「分断する」経済から「つながる」経済へ。アフターコロナの世界とサステナビリティ

※本記事は IDEAS FOR GOOD Business Design Lab のニュースレター4月号でお送りしたIDEAS FOR GOOD編集長コラムの内容を一部編集のうえ掲載したものです。

世界中で猛威をふるい、私たち人類を終わりの見えない恐怖と不安に陥れている、新型コロナウイルス。IDEAS FOR GOODではこれまでにも #ShareTheLightSide を合言葉に、未曽有のパンデミック状況下においても希望を捨てず、コロナと立ち向かっている素敵なアイデアを世界中から集め、ご紹介してきました。

新型コロナウイルスがいつ収束するのか、今のところそれは誰にも分かりません。4月15日には、断続的なソーシャルディスタンシングの必要性は2022年まで続くかもしれないというハーバード大学の研究も出ています。とても不確実な未来が私たちを待ち受けていますが、一つ言えることは、現在も含めてコロナが蔓延した後の時代、いわゆる「AC(アフターコロナ)」の時代は、「BC(ビフォーコロナ)」とは人々の暮らし方や価値観が大きく変わっているということです。

アフターコロナの世界はサステナビリティの観点から考えたときにどのような変化が起こっていくのか。私たちはコロナをよりよい社会をつくっていくための契機としてどのように活用し、どのような未来を目指していくべきなのか。本記事では、その未来を「環境」「社会」「経済」という3つの視点から希望的観測も込めて推察していきます。

Planet after Corona(環境問題とアフターコロナ)

コロナは環境問題に対しても多大な影響をもたらしています。今回は喫緊の環境課題の中からいくつかのテーマを取り上げ、コロナの影響とアフターコロナの世界を模索します。

コロナは気候危機を加速させるリスクがある

コロナが気候危機にもたらす影響については世界中で様々な議論が交わされています。New York Times紙は、3月27日付で “What the Coronavirus Means for Climate Change” という題名でオピニオンを掲載しています。コロナの感染拡大により中国やインドを中心に世界中で工場の稼働がストップしたほか、世界中の航空便数も交通量も激減した結果、世界のCO2排出量は大きく減少しました。また、大気汚染も大きく改善され、中国はもちろん、インド北部では数十年ぶりにヒマラヤ山脈の眺望が見えたというニュースもありました。

短期的には気候危機に対して様々なよい兆しが見られるようになり、改めて経済活動が環境にもたらしていた悪影響が可視化されることになりました。人類全体が、本気になればたった数週間でもここまで環境を回復させられるという共通体験を得られたことは、アフターコロナを考えるうえでの大きな財産になるのではないかと思います。

一方で、長期的な視点から考えると、コロナは気候危機に対して悪影響を及ぼすという見方も数多くあります。

たとえば、太陽光パネルや風力タービンなどの再生可能エネルギー設備の多くは中国で製造されていますが、中国の工場稼働がストップしていることで世界全体の再エネプロジェクトに対して大きな影響が出ることが懸念されています。

また、世界経済全体の規模縮小により原油価格が急落していますが、この状態が長く続くと、価格を理由に再エネへの切り替えが遅れたり、消費者の非効率的なエネルギー利用が促進されるリスクもあります。

さらに、気候危機対策においては国際的な協調が何より重要ですが、コロナの影響により今年11月にグラスゴーで開催が予定されていたCOP26が2021年まで延期されることが決まりました。今年のCOP26は、2015年の「パリ合意」で定めた各国の目標の5年ごとの見直し・再提出の最初のタイミングで、各国による野心的な目標設定が期待されていましたが、延期が決まったことで各国の政策スピードに影響が出ることが懸念されています。

2019年12月にスペイン・マドリードで開催されたCOP25

気候危機に関する政策という側面では、チェコのAndrej Babiš首相が昨年12月に発表されたEUの欧州グリーンディールは延期すべきだと表明したほか、スコットランド政府もコロナ対応を優先してサーキュラーエコノミー法案の先送りを発表するなど、各国の政策優先順位に影響が出始めています。

