賃貸経営、ひとり親・母子家庭の入居受け入れで利用できる補助金や制度は?

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入居者の家賃収入が主な収益となる賃貸経営において、経済的な背景を理由にひとり親・母子家庭の入居受け入れは敬遠されることもあります。

入居審査は、家賃の滞納や修繕費のリスクを低減するため、賃貸経営では重要なポイントです。一方で、住宅を必要とする人に十分な提供が為されなくなってしまう可能性があるという課題があります。

このような課題を解消するために、近年では、住宅セーフティネット法に基づき「住宅確保要配慮者」への支援制度が国や地方自治体によって拡充されており、賃貸経営に活用することも可能です。このような制度の利用は、賃貸経営の収益を補填するだけでなく、住宅を必要とするひとり親・母子家庭の方へ安心して暮らせる住居を提供することにもつながります。

そこで本記事では、賃貸経営において、ひとり親・母子家庭の入居受け入れで利用できる補助金や制度について解説していきます。賃貸経営でひとり親・母子家庭の方の入居受け入れを検討している方、またどのような制度があるのか情報収集をされていた方はご参考ください。

※この記事は2023年8月時点の情報に基づき執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。

目次

  1. 賃貸経営とひとり親・母子家庭の入居受入れの意義
  2. 賃貸経営でひとり親・母子家庭の入居受入れで利用できる補助金や制度
    2-1.住宅セーフティネット制度の家賃低廉化補助を利用した地方自治体のひとり親家庭への住宅費用助成制度(家主への助成)
    2-2.地方自治体のひとり親家庭への住宅費用助成制度(入居者への助成)
    2-3.住宅セーフティネット制度のリフォーム補助
    2-4.住宅セーフティネット制度の利用による各種居住支援団体とのネットワーク
  3. まとめ

1.賃貸経営とひとり親・母子家庭の入居受入れの意義

賃貸経営のリスクの一つに、家賃収入の滞納が挙げられます。ひとり親や母子家庭の入居者の方は子育てと仕事の両方を一人で対応せざるを得ない方も少なくなく、経済面を理由に住宅の確保が難しい傾向がありました。

国は、入居を制限される懸念のある者を「住宅確保要配慮者」と位置づけ、平成19年には住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給促進に関する法律(以下、住宅セーフティネット法)を平成19年に制定し、支援に乗り出しました。平成29年には法律改正をおこない、支援強化施策を打ち出しています。

このような状況下で、ひとり親・母子家庭の入居者を受け入れることで、国や地方自治体の各種助成制度を受けることができるケースが増え、賃貸経営の経営者側にもメリットがあるようになっているといえます。

国や地方自治体の助成制度によって、家賃収入の補助を得たり、また、リフォーム資金を助成してもらえたりすることができるため、家賃収入のリスク低下や修繕費の抑制につながり、賃貸経営のキャッシュフローの改善を図ることが可能になるでしょう。

2.賃貸経営でひとり親・母子家庭の入居受入れで利用できる補助金や制度

賃貸経営でひとり親・母子家庭の入居を受入れることで利用できる補助金や制度には、次のようなものがあります。

  • 住宅セーフティネット制度の家賃低廉化補助を利用した地方自治体のひとり親家庭への住宅費用助成制度(家主への助成)
  • 地方自治体のひとり親家庭への住宅費用助成制度(入居者への助成)
  • 住宅セーフティネット制度のリフォーム補助
  • 住宅セーフティネット制度の利用による各種居住支援団体とのネットワーク

以下で、それぞれの内容を詳しくみてみましょう。

2-1.住宅セーフティネット制度の家賃低廉化補助を利用した地方自治体のひとり親家庭への住宅費用助成制度(家主への助成)

地方自治体の中には、その自治体の住民への支援施策として、家主への助成という形式で、ひとり親家庭への住宅費用助成制度を設けているところがあります。

これは、前述した住宅セーフティネット法に基づき、民間賃貸住宅を、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅として登録してもらい、要配慮者の方々へ提供してもらう住宅セーフティネット制度に沿って実施されています。

