不動産の災害対策に対する評価・認証制度としてResReal(レジリアル)が創設され、2023年3月より認証結果の公表が始まっています。台風や地震・津波など災害リスクの高い日本でサステナブルな不動産経営や投資を行ううえでは、災害に対するレジリエンスがとりわけ重要です。
ResRealの普及を通じて、不動産の災害対策の強化が進み、また災害に対するレジリエンスが公平に評価されるようになると期待されます。今回は、ResRealの概要や評価制度について事例なども踏まえながら紹介していきます。
目次
- ResReal(レジリアル)とは?
1-1.ResRealが開始された背景 - ResReal(レジリアル)評価・認証方法の概要
2-1.5つの基本的な評価項目
2-2.5段階の認証グレード
2-3.評価・認証体制 - ResReal(レジリアル)水害の認証事例
3-1.東急不動産株式会社|渋谷南東急ビル
3-2.産業ファンド投資法人|IIF 品川データセンター
3-3.清水建設プライベートリート投資法人|横浜アイマークプレイス - まとめ
1 ResReal(レジリアル)とは?
ResReal(レジリアル)は、不動産の災害に対するレジリエンスを定量的に評価するために創設された制度です。(※参照:「ResReal(レジリアル)」)
一般財団法人日本不動産研究所や株式会社イー・アール・エス、野村不動産投資顧問株式会社など多数の不動産や不動産投資関連の企業からなる「不動産分野におけるレジリエンス検討委員会(D-ismプロジェクト)」が制度の運営や認証などを手がけています。
レジリエンスとは「回復力」や「しなやかさ」という意味合いで用いられます。一方で「強靭性」「耐久力」といったような訳を与えられる場合もあります。日本語では一見相反するようにみえる訳が与えられるのが特徴ですが、今回の文脈では「災害時に対する被害を抑え、また速やかに回復する性能」を意味します。
2023年1月に認証作業を開始したばかりの新しい制度で、2023年9月時点においては水害に対する認証だけを行っています。将来的には、以下6つの災害に対するレジリアルを評価する制度となる予定です。
- 水害(Flood)
- 高潮(Storm Surge)
- 地震・津波(Earth quake)
- 土砂災害(Landslide)
- 噴火(Eruption)
- 熱波(Extreme)
※出所:ResReal「ResRealの概要」(日本語訳は筆者がロゴや概要の記載内容も踏まえて作成)
1-1 ResRealが開始された背景
不動産において、災害へのレジリエンスはサステナブルな社会を実現するうえで重要な課題の一つです。
災害によって甚大な被害を受ければ、人々に多大な被害が出るのはもちろん、その地域の都市機能や経済に対しても大きな打撃となり、持続的な社会は成り立たなくなってしまいます。災害の被害を回避・緩和し、早期に復旧できる仕組みを整備することが重要といえます。
日本は、もともと地震や台風など一部の災害リスクが高い地域です。地球温暖化の進行に伴い、高温や豪雨などのリスクがさらに高まる可能性もあります。日本でサステナブルな社会を実現するうえで、災害に対するレジリエンス強化はとりわけ重要な課題の一つです。
ResRealは、このような状況において、不動産の災害に対するレジリエンスを定量的に計測・評価し、不動産の価値に反映する仕組みを形成する目的で創設されました。不動産の災害へのレジリエンスを可視化することで、不動産におけるレジリエンス強化の動きを加速させる狙いがあるのです。
2 ResReal(レジリアル)評価・認証方法の概要
ResRealでは、すでに水害(Flood)の項目での評価や認証が始まっています。ここからは水害を例にとって評価や認証制度の概要をみていきましょう。
2-1 5つの基本的な評価項目
ResRealでは、建物の災害に対するレジリエンスを次の5つの評価項目から評価する仕組みとしています。立地や建物といったハード面だけでなく、災害時の備蓄、防災訓練の実施状況などのソフト面も考慮して評価を行う方針です。
- 先進性
- 代替性
- 即応性
- 冗長性
- 頑強性(立地・建物)
※出所:ResReal「ResRealの概要」
先進性では、文字通り先進的な災害に対する適応力や耐久力などの向上に役立つ取り組みが評価されます。水害の場合は雨水貯留機能の設置や地域連携の取り組みなどを評価する項目です。
代替性は、被災により本来の機能が失われたときに、代替で利用できる設備がどの程度充実しているかを評価します。たとえば、住民が利用できる小型発電機や災害用トイレの準備状況などが着眼点です。
即応性は、被災時に即座に適切な行動を取って被害を軽減・回避する対策が取れているかをみるものです。たとえば、定期な災害訓練の実施や、災害発生時の行動や役割を時系列ごとにまとめたタイムラインの整備などが当てはまります。
冗長性は、建物が被災して機能不全となるリスクを回避するための性能の高さを意味します。たとえば、発電機能や蓄電機能を高めて停電発生時でも建物全体に長時間電力を供給する仕組みなどは、冗長性の向上に繋がるでしょう。
最後に頑強性は、建物と立地からみる災害リスクの高さや防災能力を評価します。建物についてはその構造により評価が変化しますが、立地はその建物がある場所の災害リスクに応じて自動的に決定するとの方針です。
このようにハード面だけでなくソフト面も評価する評価体系であることから、新たな設備・機能の設置や災害訓練などの対策実施を通じて、一度評価を取得した後でも評価を改善させられる場合もあります。
