不動産売却では「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」というものが売主にあることをご存知でしょうか?
売買契約書の中身をしっかり確認しないと、この契約不適合責任によってトラブルの発生や多額の修繕費を支払う事にもなりかねません。
今回は不動産の売却を検討されている方向けに、不動産売却の契約不適合責任の注意点を解説していきます。
目次
- 不動産売却の契約不適合責任とは?
1-1.不動産売却の瑕疵担保責任とは
1-2.民法改正によって瑕疵担保責任が契約不適合責任へ - 契約不適合責任における注意点
2-1.売主の故意・過失は関係ない
2-2.契約不適合責任の期間に注意 - 不動産の契約不適合責任を負わないためには
3-1.契約不適合責任を負わない売買契約をする
3-2.契約不適合責任を負う範囲を先に規定する - まとめ
1.不動産売却の契約不適合責任とは?
契約不適合責任とは、不動産を売却した際に売主が買主に対して発生する責任のことをいいます。2020年4月の民法改正によって、瑕疵担保責任に代わり契約不適合責任が適用されることとなりました。*民法 第五百六十五条『移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任』を参照
まずは瑕疵担保責任の概要を解説したうえで、契約不適合責任とはどのような違いがあるのか解説していきます。
1-1.不動産売却の瑕疵担保責任とは
契約不適合責任について解説するにあたり、元々の瑕疵担保責任がどのような内容であったのか確認しておきましょう。
瑕疵(かし)とは、きずや欠点があったり、本来の性能が備わっていない状態のことを指しています。不動産においては売買契約の際に説明をしなければならない部分の説明がない事やシロアリ被害、土壌汚染などが瑕疵にあたります。
目に見える瑕疵は売主も気づくことができるため、売買契約の前に買主への説明責任があります。しかし、見えにくい物件内部の雨漏りや損傷などの欠陥であった場合、売主が築かずに売却してしまう可能性があります。
このような場合でも一定の期間内において売主に責任追及が出来るよう、不動産の売買契約書には瑕疵担保責任を規定することが通例となっています。
また瑕疵担保責任は任意規定となっており、規定を当事者同士で変更できるということもポイントです。
瑕疵担保責任は売主への負担が重い規定であることから、期間を短く設定したり、適用条件を限定したりするなど内容を変更し、責任を軽くした状態で売買契約を交わす事例も多く見られています。
1-2.民法改正によって瑕疵担保責任が契約不適合責任へ
元々売却主に対して重い規定であった瑕疵担保責任ですが、民法改正によってどのように変化するのでしょうか。
瑕疵担保責任では「瑕疵」があるのかどうかを判定するのが難しかったという背景がありました。しかし、契約不適合責任では「隠れた瑕疵」ではなく、「不動産自体がどのような状態なのか」を定義することで責任の所在をはっきりさせる内容へ変更されています。
例えば、不動産が完全な状態で買主へ引き渡す売買契約だとすると、欠陥があった場合は売却主に不備があったこととなります。
一方、元々欠陥がある不動産であるという明記があった場合は、買主も合意している形となりますので、契約不適合責任を追及することは出来ません。
つまり、契約不適合責任では「隠れた瑕疵」があったかどうかではなく、契約書に明記があるかどうかという点が重視される内容となっています。
契約不適合責任で買主が持つ4つの請求権
瑕疵担保責任では「損害賠償請求」と「契約の解除」という二つの請求権が買主にありました。
契約不適合責任ではこれに加え「追完請求」と「代金減額請求」が増え、計4つが買主の請求権となります。
追完請求は欠陥を修繕する費用となります。瑕疵担保責任では修繕費という項目ではなく、損害賠償請求でしたので、欠陥があった際はより柔軟に対応できるようになりました。
また、代金減額請求は「交した契約には不備があったため代金を減額する」といった旨の請求になります。
上記二つは瑕疵担保責任と同様、故意・過失に関係なく請求できる権利となりますので、注意が必要です。
2.契約不適合責任における注意点
ここまで、不動産を売却する際に契約不適合責任が発生することを解説してきましたが、具体的にどのような点に注意を払わなければいけないのでしょうか。
次に、不動産を売却する前に確認しておきたい注意点を見て行きましょう。
2-1.売主の故意・過失は関係ない
不動産を売却する際、故意に欠陥があることを黙って買主に売却していたり、きちんと調査を行わずに欠陥を見逃してしまった場合、分かりやすく売主に責任があると言えます。
しかし、契約不適合責任においては上記のような故意・過失がなかった場合でも適用される規定となります。
従って売却主が不動産の欠陥がないことを調査・確認した場合であっても、契約書に規定されていない欠陥が見つかれば売却主に責任が発生することとなります。
2-2.契約不適合責任の期間に注意
契約不適合責任が適用される期間は、買主が欠陥を発見してから1年以内と定められています。この1年という期間は「買主が欠陥を発見した日」を起算日とするため、売買契約書で契約不適合責任の期間を定めていない限り、買主有利の条件となってしまいます。
また、瑕疵担保責任には「何年たったら請求権がなくなる」といった期間が決められていません。従って、民法上の時効である10年間が過ぎるまで、売主に契約不適合責任があり続ける形となります。
そのため、売買契約書には契約不適合責任の期間を明確に規定し、責任期間を限定しておくことが大切です。
買主との交渉によって自由に期間を設定することが可能ですが、取引慣例上では引き渡しから3ヶ月~6か月と設定することが多くなっています。その他の条件とバランスを取りながら、必ず期間を設定しておくことが大切です。
3.不動産の契約不適合責任を負わないためには
不動産の売却後に契約不適合責任がもととなって買主とトラブルにならないようにするにはどうすれば良いのでしょうか。
ここからは、売主が不動産の売却後に契約不適合責任を負わないための対策方法をご紹介します。
3-1.契約不適合責任を負わない売買契約をする
契約不適合責任は任意規定となるため、引き渡し後の責任を負わない形で契約をすることも可能です。
契約不適合責任を負わない契約は買主不利の契約となるため、売却価格やその他の特約の条件などとバランスをとりつつ、買主と交渉を進めることとなります。
また、自身の不動産がどのような状態か、買主に対してしっかりアピールすることも大切です。
3-2.契約不適合責任を負う範囲を先に規定する
売買契約を締結する前であれば、売主が契約不適合責任を負う範囲を先に規定することも可能です。
例えば、経年劣化が激しいため雨漏りについては契約不適合責任に含まないといった様に買主と交渉することも可能です。
過去に修繕をしていて傷みやすくなっている箇所や、欠陥が起きた場合の修繕費が大きくなる箇所についてはあらかじめ買主と交渉し、責任の範囲を規定しておきましょう。
まとめ
瑕疵担保責任から契約不適合責任へ移行することで、売買契約時に発見できなかった欠陥は売主の責任となるケースが多くなることが予想されます。
不動産の売主は売買契約を締結する前に、契約不適合責任の内容を事前に確認し、責任の範囲や期間について買主と交渉を進めておくことが大切です。
また、引き渡し後に買主とトラブルとならないよう、不動産の売却時は自身の不動産に欠陥がないかどうか、最大限の注意を払って点検してから売買契約にのぞみましょう。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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