アパート経営において、大きな支出となるのが修繕費です。外壁や屋根などを含めた大規模修繕になると、費用は100万円以上になることも少なくありません。
そこで今回のコラムでは、大規模修繕の時期や費用などの目安を紹介し、修繕積立金の目安についても解説していきます。また大規模修繕を抑えるための建物管理のポイントも紹介します。
目次
- アパート経営における修繕積立金とは
- アパート経営の修繕工事の内容・修繕積立金の目安
2-1.アパート経営で行われる修繕工事
2-2.アパート経営における修繕の目的
2-3.アパート経営における修繕工事の目安
2-4.アパート経営における修繕積立金の目安 - 大規模修繕に備えたアパートの建物管理の対策
3-1.アパートの建物管理の主な業務
3-2.アパートの建物管理のポイント - まとめ
1 アパート経営における修繕積立金とは
修繕積立金とは、修繕工事費用などに充てるために積み立てておく費用のことです。分譲マンションの場合は、10〜13年など定期的に行われる大規模修繕に活用するために、管理組合が修繕積立金を徴収しています。
しかしアパート経営の場合、物件はオーナー自身の所有となるため、修繕積立金を納めるといったルールはありません。あくまでもオーナー自身の判断の上で、修繕費用として積み立てておく趣旨の金額となります。
そのため修繕積立金をどのくらい貯めておくかはオーナー自身の判断になりますが、目安の立て方についても心得ておきましょう。次の項目から詳しく見ていきます。
2 アパート経営の修繕工事の内容・修繕積立金の目安
修繕積立金をどのくらい積み立てておくのか考える前に、アパート経営における修繕についても理解を深めていきましょう。
2-1 アパート経営で行われる修繕工事
アパートを修繕するタイミングはオーナーの判断によりますが、新築時から10年〜20年後に大規模修繕工事を行うのが通常です。それは外壁や屋根などの劣化が、新築から10年〜20年程度経つと見え始めるからです。
大規模修繕工事では概ね下記のような箇所が対象になります。
- 外壁の補修や塗装
- 屋根の補修や塗装
- 階段の補修や塗装
- 廊下の補修
- 外構部分の補修
- 給排水設備の修理や交換
- エントランスなどの共有スペースでの設備の修理や交換・追加
- エレベーターの修理
- 室内設備の修理や交換・追加、など
こうした大規模な工事は仮設足場を組んで行うケースが多いため、分けて行うよりも、一度に工事をした方が工期も短く、費用を抑えることもできます。一度に多額の費用がかかりますが、大規模修繕として工事をすることは経営上もメリットになります。
このほか外壁や屋根の劣化検査、配管の劣化検査なども必要に応じて行います。物件の状態によりますが、これらの検査は概ね5年〜10年程度で行うことになります。また、各室に退去者が出た場合の原状回復工事、荒天などによって建物に損傷が発生した場合の補修も修繕工事に含まれます。
2-2 アパート経営における修繕の目的
アパート経営は、入居者に快適な住居を提供することによって賃料を得るというのがビジネスモデルです。物件が劣化してしまうと入居者の確保は困難となり、アパート経営はうまくいかなくなる可能性があります。アパートの美観を保ち、快適に暮らしてもらうためにも修繕を行う必要があるのです。
しかし、上記のような大規模な工事を行うには、50万円〜500万円程度の多額の費用が必要になります。この場合、資金が足りないケースでは十分な工事ができず、アパートの劣化がそのまま放置されてしまうこともあります。そのため入居率が下がり、物件としての競争力がさらに低下してしまうのです。
このような負のスパイラルに陥らないためにも、修繕積立金として毎月の収益から修繕費用を蓄えておくことが重要となります。
2-3 アパート経営における修繕工事の目安
アパートの修繕工事を行う時期やかける費用については、物件の条件やオーナーの投資戦略によって様々です。
なお、国土交通省では「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」という資料で、物件タイプごとの目安として下記のような試算を出しています。
試算は、RC造20戸(1LDK〜2LDK)、RC造10戸(1K)、木造10戸(1LDK〜2LDK)、木造10戸(1K)の4つについて記載されていますが、そのうちアパートの形式として多い「木造10戸(1K)」について詳しく紹介していきます。
