2023年4月26日に、シンガポール政府は不動産取引に関する税金を引き上げました。外国人による2件目以降の住宅を購入の追加印紙税(ABSD)について、以前は30%の税率に設定されていましたが、2023年4月27日以降は60%と倍に設定されています。
税金引き上げの内容や背景に加え、シンガポールの動きが海外不動産投資市場に与える影響などについて解説します。
※本記事は2023年5月時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- シンガポールの税金引き上げの概要・日本との比較
1-1.日本とシンガポールにおける印紙税の違い
1-2.追加印紙税の概要と税率 - シンガポールの動向が海外不動産投資に与える影響
2-1.税率引き上げの背景
2-2.海外不動産投資に与える影響 - まとめ
1.シンガポールの税金引き上げの概要・日本との比較
日本では、不動産取引を行うと契約額に対して印紙税が課税されます。海外にも印紙税を設けている国はあり、シンガポールもその1つです。
1-1.日本とシンガポールにおける印紙税の違い
日本の印紙税は1種類しかなく、契約書に記載された契約金額に応じて税額が決められています。日本で不動産を譲渡する時に課税される印紙税の仕組みは、以下の表のように契約金額が上がると税額も上がるというものです。
日本の印紙税の税率
契約書に記載された契約金額 | 通常時 | 2024年3月31日までに作成された契約書に適用 |
---|---|---|
1万円未満 | 非課税 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 | 200円 |
10万円を超えて50万円以下のもの | 400円 | 200円 |
50万円を超えて100万円以下のもの | 1,000円 | 500円 |
100万円を超えて500万円以下のもの | 2,000円 | 1,000円 |
500万円を超えて1,000万円以下のもの | 10,000円 | 5,000円 |
1,000万円を超えて5,000万円以下のもの | 20,000円 | 10,000円 |
5,000万円を超えて1億円以下のもの | 60,000円 | 30,000円 |
1億円を超えて5億円以下のもの | 100,000円 | 60,000円 |
5億円を超えて10億円以下のもの | 200,000円 | 160,000円 |
10億円を超えて50億円以下のもの | 400,000円 | 320,000円 |
50億円を超えるもの | 600,000円 | 480,000円 |
※参照:国税庁「印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
2024年3月31日までに契約書が作成されたものに対しては、通常より割安な印紙税が課税されることになっています。
なお、日本の不動産譲渡に関わる印紙税は、契約金額ごとに固定の金額が課税されるものであり、契約金額に税率を乗じて算出するといったものではありません。
一方で、シンガポールでは、不動産の購入価格または市場価格のいずれか高い方に対して、以下の割合で印紙税(Buyer’s Stamp Duty:BSD)が課税されます。
シンガポールの印紙税(BSD)
不動産の購入価格または市場価格 | 税率 |
---|---|
S$0~S$180,000の部分に対して | 1% |
S$180,001~S$360,000の部分に対して | 2% |
S$360,001~S$1,000,000の部分に対して | 3% |
S$1,000,001~S$1,500,000の部分に対して | 4% |
S$1,500,001~S$3,000,000の部分に対して | 5% |
S$3,000,001以上の部分に対して | 6% |
※参照:Inland Revenue Authority of Singapore「Buyer’s Stamp Duty (BSD)」
※2023年5月時点の税率
※S$はシンガポールドル
例えば、S$500,000の不動産を購入する場合は、印紙税は以下のように計算します。
- S$180,000 × 1% = S$1,800
- S$180,000 × 2% = S$3,600
- S$140,000 × 3% = S$5,200
- 合計:S$10,600
日本銀行の「基準外国為替相場及び裁定外国為替相場一覧」を参照すると、シンガポールドルは2023年5月時点で約101円なので、S$10,600は日本円に換算すると107万600円になります。
1-2.追加印紙税の概要と税率
シンガポールには、前項で解説した印紙税とは別に、追加購入印紙税(Additional Buyer’s Stamp Duty:ABSD)という税金があります。追加購入印紙税は、2件目以降の住宅を購入するシンガポール人や、シンガポールの住宅を購入する外国人などに対して課税される税金です。
追加購入印紙税が課税されるのは住宅の購入に対してのみであり、オフィスなどの不動産購入に対しては課税されません。追加購入印紙税の税率は以下の表の通りです。
住宅購入者 | 2023年4月26日までの税率 | 2023年4月27日からの税率 |
---|---|---|
