「コンパクトシティ」とは、日本の国土交通省が推進している政策で、人口減少の社会において、地方の利便性を高めるべく都市機能を整備するための政策です。
特に地方の不動産への投資を検討する場合には、その地域のコンパクトシティの推進や評価状況をみておくことも重要な視点となってきています。
今回はコンパクトシティの概要と不動産投資への影響、そして関連する政府の支援施策についてみていきましょう。
目次
- コンパクトシティの概要と推進される背景
1-1.コンパクトシティは機能を中心地に集中させるための政策
1-2.コンパクトシティが推進される背景
1-3.コンパクトシティのメリット
1-4.コンパクトシティの注意点や課題 - コンパクトシティと不動産投資の関係性
2-1.地方における不動産投資の余地が広がる政策
2-2.都市間の格差拡大やコンパクトシティに潜むリスクには留意
2-3.地方の不動産投資のリスクが相対的に高い状況は変わらない - コンパクトシティを推進する政策の事例
3-1.既存住宅・リフォーム市場活性化による住み替えの促進
3-2.スマートウェルネス住宅等推進事業
3-3.空き家対策総合支援事業
3-4.新しい時代の流れに応じた不動産投資市場の形成促進 - まとめ
1 コンパクトシティの概要と推進される背景
コンパクトシティは特に地方の物件で不動産投資をしようと考えている人、すでに物件を所有している人には影響の大きい政策です。まずはコンパクトシティの概要についてみていきましょう。
1-1 コンパクトシティは機能を中心地に集中させるための政策
コンパクトシティとは、都市の構造を「コンパクト」すなわちサイズを小さくするための政策です。商業施設や公共サービス、時には居住地域をもその地域の都市部に集中させることで、効率よく都市の運営を行っていく方針を意味します。
例えば、コンパクトシティでは次のような機能の集約を推進します。
- 市役所、税務署など官公庁
- 警察、消防、ゴミなどの公共サービス
- 商業施設
- 医療施設
- 居住地
- 水道、電線などのインフラ
コンパクトシティをうまく行うと、都市を維持するためのコストが削減されます。また、住民にとっては、さまざまなサービスをより身近に利用できるようになるため都市の利便性も向上するというメリットもあります。
1-2 コンパクトシティが推進される背景
コンパクトシティは国土交通省が補助金なども設定しながら、強力に推進している政策の一つです。コンパクトシティの実現が急がれる背景には、日本の少子高齢化に伴う人口減少があります。
出生率の向上など人口減少を抑制する政策については別の省庁にて推進されているものの、2023年時点では明確な効果のある対策を打ち出せていません。日本の人口減少傾向への対応については、短期的に問題解決することは困難と想定されます。
このような少子高齢化の問題を背景に、国土交通省は「人口減少の局面でも機能を維持できる都市」を実現すべく「コンパクトシティ」に取り組んでいるのです。
コンパクトシティが実現すれば、少ない税収でも都市の主要基盤を維持しやすくなるため、公共サービスの質の低下や財政破綻などを予防可能です。2000年代には北海道夕張市が財政破綻に至っていますが、同市でも破綻後はコンパクトシティの政策を強力に推進しています。
また、人口減少とともに地方では高齢化が進んでいますが、高齢者は遠方への移動が負担となる人も多くなってきます。コンパクトシティ化により商業施設や公共・医療サービスを受けやすくなり、結果的に健やかで充実した生活を維持しやすくなるでしょう。
このようにコンパクトシティがうまく機能する都市は、生活しやすい都市として成長することが可能に。利便性の高さにより都市の魅力が高まれば、人口減少を食い止め、大都市圏への人口集中を食い止める効果も期待できます。以上のような効果を地方にもたらすことを念頭に、コンパクトシティが推進されているのです。
1-3 コンパクトシティのメリット
コンパクトシティのメリットをまとめると次の通りです。直接的には都市自体のメリットではありますが、空室リスクや不動産価格の維持に寄与することをふまえると、不動産投資の観点からもメリットとなるでしょう。