修繕時期 | 工事内容 | 工事費用 |
---|---|---|
5〜10年目 | ・ベランダ・階段・廊下(塗装) ・室内設備(修理) ・排水管(高圧洗浄等) |
1戸あたり7万円(1棟あたり70万円) |
11〜15年目 | ・屋根・外装(塗装) ・ベランダ・階段・廊下(塗装・防水) ・給湯器等(修理・交換) ・排水管(高圧洗浄等) |
1戸あたり52万円(1棟あたり520万円) |
16〜20年目 | ・ベランダ・階段・廊下(塗装) ・室内設備(修理) ・排水管(高圧洗浄等・交換) ・外構等(修繕) |
1戸あたり18万円(1棟あたり180万円) |
21〜25年目 | ・屋根・外装(塗装・葺替) ・ベランダ・階段・廊下(塗装・防水) ・浴室設備等(修理・交換) ・排水管(高圧洗浄) |
1戸あたり80万円(1棟あたり800万円) |
26〜30年目 | ・ベランダ・階段・廊下(塗装) ・室内設備(修理) ・排水管(高圧洗浄等・交換) ・外構等(修繕) |
1戸あたり18万円(1棟あたり180万円) |
※参照:国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」より抜粋
修繕工事は物件を所有している限り続ける必要がありますが、ガイドブックに則って修繕工事を行った場合30年目までに1戸当たり174万円、1棟当たり1,740万円の費用が必要です。この事例をもとに、修繕積立金の目安について考えていきましょう。
2-4 アパート経営における修繕積立金の目安
前項で紹介した通りの修繕工事を行った場合、30年間で1,740万円の費用を捻出する必要があります。この金額を目安にすると、下記のような計算で毎月の修繕積立金の目安がわかります。
- 毎年の修繕工事費用:(修繕工事費用)1,740万円÷(経営年数)30年間=58万円
- 毎月の修繕積立金の目安:毎年の修繕工事費用58万円÷12カ月=4.333万円
つまり毎月5万円程度を修繕積立金として積み立てておくと、会計上の無理をすることなく上記のような修繕を行えるということになります。
国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」では、「木造10戸(1K)」のほかに、「RC造20戸(1LDK〜2LDK)」「RC造10戸(1K)」「木造10戸(1LDK〜2LDK)」の修繕費用のイメージも提供しています。それをもとに、それぞれ修繕積立金の目安を算出すると下記の表のようになります。
アパートの規模 | 30年間の修繕工事費用 | 毎月の修繕積立金の目安 |
---|---|---|
RC造20戸(1LDK〜2LDK) | 4,490万円 | 12.5万円 |
RC造10戸(1K) | 1,770万円 | 5万円 |
木造10戸(1LDK〜2LDK) | 2,160万円 | 6万円 |
※参照:国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」の資料をもとに筆者が算出
アパートの状態や規模はそれぞれの物件で異なりますので、あくまでも目安として参考にしてください。
なお、全国賃貸住宅修繕共済協同組合では、賃貸住宅修繕共済の取り扱いを行っています。加入すると共済金でアパートの修繕を行うことができ、共済掛金については経費計上が可能というメリットがあります。自身で修繕積立金を管理するのが難しい場合には、こちらも検討されてみるのも良いでしょう。
※参考:「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」
3 大規模修繕に備えたアパートの建物管理の対策
アパート経営において欠かせない修繕工事の費用について見てきました。しかし建物管理を適切に行うことで、修繕工事の規模を抑えたり、修繕工事の費用を軽減させることも可能です。そのポイントについて見ていきましょう。
3-1 アパートの建物管理の主な業務
アパートの管理業務を管理会社に委託した場合、入居者管理と建物管理の両方を行ってもらうのが通常です。その場合、建物管理は下記のような内容になります。
主な業務 | 業務内容 |
---|---|
