不動産の所有者が亡くなってしまった際、相続権のある相続人同士で話し合いを行い、不動産を含む遺産分割を行います。
しかし、相続人全員が相続放棄を行ったケースや、相続人が不在の場合には不動産の相続はどのように行われるのでしょうか?
このようなケースでは、家庭裁判所に「相続財産管理人」の選出を申し立てる必要があります。
相続財産管理人とは亡くなられた方(被相続人)の財産を清算し、国庫に帰属させる役割を持つ者を指し、被相続人と利害関係が無く相続を管理するのにふさわしい方や弁護士のような専門職が選ばれる場合もあります。
本記事では、相続人がいないことにお悩みの方向けに、相続財産管理人の役割や選任、その後の流れと相続人がいない不動産の注意点を解説していきます。
目次
- 相続人がいない時は相続財産管理人を選出する
- 相続財産管理人の申し立て・選任、その後の手順
2-1.相続財産管理人の選任の申立
2-2.相続財産管理人の選任
2-3.相続債権者・受遺者への弁済
2-4.相続人捜索の公告
2-5.特別縁故者への財産分与
2-6.相続財産管理人に対する報酬
2-7.予納金の還付
2-8.残余財産の国庫帰属 - 相続人がいない不動産の注意点
3-1.不動産の資産価値を正しく査定する
3-2.国に寄付ができる可能性がある
3-3.相続人がいない時は特別縁故者が不動産を取得する事がある - まとめ
1.相続人がいない時は相続財産管理人を選出する
相続の際には、第1に亡くなられた方(被相続人)の子供・孫、第2に父母や祖父母等の直系尊属、第3に兄弟・姉妹(兄弟姉妹が既に亡くなっている際には、兄弟姉妹の子供)が相続人となり、配偶者は常に相続人となります。
第1順位の方がいない時は第2順位が、第2順位の方がいない時には第3順位の方が相続人となり、内縁関係の人は、相続人に含まれません。ただし、相続人と長い間同居していたり、療養看護に努めていたケース等では、「特別縁故者」として財産分与がされる場合もあります。
続人の存在が明らかでないときや相続人全員が相続を放棄し、相続する者がいなくなった時には家庭裁判所に申し立て、「相続財産管理人」を選出する手続きを行います。
相続財産管理人は被相続人(亡くなった方)に債務がある場合、債権者に対して清算を行い、残った財産を公庫に帰属させる役割を果たします。
相続財産管理人に資格は必要ありませんが、被相続人との関係や利害関係の有無などを考慮して、相続財産を管理するのに最も適任と認められる人が選ばれます。弁護士、司法書士等の専門職が選ばれるケースも存在します。
2.相続財産管理人の申し立て・選任、その後の手順
相続人が不在で相続財産管理人を申し立て、選任した場合には以下のような流れとなります。
- 相続財産管理人の選任の申立
- 相続財産管理人の選任
- 相続債権者・受遺者への弁済
- 相続人捜索の公告
- 特別縁故者への財産分与
- 相続財産管理人に対する報酬
- 予納金の還付
- 残余財産の国庫帰属
2-1.相続財産管理人の選任の申立
被相続人の債権者や特別縁故者等、財産の利害関係人や検察官が被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。
申立てには家庭裁判所のサイトから申立書をダウンロードし、被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本、不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)といった財産を証明する書類等の添付書類が必要となります。
その他、収入印紙800円分、連絡用の郵便切手、官報公告料4230円、財産を管理するために費用が必要な場合は予納金が費用としてかかります。
2-2.相続財産管理人の選任
申立から2ヶ月以内程度で、家庭裁判所は、相続財産管理人選任の審判を行います。相続財産の管理人が選任されたことについて官報で公告を行い、公告後、2ヶ月間相続人の申し出が無い場合は相続債権者・受遺者への弁済手続きに入ります。
相続財産管理人は財産目録を作成、財産の管理・清算を行います。
財産管理人は必要があれば家庭裁判所の許可を得て被相続人の不動産や株を売却し金銭に換えることもできますが、空き家の除却や任意売却を行う権限は持っていません。
2-3.相続債権者・受遺者への弁済
公告で相続人が明らかにならなかった場合、家庭裁判所は、相続の債権者・受遺者(財産を受け取る人)に対し請求や申出の公告・催告を行います。その後、相続債権者・受遺者への弁済を行います。
2-4.相続人捜索の公告