さらに、よりミクロな次元では、コロナの影響で気候危機に関する学術的・科学的リサーチにも影響が出ています。北極圏グリーンランドへの外国人立入が禁止され、現地での研究・リサーチがストップしたことでデータの取得が不可能となり、今後の気候科学に大きな影響が出ることが懸念されています。

世界中で盛り上がっていた気候ストライキのムーブメントについても影響が出ています。大規模なイベント開催が難しくなるなか、気候デモ活動はオンラインへと移行されており、#ClimateStrikeOnline、#DigitalStrikeといったハッシュタグがSNSで拡散されていますが、コロナの影響によりせっかく高まってきた市民の機運が静まってしまうことだけは避けなければいけません。Global Climate Strikeは4月9日に”The Climate Crisis is Still Here(気候危機は依然としてここにある)“と題する記事を公表していますが、まさにタイトルの通り、コロナによって気候危機が去ったわけでは決してないのです。

一時的に大気汚染も改善し、CO2排出も削減したことで気候危機に対するポジティブな変化が生まれているように見えますが、その原因は単に世界全体で経済活動をストップしているからで、根本的な解決策による成果ではありません。コロナが収束し、経済活動が再開されればすぐに状況は戻りますし、大規模な財政政策や支援策を追い風としたリバウンドや、景気回復のために環境よりも経済を優先した短期的な政策が重視されることで、さらに状況が悪化するリスクもあります。その意味で、アフターコロナで気候危機対策がどちらの方向に進むかについては、各国政府の政治的な決断に大きく左右されることになりそうです。

国連のレポートによれば、2019年は歴史上2番目に暑く、過去10年は歴史上もっとも暑い10年となりました。コロナウイルスは非常に速いスピードで感染が拡大しているため、その影響を私たちは肌で感じ取ることができます。しかし、その裏では気候危機というコロナよりもさらに恐ろしい事態がゆっくりと進行し、後戻りできないフェーズへと入ってきているのです。アフターコロナの時代は、ただ経済を回復させるだけではなく、どのように経済と環境負荷をデカップリング(分離)し、気候危機への影響を最小限に抑えながら生産と消費を取り戻していくかという新しいテーマを一人一人が真剣に考えるべきタイミングだと言えます。

コロナにより問われる公衆衛生と廃棄物・プラスチックのトレードオフ

新型コロナウイルスの拡大により、廃棄物の問題にも悪影響が出ています。最前線でコロナと戦う医療機関から出ている医療廃棄物の量も増えており、中国の武漢では従来の6倍に増えたという報道もあります。また、人々が自宅に籠るようになったことで、家庭ゴミの量も大幅に増加しており、米国の廃棄物処理大手のRepublic Servicesは、家庭ゴミの量は30%まで増えると予測しています。

そして、コロナ対策として店頭における衛生面の配慮が進むなか、プラスチック包装に対する需要も高まっています。欧州のプラスチック業界団体European Plastic Convertersは、EUに対して「使い捨てプラスチック禁止指令」の延期を要請するオープンレターを提出しました。コロナ対策としての公衆衛生とプラスチック廃棄というトレードオフをどのように克服していくのかも課題となっています。

コロナが長期化することでゼロウェイストや脱プラスチックの流れが減速するリスクも出てきていますが、一方ではコロナによって消費者一人一人がこれまでのライフスタイルを見つめ直す機会も生まれています。使い捨てマスクを利用する代わりに、いらない端切れを使ってマスクを自作する、自宅の食品や消耗品を出来る限り廃棄が少ないものへと切り替えるなど、よりサステナブルな消費のアイデアを考え、実行する絶好のチャンスでもあります。

コロナにより見直される生物多様性の重要性

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、改めて世界中の人々が、人間と自然との関係性を問い直しています。そもそも今回の新型コロナウイルスは中国の野生動物売買市場から発症したと言われていますが、この事態を受けて、国連で生物多様性条約の事務局長を務めるElizabeth Maruma Mrema氏は、野生動物の売買市場を世界全体で永遠に禁止すべきだと提唱しました。

すでに中国をはじめとする一部の国々では一時的に野生動物の売買が禁止されています。同氏は生活の収入源を野生動物取引に依存しているアフリカの貧困コミュニティなどに対するケアは必要だとしつつも、今回の新型コロナウイルスは人類が自然界を破壊したことでもたらされた事態であり、野生動物や生物多様性を保全することが人類をウイルスから守ることにつながると訴えています。

