日本の農業・農村を支援する方法は?主な寄付先や自治体のプロジェクト事例も

日本の食糧自給率は低く、多くを輸入に頼っています。そのため、国際市場の影響を受けやすく、物価高などの問題につながりやすい状況です。他にも農業・農村には災害リスクがあるため、災害対策や食料自給率の改善へ向けた支援も必要とされています。

そこでこの記事では、日本の農業や農村を支援する方法や具体的な流れ、自治体による支援プロジェクト事例について詳しくご紹介します。農業人口の減少による食の問題に注目している方、近年の世界情勢から食料安全保障について強く意識し始めた方などは、参考にしてみてください。

目次

  1. 農業・農村の課題
    1-1.人口減少
    1-2.自然災害リスク
    1-3.国際的な競争の影響
    1-4.農業の二極化
  2. 寄付による農業や農村の支援
    2-1.公益財団法人日本農業法人協会を通じた寄付
    2-2.公益財団法人自然農法国際研究開発センターを通じた寄付
  3. 自治体による農業支援プロジェクト事例
    3-1.東京都の就農支援
    3-2.宮城県による新規就農支援
    3-3.大阪府による農業関連支援
  4. 農業・農村支援を始める際に注意すべきポイント
    4-1.寄付を行う場合は支援先の詳細を確認
    4-2.就農を検討する際はデメリットも踏まえた上で検討
  5. まとめ

1.農業・農村の課題

国内の農業や農村を支援するために、具体的にどのような問題や課題が発生しているのか理解しておくことが大切です。例えば、人口減少や自然災害リスク、国際市場との競争、農業の構造的な問題など、農業とも関連の深いさまざまな課題が指摘されています。

まずは、農業および農村で生じている主な課題について確認していきましょう。

1-1.人口減少

農業および農村における大きな課題の1つが、少子高齢化による農村人口の減少です。

都市部の人口は2015年頃まで増加傾向の反面、農村部の人口は1970年頃から既に減少し始めていて、都市部への流出が止まらない状況となっています。さらに農村地域の農家は全体の20%程度と、低い水準で推移しています。(※参照:農林水産省「農業・農村を巡る情勢の変化と課題」)

しかし、農村地域の問題は人口減少だけではありません。人口流出の止まらない農村地域では高齢化が進み、農業用排水路の管理といった地域で管理の必要な作業やコミュニティの形成も崩れつつあります。中には集落が消滅したケースもあるため、農業自体継続できない地域も存在しています。

このように人口減少だけでも、食料自給率を保つ上では大きな問題です。そこに高齢化という問題も重なり、集落の消滅や就農者減少という危機的な状態へ陥っています。

1-2.自然災害リスク

日本の農業は、自然災害や気候変動による影響を受けていて、食料供給の停滞につながっています。

近年では、気候変動などで大規模災害が発生していて、農村地域も大きな被害を受けています。特に台風や豪雨による土砂災害や洪水および冠水などは、農産物や畑、田んぼへ直接的な被害を与える事象です。

他にも南海トラフ地震による津波被害リスクや富士山の噴火リスクなど各地でさまざまな災害リスクがあり、依然として防災対策を進めていくことの重要性も高い状況が続いていると言えます。

1-3.国際的な競争の影響

日本の農業は、国際的な競争の影響を受けつつあり、競争力の強化といった点も課題です。

近年では、TPP交渉の合意によって国内の就農者は、海外の農業と競争しなければいけない状況へ変わりつつあります。TPP (Trans-Pacific Partnership、環太平洋経済連携協定)は、関税撤廃などのルールを定めた輸出入に関する新しい貿易協定です。

特に海外の農産物は日本より安い傾向なので、価格競争に陥る可能性があり、生産コストや品質などといった点でさらなる工夫を施す必要も出てきます。

※参照:外務省「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉

1-4.農業の二極化

農業を巡る構造の変化や農村の地域経済低迷といった影響が、農業の二極化や非農家の増加といった事象につながっています。

国内の農業面積に占める利用面積は、1995年に17.1%、2010年に49.1%と32%も増加しています。さらに法人の農業経営体は、2010年に約22,000経営体、2020年に約31,000経営体と増加傾向です。

