マンション管理組合の高齢化問題の課題は?解決に向けた4つの対策

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日本全体で高齢化が進む中で、マンションの住民の高齢化にと共に進行する管理組合の高齢化も課題になっています。管理組合の高齢化は正常なマンション管理を困難にし、居住環境の悪化や老朽化の加速といった悪影響を及ぼします。

今回はマンション管理組合の高齢化問題の課題や有効な5つの対策を紹介していきます。

目次

  1. マンション住民の高齢化によりマンション管理組合の高齢化も進む
  2. マンション管理組合の高齢化の影響とは?
    2-1.理事会や組合の運営が滞る
    2-2.住環境の悪化につながる恐れ
    2-3.大規模修繕の停滞による経年劣化の加速
    2-4.空室の増加や資産価値の低下へ
  3. マンション管理組合の高齢化への4つの対策
    3-1.役員資格の拡大
    3-2.役員報酬の付与と負担金の徴収
    3-3.任期や改選人数の工夫
    3-4.専門家の活用
  4. まとめ

1 マンション住民の高齢化によりマンション管理組合の高齢化も進む

平成30年の国土交通省によるマンション総合調査の結果によると、当時の時点で全マンション住民の世帯主の約50%が60代以上でした。

マンションの世帯主の年代分布の推移


参考:国土交通省「平成30年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状

マンションの住民の高齢化自体も現代のマンションにおける課題の一つですが、同時に深刻化しているのが、マンション管理組合の高齢化という問題です。

マンションの管理組合は、マンションの所有者で構成される組織で、建物全体や共有部分などの維持・管理をする役割を担っています。

清掃や修繕、設備の交換や大規模修繕の計画など、マンションにおける管理業務は多岐に渡ります。管理組合自身がこれらの業務全てをおこなうのは現実的ではないので、管理会社へ委託したり、専門の業者へ依頼したりしながら、マンション管理を進めます。

組合のルールはそれぞれのマンションによるものの、マンション所有者が組合員で、その中から理事長などの役員を定める「理事会方式」で運営されるケースが多く見られます。

役員はマンション世帯主の立候補や推薦などの形式を取るケースがある一方で、事実上の輪番制となっているマンションもしばしば見られます。

マンションの住民が高齢化すれば、管理組合の構成員及び役員も高齢化していくことになり、さまざまなマンションにおける課題となっています。

2 マンション管理組合の高齢化の影響とは?

マンションの管理組合の役員や構成員が高齢化すると、マンション管理にさまざまな弊害が発生します。そのため高齢化が進む中でもマンション管理を正常に進めるための仕組み作りが必要です。

まずは、マンション管理の高齢化による影響を整理しました。

2-1 理事会や組合の運営が滞る

マンションの世帯主が高齢化は理事会や組合の運営が滞る原因となりがちです。高齢化すれば病気などにより入院したり、身体が衰えたりといった理由でスケジュール通り会合をおこなったり、必要な取り決めを進めたりするのが難しくなります。

体調を崩して親族の家に身を寄せていて、普段はほとんど家にいない空き家に近い状態になっているケースなども想定されます。そこまでの状態に陥らずとも、組合をまとめるのが億劫である、精神的に負担になるなどの理由で、役員を担うのを敬遠する高齢者も少なくありません。

理事会や組合の出席率が上がらなければ、重要な事項を決めにくくなります。さらに悪いことに理事長など役員自体が高齢者だと、会合の開催自体が減ったり、行われなくなったりする可能性もあります。

2-2 住環境の悪化につながる恐れ

管理組合が正常に機能しなければ、マンション管理が行き届かず、住環境の悪化につながる恐れもあります。例えば、設備の更新や交換、破損・汚損した部分の細かな修繕などがスピーディにおこなわれず、古い設備を使い続けたり、不具合が放置されたりする事態につながります。

清掃など日常的な管理は業者に委託するケースが多いと想定されるため、直ちに問題は生じないものの、業者のサービス品質が悪化した場合などに改善を要求したり、業者の交換を検討したりといったアクションが取りづらくなる恐れもあります。

2-3 大規模修繕の停滞による経年劣化の加速

さらに大きな影響が懸念されるのは大規模修繕です。大規模修繕では積立金を元にしつつ、必要に応じて追加の費用負担などを行って資金を捻出し、それを修繕に充てます。

大きな金額を動かす取り組みになるため、組合の役員が主導して住民をまとめ、また業者選定や施工内容の調整などを行わなければならなりません。そのため組合が充分に機能していなければ修繕を進めるのが困難になるのです。

さらに物価高騰などにより修繕費用が足りないときに、追加費用の捻出を決定できない恐れもあるでしょう。大規模修繕を進められなければ、古い構造のまま建物が放置されることになります。適切に対応すれば改善余地のあるはずの経年劣化が加速することとなるでしょう。

2-4 空室の増加や資産価値の低下へ

住環境の悪化や設備の劣化が放置されるなか、高齢化した住民は高齢者向け施設への転居や寿命などにより徐々にマンションから去っていくことになります。

空いた区画は次の入居者や投資家に売りに出されることになりますが、管理が行き届かず劣化した物件に買い手が付きにくく、売却が困難になるケースもあります。

空き家が増えれば価格を引き下げて販売せざるを得ず、マンション価格の下落をもたらします。建物管理が行き届かないことで、住民が所有する区画の資産価値も低下していくことになるでしょう。

