不動産投資の建物部分を法人名義にするメリット・デメリットは?注意点も

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法人名義で不動産投資をおこなうスキームには、複数の形態があります。その中でも、しばしば利用されるのが、建物部分を法人名義にする形態です。

この形態は、オーナー個人の所有ではなくなり、不動産所得が法人に帰属することになります。しかし、相続時に個人だと利用できる制度が適用できなかったり、借地権の認定課税など注意すべき点があります。

本記事では、建物部分を法人名義にして不動産投資をおこなう形態のメリット・デメリット、注意点について解説していきます。

目次

  1. 不動産投資で建物部分を法人名義にするメリット
    1-1.法人の所得が多くなり、税率差メリットを受けやすくなる
    1-2.法人の所得が多くなり、所得分散による税額の軽減を受けやすくなる
    1-3.法人の所得が多くなり、経費計上による税額軽減メリットを受けやすくなる
  2. 不動産投資で建物部分を法人名義にするデメリット
    2-1.オーナー個人の可処分所得が減少する
    2-2.個人所得と法人所得との区分計算が複雑になる
    2-3.既存建物を法人に移転する場合、移転コストや手間がかかる
  3. 不動産投資で建物部分を法人名義にする場合の注意点
    3-1.借地権の認定課税を避けるため、無償返還届を提出する
    3-2.土地オーナーと建物所有法人との間の貸借契約に注意する
  4. まとめ

1.不動産投資で建物部分を法人名義にするメリット

法人名義で不動産投資をおこなう形態は、不動産を法人で所有する所有型、管理のみを法人でおこなう管理型、一括転貸をおこなうサブリース型などのパターンがあります。

不動産投資で建物部分を法人名義にすると、その建物から生じる不動産収入は原則としてすべて法人に帰属することになります。一方、管理型の法人では、オーナーが支払う管理料が法人の所得となり、サブリース型の法人では、借り上げ料と家賃収入との差額が法人の所得となります。

このように、建物を法人名義にする所有型では、管理型やサブリース型の法人に比べ、法人の所得が多くなるといえます。

1-1.法人の所得が多くなり、税率差メリットを受けやすくなる

不動産投資を法人名義でおこなうことのメリットの一つに、個人と法人の税率差があります。所得税は所得が上がるにつれて税率も上がる仕組みになっており、最大45%(住民税10%)まで税率が上がってしまいます。(※参照:国税庁「所得税の税率」)

一方、法人税の実効税率29.74%(法人住民税を含む)です。所得規模が大きくなるほど、個人よりも法人の税率が低くなり、税率差によるメリットを受けやすくなります。建物部分を法人名義にすると、法人の所得が多くなるため、個人と法人の税率差メリットをより受けやすくなるといえます。(※参照:国税庁「法人税の税率」)

1-2.法人の所得が多くなり、所得分散による税額の軽減を受けやすくなる

法人を設立すると、法人から役員に適正な役員報酬を支払って、不動産収入の所得分散を図ることが可能です。また、役員報酬は給与所得控除の適用を受けることができます。

建物部分を法人名義にする所有型法人では法人の所得が多くなるため、法人の所得に応じて役員報酬の適正額も大きくなる傾向があります。このように、所得分散によって個人がまとめて不動産所得を得る場合よりも、課税対象の所得を圧縮する効果を得られます。

1-3.法人の所得が多くなり、経費計上による税額軽減メリットを受けやすくなる

法人の場合は、法人では個人よりも経費として認められる範囲が広く、事業に必要な支出であれば損金計上が認められます。一方、個人では、家事費及び家事関連費を必要経費から除外することとなっているため、法人と比較して損金計上できる項目は限定的です。

また、法人の場合、減価償却費を限度額の枠内で任意に計上額を調整することが可能です。減価償却費の計上による損益通算をコントロールしやすい制度になっているといえます。(※法人税法31条)

建物部分を法人名義にする所有型法人では法人の所得が多くなるため、このような減価償却費の損益通算を、より行いやすくなるといえるでしょう。

2.不動産投資で建物部分を法人名義にするデメリット

建物所有型法人の不動産投資では、法人の所得が多くなるため、オーナー個人の所得は少なくなります。個人所得と法人所得との区分計算も、法人に移転する所得が多い分、複雑になるといえます。その他、既存建物を移転する場合の移転コストの観点からデメリットがあります。

