航空業界は、CO2排出量の多さがしばしば批判されています。スウェーデンの環境活動家グレタ氏が広めた「Flight Shame(空飛ぶ恥)」という言葉も有名です。航空業界がCO2排出量という課題を抱えているのは事実であり、だからこそSDGsやESGと真剣に向き合う立場にあるのです。
この記事では航空業界のサステナビリティ、とくにCO2削減の取組みについて解説します。
目次
- 多くの航空会社がCO2削減に取り組む
- JAL(日本航空)が航空業界初のトランジションボンドを発行
- 日本の航空会社の取組み
3-1.JAL(日本航空)
3-2.ANA(全日空) - (米)ユナイテッド航空の取組み
- まとめ
1.多くの航空会社がCO2削減に取り組む
航空業界は、以下のようなCO2排出量の削減に取り組んでいます。
- 持続可能な航空燃料(SAF)の導入
- SAF燃料関連企業への投資
- より効率的な運航
- 航空機技術の革新
SAFは、化石燃料に比べてCO2排出量が少ない燃料です。航空会社は、SAFの導入の検討や、SAF燃料関連企業への投資を行っています。
また、航空会社は、より効率的な運航により、無駄なCO2排出を削減しています。例えば、燃費の良い航空機の導入や、空港での待機時間の短縮などに取り組んでいます。
さらに、航空業界では、航空機技術の革新により、より燃費の良いフライトを実現する航空機の開発も進められています。これらの取り組みにより、航空業界は、CO2排出量の削減を図っています。
2.JAL(日本航空)が航空業界初のトランジションボンドを発行
日本航空(JAL)は、2022年3月に航空業界初のトランジションボンド(移行債)を発行しました。発行額は100億円で、期間は10年です。
参照:JAL「第2回トランジションボンド発行のお知らせ」
トランジションボンドとは、グリーンボンドやソーシャルボンドに代表されるESGボンドの一種で、資金使途を脱炭素移行プロジェクトに限定したものです。CO2排出量が比較的多く、一足飛びに脱炭素化を実現することが難しい業界で発行が増加しています。
航空業界もそのひとつです。JALは、2050年までに自社のCO2排出量を実質ゼロにするという目標を掲げています。JALは2030年までに大型機を燃費の良い最新鋭機に入れ替える計画で、今回の移行社債で調達した資金はその費用に充てる予定です。
参照:JAL「気候変動への対応」
参照:日経ESG「JALが航空業界初のトランジションボンド」
3.日本の航空会社の取組み
日本の航空会社(JAL、ANA)のESG・サステナビリティへの取組みについて解説します。
3-1.JAL(日本航空)
JALグループは、気候変動への対応が社会の持続可能性にとって特に重要な課題であると認識しています。そして、2020年6月には「2050年までにCO2排出量実質ゼロ(ネットゼロ・エミッション)」を目指すことを宣言し、航空キャリアとしての責任として、CO2排出量削減をはじめとするさまざまな取り組みを着実に推進しています。
そして、JALグループは、航空機が排出するCO2の削減に向けて、2050年までのCO2削減シナリオを策定しました。このシナリオは、1.5℃シナリオ(COP26における事実上の1.5℃目標合意)に基づくICAOやIATAの最新の検討資料や、ATAG(航空業界のサステナビリティを推進するグローバル連合)の「WAYPOINT 2050」などの最新シナリオを参考に作成されました。
参照:JAL「気候変動への対応」
シナリオ作成にあたっては、国際線・国内線の総需要をベースにRTK(有償輸送トンキロ)の伸びを設定して2050年までのCO2総排出量を算出し、各施策の効果を反映させています。
出典:JAL「気候変動への対応」
JALの全社的な取り組みは国際的に評価されており、ESG投資の代表的指数である「FTSE Blossom Japan Index」「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」の両方に構成銘柄として選ばれています。
3-2.ANA(全日空)
ANAグループは、社会動向、経営理念・戦略、ANAグループの強みの3つの視点から、取り組むべき重要課題として「環境」「人権」「地方創生」「DEI」を掲げました。
具体的には、ANAグループの事業への影響(経営軸)、環境・社会への影響と課題への関心度(社会軸)の2軸でマッピングし、最も重要度・影響度が高い課題を重要課題として抽出しています。
出典:ANA「統合報告書2022」
ANAグループは、2050年のカーボンニュートラルに向けた移行シナリオを策定しました。このシナリオでは、2030年度までにCO2排出量を2019年度以下に抑えるため、航空機などの運航改善や技術革新に取り組みます。
また、2030年までに消費燃料の10%以上をSAF(持続可能な航空燃料)で代替し、2050年までに航空燃料のほぼすべてを低炭素化する予定です。低炭素燃料への転換で削減しきれないCO2排出量をネガティブエミッション技術(大気中のCO2を吸収・固定する技術)によりゼロにします。
出典:ANA「統合報告書2022」
4.(米)ユナイテッド航空の取組み
ユナイテッド航空は、以下のような環境問題への先進的な取り組みで世界の航空業界をリードしています。
- 2050年までに温室効果ガス排出量を100%削減する目標
- 2021年12月、民間企業として初めて乗客を乗せ、100%持続可能な航空燃料(SAF)で運航した世界初のフライトを実現
また、ユナイテッド航空は、2023年5月4日より、サンフランシスコ国際空港を出発する便でSAF混合ジェット燃料の使用を開始すると発表しました。SAFとは、再生可能資源由来の原料から製造されたジェット燃料のことです。SAFは、従来のジェット燃料に比べて二酸化炭素排出量を削減できるため、ユナイテッド航空は、SAFの使用拡大により、CO2排出量削減に取り組んでいます。
ユナイテッド航空は、今年後半にはロンドン・ヒースロー空港にもSAFを導入する予定です。これにより、ユナイテッド航空の2023年のSAF使用量は約1,000万ガロンとなり、2022年の約3倍、2019年の約10倍となります。
ユナイテッド航空は、2050年までにCO2排出量ゼロを目指しています。SAFの使用拡大は、ユナイテッド航空がCO2排出量削減に取り組むための重要な取り組みです。
ユナイテッド航空の取り組みは、航空業界の脱炭素化に大きく貢献するものであり、今後も注目されています。また、ユナイテッド航空の取り組みは、以下の点が評価されています。
- 具体的な目標を掲げている
- 技術革新を積極的に導入している
ユナイテッド航空の取り組みは航空業界の脱炭素化に大きな前進をもたらすもので、今後もユナイテッド航空の取り組みに注目です。
参照:ユナイテッド航空「ユナイテッドの環境への取り組み」
参照:高知新聞「ユナイテッド航空、業界初となる、持続可能な航空燃料を100%使用した旅客便の運航を実施」
参照:PR Times「ユナイテッド航空、2023年に使用する持続可能な航空燃料(SAF)を3倍に、サンフランシスコ国際空港発のフライトにも導入開始」
5.まとめ
航空業界はCO2排出量の削減に取り組んでおり、持続可能な航空燃料の導入や効率的な運航、技術革新などが挙げられます。日本航空はトランジションボンドを発行し、自社のCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げています。ANAグループは環境や人権、地方創生、DEIを重要課題とし、2050年のカーボンニュートラルに向けた移行シナリオを策定しました。ユナイテッド航空は100%持続可能な航空燃料での運航を実現し、2050年までに温室効果ガス排出量を100%削減する目標を掲げています。
今後も、航空業界のCO2削減への取り組みに注目です。
山下耕太郎
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