住宅ローンの返済が難しい状況になった方の中には、「毎月の債務の返済が苦しいけど、家を手放したくない」「個人再生で借金を減らしながら自宅に住めるのだろうか?」と、家を保持する方向で検討したいケースも少なくないのではないでしょうか。
継続的な収入を見込める小規模事業者やサラリーマンが利用できる個人再生の手続きは、一定の条件を満たすことで、債務を減額できる可能性があります。
そこで本記事では、個人再生の概要やローンの残債があるマイホームをお持ちの方の手続きと併せて、注意点、他の債務整理の方法をご紹介します。
※本記事は2020年12月時点での情報をもとに調査、執筆されています。個人再生の申し立てを検討される際はご自身でもお調べのうえ、弁護士等の専門家への相談を検討してください。
目次
- 個人再生とは
1-1.個人再生の種類
1-2.任意整理や特定調停も検討する - 自宅を持ち続けながら個人再生を適用する手順
2-1.まずは金融機関と相談する
2-2.「住宅ローンの特則」を付け加える
2-3.個人再生手続きの必要書類と流れ - 個人再生の注意点
3-1.信用情報機関に事故情報が記録され、官報に名前や住所が載る
3-2.個人再生に関わる費用 - まとめ
1.個人再生とは
個人再生とは、継続的に収入を得る見込みがある小規模事業者やサラリーマンが5000万円以下の借金(住宅ローンを除く)を返済できなくなった場合、全ての債権者に対する返済総額を一定の割合で減額し、残りの債務を原則3年(最長5年)で分割して返済する手続きです。
個人再生を行うためには、3年間で債務を返済する再生計画を、借金をした方(債務者)が立て、債務者の意見を聞いた裁判所から認可される必要があります。計画通りに一定期間で返済が行われると、返済総額のうち減額された債務を免除する事が可能です。
なお、個人再生では最低弁済額を支払えばいいという訳ではなく、保険解約金や退職金等の入る予定のお金も資産として計算し、弁済の計画に対して債権者の判断を仰いだ上で金額を決定することになります。
1-1.個人再生の種類
個人再生には下記2種類の方法があります。
- 小規模個人再生
- 給与所得者等再生
それぞれの適用条件や内容について見て行きましょう。
小規模個人再生
小規模個人再生は主に小規模事業を営んでいる方が対象ですが、家賃収入者(賃貸物件やオフィスビル等の不動産のオーナー)、サラリーマン、公務員、パートの方等も利用できます。
なお、個人再生は資産を持ち続けながら適用を受けられないケースがあり、支払い方法は原則3ヶ月に1回の分割払いになります。再生計画案は同意しない債権者が半数未満、かつ債権額の合計が全債権者の債権総額の2分の1以下であれば可決とみなされます。
給与所得者等再生
給与所得者等再生は小規模個人再生の要件に当てはまる方のうち、定期的な給与所得を得られる見込みがある方が対象となります。「定期的な給与所得を得られる」という点は、過去2年の源泉徴収票や直近の給与明細書3ヶ月分等を基に裁判所が判断します。
給与所得者等再生では小規模個人再生の表により算出した金額と、可処分所得額(収入の合計から税金や最低生活費などを差し引いた金額)の2年分の金額のうち多い方の金額が支払いをしなければならない金額となります。
一方、再生計画案の決議は省略され、小規模個人再生よりも手続きが簡素化されています。
1-2.任意整理や特定調停も検討する
債務を返済できなくなった時には「債務整理」の方法として、下記4つの方法から選ぶことになります。
- 任意整理
- 特定調停
- 個人再生
- 自己破産
任意整理は金融機関と相談し、返済期間の延長や見直し等を行い、交渉で債務の総額を減らす方法です。最終的に不動産売却を視野に入れるのであれば、任意売却の交渉もこのタイミングで行うことが可能です。
【関連記事】不動産の任意売却とは?メリット・デメリットや売却手順を解説
特定調停は返済ができなくなる恐れのある方が経済的再生を図るために、債務に関する利害関係の調整を行うことを目的とする手続きで、裁判所に申し立てを行います。
任意整理や特定調停は金融機関との話がまとまらない場合は債務を減らす事ができないデメリットがあります。
自己破産は信用情報機関に事故記録が掲載されることに加え、手続きが終わるまで一定の職業に就けないといったデメリットがあります。
債務整理でどの方法を選ぶか自身で判断が難しい時は、弁護士や司法書士等の専門家に相談してみましょう。
2.自宅を持ち続けながら個人再生を適用する手順
自宅を保有しながら個人再生ができるか否かは、地方裁判所の判断に委ねることになります。債務額や家計の状況、申請者の事情等を考慮し裁判官が総合的に判断します。
