不動産売却後の確定申告の仕方がわからず、売却に二の足を踏むことはないでしょうか。不動産売却による利益の出方によっては確定申告をする必要がない場合もあるため、利益の計算方法などについても知っておくと確定申告手続きをスムーズに進めることができます。
この記事では不動産を売却した後の確定申告に必要な書類と手順、注意点などについて詳しく解説しますので、参考にしてみてください。
目次
- 不動産売却で確定申告が必要かどうかの目安とは
1-1.確定申告が必要な場合
1-2.確定申告が不要な場合
1-3.確定申告をしたほうが良い場合 - 確定申告の手順
2-1.確定申告に必要な書類の準備
2-2.不動産売却に伴う譲渡所得税額の計算
2-3.譲渡所得の特別控除
2-4.確定申告書等の書類の記入
2-5.税務署での手続き
2-6.納税または還付の方法 - 確定申告時の注意点
- まとめ
※本記事内の情報は2019年6月時点となります。最新情報は国税庁のHPなどでご確認下さい。
1 不動産売却で確定申告が必要かどうかの目安とは
不動産を売却した後は、必ず確定申告をしなければならないとは限りません。「確定申告が必要なケース」「確定申告が不要なケース」「確定申告をしたほうが良いケース」をそれぞれ見ていきます。
1-1 確定申告が必要な場合
確定申告が必要なのは、売却によって利益(=譲渡所得)が生じた場合です。不動産売却でいくらの利益が生じたかに応じて税負担が決まるため、確定申告が必要になります。
1-2 確定申告が不要な場合
確定申告が不要な場合とは、売却によって損失が生じたときです。不動産を売却したことで損失が生じたのであれば、不動産の譲渡に伴う税金を支払う必要はありません。ただし、この場合であっても確定申告をしたほうが良いというケースもあります。
1-3 確定申告をしたほうが良い場合
例えば、給与所得や事業所得などプラスの所得があった場合は、不動産の売却による損失と相殺することで支払う所得税・住民税を抑える(=節税する)ことができます(適用を受けるにはマイホームの売却など一定の要件を満たす必要があります)。これを損益通算といいます。
記入が簡単な白色申告をする方なら、不動産の譲渡による損失が生じた年だけ、給与所得や事業所得などと損益通算することができます。
科目ごとに収支を計算し税額を算出する青色申告の方なら、不動産売却に伴う損失を3年間繰り越すことができるため、譲渡による損失が出た年だけで控除しきれない損失がある場合は、翌々年までその損失を繰り越すことが認められています。
このように不動産売却により損失が出た場合であっても、節税効果が期待できるケースがあるため、手間を惜しまずに確定申告をしておくことをおすすめします。
2 確定申告の手順
不動産売却後の確定申告に必要な手続き・方法を見ていきます。
2-1 確定申告に必要な書類の準備
税理士に確定申告作業を依頼している場合は申告書類を準備してくれますが、自分で確定申告をする場合は、税務署で必要な申告書類を準備するか、インターネット上で必要な申告書類を準備する必要があります。
確定申告書B様式は、税務署で入手できます。この確定申告書の様式は、すべての所得の申告に適用できる書類です。なお、確定申告書A様式の場合は給与所得、配当所得、一時所得、雑所得のある人の確定申告にしか使えないため、不動産の売却によって利益が生じた場合の確定申告には使用できません。
確定申告書B様式 | 税務署で入手できます。この確定申告書の様式は、すべての所得の申告に適用できる書類です。なお、確定申告書A様式の場合は給与所得、配当所得、一時所得、雑所得のある人の確定申告にしか使えないため、不動産の売却によって利益が生じた場合の確定申告には使用できません。 |
分離課税申告書 | 給与所得や事業所得とは異なり、土地・建物など不動産の売却にかかる所得は、別枠で税金計算するために分離課税用申告書を提出する必要があります。分離課税申告書も税務署からもらうことができます。 |
譲渡所得の内訳書 | 売却した不動産に関する住所、土地面積、売却金額その他の情報を記載する書類で、税務署で手に入れることができます。 |