大規模農業が増加している理由の1つは、1999年の農業政策に農業経営の法人化推進に関する内容も含まれているためです。

一方、農業人口は、96年に30,000,000人以上だったもの、2013年には5,000,000人程度まで減少しています。つまり、大規模農家は増えている一方、個人農家などは減少し続けています。

他にも農家の総所得は1994年頃から減少し続けているため、地域経済の低迷といった問題も起きています。

※出典:農林水産省「2020年農林業センサス結果の概要(確定値)

2.寄付による農業や農村の支援

就農などの直接的な形での支援が難しい場合でも、寄付を活用して農業および農村を支援できます。続いては、寄付による農業および農村の支援方法についてわかりやすく解説します。

2-1.公益財団法人日本農業法人協会を通じた寄付

公益財団法人 日本農業法人協会では、農業の発展などを目的とした寄付を募っています。

日本農業法人協会は、農業および農村の発展や国民生活の向上を目指して、農業法人の発展や人材育成といった活動を行っている団体です。同協会で募っている寄付金は3種類にわかれていて、一般寄附金と特定寄附金、特別寄附金です。

以下に寄付金の用途を紹介します。

寄付金 用途
一般寄附金 寄付金額の50%以上が公益目的事業に使用される、募集は常時行われている
特定寄附金 使途を特定した場合に募られる、事前に日本農業法人協会サイトで募集に関する情報が掲載される
特別寄附金 寄付を行う者が使途に関する条件を指定できる

寄付を行いたい場合は、日本農業法人協会のサイトから申請書データをダウンロードおよび印刷し、必要事項を記入します。記入後は、郵送もしくはFAXで送付します。寄付金額については1口10,000円から設定できます。

支払い方法については、銀行振り込みを選択することが可能です。振込先は日本農業法人協会のサイトに掲載されているので、記載事項に沿って振込手続きを進めていきます。

なお、公益目的事業は、学術や文化などのさまざまな事業を指しています。一般寄附金では、農業以外の事業に寄付金が活用されてしまいます。

自身の寄付金を農業に活用してほしい場合は、特別寄附金の方が目的に合っています。

2-2.公益財団法人自然農法国際研究開発センターを通じた寄付

公益財団法人自然農法国際研究開発センターは、寄付金の募集を行っています。

自然農法国際研究開発センターは、農業をベースにした持続可能な社会づくりと有機栽培を行っている方向けの技術支援や研究開発を柱に活動しているのが特徴です。寄付金は一般寄附と特別寄附の2種類で、それぞれ使途などに違いがあります。

寄付金 用途
一般寄附 寄付金額の50%以上が公益目的事業に使用される、募集は常時行われている
特別寄附 寄付を行う者が使途に関する条件を指定できる(品種育成や研究開発など)
特別寄附金 寄付を行う者が使途に関する条件を指定できる

日本農業法人協会のケースと同じく、集められた寄付金は公益目的事業もしくは指定された用途に従って活用される仕組みです。特別寄附の方が、農業支援に寄付金を使用してもらえます。

寄附を行いたい時は、日本農業法人協会サイトから寄附金申込書をダウンロードおよび印刷し、申込書に記載されている住所へ郵送もしくは番号へFAXで送信していく流れです。

支払い方法は、銀行振込とクレジットカード決済の2種類から選択できます。

3.自治体による農業支援プロジェクト事例

より直接的な支援および就農を視野に入れている場合は、自治体の農業支援プロジェクトを活用することで農業に必要な技術習得、費用負担軽減などといった支援を受けられます。

それでは、自治体による農業支援プロジェクトの事例を3つ紹介します。

3-1.東京都の就農支援

東京都では、就農に関するさまざまな支援プロジェクトを実施しています。就農および農業ボランティアという形で支援したい東京都在住の方は、メリットの多い内容です。

たとえば、東京都から農業経営・就農支援センターの指定を受けた東京都農林水産振興財団や、東京都農業会議では、新規就農に関する総合的な相談を受け付けています。農業に関心を持っている方や東京都の就農について関心を持っている方など、さまざまな方が相談できるようになっています。

他にも農業ボランティアを始めてみたい時は、広域援農ボランティアや地域援農ボランティアといったプロジェクトで登録および参加することが可能です。

就農を視野に入れている場合は、一般社団法人東京都農業会議へ農地を借りる相談ができ、東京都産業労働局で最大2年間の研修および最大5年間の資金に関する支援を受けられます。

