不動産売買では、宅建士の資格を持つ人が買主に重要事項説明をした後に売買契約を結び、売主と買主の双方の合意が為されたことを証明することになります。この売買契約書と重要事項説明書には対象不動産にまつわる様々な事項が記載されています。
しかし、慣れない用語が並ぶ不動産売買契約書を隅々まで確認することは難しく、チェックポイントを売主・買主が見落としていた場合にトラブルになる可能性があります。売買契約書の内容は事前に確認し、引渡し後のトラブルリスクは小さくすることが大切です。
そこでこの記事では、不動産の売却時に、売買契約書と重要事項説明書で確認した方が良いポイントを解説します。
目次
- 不動産売却で重要事項説明書を確認するポイント
1-1.物件の基本情報や法令上の制限
1-2.私道負担や水道・電気・ガスなどインフラに異常はないか
1-3.建物に関するリスクの有無
1-4.契約解除や損害賠償金の詳細
1-5.マンションにおける共用部のルール
1-6.マンションの管理費と修繕積立金 - 不動産売却で売買契約書を確認するポイント
2-1.売買金額や借入金額・借入先
2-2.所有権の移転と引き渡し時期
2-3.付帯設備の引継ぎ
2-4.固定資産税の精算
2-5.ローン特約の内容
2-6.契約不適合責任の期限 - まとめ
1.不動産売却で重要事項説明書を確認するポイント
まずは重要事項説明の確認ポイントである以下から解説していきます。
- 物件の基本情報や法令上の制限
- インフラに異常はないか
- 建物関するリスクの有無
- 契約解除や損害賠償金の詳細
- マンションにおける共用部のルール
- マンションの管理費と修繕積立金
1-1.物件の基本情報や法令上の制限
物件の所在地や面積、マンションなら家屋番号などを確認しましょう。登記簿謄本の内容と合っているかどうかを含め、念のために基本情報を確認します。
また区域区分や都市計画道路の有無など、法令上の制限の確認も重要です。例えば工業地域か住居地域かで建築できる建物が異なるため、この点を間違えると後々のリスクにつながります。
1-2.私道負担や水道・電気・ガスなどインフラに異常はないか
次に、私道負担や水道・電気・ガスなどインフラに異常はないか確認しましょう。
物件に私道が含まれていれば、私道負担金が発生している可能性があるため、買主にとってはリスクになります。
また現在私道負担金がない場合でも、覚書などを締結していないと、将来的に私道負担が発生するリスクはあるため、その点は売主の立場からも確認しておきましょう。
水道・電気・ガスは生活に欠かせないインフラのため、それらが整備されているかの確認も必要です。私道負担と同様、特別な負担金が発生する場合もあるため、その点も合わせて確認することが重要になります。
1-3.建物に関するリスクの有無
建物に関するリスクとは、具体的に以下のリスクを指します。
- 造成宅地防災区域内かどうか
- 土砂災害警戒区域内かどうか
- アスベスト使用調査の有無とその内容
- 耐震診断の内容
上記は、物件が災害に巻き込まれるリスクや、人体へのリスクへ直結します。例えば造成宅地防災区域内であれば、宅地造成に伴う災害で大きな被害の発生リスクがあるため、宅地の所有者などは「災害を防ぐための対策(擁壁の設置など)に努める」必要があります。
大事なことは、上記のようなリスクの有無を確認し、かつその内容について知っておくことです。不明点があれば宅建士に詳しく聞き、買主にもきちんと分かってもらえるようにしましょう。
1-4.契約解除や損害賠償金の詳細
契約解除になる場合、解除する理由によっては契約書に記載されている条件のもと手付金が違約金となります。また引渡し日に遅れた場合などに損害賠償金が発生するケースもあるため、合わせて確認が必要です。
1-5.マンションにおける共用部のルール
マンションを売却する場合、敷地の権利や共用部のルールも確認しておきましょう。
例えば、喫煙のルールはマンションによって異なります。最近の新築マンションでは「共用部は禁煙」が多いものの、2010年前後のマンションにはこのようなルールが設定されていないことがあります。
またペットの飼育が可能な場合、飼育して良い頭数や共用部に連れ出すときのルールがあるため、その点もしっかり確認しておきましょう。
共用部のルールについては、買主によって気になる箇所が異なります。不動産会社経由で、事前に買主が気になる点をヒアリングしてもらい、その部分を重点的に説明してもらうようにすると良いでしょう。
1-6.マンションの管理費と修繕積立金
マンションの売却時には管理費と修繕積立金の変動リスクは確認しておきましょう。段階的に積み上げていく方式か一時金を徴収する方式か、どちらかを採用しているケースが多いため、まずはその点を確認します。
