
2-5.遺産分割協議
相続財産の相続人や分割割合・方法などを相続人全員で遺産分割協議により決定、取り決めた内容を遺産分割協議書として書面化します。
原則として相続人全員で行う必要があり、未成年者や認知症・知的障害といった判断能力が乏しい方には後見人を選任します。全員が合意するまで協議を行い、意見がまとまらない時には家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
【関連記事】遺産分割協議書を作る手順は?相続の開始から相続財産の確認方法まで解説
2-6.遺産分配(土地の所有権移転登記)
相続財産を遺言書または遺産分割協議で決めた内容で分配します。土地は所在地にある法務局で所有権移転登記の手続きを行います。
贈与の場合と同様に、オンライン・郵送・窓口へ持参の3つの方法がありますが、必要となる書類が異なりますので注意しましょう。必要書類と費用は以下の通りです。
共通
- 登記申請書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)又は除籍全部事項証明書(除籍謄本)
- 相続人の戸籍全部(個人)事項証明書(戸籍謄抄本)(※被相続人の除籍全部事項証明書(除籍謄本)等と重複するものがある際は、重ねて提出する必要はありません。)
遺言書がある場合
- 遺言書
- 検認済証明書(自筆証書遺言の場合)
- 遺言書情報証明書(法務局で保管されていた場合)
- 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本または住民票(本籍・筆頭者記載のもの)
- 申告者全員の住民票または戸籍の附票
遺産分割協議書がある場合
- 遺産分割協議書
- 遺産分割協議書に押された印の印鑑登録証明書すべて
- 申告者全員の住民票または戸籍の附票
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 法定相続人全員の現在の戸籍謄本
- 先順位法定相続人がいないことを確認できる戸籍謄本(※被相続人の父母や祖父母など第2順位、第3順位の兄弟姉妹(又は甥・姪)が提出します。)
費用
- 登録免許税
- 固定資産課税台帳に記載されている評価額×0.4%※100円未満切り捨て
- 登記を司法書士に依頼する時には報酬(5~15万円程度)※土地の価額によって異なります。
2-7.相続税の計算・申告・納付(10ヶ月以内)
相続税は基本的に基礎控除額(3000万円+600万円×法的相続人の数)を超えた時に支払い義務が生じます。
相続財産ごとの評価額で相続税を計算しますが、相続税の計算や相続財産の評価は専門知識が必要になることから税理士に依頼する方もいます。特に不動産や株式の評価、法定相続人以外の相続人がいるケースは難易度が高いため、専門家に依頼することを検討してみると良いでしょう。
【関連記事】不動産の相続、税理士の探し方・選び方は?相場や相談方法も
3.土地の生前贈与を行う場合の注意点
被相続人から多額の生前贈与を受けた場合には「特別受益」となり、遺産分割において相続財産として含め、相続分を算定することになり、「特別受益の持戻し」と言います。(民法903条1項)
特別受益は民法で定められた相続分を修正するもので、相続人間の平等を目的としています。そのため相続人が同じ程度の利益を受けているケースでは持戻しをしないことがあります。
土地の価額が大きく、受贈者が相続人である、受贈者のみが財産を生前に贈与されている時には遺産分割において特別受益として相続財産に含まれることになります。
4.まとめ
土地の所有権移転登記(名義変更)は生前贈与と相続で手順や必要書類が異なります。
相続の方が必要書類は多くなりますが、他の相続財産を含め税金や手続き費用なども考慮し、生前贈与・相続を選択することが重要です。
この記事を参考に生前贈与・相続のケース別における土地の名義変更の手順・費用を知り、実際の場面で活かしていきましょう。
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田中 あさみ
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