人間が自然界を破壊し、自然に手を入れすぎたことで、本来は近づくことがなかった人間と野生動物が触れ合う機会が増え、結果として動物から人間へとウイルスが感染していく人獣共通感染症のリスクが高まっているということです。

また、これは人間同士でも同様です。ブラジルのアマゾンでは、先住民のヤノマミ族の少年が新型コロナウイルスに感染し、死亡したという悲しいニュースがありました。ヤノマミ族はアマゾンの密林地帯で20世紀半ばまで文明と隔絶した生活を送っていた先住民族で、外界との接触が少ないため、免疫力が弱いとされています。アマゾンの大自然と共生して暮らしているヤノマミ族のコミュニティに文明社会で発生したウイルスが持ち込まれ、被害が出てしまったことはとても残念な出来事です。

アフターコロナの世界では、改めて生物多様性保全の重要性が認識され、人間が自然を破壊するのではなく、だからといって人間が地球からいなくなればよいという極論でもなく、いかに自然と人間がお互いに共生しあえる経済や社会を作っていくかという点が問われることになりそうです。

People after Corona(社会問題とアフターコロナ)

コロナは人々のライフスタイルにも大きな影響を及ぼしました。それらの変化のうちいくつかには、アフターコロナの時代に正のレガシーとして引き継ぎたいものもあります。次は社会という側面から、アフターコロナの世界を推察します。

コロナにより拡大する世界の貧困。対策としてのベーシックインカム

国際NGOのオックスファムは4月9日、新型コロナウイルスによる経済減速により、世界で新たに5億人近くの人々が貧困に陥り、結果として世界人口の半分以上が貧困に追いやられる可能性があると警告しました。世界の貧困が拡大するのは1990年以降初めてのことであり、ウイルス感染以上に深刻な影響を人々に及ぼすリスクを指摘しています。

ウイルスの蔓延により、社会的なセーフティネットを強化する必要性が高まることは間違いありません。その中で、新型コロナウイルスの感染者数が世界2位に達し、3月に過去最大の失業者数を記録したスペインでは、経済大臣が4月5日に「ユニバーサル・ベーシック・インカム」を出来る限り早期に導入すると発表したという報道もありました。

ベーシックインカムについてはこれまでフィンランドやオランダ、ケニアなどで実験が行われてきました。フィンランドでは2017年1月から2018年12月までの2年間にわたって実験を行い、雇用状況には大きな変化はなかったものの、幸福度は上がったという結果も出ています。

新型コロナウイルスによる経済の減速は短期的に貧困を拡大させる恐れがありますが、一方でベーシックインカムなど新たな社会のセーフティネットを具体的に検討し、実装するタイミングでもあります。アフターコロナの世界ではよりセーフティネットが充実し、結果として経済格差の解消につながる政策的な取り組みが促進されることを期待したいところです。

リモートワークがシェアリングエコノミーを加速する

貧困というマクロの大きな社会課題から、私たちの「働きかた」というミクロの変化についても考えていきます。新型コロナウイルスの影響により、多くの企業が不要な出社を禁止し、リモートワーク中心の勤務体制へと切り替えています。リモートワーク自体は働きかた改革の一環として以前より推進されていましたが、実際に導入している企業は限定的でした。しかし、今回は多くの企業が半ば強制的にリモートワークせざるを得ない状況に置かれたことで一気に導入が進んでいる状況を見ると、コロナは私たちの働きかたや組織のありかたを再考するよい機会になったと言えるのではないかと思います。

リモートワークが普及すれば、「住」と「働」の関係は大きく変わることになります。オフィスの場所に関わらず住む場所を選択できるようになれば、ビフォーコロナの時代ではクリエイターやフリーランスといった一部の人にしか実現が難しかった都市と地方、国内と海外の「二拠点居住」や「多拠点居住」といった暮らし方に、より多くの人がアクセスできるようになります。すると、住居も所有する資産ではなく、必要に応じて必要なときだけオンデマンドで借りるというPaaS(Product as a Service)型モデルへと移行し、「住」のシェアリングエコノミーは加速することが予想されます。また、物件を所有している人の場合、二拠点居住により不在時に物件を「民泊」として貸し出すケースもさらに増えることになるでしょう。

