取得5年以内の不動産の売却で売却益が発生すると、5年を超えて売却する場合と比較して、税率の違いから多額の税金がかかることがあります。
取得後5年以内の売却を検討する場合には、納税資金を確保しておくためにも譲渡所得税の計算について正しい知識を備えておきたいといえます。また、譲渡所得税には、特別控除や買い換えなどの特例があり、それを利用することで納める税金が大きく軽減される場合があります。
この記事では、不動産売却を取得5年以内にかかる譲渡所得税・住民税について説明し、譲渡所得税の計算手順や特別控除などの特例についてもまとめます。
※記事内の税金・税率などは2022年1月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 不動産を売却したときにかかる譲渡所得税・住民税とは
1-1.譲渡所得の計算方法
1-2.取得費の計算方法
1-3.取得費が不明な場合
1-4.売却費用の計算方法 - 短期と長期の税率差と計算例
2-1.短期と長期では税率差が2倍
2-2.実際の税率差計算例 - 不動産売却で利用できる譲渡所得税の特別控除と特例
3-1.マイホームの特別控除
3-2.マイホームの買い換え特例
3-3.事業用資産の買い換え特例
3-4.相続した場合の空き家の特別控除 - 5年以内の不動産売却は特別控除や特例の利用を検討する
- まとめ
1.不動産を売却したときにかかる譲渡所得税・住民税とは
不動産の売却について利益が出た場合、売却した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告をおこない、その利益(譲渡所得)につき譲渡所得税を納税します。不動産の譲渡所得税は分離課税という方式を採用しており、総合課税の所得(給与所得、事業所得、不動産所得など)とは、分離して所得や税額を計算するという特徴があります。
住民税は、譲渡所得税の確定申告の計算に基づいて、各市区町村が翌年6月頃に決定し、賦課してきます。それぞれの税率は、売却した不動産の保有期間に応じて下表のようになっています。
区分 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
長期譲渡所得 | 15% | 5% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% |
※参照:国税庁「土地や建物を売ったとき」
1-1.譲渡所得の計算方法
譲渡所得税のかかる不動産売却の利益(譲渡所得)を計算する式は、次のようになります。
譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)-特別控除
譲渡価格は売却した価格です。取得費は不動産を入手するのにかかった費用、売却費用は売却するときにかかった費用、となりますが、それぞれ、含めることができる費用は限定されています。また、建物を売却したときは、減価償却費を取得費から差し引く必要があります。
以下では、取得費と売却費用の計算方法について解説します。
1-2.取得費の計算方法
譲渡所得における取得費は、次のように計算します。
取得価格+取得の際要した費用+取得後の改良費-減価償却費(建物の場合のみ)
取得価格とは、購入時の価格や建物であれば建築費用になります。
取得費の際要した費用
取得の際要した費用は、様々な種類のものが考えられますが、主に次のような費用に限定されています。
- 仲介手数料・登記費用
- 登録免許税・不動産取得税・印紙税
- 立退料
- 土地の造成費用
- 測量費用
- 所有権確保のための訴訟費用
- 建物付き土地の建物取り壊し費用
- 土地・建物利用開始前の借入利子
- 購入契約時の違約金
取得後の改良費と減価償却費
取得後の改良費とは、修繕費ではなく、物件の価値を高めるような費用になります。原状回復ではない大規模な修繕支出であれば、取得後の改良費に含めてよいと考えられます。
建物を売却した場合は、減価償却費を差し引く必要があります。減価償却費というのは、経年劣化によって目減りした価値部分です。減価償却費は、目的や構造によって償却率が決まっており、次のように計算します。
減価償却費=建物の取得費×0.9×償却率×経過年数
居住用建物の償却率は次のようになっています。ただし、賃貸などの事業用に供していなかった場合、法定耐用年数の1.5倍を用いるものとされています。
構造 | 耐用年数(法定の1.5倍) | 償却率(法定の1.5倍) |
---|---|---|
木造 | 22(33) | 0.046(0.031) |
軽量鉄骨 | 27(40) | 0.038(0.025) |
鉄筋コンクリート | 47(70) | 0.022(0.015) |
1-3.取得費が不明な場合
購入時の売買契約書を紛失してしまったり、相続によって取得した先祖伝来の不動産であったりして、購入時の取得費が不明な場合もあります。その場合、売却価格の5%を取得費とできる概算取得費の制度があります。
