食品やエネルギー価格の上昇を背景に、「物価高」や「インフレ」という言葉を目にする機会が増えています。こうしたなか、「インフレに強い資産」として注目を集めているのが不動産です。しかし、物価の上昇に合わせて、家賃は実際に上がっているのでしょうか。
本コラムでは、家賃とインフレの関係について、公的統計のデータを用いて検証します。投資判断の参考としてご活用ください。
目次
- 不動産が「インフレに強い」と言われる理由
- 家賃が上がるにはラグがある
2-1.借地借家法が賃料上げを抑制する
2-2.契約期間中は家賃を変更しにくい
2-3.退去につながる可能性がある - 全国平均と東京における動向は異なる
- 物件タイプでインフレ耐性は変わる
4-1.ファミリータイプは家賃を上げやすい
4-2.ワンルーム投資はインフレに弱い
4-3.築古物件は収益が圧迫される
4-4.高所得者層向け物件の家賃は上昇しやすい - インフレ時代に適した賃貸物件とは?
- まとめ
1 不動産が「インフレに強い」と言われる理由
一般に、不動産は物価が上昇するインフレ局面においても資産価値が下がりにくい資産とされています。その代表的な理由として、次の5点が挙げられます。
- 家賃収入がインフレに伴って上昇する可能性がある
- 現物資産であり、価値がゼロになりにくい
- 建築費の高騰により、既存物件の価値が上がりやすい
- 借入金の実質的な負担が軽くなる
- 株式と比べて価格変動が緩やかな傾向がある、など
このうち、不動産投資を行うオーナーにとって特に関心が高いのは、家賃と物価の関係でしょう。家賃が実際にどの程度上昇しているのかを確認するため、総務省統計局が公表する消費者物価指数(CPI)をもとに整理したものが以下の表です。
| 項目 | 2018年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 総合 | 99.5(1.0) | 100.0(0.0) | 99.8(-0.2) | 102.3(2.5) | 105.6(3.2) | 108.5(2.7) | 111.9(3.2) |
| 民営家賃(全国) | 100(-0.2) | 100.0(0.0) | 99.9(-0.1) | 99.9(0.0) | 100(0.1) | 100.3(0.3) | 100.7(0.5) |
※引用:e-Stat「2020年基準消費者物価指数」より抜粋
2020年を100.0とした指数で示しており、総合指数は2022年以降、102.3、105.6、108.5、111.9と上昇を続けています。
一方、民営家賃(全国)は2023年以降に緩やかな上昇傾向がみられ、2024年は100.3、2025年は100.7となっています。
このように、物価と家賃には一定の関係性が認められるものの、両者の動きが完全に一致しているわけではありません。その要因となるのが、「上昇にラグがある」「エリアによって異なる」「物件タイプによって異なる」という3つの観点です。次項以降で順に見ていきます。
2 家賃が上がるにはラグがある
表が示すとおり、家賃は物価の上昇に合わせて上昇しているものの、その動きに完全には追随していません。物価が2022年に上昇傾向を強めたのに対し、家賃指数に上昇が現れ始めたのは2023年です。つまり、家賃は物価の上昇に遅れて上昇する傾向があるといえます。
この背景には、主に次の3つの要因が考えられます。
2-1 借地借家法が賃料上げを抑制する
賃貸物件の家賃は基本的にオーナーが設定できますが、その変更については「借地借家法」によって一定のルールが定められています。これを「借賃増減請求権」といいます。
建物の賃料の増減は第32条で認められていますが、その基準となる考え方は、土地に関する第11条にも示されています。すなわち、「土地や建物に対する税負担の増減」「物価をはじめとする経済事情の変動」「周辺相場とのかい離」などが生じた場合に、貸主・借主の双方が賃料の増減を請求できるとされています。
(地代等増減請求権)
第十一条 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
※引用:e-Gov法令検索「借地借家法」
これは、オーナーが家賃を引き上げるにあたって、周辺家賃との比較や固定資産税の上昇、建物維持費の増加といった「正当な理由」が求められることを意味します。そのため、「借主の同意が得られない」「値上げ幅が大きい」「相場とかけ離れている」といった事情がある場合には、家賃の引き上げが成立しないこともあるのです。
2-2 契約期間中は家賃を変更しにくい
日本の賃貸住宅では契約期間を2年とする例が多く、これも家賃の上昇に時間を要する要因の一つです。契約期間中にオーナーが家賃の変更を求めることは、実務上難しいためです。
実際に家賃が変更されるのは、契約更新時や入居者の入れ替え時が一般的です。そのため、食品やガソリンのように価格へ即座に反映されるのではなく、数か月から数年のラグが生じることになります。
2-3 退去につながる可能性がある
オーナーが家賃の引き上げに慎重になる背景には、退去リスクへの配慮もあります。とりわけ競争の激しいエリアでは、数千円の値上げであっても、入居者がより条件の良い物件へ移ってしまう可能性があるためです。
空室が発生すれば、その間の家賃収入が途絶えるだけでなく、新たな募集費用や原状回復費も生じます。そのため、物価や維持費が上昇していても、オーナーが容易に家賃を引き上げられないケースは少なくありません。
加えて、日本では実質賃金の伸びが限定的であり、入居者の支払い能力にもおのずと限界があります。こうした事情に配慮し、オーナーが家賃を据え置く例もみられます。これもまた、物価の上昇に家賃が連動しにくい理由の一つといえるでしょう。