オフィスは「生産」される場所から「消費」される場所になる

リモートワークの普及は、自宅とオフィスの関係性にも大きな影響をもたらします。これまで自宅は「消費」する場所、オフィスは「生産」する場所というのが常識でしたが、在宅勤務が普通になれば、自宅のオフィス化が進んでいきます。それにより、オフィスは改めてその存在価値を問われることになります。

「わざわざオフィスに行かなくてもよい時代に『行きたくなる』オフィスとは何か?」という新たな問いに対する答えを提供する必要があるのです。これは、仕事が捗るといった従来の要素だけではなく、好きな人に会える、おいしい料理やカフェが楽しめる、リラックスできる、マッサージが受けられる、アートが鑑賞できるなど、人々を惹きつける新しい要素をオフィス空間の中に持ち込む必要があるということでもあります。

米Fast Company誌は2019年6月に”More people are working remotely, and it’s transforming office design“と題する記事の中で、リモートワークの普及がオフィスデザインにも影響すると述べていましたが、まさに自宅がオフィス化するのと同じように、オフィスの自宅化も進むのではないかと見ています。

つまり、言い換えるとオフィスは「消費」されるようになり、企業はお金を払ってでも来たいと思えるようなオフィス体験を従業員にどのように提供していくかが問われるようになる、ということです。この変化をよりマクロな視点でとらえると、自宅とオフィスの境目は曖昧になり、効率化と規模拡大のために生産(働く)と消費(暮らす)を切り離してきた従来の経済のあり方を根本から問い直す、象徴的な変化となるのではないかと思います。

そもそも、考えてみれば大規模な工業化が進む前の家内制手工業の時代は「生産」も「消費」も自宅で行っており、両者は切り離されていませんでした。昔は当たり前だった働きかたにテクノロジーが実装されたことで、「古くて新しい」働きかたが実現できるようになっただけのことです。この生産と消費が近づくという視点はサステナビリティを考えるうえでとても重要です。

シェアリングエコノミーは消費者がサービス提供者(生産者)になるという意味で、サーキュラーエコノミーも消費者が廃棄物の資源活用などを通じて生産プロセスの一部に取り込まれるという意味で、両者ともに「生産と消費が近づく/境界線が曖昧になる」というトレンドとして見ることも可能です。生産と消費の距離が近づくほど無駄な生産が減り、結果としてより少ない環境負荷で財を分配できるようになるのです。

リモートワークが雇用をもっとインクルーシブにする

リモートワークが人々の働きかたにもたらすポジティブな側面としては、これまで障がいや引きこもり、介護や子育てなど何らかの理由で自宅にいざるを得なかった人々に対しても、新たな雇用機会へのアクセスが増えるという点が挙げられます。リモートワークは雇用をよりインクルーシブにし、企業は人材採用のスケールをオフィスの所在地と切り離して考えることができるようになり、都市部と地方部の雇用機会格差の解消につながる可能性もあります。

今回の新型コロナウイルスの拡大によって広まったリモートワークという新しい働き方を、アフターコロナの世界でどのように正のレガシーとして残していくかが問われることになるでしょう。

オンライン教育が学びをもっとインクルーシブにする

同様のことは、雇用だけではなく教育の世界にもあてはまります。多くの学校が授業の提供をオンラインへと切り替えていますが、オンラインでの学習機会が増えることで、これまで教室の中に閉じ込められていた「知」へのアクセスがより多くの人々に開かれ、結果として地域や収入による教育機会格差の解消につながる可能性もあります。

また、教育というコンテンツがオンラインにアーカイブされることで、これまでリアルな教室のなかで「フロー」情報として提供されていた「知」の「ストック」化も可能となるだけではなく、これまで教育現場では曖昧にされてきた学習効果や受講生エンゲージメントの可視化、より透明性の高い教員評価なども実現できるようになり、教育の「質」向上にもつながる可能性があります。