弁済を行った後に残った財産がある場合、家庭裁判所は申し出の無かった相続債権者・受遺者に対し6ヶ月間捜索の公告を行います。公告から6ヶ月経過しても相続債権者・受遺者から申出が無かった場合、相続人不存在が確定します。
2-5.特別縁故者への財産分与
公告後、自らが特別縁故者であると申し出た方がいた場合に財産分与を行います。
2-6.相続財産管理人に対する報酬
財産分与が終了した後、相続財産管理人は家庭裁判所に報酬を付与するよう申立を行います。
相続財産が少なく報酬が支払えないと見込まれる際には、申立人から報酬相当額を家庭裁判所に納めてもらい財産管理人の報酬にする可能性があります。
2-7.予納金の還付
相続財産管理人に対する報酬が付与された後、なお残余財産があれば、申立人に還付されます。相続財産が十分あれば全額還付されますが、不足する場合は残額の範囲で還付されます。
2-8.残余財産の国庫帰属
還付後、なお残余財産があった場合、相続財産管理人は国庫に帰属させる手続きを行い、管理は終了となります。
3.相続人がいない不動産の注意点
最後に、相続人がいない不動産の注意点について解説します。それぞれ詳しくみていきましょう。
3-1.相続不動産の資産価値を正しく査定する
不動産を含む資産の相続人が相続放棄してしまうのは、被相続人に大きな借り入れがあったり、不動産の資産価値が乏しく相続することの負担が大きいなど、相続によるプラス面よりもマイナス面が大きい時に起こります。
しかし、不動産の実勢価格(実際に売買される取引価格)は、国が評価している固定資産税の評価額よりも高額になる傾向があります。また、現在は空き屋になっていても、賃貸や太陽光発電などの収益目的で取引される可能性があります。
そのため、不動産相続が発生した段階で複数の不動産会社による不動産査定を受け、実際に売却するとどのような価格になるのか調査し、本当に相続放棄すべき資産なのか確認しておくことが大切です。
複数の不動産会社の査定を比較するのであれば、「不動産一括査定サイト」の利用を検討してみましょう。不動産一括査定サイトでは、物件情報を一度登録することで、査定価格や査定の根拠、各社の対応内容を比較することが出来ます。
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3-2.国に寄付ができる可能性がある
相続人が相続を放棄した、又は相続人がいない不動産は寄付を行う事が出来るケースがあります。
財務省では不動産の寄付の申出があった場合、官公庁が国の行政目的として取得しようとする場合には、法律に基づき財務大臣と協議を行います。寄付を受け入れる事が決定した際には取得の手続きを行います。
なお、行政目的で使用する予定のない土地や建物の寄付については、国民の税金から捻出される維持・管理コストが増大する可能性があることから、受け入れていません。
寄付を受け入れる不動産の要件としては、売却や譲渡が容易である、適切な管理が行われて
いる、周辺環境に問題がない等となっています。(※財務省管財局「引き取り手のない不動産への対応について」を参照)
3-3.相続人がいない時は特別縁故者が不動産を取得する事がある
相続人がいない時には、被相続人と縁がある特別縁故者が不動産を取得できる可能性があります。
上記の流れで特別縁故者が申し出を行い、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者等が該当し、いわゆる内縁の夫や妻も特別縁故者に該当します。
家庭裁判所から「特別縁故者として財産を受け取る権利がある」と判断された場合には、財産の全部または一部が分与されます。法務局で相続財産管理人との共同登記という形で所有権移転登記の手続きを行い、不動産を引き継ぎます。
まとめ
相続人が不在のケースでは、家庭裁判所に申し立て、相続財産管理人を選出、債権者や受遺者への弁済を行った後、6ヶ月間申し出の無かった債権者や受遺者に対して捜索の公告を行います。
特別縁故者がいた場合には財産を分与、相続財産管理人に対する報酬が支払われます。残余財産があれば申立て人の予納金が還付され、さらに財産が残った場合には国庫に帰属されます。なお、行政の目的として使用できる不動産の場合、上記のような手続きを経ずに国に寄付を行う事が可能です。
また、不動産相続が起きた場合、まずは不動産査定を行うことも重要なポイントとなります。手順や注意点、それぞれポイントに気を付けながら、状況に合った方法を選択しましょう。
田中 あさみ
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