不動産取引の際には「売主」「仲介(媒介)」「代理」のいずれかの取引様態で行われます。中でも賃貸用物件の取引でよく行われるのが、不動産投資会社による「売主」と「仲介」です。
そこで今回のコラムでは、「売主」と「仲介」の違いを解説し、それぞれのメリットとデメリットを比較して紹介します。
目次
- 不動産売買における3つの取引様態
1-1.売主
1-2.仲介(媒介)
1-3.代理 - 不動産投資会社の「仲介」と「売主」の違い
2-1.仲介手数料
2-2.契約不適合責任 - 不動産投資会社の「仲介」と「売主」のメリット・デメリット
3-1.売主物件のメリット・デメリット
3-2.仲介物件のメリット・デメリット - まとめ
1 不動産売買における3つの取引様態
取引様態とは、土地や建物といった不動産を取り引きする際の、不動産会社などの宅地建物取引業者の関わり方や立場のことを言います。不動産を売買する際は、「売主」「仲介(媒介)」「代理」の3つがあります。賃貸物件の貸借取引の場合は、売主ではなく貸主となります。
1-1 売主
売主とは、売却する不動産の所有者のことを指しています。つまり、所有者自身が不動産売買に関わる取引方法である、売主で取引される物件のことを売主物件とも言います。
下記のような不動産の取引の場合、不動産投資会社が売主となるケースがあります。
- 新築マンション
- 新築一戸建て
- 新築アパート
- リノベーション済みマンション
- リノベーション済み一戸建て、など
売主は不動産会社の場合もあれば、個人の場合もあります。新築アパートの場合、企画や施工をしたアパートメーカーが売主として取引を行うこともあります。
1-2 仲介(媒介)
不動産取引の中では最も多いのがこの「仲介」です。媒介とも言いますが、どちらも意味は同じです。取引の仕方は、売主と買主の間に仲介業者が入って交渉などの仲介役を担います。売主が個人の場合も、不動産会社でも不動産会社が仲介をすることが可能です。
不動産投資会社では、下記のような不動産売買の仲介業務に対応しています。
- 新築マンション
- 中古一戸建て
- 新築一戸建て(建売)
- リノベーション済みマンション
- リノベーション済み一戸建て
- 新築アパート
- 中古アパート
- 土地、など
新築マンションや新築一戸建ての場合、企画や開発、施工した業者が売主となることが多いと言えますが、仲介による売買が行われるケースもあります。このように取引様態が仲介で取引される物件のことを仲介物件と言います。
1-3 代理
売主から依頼を受けた代理人(主に不動産会社)が、売主の立場で取引を行うのが代理です。代理販売と言われることもあります。個人所有の中古物件の取引にも用いられますが、よく見られるのが新築マンションの販売です。販売会社が売主からの委託を受けて業務を代行し、販売から契約までの一連の流れを担当します。
代理は、売主と不動産会社の間で契約を結ぶもので、買主の視点からすると取引様態が売主のケースと同じです。
このような取引様態の違いは、宅建業法上の規制や仲介手数料の有無などに関わります。そのため不動産会社が不動産の広告を出す場合は、取引様態を記載することが義務付けられています。
次の項目では、「仲介」と「売主」の違いについて解説していきます。
2 不動産投資会社の「仲介」と「売主」の違い
前項では「仲介」と「売主」の取引の仕方における違いを解説しましたが、この項目では条件などの違いについて解説していきます。
2-1 仲介手数料
仲介業者が仲介をして不動産売買が成立した際には、仲介手数料が発生することになります。仲介業者は買主を見つけるために、さまざまな売却活動を行うためです。それらの費用を一つひとつ支払うのではなく、不動産取引では仲介手数料として一度に支払うことになっています。成約した場合にのみ発生するため、成功報酬という意味合いがあります。
仲介手数料の金額は不動産会社が決めることができますが、「宅地建物取引業法第46条第1項」によって上限が定められています。
具体的には下記のように計算して上限を求めます。
- 成約価格が200万円以下の場合:成約価格×5.5%
- 成約価格が200万円超400万円以下の場合:成約価格×4.4%+2.2万円
- 成約価格が400万円超の場合:成約価格×3.3%+6.6万円
※参照:国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」
売主物件の場合は仲介業者が存在しないため、仲介手数料が発生しません。売主物件は物件価格に不動産投資会社の利益が含まれているため、物件価格が高くなりやすい反面、初期費用は少なくなる傾向にあります。この点が「売主」と「仲介」の大きな違いです。
2-2 契約不適合責任
元々は瑕疵担保責任という言葉で知られていましたが、2020年4月に民法が改正されたことによって新しくできたのが契約不適合責任です。契約不適合責任とは、不動産を購入した後に買主が見つけた欠陥について売主が負う民法上の責任のことです。
改正民法562条