2-2 5段階の認証グレード
5つの評価ポイントを点数化して、合計点で災害に対するレジリエンスの総合評価とします。合計点からグレードを以下の5段階に分けて認証を行います。
グレード | スコア | 評価 |
---|---|---|
Platinum(★★★★★) | 90点以上 | レジリエンスが極めて高い |
Gold(★★★★) | 80点以上90点未満 | レジリエンスが大変高い |
Silver(★★★) | 65点以上80点未満 | レジリエンスが高い |
Bronze(★★) | 45点以上60点未満 | レジリエンスがやや高い |
Standard(★) | 15点以上45点未満 | レジリエンスが一般的 |
※出所:ResReal「ResRealの概要」
ResRealの認証取得者は評価のメニュー(水害など)、評価グレードおよび星、評価の取得年から構成される評価ラベルを提示することが可能です。
2-3 評価・認証体制
ResRealでは、グレードや星を最終的に付与する主体である「認証機関」が一般財団法人日本不動産研究所となっています。日本不動産研究所は、不動産の価値評価全般や、価値向上・再開発などの支援、まちづくりなど地域振興の支援などを不動産分野の専門性を活用して行う団体です。
実際に災害に対するレジリエンスの評価は、株式会社ERSや株式会社建設技術研究所が主に担います。ERSは不動産のリスクマネジメントに対する支援やコンサルティングを主要事業の一つとして行う企業です。建設技術研究所は、建設に関するコンサルティングや技術開発などを推進する企業となっています。
以上の団体や企業が主となり、外部委員からなるアドバイザリー委員会及びレジリエンス評価改訂部会と連携しながら評価や認証を進めています。
3 ResReal(レジリアル)水害の認証事例
ResReal(レジリアル)は2023年9月24日時点で12件の認証事例が確認できます。そのなかで3つの事例を紹介していきます。(※出所:ResReal「認証事例」)
3-1 東急不動産株式会社|渋谷南東急ビル
渋谷駅の新南口から徒歩3分の距離にあるオフィスビルで、渋谷駅周辺の再開発を手がける東急不動産が所有するビルの一つです。また、ResRealにおいてもっとも早い時期に認証を獲得したビルでもあり、認証グレードは上から2番目の「Gold」となっています。
こちらのビルは再生可能エネルギー100%で機能する設備を有しており、非常用発電機なども整備されています。被災に伴う停電時などにもライフラインの維持や早期復旧が図れます。
※参考:ResReal「認証事例」、東急不動産「渋谷南東急ビル」
3-2 産業ファンド投資法人|IIF 品川データセンター
ResRealではデータセンターなどの産業用施設の認証もおこないます。こちらのデータセンターは品川区の西大井に位置する施設で、2023年3月に「Silver」の認証を受けていて、渋谷南東急ビル同様最初に認証された不動産の一つです。
品川区のなかでは内陸部に位置し、海岸線・多摩川などからも一定の距離があります。産業ファンド投資法人においても「災害復旧への対応力に優れ、重要なデータの保管に有効」と紹介しています。
また、非常用自家発電設備やUPSを配備することにより、被災時の停電下でもデータを保護する性能が高い設備となっています。UPSとは、予期せぬ停電や電源異常が発生したときにも電力供給を継続し、機器やデータを保護する設備です。
データセンターであるため、大切なデータを保護することに主眼を置いた災害対策をおこなっています。
※参考:ResReal「認証事例」、産業ファンド投資法人「IIF 品川データセンター」
3-3 清水建設プライベートリート投資法人|横浜アイマークプレイス
2023年8月に「Gold」の認証を取得した横浜のオフィスビルです。延床面積97,248.00平方メートルのビルで、2023年9月時点ではResReal認証を取得したビルのなかで、延床面積でみると最も大規模な不動産です。横浜のみなとみらい地区に位置しています。
こちらのビルにおいては、地下フロアをあえて設置せず、1階を通常より高い位置に設定することで水害および津波のリスクを緩和しています。
また、15VA/平方メートルの非常用電源を建物の屋上に設置し、被災時には72時間にわたり電力供給ができる仕組みです。メインの電源も屋上の設置することで、水害などによる損傷リスクを最小化しています。
※参考:ResReal「認証事例」、清水建設「ecoBCPの考えをもとに地震防災技術のさらなる向上へ」
4 まとめ
ResRealは2023年3月から認証物件が出始めたばかりの新しい災害に対する認証制度です。2023年9月時点ではまだ水害に対する評価のみが行われていますが、随時評価メニューが拡充され、最終的には主要6つの災害すべての認証が行われる予定となっています。
ResRealが普及すれば、不動産のサステナビリティにおいて重要な災害に対するレジリエンスの質の高さを公平に不動産の価値評価に加味できるようになります。さらに、目に見える認証という形で評価結果を付与することで、各社において災害レジリエンスの強化も推進されていくでしょう。
ResRealを通じて、日本の各都市が災害に強いまちへと進化していくことが期待されます。
伊藤 圭佑
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