3-2.宮城県による新規就農支援

宮城県では、新規就農に関する支援や就農体験をはじめとした農業への関心を高めてもらうイベントなど、さまざまなプロジェクトを進めています。

就農を目指す方へ向けた支援には、みやぎ農業見聞のつどいという年2回のバスツアーで農業の見学から始まり、農業インターンシップなどの農業体験、就農相談窓口での相談といった段階的な内容も用意されています。

さらに仙台市や村田町、大崎市などでは、各自治体への移住などの条件を満たした新規就農者向けに農業機械費用の補助や農地付き空き家の権利交付といった独自の支援制度が提供されているのも大きな特長です。

他には、宮城県農業大学校NFCマスタークラスという同大学の研修プログラムへ参加すると、野菜に関する専門的な知識と農業の技術を学ぶことが可能です。受講料は15,000円で、毎年1月上旬~2月上旬頃に募集が行われています。(※参考:宮城県「農業研修の様子」)

3-3.大阪府による農業関連支援

大阪府では、独立自営就農を目指す方や農業に関心を持っている方など幅広い層に向けて情報提供や支援制度および相談窓口の設置などを行っています。

大阪農業つなぐプロジェクト事業では、農業の担い手確保に向けて専業および副業による農業参加のサポートが実施されています。

就農相談窓口は、就農に向けて何を準備すべきかといった基本的な内容についても対応してくれるため、初心者や未経験者にも相談しやすい場所といえます。

一歩踏み込んだ活動を始めてみたい時は、大阪府サイトの農業体験・ボランティアの広場ページに掲載されている農業ボランティアへの参加、市民農園を活用した農業体験といった方法で経験を積むことが可能です。

さらに就農へ向けた準備へ進む際は、とよの就農支援塾や堺市みないき農業塾といった自治体による研修講座や地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所農業大学校による本格的な研修などで実践的な技術取得を目指せます。

このように大阪府の場合もそれぞれの状況や立場に合わせた支援や情報提供を心掛けているのが、主な特長といえます。

4.農業・農村支援を始める際に注意すべきポイント

最後は、農業および農村向けの支援を始める際に注意すべきポイントを確認しておきましょう。

4-1.寄付を行う場合は支援先の詳細を確認

農業や農村支援のために寄付を検討している場合は、支援先の団体に関する情報を確認した上で判断するのが大切です。

寄付金を募っている団体は、公的機関やNPO法人などを含めて多数存在しています。中には、詐欺や寄付金を募るだけで活動を行わない悪質なケースもあるため、活動実績や評判、住所や電話番号などの情報におかしな部分がないか確認する必要があります。

【関連記事】寄付先の選び方は?より良い支援につながる5つのチェックポイント

4-2.就農を検討する際はデメリットも踏まえた上で検討

寄附からさらに踏み込んだ就農を検討する際は、勢いで始めないよう注意が必要です。

就農の場合は、農業の研修を行い、なおかつ資金繰りや事業計画を綿密に立てておく必要があります。農業を本業とする場合は生計を立てていく必要があり、栽培だけでなく宣伝活動や経理および事務作業なども欠かせません。

農作業は体力の必要な仕事でもあるため、会社員のような毎週決まった休みや連休を確保することが難しい側面もあります。さらに災害などで収穫できない、収穫量の少ない年は赤字になってしまうケースもあり得るため、資金に余裕を持たせておくのも大切です。

就農できるかどうか悩んでいる時は、自身の目標や生き方を明確にし、かつ農業ボランティアや自治体主導のセミナー、研修講座などを通して検討してみるのも重要です。

まとめ

日本の農業および農村に関する問題は深刻で、個人の行動だけで改善の難しい内容です。ただし、寄付や農業ボランティアといった小さな支援が積み重なることで、農業人口の増加や地域経済の活性化につながる可能性もあります。

最近の物価高から農業の問題に関心を持ち始めた方や、日本の食に関する支援を行いたい方と考える方も多いでしょう。就農が難しいと感じる方であれば、まずは今回紹介した寄付やボランティアといった身近な支援方法から検討されてみると良いでしょう。

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菊地 祥

FP3級技能士、投資信託4年目、株式投資8年目。2018年からフリーランスとしてwebライティングやメディア運営を行っています。また、webライターとしては株式投資や投資信託などをやさしく解説。