購入時・売却時の不動産売買契約書 | 不動産の購入時、売却時には通常、売買契約書を交わします。確定申告の際にはそのコピーを添付する必要があります。売買契約書に記載してある売却価格や購入価格などを確認して譲渡所得の額や適用する税率が決まります。
また、譲渡所得の内訳書を記入する際は、売買契約書に基づいて正確に記載する必要があります。税務署も売買契約書のデータを確認して、計算が合っているかどうか、内訳書の記載事項と合っているかなどを確認します。 |
仲介手数料など購入、売却にかかった経費の領収書 | 不動産の購入時や売却時に不動産仲介会社へ支払った仲介手数料などの領収書、固定資産税の清算書、登記費用などのコピーも添付する必要があります。
税額計算上、これらを経費として算入するかしないかで税額に大きな差が生じることになるため、紛失しないよう大切に保管します。 |
このほか、売買を仲介した会社や保険会社、勤務先の会社などからも確定申告に必要な書類を取り寄せることになる場合もあります。また適用を受けようとする特別控除の種類によっては、追加で書類を提出することもあります。
2-2 不動産売却に伴う譲渡所得税額の計算
次は、不動産売却で得た利益(課税譲渡所得)を確定させます。課税譲渡所得は以下の計算式から求めます。
課税譲渡所得=不動産の売却価格-(購入価格+購入時にかかった諸経費+売却時にかかった諸経費)
各項目はすべて書面で確認して金額を計算します。ただし、不動産の購入から売却するまでの期間は長期であることが多く、書類の紛失などで購入価格や購入時にかかった諸経費が不明な場合もあります。そこで購入価格や購入時にかかった諸経費が不明な場合は「売却価格の5%」として計算することも認められています。
譲渡所得税額の計算
計算した課税譲渡所得の額に税率を乗じることで譲渡所得税を計算します。この時の税率は、不動産の所有期間によって異なります。所有期間が5年を超える場合には「長期譲渡所得」に該当し、所得税は15.315%、住民税は5%課税されます。一方、所有期間が5年以下の場合には短期譲渡所得に該当することになり、所得税は30.63%、住民税は9%課税されます。
詳しくは後述しますが、この計算における所有期間の計算は「売却をしたその年の1月1日時点」で判断される点に注意が必要です。短期・長期で税率が倍近く変わってしまうため、売却計画を立てる際はくれぐれも間違いのないようにしましょう。
不動産の所有期間 | 譲渡所得の区分 | 税率 |
---|---|---|
5年超 | 長期譲渡所得 | 20.315% (内訳:所得税15.315%、住民税5%) |
5年以下 | 短期譲渡所得 | 39.63% (内訳:所得税30.63%、住民税9%) |
(注)税率には、復興特別所得税が加算されています
2-3 譲渡所得の特別控除
土地や建物以外の資産の譲渡所得においては、特別控除として短期譲渡所得、長期譲渡所得の合計で最高50万円が控除されます。それに対して、土地や建物の譲渡所得税の計算にあたっては、一定の要件を満たした場合、特別控除の特例として以下の6つが認められています。
- 公共事業などのために土地建物を売った場合、5,000万円の特別控除
- 居住用不動産を売った場合、3,000万円の特別控除
- 特定土地区画整理事業などのために土地を売った場合、2,000万円の特別控除
- 特定住宅地造成事業などのために土地を売った場合、1,500万円の特別控除
- 平成21年および平成22年に取得した国内にある土地を譲渡した場合、1,000万円の特別控除
- 農地保有の合理化などのために土地を売った場合、800万円の特別控除
②居住用不動産の売却については、さらに「10年超所有軽減税率の特例」が設けられています。10年を超える居住用不動産を売却した場合には、3,000万円の特別控除の特例+軽減税率(所得税10.21%+住民税4%)という形で重複して特例の適用を受けることができます。
これらの特別控除を利用することで、不動産売却によって利益が出る場合でも、利益額を0円にでき譲渡税の支払いが必要なくなる可能性が高くなります。そのため売却前には特別控除を適用できるかどうかを事前に調べておくことが重要です。
2-4 確定申告書等の書類の記入