個人再生を希望する方は保有している住宅のローンが残っている方が多いですが、「住宅ローンの特則」を申立書に記載する事で自宅に住み続けながら個人再生制度を利用できる可能性があります。
まずはローンを契約している金融機関と相談した後に必要書類を作成し、管轄の裁判所に申し立てを行うという流れになります。
2-1.まずは金融機関と相談する
ローンの残債がある住宅を保有しながら個人再生の申し立てを行う際は、申立書に「住宅ローンの特則」を付け加えます。
住宅ローンの特則は、債権者(金融機関)との事前協議を行った上で、返済期間の延長といった返済条件を緩和する特別の条項を再生計画に定めることができる措置です。
裁判所に個人再生を申し出る前に、住宅ローンを契約している金融機関と再生計画案の内容について協議する必要がありますので、まずは金融機関に相談してみましょう。
場合によっては住宅ローンの返済期間を長くする、返済スケジュールを立て直すといった方法で負担が減る可能性があります。
ただし、住宅ローンがある場合、通常より再生計画案の作成が難しくなります。ご自身での対応が難しい場合は弁護士に相談して再生計画案の作成依頼を検討しましょう。
2-2.「住宅ローンの特則」を付け加える
金融機関と相談した後個人再生を利用することが決定した場合は、住宅ローンについての特則を付け加えることができます。
個人再生手続では,申立人が債権者に対する返済方法を記載した再生計画案を作成しなければいけませんが、計画案の中に住宅ローンの返済方法を盛り込む事が出来ます。
再生計画案が認可されると、自宅に住み続けながら再生計画案通りに住宅ローンを返済していくという流れになります。
2-3.個人再生手続きの必要書類と流れ
個人再生の申立にあたって主に必要となる書類・手続きの流れは、以下の通りになります。
必要書類
- 申立書
- 陳述書
- 債権者一覧表
- 源泉徴収票、給与明細、財産目録、戸籍謄本、住民票などの添付書類
個人再生手続きの流れ
- 申立書類の作成
- 個人再生の申立て、個人再生委員の選任
- 個人再生手続き開始決定
- 再生計画案の提出(小規模個人再生or給与所得者等再生)
- 債権者への議決・意見聴取
- 再生計画案の提出
- 認可決定の確定、返済の開始
「個人再生委員」とは、債務者に弁護士が付いていない場合に裁判所が選任する機関に属する弁護士の中から選出され、申立人と面接して収支や財産の状況を確認、再生計画案を作成する際のアドバイス等を行います。
なお、これ等の手続きには数か月~半年程度の期間を必要とします。自身で書類作成等の時間が取れない場合も弁護士への相談を検討してみましょう。
3.個人再生の注意点
個人再生を行う前に、信用情報機関に事故として記録される(ブラックリスト入り)、官報に名前や住所が記載される、収入印紙代や予納金等の費用がかかることをおさえておきましょう。
予納金とは裁判所に納める費用で、弁護士が付いている場合と付いていない場合では費用が異なります。
3-1.信用情報機関に事故情報が記録され、官報に名前や住所が載る
個人再生を利用すると、信用情報機関に事故情報として記録(ブラックリスト入り)され、官報に名前や住所等が掲載されます。
事故情報の登録期間は5~10年で、その間は新たにクレジットカードを作る、ローンを組む事が難しくなります。
なお、官報はインターネットで一般の方でも閲覧が可能です。氏名や住所等の個人情報を掲載されたくない場合には個人再生を行う前の事前対策が必要となります。
3-2.個人再生に関わる費用
個人再生を申し立てる際は手続き費用として収入印紙代、郵便切手、予納金がかかります。
裁判所に納める費用(予納金)は弁護士が付いている場合には2万円前後、弁護士が付いていない場合には個人再生委員が必要になるため20万円程度となっています。ただし債権者が多数いる場合は金額が高くなることがあります。
弁護士に依頼する際は弁護士への報酬も必要となり、おおよそ30万円程度になりますが、弁護士事務所によって金額は異なります。
まとめ
住宅ローンの残債がある家を保有しながら個人再生手続きを行う際には、まずローンを組んでいる金融機関と話し合う必要があります。
個人再生は債務を減らす事が出来ますが、信用情報に事故として記録されてしまうため、慎重に判断をするようにしましょう。
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田中 あさみ
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