また、たとえば段階積み上げ方式の場合は「●年ごとに○○%上昇」などのように売買契約書へ記載されていることがあります。その数値が合っているかも確認しておきましょう。
2.不動産売却で売買契約書を確認するポイント
重要事項説明書と売買契約書は、内容が被っている箇所も多く、重要事項説明書の方が内容は厚くなります。そのため、前項で解説した重要事項説明書のチェックポイントを踏まえつつ、売買契約書では以下を確認しましょう。
- 売買金額や借入金額・借入先
- 所有権の移転と引き渡し時期
- 付帯設備の引継ぎ
- 固定資産税の精算
- ローン特約の内容
- 契約不適合責任の期限
一つずつ解説していきます。
2-1.売買金額や借入金額・借入先
売買契約書の形式によるものの、売買契約書には以下のように物件価格や借入に関する事項が記載されています。
- 売買代金の総額(土地と建物は別々)
- 消費税
- 手付金
- 中間金
- 残代金
- 借入金額および借入先名
特に売買代金の総額や、借入金額と借入先名はしっかりと確認しておきましょう。万が一売買代金総額に記載ミスがあっても、署名・捺印してしまえばその金額で契約は締結となります。
2-2.所有権の移転と引き渡し時期
所有権の移転時期と引き渡し時期の確認も重要です。こちらも売買契約書の形式によりますが、「引渡し予定日:2020年○月×日」のように記載されているでしょう。
引き渡し日と所有権移転日は同日になり、引渡し予定日以降は物件に入れません。そのため引渡し予定日までに、引っ越しを完了している必要がある点には注意が必要です。
2-3.付帯設備の引継ぎ
中古住宅の売却は、エアコンや照明などの付帯設備を撤去するか設置したままにするか明確に決めておかないとトラブルに発展する可能性があります。
この点については、「付帯設備一覧表」として別紙で作成したり、売買契約書に盛り込んだりと、様々なパターンがあります。いずれにしろ付帯設備をどうするかは、売買契約時に改めて確認しておきましょう。
2-4.固定資産税の精算
不動産の売却時は、売主が売却した年の固定資産税を精算することとなるため、売主は「引渡し日以降の固定資産税」を買主に請求します。売買契約書に「公租公課の分担」のような項目があるため、その箇所を確認しておきましょう。
実際に清算する金額は、仲介を担当している不動産会社が提示する諸費用の精算所に記載してあることが多いため、精算書と合わせて確認しましょう。
2-5.ローン特約の内容
ローン特約とは、ローンの本審査で否決になり、かつ買主に責任がない場合には売買契約書の解約ができる特約のことです。
不動産売買では、売買契約書を結んだ後にローンの本審査が否決となるケースがあります。売買契約後の買主の資金不足による破綻を防ぐため、ローンを活用した不動産売買ではほとんどのケースでこのローン特約が設定されています。
手付解除の期限を超えていても、ローン特約による解除が可能である限り売買契約が無効になる可能性があると言えます。このローン特約による解除が有効となる日はいつまでなのか、特約が成立する条件について確認しておきましょう。
2-6.契約不適合責任の期限
契約不適合責任とは、売買契約書に記されていない不動産の欠陥が物件の引き渡し後に発覚した場合、売主が買主に対して負う責任のことを言います。
この契約不適合責任の対象や期限が定められていない場合、買主が発見してから1年間は契約不適合を理由に賠償請求をされる可能性があることになります。建物の損傷が雨漏りやシロアリなど重大な欠陥である場合、多額の損害金を支払うケースも少なくありません。
契約不適合責任の期限を設けていない場合、実質的に無期限に買主が契約不適合を理由に請求できることになります。売主不利の売買契約とも言えるため、双方の交渉により契約不適合責任を追及できる期限を3ヶ月~6ヶ月程度に設定するケースが多くなっています。
契約不適合責任の期限が設定されているか、されている場合はいつまでなのか、確認しておきましょう。
【関連記事】売主が不利に?不動産売却の契約不適合責任(瑕疵担保責任)を解説
まとめ
不動産は高額な商品ということもあり、売買契約書・重要事項説明書には買主へ説明すべき多くの重要な事項が含まれています。双方の記名・押印がなされた時点で契約が成立してしまうため、重要なポイントは事前にしっかりと確認しておきたいと言えます。
売買契約書・重要事項説明書の内容は事前に確認し、契約日に慌てることのないよう準備しておきましょう。また、当日であっても疑問に思うことがあれば遠慮なく不動産仲介の担当者へ質問し、納得ができない場合には契約しないことも重要です。
中村 昌弘
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