- 都市のインフラ維持の効率化
- 都心部の人口減少の抑制
- 防災性の向上
- エネルギー消費の抑制
都市機能が集中すれば、電線・水道をはじめとしたインフラ設備を広域に広げる必要がなくなるため効率的に都市機能を維持できます。また、都市の利便性が向上するため、都心部においては人口の減少を抑える効果もあるでしょう。
警察や消防などは、限られたリソースでも効率的に現場に駆け付けたり、日ごろから効率的にパトロールや防災対策を講じたりできるので、防災・防犯性の向上にもつながります。最後に人々の移動距離が少なくなる、広域にエネルギー供給網を張り巡らせる必要がなくなるなどの理由から、エネルギー消費を抑制しESGへも貢献できます。
1-4 コンパクトシティの注意点や課題
コンパクトシティには注意点や課題も存在し、失敗をすると都市の衰退を加速するリスクもあります。不動産投資においては、適切な政策が推進されている地域を選ぶことが大切です。
- 財政の圧迫要因となる可能性
- 人口密集により居住性が低下するリスク
- 自然との触れ合いがなくなる
コンパクトシティはやり方によっては都市を大きく作り替えなければならないため、財政の圧迫要因となります。既に過疎で税収が限られている地域においては頭の痛い問題となるでしょう。
また人口が中心地に集まるということは騒音、ゴミなどのトラブルのリスクや、家が狭くなって居住性が悪くなるなどのリスクも考えられます。
最後に、地方での生活の魅力の一つとして、自然との距離が近いことを挙げる方もいるでしょう。しかし、コンパクトシティにより人口が密集すると、この魅力が減退する可能性もあります。
コンパクトシティがこうした注意点・リスクに配慮して適切に進められているかを見極めながら、投資先を選ぶことが大切です。
2 コンパクトシティと不動産投資の関係性
コンパクトシティの各政策は東京都や大都市圏も含めた全都道府県に適用されるものもありますが、特に地方での不動産投資を考えている人、実際に行っている人に大きな影響をもたらすものです。ここからはコンパクトシティと不動産投資の関係性を考えていきましょう。
2-1 地方における不動産投資の余地が広がる政策
全体として見ると、コンパクトシティの推進は、地方の不動産投資を検討しやすくなるでしょう。地方では多くの都市において人口減少による衰退が課題です。不動産投資をするうえでは、大都市圏よりも人口減少による空室リスクについて慎重な見極めが大切になります。
市域全体として人口が減少していたとしても、コンパクトシティが適切に進められれば、中心部は一定の利便性と人口密度を保ち、活気がある魅力的な都市が維持されます。不動産投資で大事なのは立地周辺の居住需要なので、中心部の都市機能や人口が維持されていれば、投資先として検討の余地が大きくなります。
また、コンパクトシティによって都市の中心部の居住性の高さが維持されれば、より多くの人がその地域に定着しようとするため、中長期的な人口減少を抑制する効果も期待されます。質の高いコンパクトシティを推進している地域は、長期的な視点での不動産投資における有力な選択肢の一つとなるでしょう。
2-2 都市間の格差拡大やコンパクトシティに潜むリスクには留意
コンパクトシティの推進によって全ての地方都市の魅力が高まるかというと、必ずしもそうは言えない点に注意が必要です。
コンパクトシティを実現するためには、都市基盤を大きく変革しなければならないため、当面の間の財政支出を増やす要因となります。ただでさえ過疎化などにより税収減に悩む都市が多いなかで、全ての都市が理想的な都市構造を実現できるとは限りません。
また、日本の人口が根本的に増えるわけではないことから、魅力的な都市は周辺からの住民を吸収しながら人口を維持するケースが多いと考えられます。逆にいえば、コンパクトシティへの変革が進まず都市の魅力が低いままの都市は、周囲の利便性の高い都市への人口流出を加速させるリスクがあるのです。
コンパクトシティを推進しているとしても、それが機能しているかどうかを評価することも重要です。コンパクトシティの推進は少なからず財政を圧迫するわけですが、もし政策の結果、都市の居住性や効率性が向上しなければ、むしろ将来の財政余力を削り、衰退を加速させる要因にもなりえます。
