国土交通省では、中古不動産のマイナスイメージを払拭するために一定の要件を満たした住宅を「安心R住宅」と呼び中古物件の販売環境を整備しています。
安心R住宅の認定には耐震性等の一定の品質を備え、リフォームや過去の点検記録の情報提供が必要となり、認定を受けていない中古不動産と比較して市場価値向上の効果が期待できます。
ただし、安心R住宅として物件を販売するためには、「特定既存住宅情報提供事業者団体」に仲介を依頼、同団体の審査をクリアした場合にロゴマークを付け、住宅の詳しい情報を開示しなければならないなど、手順に沿って売却活動を行う必要があります。
そこでこの記事では、安心R住宅の概要や適用方法に加え、メリット・デメリットをご紹介していきます。
目次
- 安心R住宅とは?概要と目的を解説
1-1.安心R住宅とは
1-2.安心R住宅の要件 - 安心R住宅のメリット
2-1.既存住宅売買瑕疵保険に加入できる
2-2.住宅ローン減税制度や住まい給付金の要件を満たしやすくなる
2-3.購入希望者に安心感を与えられる可能性がある - 安心R住宅のデメリット
3-1.安心R住宅では、1社の不動産会社にしか売却依頼が出来ない
3-2.インスペクションの費用や手続きの手間がかかる - 安心R住宅制度の適用手順
4-1.「特定既存住宅情報提供事業者団体」として登録された団体に仲介を依頼する
4-2.特定既存住宅情報提供事業者団体の審査を受ける
4-3.安心R住宅調査報告書により情報が開示され、ロゴマークを利用できる - まとめ
1.安心R住宅とは?概要と目的を解説
安心R住宅とは中古住宅のうち、耐震性といった基礎的な品質を備え、リフォームを実施済み又はリフォーム提案が付いている等の要件を満たした住宅を指します。
2017年に中古住宅の販売環境の整備を目的として、制度がスタートしました。安心R住宅の概要と適用要件を見ていきましょう。
1-1.安心R住宅とは
国土交通省では、2017年に特定既存住宅情報提供事業者団体登録制度(安心R住宅制度)を開始しました。
安心R住宅とは、耐震性がありインスペクション(建物状況調査等)が行われ、さらにはリフォームや点検等について情報提供が行われる既存の中古住宅を指します。
「安心R住宅」の「R」は、Reuse(再利用、リユース)、Reform(改装、リフォーム)、Renovation(改修、リノベーション)を意味しています。
国土交通省による「安心R住宅制度(特定既存住宅情報提供事業者団体登録制度)」に「特定既存住宅情報提供事業者団体」として登録された団体の不動産業者等が「安心R住宅」を示すロゴマークを付ける事が出来ます。
安心R住宅の認定を受けることで、中古物件に対する耐震基準が古いという不安や、衛生状態への嫌悪感、使用状況等がよく分からないという「不安」「汚い」「分からない」というイメージを払拭する効果が期待できます。
1-2.安心R住宅の要件
「安心R住宅」として認定されるためには一定の要件を満たす必要があります。
- 耐震性等の基礎的な品質を備えている
- リフォームを実施済み又はリフォーム提案が付いている
- 点検記録等の保管状況について情報提供が行われる
なお、細かな適用の基準は団体によって異なるケースがあります。それぞれの団体へ事前確認を行いましょう。
2.安心R住宅のメリット
安心R住宅には、既存住宅売買瑕疵保険への加入、住宅ローン減税制度や住まい給付金の条件を満たしやすくなるといったメリットが存在します。また、情報開示することやロゴマークを付けることで購入希望者に安心感を与えられる可能性もあります。
それぞれのメリットについて詳しく見て行きましょう。
2-1.既存住宅売買瑕疵保険に加入できる
安心R住宅に認定されると国土交通省の指定法人が提供する「既存住宅売買瑕疵保険」に加入する事ができます。既存住宅売買瑕疵保険とは、売却した不動産の保険対象部分に瑕疵(欠陥)が見つかった際に保険金が支払われ補修費用に充てる事ができる保険です
通常、不動産を売却する際に売主には「契約不適合責任」という土地・建物の品質や種類に対して契約の内容に適合しない箇所があった時には補修や代替物等を請求される責務を負います。
雨漏りやシロアリ被害等に関して、契約書の内容と一致しない場合はたとえ売主や仲介業者が気付いていない時でも「契約不適合」と判断され責任を負い、補修や不足分を納品するための費用を負担しなくてはいけません。
しかし、既存住宅売買瑕疵保険に加入することで、住宅の構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分等について瑕疵が発見された際に保険金が支払われます。このように、安心R住宅に認定され保険加入することで、契約不適合責任による損失のリスクを軽減できるメリットがあります。