しかし、これでは譲渡所得がかなり大きくなってしまい、実態にそぐわないということも考えられます。そのため、合理的な計算方法によって推計された取得費であれば、認められる可能性もあります。
例えば、国税不服審判所の判断では、土地取得価格については市街地価格指数、建物取得価格については着工建築物構造別単価を用いることを認めたケースもあります。(※参照:国税不服審判所「(平12.11.16裁決、裁決事例集No.60 208頁)」)
ただし、これは一事例であり税務慣行とまでは言えませんので、取得費が不明な場合は、税理士に相談するなどして慎重に計算するようにしましょう。
1-4.売却費用の計算方法
売却する時に要した費用として、譲渡所得の計算に含めることができるのは、税務慣行上、次のようなものに限定されているといえます。
- 仲介手数料
- 立退料
- 土地の上にある建物の取り壊し費用
- 売却に伴って生じた違約金
不動産の売却のために直接要した費用であり、維持または管理のための費用は含まれないので注意が必要です。
2.短期と長期の税率差と計算例
ここまで、譲渡所得税の計算方法について解説してきました。
次に、譲渡所得税の税率差と計算の仕組みを踏まえた上で、不動産売却を取得5年以内にする場合と5年を超えて売却する場合、どれくらい譲渡所得税・住民税が異なるのかについて、焦点を当ててみていきましょう。
2-1.短期と長期では税率差が2倍
長期譲渡所得と短期譲渡所得の住民税を含めた税率差は、前者が20.315%であるのに対して、後者が39.63%となっており、その税率差はほぼ2倍に上っています。
不動産の売却益が同じであるならば、取得後5年以内に売却するよりも、5年を超えて売却をした方が支払う税金の金額はほぼ2分の1となり、低く抑えることになります。
なお、この5年の所有期間は、売却した年の1月1日においてカウントします。取得してから、5年を経過した翌年以降、初めて長期譲渡所得の税率が適用されることになるので、注意しましょう。また、相続や贈与によって取得した場合、被相続人や贈与者が取得した日から所有期間をカウントするのが原則になります。
2-2.実際の税率差計算例
譲渡所得税の計算方法を分かりやすくするため、簡単な売却事例を設定して、譲渡所得税の試算をしてみます。以下が売却した不動産の条件とします。
構造、経過年数、用途 | 木造、築6年、賃貸用 |
購入価格 | 土地:3,000万円 建物:2,000万円 |
購入時費用 | 200万円 |
譲渡価格 | 6,000万円 |
売却時費用 | 200万円 |
長期所有で同条件の売却をした場合の税額
まず、取得費の要素を算定するため、建物から控除すべき減価償却費を計算します。賃貸用として利用していたため、償却率は法定のものを用います。
2,000万円×0.9×0.046×6=496.8万円
取得費を計算します。
取得費=3,000万円+2,000万円+200万円-496.8万円=4,703.2万円
譲渡所得の要素が揃ったので、算式にあてはめます。
譲渡所得=6,000万円-(4,703.2万円+200万円)=1096.8万円
譲渡所得は1096.8万円になります。
譲渡所得税・住民税=1,096.8万円×20.315%=約223万円
長期譲渡の場合、課税額は約223万円となりました。
短期所有で同条件の売却をした場合の税額
上述と同条件で購入し、売却をした場合で、4年の短期所有であった事例を設定して、譲渡所得税の計算をしてみます。
建物の減価償却費は、
2,000万円×0.9×0.046×4=331.2万円
取得費を計算します。
取得費=3,000万円+2,000万円+200万円-331.2万円=4,868.2万円
算式にあてはめます。
譲渡所得=6,000万円-(4,868.2万円+200万円)=931.8万円
譲渡所得は931.8万円になります。
譲渡所得税・住民税=931.8万円×39.63%=約370 万円
短期譲渡の場合、課税額は約370万円となりました。
3.不動産売却で利用できる譲渡所得税の特別控除と特例
譲渡所得の計算において利用できる特別控除には、マイホームの3,000万円控除、一定条件を満たす相続した空き家についても3,000万円控除があります。
特例には、マイホームの買い換え特例、事業用資産の買い換え特例があります。買い換え特例は、一定の条件を満たすマイホームや事業用資産の買い換えで生じた譲渡所得の税金を買い換え後の不動産売却時まで繰り延べる制度です。
3-1.マイホームの特別控除
マイホームの特別控除は、マイホームを、住まなくなってから3年以内に売却したときに、譲渡所得から3,000万円までの控除を認める特例です。売却した年の前々年から、その年まで、マイホームの特別控除等の適用を受けていないことが条件となり、実質、3年に1度しか利用できません。
マイホームの所有期間が10年を超えている場合、譲渡所得のうち6,000万円までは税率が次のように軽減されます。6,000万円をこえた部分については、長期譲渡所得の通常税率が適用されます。なお、この特例はマイホームの3,000万円特別控除と併用できます。
税目 | 軽減税率 |