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課すものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
※引用:e-gov「民法」
買主が売主に対して権利を行使する選択肢は、下記の5つあります。
権利の種類 | 契約不適合責任の内容 |
---|---|
追完請求(改正民法562条) | 欠陥部分に対して、代わりのものを提供してもらうか、修理してもらう権利です。例えば、ドアに不具合がある場合に、蝶番を交換して対応するなどです。 |
代金減額請求(改正民法563条) | 欠陥があって追完請求をしても売主が修理をしない時、あるいは修理ができない場合に、買主が売主に対して代金の減額を請求できる権利です。 |
催告解除(改正民法563条) | 追完請求をしても売主が修理をしない場合に、契約を解除できる権利です。 |
無催告解除(改正民法563条) | 追完請求をしても売主が修理をしないと想定される場合に、契約を解除できる権利です。 |
賠償請求(改正民法564条) | 契約不適合によって被害に遭った金額を請求できる権利です。 |
この契約不適合責任が適用される期間が、「仲介」と「売主」では異なります。仲介物件の場合は欠陥を知った時から原則として1年以内に上記のような請求をすることできますが、不動産投資会社が売主の物件の場合は2年以内となります(宅地建物取引業法第40条)。
つまり売主物件の場合、欠陥に気づいたのが2年後でも賠償請求などができるということなのです。例えば、不動産投資会社が売主となっている中古ワンルームマンションやリノベーション済み物件などは、このケースに当てはまります。
3 不動産投資会社の「仲介」と「売主」のメリット・デメリット
不動産投資会社が「仲介」と「売主」の場合のメリットとデメリットを、比較してみて行きましょう。
3-1 売主物件のメリット・デメリット
売主物件のメリット
- 仲介手数料がかからない
- 施工やリノベーションをしている場合は、構造や工法、仕様などを熟知している
- 契約不適合責任を負うことになるので、優良な物件であることが多い
- 提携ローンが利用できる
売主物件のデメリット
- 自社物件の販売しか行っていない場合は、取り扱っている物件が限られている
- 仲介業者がいないため、売買契約書や物件そのものに不備があっても、買主は気づけない可能性がある
売主物件のメリットとしては、仲介手数料がかからず提携金融機関も増えることから物件を取得するための資金調達のハードルが低くなるという点が挙げられます。また、不動産投資会社の責任が大きくなるため、販売物件に欠陥があるリスクも低く、管理までワンストップで行っている不動産投資会社が多いことも特徴的です。
一方、基本的には自社物件の扱いしかしていないため、異なるタイプやエリアの物件を比較して検討していきたい場合には不向きと言えます。また、仲介会社が入らないことで契約内容が買主に不利な内容であっても気づけない可能性があります。売主物件を検討する際は、不動産投資会社の信頼性を見極めることが重要なポイントと言えるでしょう。
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3-2 仲介物件のメリット・デメリット
仲介物件のメリット
- 市場に出ている物件に加えて、市場に出ていない物件など幅広い物件の取り扱いを行っている
- 客観的な視点でアドバイスをもらえる
- 売主と直接交渉しないので、値引き交渉などがしやすい
仲介物件のデメリット
- 仲介手数料が発生する
- 数多くの物件を取り扱っているため、すべての物件について熟知していないことがある
- 不動産投資会社によっては提携ローンが利用できないことがある
仲介物件の大きなメリットは、不動産投資会社から幅広い物件情報を得られることです。自社物件ではないため客観的な視点からのアドバイスを得やすく、様々な物件を比較して検討していきたい方には適した方法と言えます。
ただし、不動産投資会社が必ずしも該当物件の知識を熟知しているわけではなく、投資家が自ら物件の精査を行う重要性が高いということに注意が必要です。仲介手数料がかかることに加えて、提携している金融機関も少ないため資金調達のハードルが上がり、物件取得までに長い時間がかかってしまうことがあります。
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まとめ
不動産売買時の取引様態には、「売主」「仲介(媒介)」「代理」の3つがあります。今回のコラムでは「仲介」と「売主」の違いについて解説し、さらにメリットとデメリットも紹介しました。
不動産の売買情報を見る際は、対象物件の取引様態が「仲介」か「売主」か確認することが大切です。仲介手数料・契約不適合責任の有無などに加えて、物件取得の難易度にも違いがあります。これらの違いをしっかり覚えておくと良いでしょう。
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倉岡 明広
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