自分で確定申告する場合、手計算で確定申告書等の書類を記入することもできますが、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を利用すると比較的簡単に作成できます。入力の仕方がわからないなどの場合には、サポート窓口も設けられているため、そちらを活用すると良いでしょう。
2-5 税務署での手続き
必要書類に記入をした後は、税務署に確定申告書類を提出します。確定申告書等の提出方法には4つのパターンがあります。
- 所轄の税務署の受付に提出する
- 所轄の税務署にある時間外収受箱(門の外にある青い箱)に投函する
- 郵送等で所轄の税務署に送付する
- e-TAXなどの電子申告システムで申告する
事後トラブルの防止の観点から、①~③による提出の場合、控えに税務署からの受領印をもらうのが一般的です。②、③の場合は返信用封筒に82円切手を貼付して、申告書控えを返送してもらう旨を記載しておきます。④は自宅で提出が完結するため便利ですが、マイナンバーカードや専用のカードリーダーが必要です。
2-6 納税または還付の方法
譲渡税を納税する場合には以下の4つの方法があります。
- 税務署で直接現金で納付する
- 振替納税により後日税額分の引き落としをしてもらう
- e-TAXで納付する
- クレジットカードで納付する
還付を受ける場合は、確定申告書に記載した金融機関の口座に後日振り込まれることになります。
3 確定申告時の3つの注意点
不動産売却後の確定申告では、不動産の「所有期間の考え方」に注意が必要です。ここでいう不動産の所有期間は、「不動産を売却した年の1月1日時点」を基準に計算されます。
例えば、不動産を取得した日が2014年2月1日で、売却した日が2019年10月31日の場合、単純計算をすると所有期間は5年を超えますが、税務上の取り扱いでは「売却した年の1月1日」が基準となるため4年とみなされ、短期譲渡所得の課税が適用されることになります。
次に居住用不動産を売った場合、3,000万円の特別控除の特例の適用要件についても注意を要します。「3,000万円特別控除の特例」を受けようとする場合には、適用要件が細かく決められているため、特例の対象から除外されていないかを慎重に確認する必要があります。
適用除外の例としては、「新たに居住用家屋を建築するため、一時的に仮住まいした家屋の売却」や、「別荘のような趣味や娯楽のために所有する家屋の売却」などが挙げられます。
このほか、「居住しなくなった家屋を売却する場合」や、「店舗を兼ねた家屋を売却する場合」なども、場合によっては特例の対象外になることもあります。マイホーム売却で特例を受ける要件は国税庁ホームページに詳細が記載されています。
最後に「譲渡費用の範囲」についてです。税金を安く済ませようと何でも購入・売却にかかった経費として計上すると、税務署から修正を求められることがあります。不動産の譲渡にかかる取引1つ1つの金額が多額になることから、税務調査でもこの点を追及される可能性があります。
なお、譲渡費用とは、土地や建物といった不動産を売却するために「直接」かかった費用のことを言います。そのため、仲介手数料や売買契約にかかる収入印紙代、登記費用などは譲渡費用に該当しますが、引っ越し費用や税理士への確定申告手続き費用は譲渡費用に該当しません。
その他、譲渡費用に入るか入らないかは、ケースによって細かく分かれるため注意が必要です(参照:国税庁「譲渡費用となるもの」)。
4 まとめ
この記事では、不動産を売却した後の確定申告が必要なケースから、実際に確定申告する際の準備書類や手続き、注意点について見てきました。不動産売却後の確定申告では、売却にかかった費用を正しく計上しないと、余計に税金を支払うことにもなります。
また、不動産売却で利益が出なかった場合でも、損益通算すれば節税につながるケースもあるため、面倒臭がらず確定申告することが大切です。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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