親の遺産にアパートがあり、相続して残すのか解体するか迷った時、どのようなポイントを押さえて判断すればよいのでしょうか。
賃貸事業を継続する場合は、特に慎重に調査しておきたいポイントがあり、相続税額に大きな影響を与える特例の適用には注意を払っておきたいといえます。
この記事では、アパートを相続するか解体するかの判断ポイントと注意点について解説していきます。
※記事内の税制内容は2022年5月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- アパートを相続するか、解体するか判断のポイント
1-1.賃貸業か売却か、活用目的を決める
1-2.キャッシュフローのシミュレーションをおこなう
1-3.周辺地域の賃貸需要を確認する
1-4.建物の価値、状態を確認する
1-5.相続税や固定資産税などの税制に配慮する - アパートを相続するか、解体するか判断する際の注意点
2-1.小規模宅地等の特例が適用できる場合、解体のタイミングに注意する
2-2.相続人が複数いる場合、相続人同士の意志疎通にも配慮する
2-3.必要に応じて不動産会社や税理士などの専門家に相談する - まとめ
1.アパートを相続するか、解体するか判断のポイント
アパートを相続するか解体するかの判断要素は、活用目的によって異なるため、まずは活用目的を決めることが大切です。どのように活用する場合であっても、キャッシュフローのシミュレーションをおこなうことが必要になるでしょう。
賃貸事業を継続する場合は、周辺地域の賃貸需要、建物の価値や状態を調査してキャッシュフローを予測していきます。また、ケースによってかかってくる税金は異なるため、税制にも注意するようにしましょう。
1-1.賃貸業か売却か、活用目的を決める
アパートを相続するか、解体するかを考える前に、相続資産をどのように活用したいのか、という目的を決める必要があります。つまり、賃貸業を継続していきたいのか、そうではなく、賃貸業は廃業してアパートや底地を売却したいのか、ということになります。
賃貸業を継続する場合とすぐに売却する場合とでは、現金収入を得るタイミングやキャッシュフローの性質が異なります。特に家賃収入と売却収入とでは、収入の発生する市場が入居者か投資家となり異なるため、解体するかどうかを判断する際、考慮すべき要素にも大きな違いがあります。
1-2.キャッシュフローのシミュレーションをおこなう
賃貸業を継続する場合、あるいは売却する場合、いずれの場合であっても、判断ポイントとして、キャッシュフローのシミュレーションをおこなうことが大切であるといえます。
賃貸業を継続する場合には、現状のアパートを残して将来得られると予測される家賃収入や修繕支出と、解体して新しいアパートを建築した場合の家賃収入、解体費用の支出を比較し、すぐに解体した方がよいのかどうかを判断することになるでしょう。
一方、売却してすぐにキャッシュ化することが目的である場合は、アパートを残した場合の売却収入と、更地にした場合の売却収入に解体費用の支出を考慮して、比較検討して判断することになるといえます。
1-3.周辺地域の賃貸需要を確認する
賃貸業を継続することが目的である場合、アパートの相続か解体かを判断するにあたって検討したいのは、周辺地域の賃貸需要です。
周辺地域の賃貸需要を調べることで、所有するアパートの現状の家賃収入が、立地、築年数、間取りなどの条件を考慮して、家賃設定が相場に合った金額であるのかが分かります。
相場より高い金額であれば、退去が生じた場合に家賃収入が現状よりも減るおそれがあり、反対に相場より低い金額であれば、リフォームをするなどの対策をすれば家賃収入を現状よりも増額できる可能性もあります。
また、現在のアパートより古い築年数の賃貸需要を調べることで、アパートを一定期間保有して古くなった場合の家賃収入もある程度予測することができます。このようにすることで、アパートを相続した場合と解体した場合の、より実態に近いキャッシュフローを予測することが大切です。
1-4.建物の価値、状態を確認する
賃貸業を継続する場合、あるいは売却する場合、いずれの場合であっても、建物の価値、状態を確認する必要があります。
賃貸業を継続する場合、しばらくの間、今の建物を貸し続けて家賃収入を得ていくのか、または解体して新しいアパート等を建築しなおして家賃収入を得ていくのか、それとも現状の建物をリノベーションなどして家賃収入の向上を図るのか、どのような選択肢を採るのか決める必要があります。
現状の建物の価値や状態に応じて、今後見込まれる家賃収入や修繕費支出が変わってくるため、現状の建物の価値や状態を確認することが重要であるといえるでしょう。
売却する場合は、通常、買手は融資を利用して購入することが多いため、融資を受ける際の担保評価がどれぐらいあるかという点も、建物を解体するか否かの判断材料の一つとなりえます。
1-5.相続税や固定資産税などの税制に配慮する
アパートを相続するか解体するかを判断する際、税制に配慮することも大切です。
アパートを現状のまま相続するのであれば、相続税の財産評価において貸家建付地の評価減が適用され、更地よりも相続税が軽減されます。(※参照:国税庁「貸家建付地の評価」)
さらに、一定条件を満たす土地であれば、小規模宅地等の特例が適用され、財産評価額が大きく減額される可能性もあります。(※参照:国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」)
また、更地にすると、底地の固定資産税・都市計画税の金額が最大6倍になる可能性があり、大きな負担となるでしょう。新しいアパート等を建築する場合は、不動産取得税もかかります。