「制限」がソーシャルイノベーションを加速する

新型コロナウイルスの感染により多くの人々が外出を自粛せざるをえなくなり、1日中自宅で過ごし、オンラインでコミュニケーションをとるというスタイルが一般化したことで、逆にこれまでなかった多くの新しいアイデアが生まれました。オンライン飲み会、オンラインオーケストラ、オンライン料理教室、オンライン入社式など、その例を挙げればきりがありません。これは、「制限」が人々のクリエイティビティを刺激し、イノベーションを加速させるということの証明でもあります。

いずれの取り組みもビフォーコロナの時代から実現自体は可能でしたが、そのアイデアを思いついたり、実際に実行しようという人はほとんどいませんでした。逆に言えば、コロナのような緊急時ではなく、平時から仮想的に同様の「制限」を課してみることで、新たなイノベーションの種を見つけることも可能となります。

今回のコロナとは逆に、「オンラインがウイルスにより完全にシャットダウンし、インターネットがない時代に逆戻りしたら、人々はどのようにつながり合えるだろうか」と考えてみるのも一つかもしれません。コロナにより、ソーシャルイノベーションを加速する方法論の一つが明確になったのではないでしょうか。

ソーシャルディスタンシングができるパーキングシアター

Prosperity after Corona(経済とアフターコロナ)

最後に、経済とコロナの話です。新型コロナウイルスの蔓延により世界の経済はストップし、グローバルのサプライチェーンは分断されました。IMF(国際通貨基金)によれば世界経済は3%のマイナス成長見通しで、大恐慌以来の悪化になると予測されています。一方、感染拡大を封じ込めることができれば2021年には6%近い経済成長も可能としており、長期的な視点では少し光が見えるメッセージもありました。ここでは希望的観測も含めてアフターコロナの世界について考えていきます。

コロナショックの中でアウトパフォームするESG投資

新型コロナウイルスの感染者数が拡大するなか、3月の世界全体の株式市場は歴史的な下落を記録しました。しかし、そのような厳しい環境下においても「環境・社会・ガバナンス」を配慮したESG戦略を採用しているファンドについては通常のインデックスと比較して下げ幅が低く健闘しているというコメントが複数の機関投資家から発表されています。実際に、米国サステナビリティ投資会社のカルバート・リサーチ・アンド・マネジメントによれば、カルバートのU.Sインデックスファンドはベンチマークに対して110~120%ほどアウトパフォームしているとのこと。

ESGの視点で高い評価を受けている企業の業績は、パンデミック下においても全体平均と比較して優れたパフォーマンスを維持しているのです。これには、ESGファンドには世界経済の減速により多大な影響を受けている化石燃料銘柄が含まれておらず、逆に急激に需要が増加している医薬品・ヘルスケア関連の銘柄やテクノロジー業界の銘柄が多いといった理由や、BCP(事業継続計画)も含めてガバナンスがしっかりしている企業はリモートワークへの早期切り替え対応などにより安定して事業継続ができているなど、様々な要因が考えられます。

今回のコロナショックにより、やはりESG投資はグローバル経済に潜むリスクに対してよりレジリエントであるということが証明されれば、アフターコロナの世界ではよりESG投資の裾野が拡大することになりそうです。

「ソーシャルウォッシング」が明らかに。より注目が高まる企業の「S(社会)」

一方で、このパンデミックの状況下において、ESG投資家は企業の「ソーシャルウォッシング」に悩まされているという記事も出ています。これまで多くのESG投資家は気候変動をはじめとする「E」の部分を最重要視してきましたが、ここにきて景気が急速に悪化するなか、投資家の関心はサプライチェーン上の雇用や人権の問題、従業員に対する休業補償や非正規雇用者の雇用維持など、「S」の領域で企業がどのように振る舞っているかに移ってきています。そのため、「グリーンウォッシング」と同様に「ソーシャルウォッシング」が起こり、企業が自社の社会的取り組みを過剰にアピールしようとしたり、逆に今までしっかりと「S」に取り組んでいると宣言してきた企業が、実は雇用の維持に対する対策が不十分だったということが明るみに出たりするリスクが高まっているのです。

いずれにせよ、今回の新型コロナウイルスを契機として、ESG投資家の関心はより「S」の分野に向けられることは間違いありません。アフターコロナの世界では、環境やガバナンスだけではなく社会に対する取り組みをしっかりと進められる企業が生き残ることになりそうです。