2-1.オーナー個人の可処分所得が減少する

前述したように、建物部分を法人名義にする所有型法人では、建物から生じる不動産収入の大部分が個人に帰属する管理型やサブリース型の法人と比較すると、不動産収入がオーナー個人に帰属しにくくなります。

オーナーの所得は、建物を所有している法人からの地代、法人の役員となっている場合はその役員報酬のみとなり、オーナー個人の可処分所得は減ることになります。

2-2.個人所得と法人所得との区分計算が複雑になる

法人を設立すると、いったん法人に入った家賃収入を、各関係者に分散させる区分計算が日常的に必要になります。

建物部分を法人名義にする所有型法人では、法人の役員には役員報酬を支払い、かつ、建物の底地オーナーには、地代を支払うという計算をおこない、実際に定期的に支払わなければなりません。

個人と法人との資金管理を区分して、それぞれの業務について支払った経費を計算する必要もあります。建物所有型法人では、法人に帰属する収入が大きくなるため、これらの区分計算もより複雑になるといえるでしょう。

2-3.既存建物を法人に移転する場合、移転コストや手間がかかる

既存建物を個人から法人に移転する場合、移転するには、税金や登記手数料などのコストがかかります。

また、既存建物を譲り渡した個人には時価と帳簿価額との差額がプラスであれば、譲渡所得課税が課され、譲り受けた法人側では不動産取得税が課されます。

譲渡所得課税は、譲渡益に対して短期所有で39.63%、長期所有でも20.315%の税率が適用されるため、大きな負担になりかねません。また、移転価格となる時価の算定や、売買契約書の作成などの手間がかかるのも、デメリットと言えます。

3.不動産投資で建物部分を法人名義にする場合の注意点

建物所有型法人では、建物とその底地のオーナーが異なるため、借地権の認定課税や貸借契約に関連する問題に注意する必要があります。

3-1.借地権の認定課税を避けるため、無償返還届を提出する

法人税では、土地の賃貸借について、原則として権利金等の一時金の収受があることを前提としています。そのため、建物部分を法人名義にする所有型法人では、法人側に借地権が移動したとみなされ、権利金の支払いがない場合であっても、借地権相当額が受贈益として課税されることになります。

このような借地権の認定課税を避けるため、「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出します。これは、将来、借地人が底地のオーナーに無償でその土地を返還することを定める契約書になります。この届出をおこなっている場合、借地権の認定課税はおこなわれません。

3-2.土地オーナーと建物所有法人との間の貸借契約に注意する

建物所有型法人では、建物の底地オーナーと貸借契約を締結することになります。貸借契約の形態としては、賃貸借契約あるいは使用貸借契約が考えられます。

使用貸借契約とは、地代の支払いをしないか、地代の額を固定資産税・都市計画税の合計額相当額までに抑えた契約です。これに対し、賃貸借契約では、相当の地代(固定資産税相当額の概ね3~5倍)を底地オーナーに支払う契約です。

使用貸借契約を締結すると、オーナー個人に所得が還流するのを避けることができますが、相続時の土地評価は、自用地(土地の財産評価額の100%評価)として、評価されることになります。これに対し、賃貸借契約を締結して、相当の地代をオーナーに支払うことで、相続時には貸宅地として、土地の財産評価額の20%減の適用を受けることができます。(※参照:国税庁「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」)

法人所有を検討している不動産の相続を予定しているのであれば、賃貸借契約の形態を採ることを検討してみましょう。

まとめ

建物所有型法人の不動産投資では、建物から生じる不動産収入のすべてが、原則として法人に帰属するため、法人の所得が多くなります。このことから、オーナー個人の課税対象となる所得を圧縮できるメリットがあるといえます。

しかし、その反面、個人の可処分所得が少なくなり、法人との区分計算が複雑になるデメリットがあります。また、建物とその底地のオーナーが異なるため、借地権の認定課税や貸借契約に関連する問題には注意が必要です。

それぞれのメリット・デメリット、注意点を理解した上で、オーナーの事情に適した選択をするようにしましょう。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。