以上のことをふまえると、コンパクトシティを積極的にかつ適切に推進していて、中長期的な発展が期待できる都市の物件を厳選することが大切になってきます。
2-3 地方の不動産投資のリスクが相対的に高い状況は変わらない
仮にコンパクトシティが適切に推進されたとしても、地方の賃貸需要が大都市部並みに高まるとは想定しづらく、また、長期的な人口減少圧力にさらされることも変わりません。依然として、地方における不動産投資は相対的にリスクの高いものであることをおさえておきましょう。
そのなかで、コンパクトシティが適切に推進されていて、かつ周辺の大都市部へのアクセスが良いなど好条件が揃っていれば、割安ながら相対的に賃貸需要を見込みやすい物件が見つかる可能性もあります。リスクが高い反面、地方都市は投資の利回りも高い傾向にあるので、うまく投資地域や物件を選べば、高い収益が期待できます。
コンパクトシティの各地域の推進状況や、その地域の強みなどを見極めながら、価格が安いながら高い収益が見込める物件をうまく見つけ出すことが大切です。
【関連記事】地方都市で始める不動産投資のメリット・デメリットは?東京と人口・不動産価格・利回りを比較
3 コンパクトシティを推進する政策の事例
国土交通省は地方におけるコンパクトシティ整備を推進すべく、さまざまな政策をおこなっています。その中で特に不動産投資にも関連のある政策をいくつか見ていきましょう。
3-1 既存住宅・リフォーム市場活性化による住み替えの促進
全国の空き家問題の改善を目指して、住宅の住み替えを促進する政策です。年齢とともに適した住宅の在り方は変化します。
例えば、若いころは子育てもするため二階建ての広めの住宅が良くても、歳を取れば平屋の方が便利に感じられる方もいるでしょう。さらに体力の減少によって敷地内の管理も負担になるため、サ高住もしくは管理の行き届いたマンションの方が住みやすいという人も少なくありません。
しかし、日本では住み替えをする意識が薄く、住宅を保有したまま高齢者となり、最終的に適切に処分できずに空き家となるケースも増加傾向にあります。こうした事態を改善すべく、既存住宅のリフォームも含めた市場活性化や住み替えの促進を進めています。
具体的には次のような施策を推進しています。
- リバースモーゲージなどシニア層向けのローン供給
- 長期優良住宅化リフォームの支援
- 既存住宅・リフォームの質向上
- 不動産取引情報などの住宅市場に関する情報共有の促進
出所:国土交通省「既存住宅・リフォーム市場活性化による住み替えの促進」
今後はこうした政策がうまく機能すれば、中古住宅の質の向上が期待できます。また、取引情報の透明度が高まれば、収益性の見込めない割高な物件を購入してしまうリスクも下がるでしょう。価格の不透明性を背景に中古物件による不動産投資を躊躇していた人でも、よりチャレンジしやすくなることが予想されます。
3-2 スマートウェルネス住宅等推進事業
この事業は高齢者や障がい者、子育て世帯などあらゆる世帯が安心して暮らせる住環境を意味する「スマートウェルネス住宅」を整備する目的でおこなわれているものです。この事業では高齢者向けのサ高住や子育て支援に配慮した住宅など、スマートウェルネス住宅の整備に貢献する事業に補助金が出るのが特徴です。
スマートウェルネス住宅等推進事業の補助金の例
事業 | 概要 |
---|---|
サービス付き高齢者向け住宅整備事業 | サ高住の整備費に対する補助 |
人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業 | 介護予防や健康増進、多世代交流、子育て世帯への支援等を考慮した先導的な住環境整備に係る取組として選定されるものに対して支援を実施 |
子育て支援型共同住宅推進事業 | 子どもの安全・安心や、子育て期の親同士の交流機会創出に資する共同住宅整備(賃貸住宅の新築・改修、分譲マンションの改修)に対して支援を実施 |
出所:国土交通省「スマートウェルネス住宅等推進事業」