たとえば、「世田谷区・ひとり親世帯向け家賃低廉化補助事業」では、ひとり親世帯へ部屋を貸す家主に対し、家賃の一部を補助金として支払うという形式で、ひとり親家庭への住宅費用の助成をおこなっています。

この制度では、次のような手続きを経て、家賃の助成がおこなわれます。まず、家主は所定の審査を受け、ひとり親世帯との賃貸借契約前に住宅確保要配慮者専用住宅として登録します。

自治体や居住支援団体などから、住宅確保要配慮者の紹介を受け、ひとり親世帯が入居した場合、その家賃を通常の相場家賃よりも減額することを条件に、一戸当たり最大月額4万円の家賃が家主に補助金として支給されます。

家賃補助額は、相場家賃よりも減額した部分の額となります。そのため、補助を受ける場合には、同じアパート等にある同程度の床面積の他の住戸の賃貸借契約書や、近所にある同じような物件の募集家賃が記載された広告等、通常の相場家賃が分かる書類を自治体に提出する必要があります。

なお、世田谷区独自の補助制度として、ひとり親世帯の入居時に、協力金として10万円が支払われることになっています。

2-2.地方自治体のひとり親家庭への住宅費用助成制度(入居者への助成)

地方自治体の中には、その自治体の住民への支援施策として、入居者への助成という形で、ひとり親家庭への住宅費用助成制度を設けているところがあります。

たとえば、「千葉県浦安市・ひとり親家庭住宅手当」制度では、所定の要件をクリアするひとり親家庭が支払う家賃に対して、月額10,000円を超えた部分につき月額15,000円を限度として、入居者本人への給付という形式で、ひとり親家庭への住宅費用の助成をおこなっています。

このようなケースでは、家主への助成ではないものの、入居者への助成金が家主に間接的に支払われることになります。

2-3.住宅セーフティネット制度のリフォーム補助

住宅セーフティネット制度に基づき、住宅確保要配慮者専用住宅として登録すると、10年間専用住宅として提供することを条件に、居住のために最低限必要なリフォーム費用の補助を受けることができます。

補助限度額は、通常リフォームでは1戸当たり国と地方自治体合わせて100万円、間取り変更や耐震改修を含む場合は、1戸当たり200万円となります。なお補助率は、改修費の3分の2です。

また、この補助対象のリフォーム工事には、工事費用の8割を限度として、住宅金融支援機構による融資を受けることも可能です。

2-4.住宅セーフティネット制度の利用による各種居住支援団体とのネットワーク

住宅セーフティネット制度に基づき、住宅確保要配慮者専用住宅として登録すると、地方自治体や居住支援団体などから、住宅確保要配慮者の紹介を受けることになります。

このように、地方自治体や居住支援団体などとのネットワークができ、関連する不動産業者とのつながりもできることから、継続的に入居者の紹介を受けることができるようになるでしょう。

また、トラブルが生じた際には、このようなネットワークを活用してトラブル解決の方法を教えてもらったり、解決をサポートしてくれる法律の専門家などを紹介してもらうことも可能です。

まとめ

賃貸経営におけるひとり親・母子家庭の受け入れは重要な課題の一つです。住宅セーフティネット法に基づいた住宅確保要配慮者専用住宅の登録や、関連する支援制度を活用することで、経済的な背景を理由に住居の確保が難しい方でも安心して暮らせる住居を提供することにもつながります。

また、各種制度を利用することで家賃の滞納リスクを低減することができたり、修繕費用を補填してもらうことも可能です。経営側の目線に立っても、経営上のメリットがあります。

住宅確保要配慮者専用住宅として登録すると、地方自治体や居住支援団体から用配慮者の紹介を受けることがあります。地方自治体や居住支援団体などとのネットワークができるという点も、入居受け入れを行うことのポイントとなっています。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。