賃貸業を継続する場合、このような一時的にかかる税金だけでなく、毎年家賃収入によって得られる不動産所得に対して、所得税や住民税、事業税もかかることになります。
このように、アパートを相続するか解体するかを判断する際は、キャッシュフローのシミュレーションをおこなう上で、各種税制に配慮することが大切であるといえるでしょう。
2.アパートを相続するか、解体するか判断する際の注意点
アパートを相続するか、解体するか判断する際の注意点として、次のような点に注意してみましょう。
- 小規模宅地等の特例が適用できる場合、解体のタイミングに注意する
- 相続人が複数いる場合、相続人同士の意志疎通にも配慮する
- 必要に応じて不動産会社や税理士などの専門家に相談する
2-1.小規模宅地等の特例が適用できる場合、解体のタイミングに注意する
小規模宅地等の特例は、被相続人が自宅や賃貸事業などに利用していた土地を、相続人がスムーズに承継できるようにするための優遇税制です。
そのため、被相続人の賃貸事業用に土地を被相続人と生計を一にしていた相続人が相続し、相続税の申告期限まで、その土地で賃貸事業を行っていることが条件になります。賃貸事業を承継しようとしている場合であっても、アパートを解体し、新しいアパートを建築することを検討している場合は、解体のタイミングによっては、この条件に当てはまらないケースがあるため注意するようにしましょう。
なお、小規模宅地等の特例を適用できる土地は、自宅用や賃貸事業用などの用途によって上限面積と評価減の割合が決まっています。賃貸事業用の土地であれば、200平米まで、相続税の財産評価額が50%の評価減となります。
※出典:国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
2-2.相続人が複数いる場合、相続人同士の意志疎通にも配慮する
相続人が複数いる場合、相続人同士の意志疎通にも配慮したいといえます。アパートをどのように分割相続するかによって、どのような意志確認をしなければならないかが異なります。
例えば、共有分割によって、相続人同士の共有名義にしている場合は、賃貸事業の運営方法や解体など、アパートに関連する重要な決定事項についてはすべて意志疎通を行っておくことが大切です。
一方、代償分割による遺産分割をおこなっている場合には、代償金の支払い時の支払額について意志疎通を図っておくことが重要になります。
不動産の分割方法については金銭的な事柄だけでなく、それぞれの精神的な事情も考慮されることになります。後のトラブルを避け、公平な相続になるよう慎重に進めていきましょう。
【関連記事】アパートを相続するメリット・デメリットは?必要な手続きや注意点も
2-3.必要に応じて不動産会社や税理士などの専門家に相談する
アパートの家賃収入や修繕費支出、周辺地域の賃貸需要、建物の価値や状態を調べる際や、税制などについて調べる際には、必要に応じて専門家に相談することを検討しましょう。
収益不動産を取り扱う不動産会社であれば、アパートの査定や売却、運用時のキャッシュフロー(収支シミュレーション)作成などの相談が可能です。この時、1社だけでなく複数の不動産会社へ査定を依頼し、査定結果や対応内容について比較することが大切です。
複数の不動産会社へアパート査定を依頼する際は、一度の登録で複数社に依頼ができる不動産一括査定サイトというサービスが便利です。下記のサイトは、無料で相談可能でアパートの査定依頼にも対応しており、売却するかどうかは査定後に決めることが可能です。
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【関連記事】不動産査定会社・不動産売却サービスのまとめ・一覧
アパートの税金について相談できる税理士の探し方
一方、アパートの相続・売却・運用の税金については、税金の専門家である税理士に相談することを検討してみましょう。確定申告の代行や特例の適用についてなど、専門的な依頼を行うことが可能です。
ただし、税理士への依頼にはそれぞれの事務所で設定される費用が掛かることや、税理士によって専門領域が異なるためアパートの売却・相続に詳しくないケースがあることには注意が必要です。こちらも1つの税理士事務所だけでなく、複数の税理士を比較されてみると良いでしょう。
例えば「税理士紹介エージェント」というサービスがあります。こちらはコーディネーターに税理士へ依頼したい内容を伝えると、専門領域に特化した税理士との面談設定を行ってくれるサービスです。
また、税理士紹介エージェントでは、全ての提携税理士と面談によって、経験・知識・人柄について厳しい審査をしており、この3つの要素が揃った質の高い税理士を紹介してもらうことができるというメリットがあります。費用についての比較や相談も可能ですので、まずは情報収集をしていきたい方にも適したサービスです。
【関連記事】税理士紹介エージェントの評判・口コミは?メリット・デメリットや利用手順も
まとめ
アパートを相続するか解体するかを判断する前に、まずは活用目的を決めることが大切です。キャッシュフローのシミュレーションをおこない、活用目的を前提としてどのようにするのが良いのか、検討してみましょう。
賃貸事業を継続する場合は、周辺地域の賃貸需要や建物の価値や状態を念入りに調べるようにしたいといえます。不動産会社への査定を受けるなど、専門家への相談も検討されてみると良いでしょう。
また、税制への配慮も忘れないようにしましょう。特に、小規模宅地等の特例は相続税額に与える影響が大きいため、適用を受けることができるかどうか、解体のタイミングなどを慎重に検討することが大切です。
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