住宅ローンを契約している住宅を売却する際、「住宅ローンの残債が売却価格を上回るオーバーローン状態に陥っていた」ということに気づいた方も少なくないのではないでしょうか。
オーバーローン物件の売却する際は住宅ローンの残債を完済する必要がありますが、繰越控除の特例を利用すれば損失を一部取り返すことが可能です。
この記事では、オーバーローン物件の売却で利用できる繰越控除の特例とはどのような特例か、適用の手順も解説します。
目次
1.繰越控除の特例とは
住宅を売却しても住宅ローンの残債が売却代金を上回るオーバーローン状態となってしまった場合、住宅ローンを完済する必要があります。
そのような状況に陥った場合に利用できるのが繰越控除の特例です。繰越控除の特例とは、オーバーローン状態に陥った場合に所得税や住民税の一部が戻ってくる税制度です。損失を一部取り返せるので、オーバーローンの物件を売却する際は適用を検討してみましょう。
2.繰越控除の特例を利用するメリット
繰越控除の特例を利用した場合、給与所得といった他の所得と相殺(損益通算)することができます。
損益通算できるのは、「住宅の取得にかかった費用-減価償却-売却価格」、「住宅ローンの残債-売却価格」を比較して少ない方の金額です。
オーバーローンによって生じた損失が大きく、1年で損益通算しきれない場合は、翌年以降最大3年まで繰り越せるのもメリットと言えるでしょう。
3.繰越控除の特例を利用するための条件
繰越控除の特例を利用するには以下のような条件を満たす必要があります。
- 自分の住んでいるマイホームを売却(譲渡)する
- 所有期間が5年を超えている
- 住宅ローンの償還期間が10年以上である
- 合計所得金額が3,000万円以下の年のみ控除できる
- 利用する前年または前々年に他の特例を利用していない
- 2021年12月31日までに売却する
(国税庁「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を参照)
このように繰越控除の特例を利用できる条件は限られています。売却予定の不動産が該当しているかどうか事前に確認をしておきましょう。
4.繰越控除の特例を利用する際の注意点
繰越控除の特例を利用するための条件について触れましたが、特例を利用する際は条件を踏まえた上で注意しなくてはならない点がいくつかあります。
例えば、繰越控除の特例を利用できるのが自分の住んでいるマイホームに限られている点です。現在住んでいる自宅を売却してオーバーローンになった場合には繰越控除の特例を利用できますが、過去に住んだことがない家や投資用物件を売却する際は利用できません。
過去に住んだことがある家の場合には、住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却すれば特例を利用できます。
売却した年に所有期間が5年を超えていなければ特例を利用できませんが、暦上ではなく1月1日時点という点にも注意が必要です。仮に2015年5月1日に取得したマイホームを2020年5月2日に売却すると暦上は5年を経過していますが、1月1日時点では4年しか経過しておらず、対象外となります。
また、マイホームを売却する前年または前々年に既に以下の特例を利用している場合には、繰越控除の特例を利用できません。
- 特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例
- 居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除
- 特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例
- 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の軽減税率の特例
繰越控除の特例は、2019年12月31日までに不動産を売却した場合に利用できましたが、税制改正で期間が2年延長されて2021年12月31日までになりました。
今後さらに延長されるかどうかは分からないため、オーバーローン状態に陥っている人は、特例を利用できる期間を意識しながら売却の計画を立てることが重要と言えるでしょう。
5.特例を適用するには確定申告が必要
オーバーローン状態に陥ったからといって自動的に繰越控除の特例が適用されるわけではありません。繰越控除の特例を適用するには確定申告が必要です。
繰越控除の特例で損益通算を適用したい場合は、確定申告を行う際に以下のような書類を提出します。
- 特定居住用財産の譲渡損失の金額の明細書
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書
- 売却したマイホームに関する書類
売却したマイホームに関する書類とは、所有期間が5年を超えていることを証明する登記事項証明書や売買契約書の写し、譲渡資産に係る住宅借入金等の残高証明書などです。
繰越控除を適用したい場合は、以下のような条件を満たしている必要があります。
- 損益通算の適用を受けた年分の損益通算を受ける際に必要な全ての書類の添付がある期限内申告書を提出している
- 損益通算の適用を受けた年分の翌年度から繰越控除を適用する年分まで連続して確定申告書(損失申告書)を提出していること
確定申告を正確に行わなければ、繰越控除の特例の適用を受けることができないため、必要書類や手続きをよく確認しておきましょう。
【関連記事】不動産売却後の確定申告の仕方をわかりやすく解説します
まとめ
マイホームを売却して売却代金で住宅ローンの残債の完済を予定していたものの、残債が売却価格を上回るオーバーローン状態になった人もいると思います。
このような場合、繰越控除の特例を利用すればオーバーローン物件の売却による損失を損益通算することが可能です。
ただし、マイホームを売却してオーバーローン状態に陥った人の全てが繰越控除の特例を利用できるわけではありません。繰越控除の特例を利用条件は決まっているため、あらかじめ利用条件や注意点などをよく確認してからマイホームを売却しましょう。
矢野翔一
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