シンガポール国民の2件目 | 17% | 20% |
シンガポール国民の3件目 | 25% | 30% |
外国人による住宅購入 | 30% | 60% |
※参照:Inland Revenue Authority of Singapore「Additional Buyer’s Stamp Duty (ABSD)」
シンガポールの追加購入印紙税は、2023年4月27日から引き上げられています。例えば、日本人がシンガポールの住宅を購入する場合は、購入価格に対して60%の追加購入印紙税が課税されることになりました。
なお、追加購入印紙税の課税対象は、印紙税と同じく契約書に記載された住宅の購入価格または住宅の市場価格のうち、どちらか高い方の金額です。
このため、日本人がシンガポールでS$500,000の住宅を購入する場合は、S$300,000の追加購入印紙税がかかることになります。S$300,000は、2023年5月時点の為替で日本円に換算すると3,000万円を超える金額です。
また、追加購入印紙税は一括納付が義務付けられており、分割払いなどはできません。今後シンガポールの住宅を購入する場合には、かなり大きな経費を要することになります。
2.シンガポールの動向が海外不動産投資に与える影響
外国人向け税率の引き上げ幅が大きいことから、シンガポール政府は住宅市場への外資流入を強く警戒していると言えるでしょう。政府による警戒の理由と、海外不動産投資市場への影響を考察します。
2-1.税率引き上げの背景
シンガポールの追加購入印紙税は2011年12月から導入されています。導入の背景には、外資の流入によるシンガポール住宅市場の過熱がありました。なお、追加印紙税率引き上げは今回が初めてのことではなく、これで3回目です。
外国人向けの税率は、税制が導入された2011年の段階では15%でしたが、2018年に20%、2021年に30%と段階的に引き上げられてきました。税率引き上げの理由はいずれも同じであり、住宅市場の過熱によってシンガポール国民が住宅を購入しにくくなる事態を防ぐことです。
なお、2023年の税率引き上げには新型コロナウイルスの影響も背景にあると考えられます。
シンガポールでは、新型コロナウイルスの流行によって住宅の建設工事に遅れが発生したものの、金利の引き下げなどを背景として住宅需要の縮小は起こりませんでした。
一方で、シンガポール政府の発表では、時間の経過によって工事の遅れが解消されてきた結果、2023年から2025年にかけては100,000戸の住宅が供給される見通しです。また、政府はその後も大量の住宅が供給されると予測しています。
今後完成してくる住宅を以前から需要のある自国民に優先して供給したいというのが、シンガポール政府が2023年に追加購入印紙税率引き上げの背景と言えるでしょう。
2-2.海外不動産投資に与える影響
シンガポールの追加購入印紙税引き上げが海外不動産投資に与える影響について、大きくはないと予測されます。理由は、もともとシンガポール不動産への投資需要を持っている人が限られているからです。
シンガポールは他の国と比較して物価が高い国であり、不動産も例外ではありません。投資目的で取得するのであれば、大きなリターンを狙った投資対象というより、低リスクの運用対象として選ばれることが多いでしょう。
また、フィリピンやカンボジアなど東南アジアの周辺諸国と比較すると、シンガポールの不動産は利回り狙いの投資にあまり適していないのが実態です。また、キャピタルゲインに関しても、予測GDP成長率からみて、フィリピン・カンボジアなど周辺諸国の方が期待値は大きいと言えます。
東南アジアの予測GDP成長率
ただし、フィリピン・カンボジア・ベトナムなど東南アジアの新興国では、シンガポールと比較すれば不動産市場が不安定で先行きを予測するのが難しいハイリスクな投資対象です。外貨を獲得する上では不動産も重要な経済資源であることから、外国人の不動産購入に対する規制・法改正のリスクもあります。
一方、海外からシンガポール不動産を購入しているのは、シンガポールで海外ビジネスを拡大したい事業家や、比較的安全な環境下で子どもに国際的な教育を受けさせたい富裕層などが中心となってきています。
税率の引き上げはシンガポール不動産のニーズの多さに対する規制として設定されています。今後、購入ハードルが上がることによってシンガポール不動産の取引件数が減ったとしても、諸外国の不動産市場へ与える効果は限定的と言えるでしょう。
まとめ
不動産取引に関する税率の大幅な引き上げによって、2023年5月以降シンガポール不動産投資の環境は厳しくなっています。ただし、税率の引き上げはこれまで不動産市場の過熱を背景としてきたため、市場環境が変われば規制が緩和される可能性もあるでしょう。
税率の引き上げのような海外向けの規制を強化する動きが周辺諸国へ波及するかについては、今後も注視していきたいポイントと言えます。
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HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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