これから戸建てやアパートなどで不動産投資を検討している場合は、新築やリフォームでこれらの要件に当てはまるものがないかチェックしましょう。補助金対象になれば、新築や修繕などの負担が軽減する可能性があります。
3-3 空き家対策総合支援事業
人口減少に伴い空き家は全国で増加傾向にあります。空き家は災害時の事故の下になったり、不審者などが住みつき治安悪化の温床になったりと、さまざまな社会問題に繋がるため、政府では積極的に空き家を減らそうとしているのです。
空き家対策は二つの方向性で行われています。一つは空き家の除去・処分で、空き家を更地に戻す事業に対して補助金が出されます。
また、空き家の所有者を特定することでも補助が出ます。持ち主が特定できれば、その持ち主に空き家の処分を促すことができるためです。これは裏を返せば、持ち主がわからなくなってしまった、持ち主と連絡がつかなくなった空き家が全国に無数にあるということを意味しています。
もう一つの方向性は空き家の再利用で、不動産投資の投資家に取ってはこちらの方が重要に感じられる方も多いでしょう。空き家を再生して有効活用すると補助金の対象となります。近年は空き家を安価で購入して、リフォームして運用する投資手法が着目されていますが、この政策はそのような投資手法を後押しするものといえるでしょう。
【関連記事】築古物件のDIY投資を始める方法・手順は?投資家の体験談を紹介
3-4 新しい時代の流れに応じた不動産投資市場の形成促進
同政策は、クラウドファンディングによる地方のまちづくり活性化促進を目指すものです。
既に都市部の物件では多くのファンドが立ち上がっている不動産クラウドファンディングについて、投資対象を地方の不動産にも広げて、クラウドファンディングによる資金調達を活用したコンパクトシティの推進を目指しています。
具体的には、地方の不動産業者などがクラウドファンディングを活用した不動産事業に参入しやすくなるよう、環境整備や専門家によるファンド立ち上げのサポートなどを行う計画です。
同事業が推進されれば、地方の物件に投資するクラウドファンディングの案件が今後増えると期待されます。現物の地方の不動産を購入して投資するのはハードルが高いと感じる人でも、より少額でリスクを抑えながらコンパクトシティへ貢献できるようになるでしょう。
ただし、こちらについては2023年2月時点で素案段階なので、今後実施されるか見ていきたいところです。
※出所:国土交通省「新しい時代の流れに応じた不動産投資市場の形成促進」
4 まとめ
日本の少子高齢化に伴う地方の衰退に歯止めをかけるうえで、コンパクトシティ構想は大きな役割を果たすと期待されています。国土交通省が旗振り役となりながら、各地方自治体が積極的に推進していきます。
一方で、日本全体の人口減少傾向が止まることは期待しづらいため、コンパクトシティの推進度合いや地域の魅力によって地方間格差が出る可能性もあります。
地方での不動産投資においては、コンパクトシティ関連の政策による補助金の活用余地なども検討しながら、魅力的で居住需要が持続する地域を選んで投資することが大切です。
- 初心者向け無料セミナーを開催している不動産投資会社の比較・まとめ
- 新築マンション投資に強い不動産投資会社の比較・まとめ
- サラリーマン・会社員に向いている不動産投資会社の比較・まとめ
- 【不労所得を目指したい方向け】不動産投資会社の比較・まとめ
- 中古マンション投資に強い不動産投資会社の比較・まとめ
- 入居率が高い(98%以上)不動産投資会社の比較・まとめ
伊藤 圭佑
最新記事 by 伊藤 圭佑 (全て見る)
- 不動産デジタル証券に投資するメリット・デメリットは?個人で投資できるサービスも - 2024年11月7日
- 三井物産「ALTERNA(オルタナ)」のメリット・デメリットは?仕組みやREITとの比較も - 2024年11月6日
- 2024年に募集したCOZUCHI(コヅチ)の注目ファンドは?応募実績や傾向も - 2024年10月31日
- 下北沢の開発PJに、箱根の温泉付き別荘PJも。1万円から色々な不動産に投資できる新しいサービス - 2024年10月31日
- アパート経営の初心者がアパートローンを組む方法は?金利・年数交渉のポイントも - 2024年10月31日