3 マンション管理組合の高齢化への4つの対策

マンション管理組合の高齢化への対策としては、役員を担うインセンティブや負担金の設定、住民以外への役員資格の拡大や専門家の活用などの対策が考えられます。

3-1 役員資格の拡大

管理組合の高齢化が深刻化しやすい原因の一つは、役員資格を「所有者」かつ「住民」に限定していることにあります。

このルールの下では、所有物件を賃貸に出している区分マンション投資家は役員になれません。また、高齢者のみの世帯が増えれば増えるほど役員のなり手が不足する事態となります。

例えば、住民である高齢者の親族にも役員資格を広げれば、子供の世代が役員を担ってくれる余地ができます。さらに区分マンション投資家にも役員資格を与えれば、保有物件の資産価値を維持するために、積極的に組合活動をリードしてくれるでしょう。

3-2 役員報酬の付与と負担金の徴収

金銭面で役員を担うインセンティブを付与するのも有効な手段の一つとなります。全国のマンション管理組合の中には、役員に報酬を支払っている管理組合も一定数存在します。

例えば平成30年度の国土交通省によるマンション総合調査によると、全体の約24%は役員に対して報酬を支払っています。金銭的なメリットを付与することで、役員を率先して担う人が増える効果が期待できます。

また、逆に輪番制の役員任命を断る場合には負担金を徴収するという手段もあります。負担金を支払うのを嫌気し、順番通り役員を担ってくれる可能性が高まるでしょう。

ただし、役員報酬は住民の管理費などから工面することになるため、間接的に住居費の増大要因となります。また負担金の徴収は、そもそも年金暮らしなどで家計に余裕がない高齢者にとっては打撃となり、かえってマンションからの流出を加速させる要因となるリスクもあります。

報酬付与にせよ負担金にせよ、無理なく運営可能な節度を持った金額を設定することが大切です。

3-3 任期や改選人数の工夫

任期が短い役員の方が、すぐに新たな人選を行わなければならなくなるため、管理組合が機能しづらくなる恐れがあります。一気に役員全員を改選する仕組みは、人選が難航するうえ、引継ぎに時間がかかって管理業務の負担が増大するリスク要因ともなります。

例えば任期を数年に延ばし、また改選を半々で行う仕組みにすると、業務に慣れた人が常に役員の中に在籍することになるため、管理業務が円滑に行われやすくなります。

3-4 専門家の活用

最後に、マンション管理や法制度に関する専門家を導入して、マンション管理をサポートもしくは主導してもらう方法があります。

これについては国土交通省にて「外部専門家の活用ガイドライン」というものを公表して、専門家の活用方法についてまとめています。

同ガイドラインを基にすると、大きく分けて次の3つの活用パターンが考えられます。

マンション管理組合における外部専門家の活用方法

外部専門家の活用形態 ポイント
理事・監事外部専門家型
又は理事長外部専門家型
理事会を設け、外部専門家を役員として選任
役員もしくは理事長として外部専門家がマンション管理を主導
理事会ありの監督型 外部専門家を管理者として選任
理事会は外部専門家の助言を受けながらマンション管理を推進
理事会なしの監督型 外部専門家を管理者(理事長)として選任
理事会を設けず監事や総会を通じて外部管理者の管理状況を監督

参考:国土交通省「外部専門家の活用ガイドライン

基本的には「理事・監事外部専門家型又は理事長外部専門家型」が最も外部専門家の権限が強い仕組みとなります。一方で、「理事会なしの監督型」は理事会が不要になるため、役員のなり手が見つからないという管理組合の高齢化問題の有効な解決策として期待できます。

なお、ここでいう「専門家」は次のような職業の人もしくは法人が想定されます。それぞれ期待できる役割も異なるため、適切な人材を活用することが大切です。

  • マンション管理士:管理組合全体の運営支援、管理規約の改正や管理委託契約(管理会社)の見直し
  • 建築設計事務所(建築士):大規模修繕工事や長期修繕計画作成等の支援
  • 弁護士:滞納やトラブルなど法的措置対応、ADRの活用支援など

まとめ

少子高齢化が進行する中、また築年数の経過した大規模マンションが増加する中で、住民およびマンション管理組合の高齢化が課題となっている物件が増えています。役員や理事長などのなり手がみつからず、住環境や資産価値維持の観点から必要な管理業務が滞るなどの弊害が発生しています。

今回の記事を参考に、役員の担い手の拡大や、役員を行うインセンティブの付与などをおこない、まずは住民や関係者の中で管理組合運営を活性化する仕組みを導入してみましょう。また、建築士やマンション管理士、弁護士などの専門家を活用して管理を円滑化するのも有効な選択肢となります。

住民が高齢化してもマンションの資産を適切に維持・管理する方法はいくつか存在します。住民の減少が進む前に能動的にマンション管理の方法を最適化することが大切です。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。