拡大するエシカル消費と地産地消型ライフスタイル

投資家サイドだけではなく、消費者の視点からもアフターコロナの世界を考えてみます。新型コロナウイルスにより世界全体のグローバルなサプライチェーンは分断されるなか、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)、WTO(世界貿易機関)は4月1日、各国が食料の確保に向けた輸出制限をすることで、国際市場における食料不足や一部の地域で食料危機が起こる可能性があるとの共同声明を発表しました。

新型コロナウイルスは、私たち消費者の一人一人に食料自給率が低いことのリスクを正面から突きつけており、結果としてアフターコロナ以降は、地産地消型の食料やエネルギーに対する関心がより高まる可能性もあります。

また、外出自粛要請のなかで数多くの飲食店や小売店が顧客を失い、厳しい局面に立たされる中で、NYではじまった「Dining Bond Initiative(お気に入りの飲食店に先に支払いだけをしておき、事態が落ち着いてから後で来店できるという取り組み)」のように、購買活動そのものが生産者や事業者の支援につながるという事実をより多くの消費者が認識するようになってきています。

この消費者意識の変化は、エシカル消費の裾野が広がる大きなドライバーとなりそうです。できるかぎり地産地消で国内や地元生産者の商品を購入する動きが広まれば、商品輸送に伴うCO2排出も削減できますし、地方創生にもつながります。

また、あらゆる環境課題や社会課題は「消費者と生産者の距離が近づく」ことで解決に近づいていきますが、その意味で、zoomなどをはじめとするオンラインでのコミュニケーションは大きな可能性を秘めているとも感じます。いくら「地産地消」とは言えども、実際には地方では生産はできても、それをすべて消費するだけの人口がいないというのが現実です。また、都市はその逆に消費する口はあっても生産するスペースはありません。

そのため、地方で生産し、都市で消費するという現在のモデルが大きく変わることはないでしょう。そのときに、都市に住む消費者がオンラインで地方の生産者と直接つながれるようになれば、お互いにより顔が見えるようになり、都市と地方の相互助け合いによるエシカルな消費が進みます。すでにSNS上などではこうしたやり取りが始まっていますが、これは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理想的なありかたでもあり、関係人口づくりの仕組みとして活用することもできます。

都市と地方という物理的な距離は縮められませんが、オンラインコミュニケーションにより両者の精神的な距離が近づけば、生産者と消費者はともに安心を得るための様々なコストを支払う必要がなくなるので、お互いのニーズを理解したうえで「必要な分だけつくり、必要な分だけ消費する」というよりサステナブルなライフスタイルにさらに一歩近づけるのではないでしょうか。

さらに高まるサーキュラーエコノミーの価値

ここまで環境・社会・投資・消費など様々な側面からアフターコロナの世界について考えてきましたが、結局のところ、アフターコロナの世界で問われているのは、どのように経済活動と環境負荷を分離(デカップリング)しながら、貧困や飢餓のない社会的公正を実現し、持続可能な形で経済を成長させていくかという点につきます。これは、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」が目指す経済のありかたそのものです。

オランダのアムステルダムが4月9日に公表した2020~2025年までのサーキュラーエコノミー戦略にはイギリスの経済学者Kate Raworth氏が提唱する「ドーナツ経済学」の概念が取り入れられていますが、公表資料に記されたドーナツ概念図の中には “Amsterdam, a thriving city. Socially just and ecologically safe(アムステルダム、繁栄する都市。社会的に公正で、限りある資源の中で)“という言葉が記されています。

プラスチック包装や廃棄物の増加など、短期的には一部で循環型経済に逆行する流れが生まれてしまっていますが、アフターコロナの世界における共通のビジョンとして「サーキュラーエコノミー」を掲げることは非常に有意義だと考えています。

実際に、欧州では今回のコロナショックからの脱却に向けて、環境対策を先送りにして経済を最優先させるのではなく、むしろサステナビリティの促進を図るべきだという議論が出ています。180のEUの政治家やビジネスリーダー、環境アクティビストらは4月14日、昨年末に公表された欧州グリーンディールに即した形で経済対策を進めるべきだとする共同声明 “Green Recovery(グリーンリカバリ―)” を発表しました。