3 全国平均と東京における動向は異なる
家賃と物価の関係を考えるうえでは、「東京」と「そのほかの地域」との違いにも着目する必要があります。エリアによって、インフレ耐性が異なるためです。
以下は、前述の「民営家賃の物価指数(全国)」に「民営家賃の物価指数(東京都区部)」を加えて整理した表です。
| 項目 | 2018年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 民営家賃(全国) | 100(-0.2) | 100.0(0.0) | 99.9(-0.1) | 99.9(0.0) | 100(0.1) | 100.3(0.3) | 100.7(0.5) |
| 民営家賃(東京都区部) | 99.4(0.1) | 100.0(0.2) | 100.2(0.2) | 100.3(0.1) | 100.3(0.0) | 100.9(0.6) | 102.5(1.6) |
※引用:e-Stat「2020年基準消費者物価指数」
表が示すとおり、全国ベースの家賃指数が2023年から上昇しているのに対し、東京都区部では2018年の時点から上昇が始まっています。また2025年の数値を比較すると、全国の100.7に対して東京都区部は102.5となっており、上昇開始の時期が早いだけでなく、上昇幅も大きいことがわかります。
東京が物価に連動しやすい要因としては、人口流入が続く一方で物件が供給不足に陥っていること、人件費の高騰などにより建築費が上昇していること、分譲マンション価格が高騰していることなどが挙げられます。
これに対し、人口減少が進む地方では空室率が高く、物価が上昇しても家賃を引き上げにくいケースが少なくありません。このように、家賃を上げやすい地域と上げにくい地域が併存するため、全国平均でみると家賃の上昇にラグが生じるのです。
4 物件タイプでインフレ耐性は変わる
3つ目の観点は、物件タイプによってインフレ耐性が異なる点です。たとえば、ファミリー向け物件は供給が不足気味であるため、家賃を引き上げやすい傾向があります。一方で、築古物件は競争が激しく、物価が上昇しても家賃へ転嫁しにくいとされています。
物件タイプと物価上昇との関係について、以下で具体的に整理します。
4-1 ファミリータイプは家賃を上げやすい
ファミリータイプはインフレ耐性が高いとされます。その背景には、分譲マンション価格の高騰により、購入から賃貸へと流れる層が一定数存在することがあります。また、ファミリー層は通勤や学区を重視する傾向があり、転居が起こりにくいため、家賃を引き上げやすいという事情もあります。
4-2 ワンルーム投資はインフレに弱い
ワンルーム投資は、インフレに弱いとされることがあります。単身者向け物件は供給数が多く、競争が激しいためです。とりわけ競合物件が多い地域では、空室リスクを避ける観点から、家賃への転嫁を控える傾向があると考えられます。
ただし、修繕費や管理費、金利などのコストは上昇するため、家賃を据え置くことで実質的な利回りが悪化しやすいというリスクも併せ持っています。
4-3 築古物件は収益が圧迫される
築古物件は、インフレ局面で収益が圧迫されやすい傾向があります。競争力が弱く家賃を引き上げにくい一方で、物価の上昇によって修繕費や水道光熱費、管理費などの経費が膨らむためです。その結果、表面利回りは高くみえても、実際の収益性は低下していく可能性があります。
4-4 高所得者層向け物件の家賃は上昇しやすい
高所得者層を対象とした賃貸物件は、物価の上昇に合わせて賃料が上がりやすい傾向があります。高所得の入居者は、家賃の上昇に対応できるだけの収入を有していると考えられるためです。また、家賃水準が高いほどブランド価値も高まりやすいという側面もあります。
近年は、建築資材や土地価格の高騰などを背景に、高級賃貸市場の家賃が押し上げられています。新築物件の供給が限られていることから希少性も高まっており、とりわけ都心部では、今後も賃料の上昇が続くとみられています。
5 インフレ時代に適した賃貸物件とは?
不動産はインフレに強いとされますが、これまで見てきたとおり、物価の上昇と収益が連動する物件はむしろ限定的といえます。したがって、インフレ時代の不動産投資においては、「どのような物件を保有するか」がこれまで以上に重要になります。
代表的なポイントは次のとおりです。
- 人口流入が続く東京23区や再開発エリア
- 供給の少ないファミリー向け物件
- 新築・築浅物件
- 高所得者層向け物件、など
また、インフレ局面ではローン戦略も重要となります。固定金利で借り入れていれば、物価の上昇によって借入金の実質的な負担が軽くなる可能性があります。ただし、金利上昇局面では返済負担が増えるリスクもあるため、過度なレバレッジには十分に注意する必要があります。
まとめ
不動産がインフレに強いとされるのは、物価の上昇に合わせて資産価値や家賃収入が上がる可能性があるためです。とりわけ賃貸物件では、長期的にみれば家賃が上昇し、安定した収益につながる場合もあります。
ただし、不動産であれば必ず資産価値が上がるわけではありません。人口減少が進む地域や需要の弱いエリアでは、インフレ下でも収益が伸び悩む可能性があります。さらに、金利の上昇によってローン負担が増えたり、資産価値が下落したりするリスクも存在します。
本コラムでは、不動産がインフレに強いとされる理由を整理するとともに、家賃と物価の関係を詳細に分析しました。ご自身の投資や賃貸物件の経営にお役立ていただければ幸いです。
倉岡 明広
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