2-2.住宅ローン減税制度や住まい給付金の要件を満たしやすくなる
住宅ローン減税は毎年の住宅ローン残高の1%を10年間、所得税や住民税から控除することができる制度ですが、中古物件の場合、適用される要件の1つに「既存住宅売買瑕疵保険への加入」があります。
床面積50㎡以上で自己居住用等、他に要件をクリアする必要がありますが、既存住宅売買瑕疵保険へ加入することで耐震基準適合証明書といった耐震基準を証明する書類が必要ありません。
一方、住まい給付金とは、マイホームを購入した方が一定の要件を満たした場合給付金を受け取れる制度です。
こちらも住宅ローンを利用して中古住宅を購入する際、住まい給付金の要件の1つに「既存住宅売買瑕疵保険へ加入するといった売買時に検査を受けていること」という項目があり、要件に当てはまりやすくなります。
購入希望者にとって住宅ローン減税制度、住まい給付金を受け取りやすくなることは大きなメリットと言えるでしょう。
出典:すまい給付金事務局「住宅ローン減税制度利用の要件」
2-3.購入希望者に安心感を与えられる可能性がある
中古住宅購入希望者の中には、国土交通省が「不安」「汚い」「分からない」と表現したように、耐震性や内装等に不安・疑問を抱く方が一定数存在する可能性があります。
「安心R住宅」の標識を付け、安心R住宅調査報告書で情報を開示する事により、購入希望者が耐震性・リフォーム状況・情報の保管と開示という3つの点で安心して購入を検討できるケースがあります。
3.安心R住宅のデメリット
安心R住宅は、上記のようなメリットがある一方で専任媒介契約時しか標識が使えない、インスペクションの費用や手続きの手間がかかるといったデメリットが存在します。
3-1.安心R住宅では、1社の不動産会社にしか売却依頼が出来ない
不動産を不動産会社の仲介により売却する際、一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の3つから売主が選ぶことになりますが、安心R住宅として売却したい場合は標識の利用条件が「専任媒介契約」に限られています。
項目 | 一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 |
---|---|---|---|
複数の不動産会社への依頼 | ○ | × | × |
自分で見つけた買主との単独契約 | ○ | ○ | × |
指定流通機構への登録義務 | 無 | 有 | 有 |
販売活動の報告義務 | 無 | 有 | 有 |
契約期間 | 規制は無し | 3ヵ月以内 | 3ヵ月以内 |
専任媒介契約は、不動産会社の積極的な売却活動が期待できる反面、売却依頼ができる不動産会社が1社に限られてしまうデメリットがあります。
人気エリアでは一般媒介契約の方が高値で売却できる可能性も少なくありません。不動産会社と一般媒介契約を締結したいのであれば、審査を受けクリアした場合でも安心R住宅の標識が使えなくなります。
どちらが良いか迷った場合は、複数の不動産会社の査定が受けられる不動産一括査定サイトの利用を検討してみましょう。不動産一括査定サイトを利用することで、複数社の査定結果を比較し、査定価格の高い不動産会社や、査定根拠をしっかり説明してくれる不動産会社を効率的に探すことが可能です。
事前に不動産査定を受けておく事で不動産の相場感を知ることにもつながります。安心R住宅を適用した際に価格向上の効果が見られるか、売却スピードは速まったのか、事前に相場を知ることで検証できるようになります。
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【関連記事】不動産査定会社・不動産売却サービスのまとめ・一覧
3-2.インスペクションの費用や手続きの手間がかかる
安心R住宅として認定されるためにはインスペクション(建物状況調査等)の必要があり、一般的に平均5~10万円程度の費用がかかります。
また「特定既存住宅情報提供事業者団体」として登録された団体に仲介を依頼し、各種書類を揃え、要件をクリアして初めて認定を受ける流れになるため手続きの手間や時間が必要となります。
ただし、インスペクションは2018年に国土交通省が宅建業法の改正で「既存住宅状況調査の説明義務化」を付け加え、推進していることもあり中古住宅を売却する上で必要性が高まっています。
そのため、安心R住宅の認可を受けない場合でも、インスペクションを行い購入希望者に結果を開示する事で売却活動が有利になる可能性もあります。インスペクションを行うこと自体がデメリットとは言い切れない点に留意しておきましょう。
【関連記事】家の売却、住宅診断(ホームインスペクション)のメリット・デメリットは?
