環境や社会に配慮したサステナブル投資への関心が高まっています。しかし、その一方で、グリーンウォッシングという問題も浮上しています。
本記事では、グリーンウォッシングの実態と、サステナブル投資を行う際のチェックポイントについて、具体的な事例を交えながら解説します。
※本記事は2024年6月28日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- グリーンウォッシングとは何か?
- サステナブル投資の重要性と課題
- グリーンウォッシングを見抜くためのチェックポイント
3-1.具体的な目標と実績の確認
3-2.第三者機関による認証
3-3.情報開示の透明性
3-4.ビジネスモデルとの整合性 - 具体的な銘柄のチェック方法
4-1.アップル(AAPL)のケース
4-2.プロクター・アンド・ギャンブル(PG)のケース - まとめ
1.グリーンウォッシングとは何か?
グリーンウォッシングとは、企業が実態以上に環境に配慮しているように見せかける行為のことです。「環境に優しい」というイメージを利用して、製品やサービスの販売促進や企業イメージの向上を図ろうとします。
例えば、2015年に発覚したフォルクスワーゲンの排ガス不正事件は、グリーンウォッシングの代表的な事例として知られています。同社は、ディーゼル車の排ガス試験で不正なソフトウェアを使用し、実際よりも環境性能が優れているように見せかけていました。
グリーンウォッシングは、消費者や投資家を誤解させるだけでなく、真摯に環境問題に取り組む企業の努力を無駄にしてしまう危険性があります。サステナブル投資を考える上で、このグリーンウォッシングの存在を理解し、見抜く目を持つことが大切です。
2.サステナブル投資の重要性と課題
サステナブル投資とは、従来の財務的な観点だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素も考慮して行う投資手法です。これらの要素を総称して「ESG」と呼びます。
サステナブル投資の重要性は年々高まっており、2020年の世界のサステナブル投資額は約35.3兆ドルに達しました。この背景には、気候変動や社会的不平等といったグローバルな課題に対する意識の高まりがあります。
参照:Nomura「拡大する世界のサステナブル投資残高」
しかし、サステナブル投資には課題もあります。その一つが、企業のESGへの取り組みを正確に評価することの難しさです。多くの企業がESG関連の情報を開示していますが、内容や質にはばらつきがあり、比較が困難な場合があります。
3.グリーンウォッシングを見抜くためのチェックポイント
サステナブル投資を行う際、グリーンウォッシングを見抜くためのチェックポイントを紹介します。
3-1.具体的な目標と実績の確認
企業が掲げる環境目標が具体的かどうか、そして達成に向けた実績を公表しているかどうかを確認します。例えば、「2030年までにCO2排出量を50%削減する」といった明確な目標設定と、進捗状況の報告が重要です。
3-2.第三者機関による認証
信頼できる第三者機関による認証や評価を受けているかどうかをチェックします。例えば、CDP(Carbon Disclosure Project)による気候変動対策の評価や、SBTi(Science Based Targets initiative)による科学的根拠に基づいた目標設定の承認などがあります。
3-3.情報開示の透明性
企業が ESG 関連の情報をどの程度詳細に、そして透明性をもって開示しているかを確認します。例えば、GRI(Global Reporting Initiative)のガイドラインに沿った報告書の作成や、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に基づく情報開示などが挙げられます。
3-4. ビジネスモデルとの整合性
企業のコア・ビジネスが環境や社会にどのような影響を与えているかを考察し、ESGへの取り組みがビジネスモデルと整合しているかを確認します。例えば、石油会社が再生可能エネルギー事業に投資する場合、規模や全体の事業に占める割合を見極める必要があります。
4.具体的な銘柄のチェック方法
では、実際の銘柄をピックアップして、具体的なチェック方法を見ていきましょう。ここでは、米国の大手企業であるアップルとプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)を例に挙げます。
4-1.アップル(AAPL)のケース
アップルは、環境への取り組みを積極的に行っている企業として知られています。以下のポイントをチェックしてみましょう。
環境目標
アップルは2030年までにサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成するという具体的な目標を掲げています。
第三者評価
CDPの気候変動対策評価で高評価の「Aー」を獲得しています。
ビジネスモデルとの整合性
製品の長寿命化や再生可能材料の使用など、本業と連動した取り組みを行っています。
これらの点から、アップルは環境への取り組みを真摯に行っていると評価できます。
参照:アップル「Apple、2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束」
4-2.プロクター・アンド・ギャンブル(PG)のケース
日用品大手のP&Gも、サステナビリティへの取り組みを強化しています。
気候
P&Gは、2021年9月に新たな目標を発表しました。原材料の調達から自社のオペレーション、サプライチェーンを含む製品のライフサイクル全体で排出される温室効果ガスを削減し、2040年までに実質ゼロにするというものです。
また、気候変動対策アクションプランとして、気候変動に関する主要課題への対応を加速するための包括的な取り組みも発表しました。
このアクションプランでは、製品設計から廃棄まで、ライフサイクル全体を網羅し、温室効果ガス排出量を削減するための具体的なアクションが示されています。P&Gはこれらの取り組みを通じて、気候変動対策をリードし、持続可能な未来に貢献することを目指しています。
廃棄物
私たちの生活から出る廃棄物、特にプラスチック廃棄物は、河川や海洋に流れ込み、深刻な問題となっています。この問題は複雑かつグローバルな課題であり、プラスチックのライフサイクル全体を通して包括的かつ協力的な取り組みが必要です。
P&Gは、2030年までにすべての消費者向けパッケージをリサイクルまたは再利用可能にすることを目指し、代替素材の使用や廃棄物インフラの整備、新しいリサイクルソリューションの開発などに取り組んでいます。プラスチックは適切に管理すれば包装材の削減や製品保護、輸送時の温室効果ガス排出削減など多くの利点があります。責任を持って使用し、再利用することが重要です。
参照:P&G「環境サステナビリティ」
5.まとめ
グリーンウォッシングの存在は、サステナブル投資の信頼性を脅かす大きな問題です。しかし、投資家が適切な視点を持ち、企業の取り組みを慎重に評価することで、この問題に対処することができます。
今後、企業のESG情報開示の基準が国際的に統一されていくことで、より正確な評価が可能になると期待されています。例えば、IFRS財団が設立した国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、グローバルなサステナビリティ開示基準の策定を進めています。
一方で、投資家自身もサステナブルやESGに関する知識を深め、批判的思考力を養うことが重要です。単にESGスコアや評価を鵜呑みにするのではなく、企業の具体的な取り組みや、背景にある戦略を理解することが求められます。
サステナブル投資は、経済的リターンを追求しつつ、社会や環境にポジティブな影響を与える可能性を秘めています。グリーンウォッシングの問題に適切に対処しながら、真に持続可能な社会の実現に貢献する企業を見極め、支援していくことが、これからの投資の在り方として重要となるでしょう。
山下耕太郎
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