声明のなかで、署名したEUのリーダーらは政策決定者や企業・金融機関、貿易機関、NGO、シンクタンクなどあらゆるグローバルのステークホルダーが連携し、気候中立とより健全なエコシステムへの移行に向けた”GreenRecovery Investment Packages”を構築し、実行するよう呼びかけています。

サーキュラーエコノミーは欧州グリーンディールの柱の一つでもありますが、今回のコロナを契機にサステナビリティへの投資や機運をさらに高めていくことで、真の意味でウイルスに対してもレジリエントな社会が実現できるのではないでしょうか。

2020~2025年までのサーキュラーエコノミー戦略を公表したアムステルダム

“Profit(分断する経済)”から、”Prosperity(つながる経済)”に

かつて、サステナビリティの世界で最も有名な概念の一つである「3BL(トリプルボトムライン)」という考え方は「Planet」「People」「Profit」という3つのPを指していましたが、現在では国連やEUをはじめ、この「Profit(利益)」を「Prosperity(繁栄)」という言葉に置き換えてビジョンを示す企業や団体が増えてきています。グリーンリカバリーの共同声明の中でも、”This moment of recovery will be an opportunity to rethink our society and develop a new model of prosperity.(今回の回復は、我々の社会について再考し、新たな”繁栄”モデルを築き上げる機会となるだろう)” と記されています。

“Profit” の訳語にあたる利益の「利」とは「禾(穀物)」を「リ(刈る)」という意味が語源ですが、「Profit(利益)」が従来型の経済を代表する言葉だとすれば、まさにそれは人間が穀物を鋭い刃で切り取るように、人間と自然や先進国と途上国、都市と地方、生産者と消費者、経済と環境、経済と社会など、あらゆるものを「分断」することで得られた果実だったと言えるのではないでしょうか。

一方、アフターコロナの世界における果実は、それらが分断されるのではなく、お互いに「つながり合う」ことで得られるものであってほしいなと思います。”Prosperity” の訳語にあたる「繁栄」とは「繁(しげ)り、栄える」と書きますが、まさに多様な植物が重なり合い、根っこでつながり合いながら共生しているように、人間と人間、人間と自然、都市と地方など、それぞれがお互いを助け合い、支え合いながら全体として繁栄できる社会が理想です。

そのためには、人間を自然の一部として捉え、人間活動を通じて自然を再生させていくといった「リジェネラティブ(再生的な)」なあり方や、都市と地方による地域循環共生モデル、生産者と消費者をつなぐサービスなど、グローバル資本主義の拡大によって分断されてしまったものがもう一度つながり直されていく経済、「分断する経済」から「つながる経済」への移行が必要ではないでしょうか。

そして、それは過去のグローバル資本主義を否定するものであってもいけないと思います。実際に、従来型の経済が生み出したテクノロジーといった産物が、何かを「分断する」のではなく、むしろ世界全体をより強い絆で「つなげて」くれる存在であることも私たちはリアルタイムで体験し、実感しています。それらの産物を活かしながら新しい「つながる経済」をどのように築いていくか。そこにこれからのビジネスの機会や、個人の生き方を考えるうえでの大きなヒントがあるのではないかと思います。

岡山県西粟倉村にある、人工林(左)と天然林(右)の境目を流れる小川。花粉症をはじめとする様々な外部性を伴っている直線的な単一種の人工林と、多様な植物が共生している天然林とのコントラストが、私たちの目指すべき社会のありかたを象徴的に表しているように映る。- 筆者撮影

(※IDEAS FOR GOOD「「分断する」経済から「つながる」経済へ。アフターコロナの世界とサステナビリティ」より転載)

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加藤 佑

加藤 佑

Harch Inc.の創業者。IDEAS FOR GOOD 創刊者&編集長。社会を「もっと」よくするクリエイティブなアイデアが大好き。キーワードはデザイン・アート・サステナビリティ・CSR・シェアリングエコノミー・サーキュラーエコノミー・ブロックチェーン。英国CMI認定 サステナビリティ(CSR)プラクティショナー/エストニア e-Resident Twitter:@manabi0215