建物の維持管理 | 外壁、屋上、共用廊下、エントランス、駐車場、庭などの定期的な点検を行います。必要があれば簡単な修繕も行います。 |
設備の維持管理 | 消防用設備などの点検や浄化槽の保守点検、水質検査などを行います。エレベーターがある場合は安全管理のための保守点検なども行います。 |
清掃業務 | 入居者が快適に暮らせるように、廊下や共用部分の日常的な清掃を行います。日常的な清掃のほか、定期的にエントランスのワックスがけなどを行うケースもあります。 |
大規模修繕工事の提案 | 物件の状態に応じて、大規模修繕工事の提案をするのも管理会社の役割です。常日頃、物件の状態を観察し、適切なタイミングで提案を行います。 |
3-2 アパートの建物管理のポイント
上記のように、管理会社に委託している場合は管理会社が建物管理を行います。建物管理が得意な管理会社へ相談することに加え、オーナーとしても建物管理のポイントを押さえておきましょう。
建物管理に適切なアドバイスをくれる不動産管理会社へ相談する
建物管理は、アパートの状態について日々確認することができる管理会社の協力が重要になります。建物管理に適切なアドバイスをくれる不動産管理会社へ相談することで、大規模修繕の時期や必要になる費用の相談、また突発的なトラブルにも対応しやすくなります。
例えば、新築アパートの企画・販売、土地活用コンサルティング、不動産仲介、建築の設計や施工、管理などを行っている「アイケンジャパン」では、物件建築後の各種保証、管理代行、専門家紹介などを行い、建築後のサポートの手厚い不動産会社です。入居率99%以上という実績があり、アパート経営初心者の方でも検討しやすいメリットがあります。
【関連記事】アパート経営で重要な管理会社の選び方は?7つのポイント解説
オーナーとしても物件の確認を
管理会社による建物管理は、定期的な清掃のほかに適切なタイミングで修繕や点検、清掃などの提案を行います。ある程度は一任できますが、オーナーとしても建物管理が適切にされているか、物件を確認することも重要です。また管理会社から送られてくる管理リポートなどで気になった点を尋ね、建物管理を改善させていくのもオーナーの役割です。
清掃はこまめに丁寧に行ってもらう
アパートの清掃をこまめに行うことは、大規模修繕工事の規模縮小につながる可能性があります。例えば、外壁に傷があった場合、放置しておくと建物内部にまで浸水し、カビや結露の原因になることもあります。その場合、劣化がより早く進み、修繕工事の規模が大きくなってしまうことになるのです。
しかし早いうちに傷やひび割れを補修しておくことで建物の劣化を抑えられるため、大規模修繕工事のコストを抑えることにつながります。
適切な時期に点検をする
修繕の大まかな時期を把握したとしても、建物の状態は個々で異なります。そのため効果的な修繕時期を判断するためにも、適切な時期に点検をするようにしましょう。日常的な清掃と合わせて点検をしたり、1年に1回など計画的に点検するタイミングを決めておくのもいいでしょう。
次の大規模修繕に備える
前述したように、アパートを所有している限り修繕工事は必要になります。そのため修繕工事が終了したら、次の修繕工事のための準備を始めましょう。例えば、資料を整理して保管・記録することで、次の修繕工事の際に役立つ情報になります。
また、今回の修繕工事ではできなかったところや、次回に回した箇所がある場合は、その状態などを適切に把握し、経過を観察するようにしましょう。
まとめ
アパート経営のポイントは、入居者の方へ快適な住まいを提供し、長期的に選ばれるアパートを目指していくことです。しかし、年数が経つと修繕工事の規模が大きくなり、多額な費用が必要になります。資金不足で適切な対処が出来なくなることの無いよう、修繕積立金を設定するなどし、修繕リスクを軽減するようにしましょう。
今回のコラムでは、修繕工事の目安や、建物管理のポイントについても紹介しました。なお、修繕積立金を積み立てる方法にはルールはないため、オーナー自身が物件の状態や投資規模、戦略にあわせて柔軟に判断することも大切です。建物管理が得意な不動産管理会社へ相談するなどして、適切に判断していきましょう。
倉岡 明広
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