---|---|
所得税(復興所得税を含む) | 10.21% |
住民税 | 4% |
この特別控除を受けた場合、3年以内に新たにマイホームをローンによって取得するときは、住宅ローン控除の適用が受けられないので注意しましょう。
※出典:国税庁「マイホームを売ったときの特例」
3-2.マイホームの買い換え特例
マイホームを売却して、その売却価格よりも高い価格のマイホームに買い換えた場合、譲渡所得課税を繰り延べることができる特例があります。主な適用条件は次のようになっています。
- 売却した人が10年以上住んでおり、所有期間が10年を超えていること
- 売却価格が1億円以下であること
- 買い換える建物の床面積が50平米以上であり、土地の面積が500平米以下であること
- 元のマイホームを、住まなくなってから3年以内に売却すること
- 元のマイホームを売った前年から翌年までの3年以内に買い換えること
- 買い換えたマイホームが築25年以内であること
- 3年以内にマイホームの特別控除等の適用を受けていないこと
また、元のマイホームの売却額よりも新しいマイホームの取得額の方が安い場合、その差額のうち次の算式によって計算した部分が、譲渡所得として課税されます。
(旧マイホーム売却額[イ]-新マイホーム取得額[ロ])-(旧マイホーム取得費+譲渡費用)×(([イ]-[ロ])/[イ])
※出典:国税庁「特定のマイホームを買い換えたときの特例」
3-3.事業用資産の買い換え特例
事業用資産を売却して、一定の事業用資産に買い換えた場合、売却益の80%について譲渡所得課税を繰り延べることができます。賃貸用の土地建物もこの特例の対象となります。主な適用条件は、次のようになっています。
- 元の事業用資産を10年超所有していること
- 買い換え資産の面積が、元の資産の面積の5倍以内であること
- 元の資産を売った前年から翌年までの3年以内に買い換えること
- 買い換え資産を購入してから1年以内に事業用に利用すること
※出典:国税庁「事業用の資産を買い換えたときの特例」
3-4.相続した空き家に係る譲渡所得の特別控除
一定の条件に該当すると、相続した空き家を売却して利益が生じた場合、譲渡所得税の課税所得から3,000万円の控除を受けることができます。主な適用条件は、以下のようになっています。
- 被相続人が一人で居住していたこと
- 昭和56年5月31日以前築の一戸建てであること
- 相続によって取得した人が、その土地建物を耐震リフォームするか、あるいは取り壊して相続日から3年以内に売却すること
- 相続時から売却時まで空き家であること
※出典:国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
4.5年以内の不動産売却は特別控除や特例の利用を検討する
短期所有で売却すると、売却益についてかかる譲渡所得税・住民税の税率が長期所有の場合と比較して2倍近く、税額差も大きくなることがあります。
しかし、譲渡所得の計算において利用できる特別控除や特例は、特別控除では控除額が3,000万円と大きく、特例についても当面の課税を繰り延べることが可能です。これらの特別控除や特例を利用できるような場合には、短期所有であっても売却を検討してみるのもよいでしょう。
不動産の売却価格は市況によって変化し、所有期間が長期に渡ればその分建物部分は劣化していきます。譲渡所得税の税率を意識して長期間所有することで売却益が大きく減ったり、あるいはなくなってしまったりする可能性も考えられます。
譲渡税の多寡だけでなくこれらのリスクも勘案したうえで、売却益が十分に得られるうちに売却することを検討することが大切です。
なお、適切な税計算を行うには、不動産売却に強い税理士など専門家への相談も検討してみましょう。特に不動産の売却益が多額になる場合は申告漏れのリスクも増すことになり、過少申告をしてしまうと後に追徴課税のペナルティを負う可能性もあります。
【関連記事】不動産売却の確定申告、税理士に依頼する費用は?メリット・デメリットも
まとめ
不動産の売却益に対してかかる譲渡所得は、売却価格から取得費および売却費用を差し引いて計算します。
この譲渡所得にかかる譲渡所得税と住民税は、短期所有と長期所有の税率差が約2倍に及びます。長期所有は取得後5年を経過した日の翌年以降の売却が条件となります。
ただし、譲渡所得から差し引くことのできる特別控除や、譲渡所得税を繰り延べることができる特例があります。
これらの特別控除や特例を利用できる場合は、短期所有であっても課税の影響が少ないことも考えられます。長期間所有して売却益が得られなくなったり、売却の目的を達成できなくなったりすることがないように、税金に拘らず売却のタイミングを図るようにしましょう。
また、不動産の取得費に計上できる諸経費については、専門的な税務の知識を必要とします。譲渡所得税の計算において判断に迷う場合には、税理士などの専門家に相談することを検討しましょう。
佐藤 永一郎
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