4.安心R住宅制度の適用手順
安心R住宅として認可を受けるためには、「特定既存住宅情報提供事業者団体」として登録された団体に仲介を依頼し、耐震性やリフォームの状況、点検記録等の保管といった要件をクリアしているか、審査を受けます。
基準を満たしていると判断された場合安心R住宅としての認可を受け、「安心R住宅調査報告書」という書類により情報が開示されます。同時にロゴマークを利用することができます。
4-1.「特定既存住宅情報提供事業者団体」として登録された団体に仲介を依頼する
国土交通省に「特定既存住宅情報提供事業者団体」として登録された団体が「安心R住宅」の標章を利用することができます。
物件の売主は特定既存住宅情報提供事業者団体に事業者として登録された社団法人や株式会社に仲介を依頼し、調査・審査を受け、要件を満たしていると判断された結果「安心R住宅」として不動産を売却することができます。
特定既存住宅情報提供事業者団体として登録されている団体は、北海道・宮城県・埼玉・千葉・東京等の首都圏・愛知県・大阪府を始めとした関西圏・岡山・福岡・沖縄と全国各地に存在します。
全日本不動産協会や全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)等の全国各地に支部がある公益社団法人も登録されています。各登録事業者団体へ問い合わせてみましょう。(※国土交通省「登録事業者団体一覧」)
4-2.特定既存住宅情報提供事業者団体の審査を受ける
特定既存住宅情報提供事業者団体に耐震性、リフォーム状況、これまでの記録の保管の3つの要件に関して適合しているかの調査・審査を受け、基準をクリアした際には「安心R住宅」として販売活動が可能となります。
なお、調査・審査の基準について「3つの要件に適合する事」という国土交通省の方針への審査である事は共通していますが、団体により細かな部分で基準は異なります。依頼予定の団体に審査要項について問い合わせてみましょう。
また、マンションの場合は管理規約や長期修繕計画等の書類により、管理組合により適正な管理が行われているかをチェックされます。
4-3.安心R住宅調査報告書により情報が開示され、ロゴマークを利用できる
安心R住宅では情報の開示が要件の1つとなりますので、「安心R住宅調査報告書」という物件の調査結果を示した文書を作成します。
「基準に適合した住宅である」という調査結果を購入希望者に開示することで、物件への信用性が高まる可能性があります。ロゴマークも利用可能となり、「安心R住宅」として販売活動をスタートできます。
5.まとめ
安心R住宅として認可を受ける事で、既存住宅売買瑕疵保険に加入できる、住宅ローン減税制度や住まい給付金の要件を満たしやすくなるといったメリットがある一方で、専任媒介契約でしか標識が使えない、手続きの手間がかかるといったデメリットが存在します。
なお、インスペクションに関しては安心R住宅制度を利用しない場合でも、調査を受ける事で販売活動が有利になる可能性があります。それぞれのメリット・デメリットを考慮し、ご自身の状況と照らし合わせながら様々な売却手段を比較検討してみましょう。
田中 あさみ
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